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接着剤の硬化時間短縮でタクト短縮を実現しエネルギー費も削るサーマル設計

目次
はじめに:製造業におけるタクトタイム短縮の重要性
製造業の現場では、常に「より早く・より正確に・より安く」製品を生産することが求められています。
その中でもタクトタイム(1製品あたりの生産にかかる時間)は、全体の生産効率を大きく左右する重要な指標です。
競争が激化する今、わずかな時間短縮が利益率・納期・現場の回転スピードに直接響いてきます。
特に近年では、旧態依然としたアナログ工程からの脱却や、省エネ要請への対応が強く叫ばれています。
今回は「接着剤の硬化時間短縮」という小さなテーマが、いかにタクト短縮やエネルギーコスト削減に寄与し、ひいては現場のゲームチェンジにつながるかを詳しく解説していきます。
接着剤による組立工程の現状と課題
昭和の現場に残るアナログ工程
多くの製造ラインでは、ねじ止めと並んで「接着」が組立工程の大黒柱です。
しかし「接着剤の硬化待ち」は、いまだ人・モノの手待ち時間=ダウンタイムの大きな要因です。
例えば、エポキシ接着剤で「室温24時間硬化、加熱で1時間」という仕様へ仕方なく合わせている現場も少なくありません。
現実には「昨日接着したものを今日は組み立てる」といった“待ちと先送り”の繰り返しで、各工程の詰まり・WIP(仕掛かり品)増加につながっていました。
加熱硬化に頼る場合も、大型乾燥炉やヒートガン使用など、膨大なエネルギーが消費されています。
ダウンタイムとエネルギーコストの根深い悩み
接着剤硬化待ちによって発生する課題は次の3つです。
1. 人・設備のアイドル(待機=実働率の低下)
2. WIPの滞留(スペース消費・見える化困難・保管管理コスト増)
3. 加熱工程増加による光熱費高騰
従来は「生産リードタイムを短くしたいなら人を増やせ」「昼夜2交代で回せ」といった人的リソース頼みが主流でした。
しかし、慢性的な人材不足や電気料金の高騰を背景に、これまで棚上げにされていたボトルネック(=接着剤の硬化時間)へ抜本的アプローチが求められています。
硬化プロセス短縮のためのサーマル設計とは
温度制御が接着剤硬化を“変える”メカニズム
接着剤、特に樹脂系接着剤は硬化反応の大半が「温度依存性」を持っています。
単純に高温をかけるだけでなく「最適サーマルプロファイル(時間×温度カーブ)」を設計することが、硬化反応の加速と品質安定に直結します。
たとえば、従来30分の加熱硬化時間を、急加熱→定温ホールド→緩やかクールダウンという温度設計にすることで、確実な強度・外観を維持しつつ数分に短縮できる事例もあります。
サーマル設計の基本要素
1. 接着剤自体の選定(速硬化型への切り替え)
2. ワーク(部品・材料)の熱物性を考慮した伝熱設計
3. 接着厚み・塗布量・面積ごとの均一な昇温
4. 上記を支える加熱設備の最適選定(ヒーター、UV、IR、マイクロ波 ほか)
俗に「早く温めて、必要最小限の熱量しか加えない」がサーマル設計の肝です。
ただしイメージのみで温度だけ上げてしまうと、気泡・ワレ・黄変・焼け色・オーバー硬化による失敗が散見されます。
製品スペック・求められる品質で“最適点”がどこにあるかを徹底的に現場検証する必要があります。
具体的な現場改善アプローチ
1. データロガーなどによる「実ワークの接合・加熱プロファイル」記録
2. 微妙な温度ズレや偏りの「サーモグラフィー可視化」
3. 接着剤メーカーとの「ターゲット硬化温度・時間」共同最適化
4. 必要に応じた「マスカスタムライン対応」サーマル設計
たとえば、UV硬化材であればUVランプ照射角・距離・時間の最適化、IR(赤外線)加熱なら表面と内部温度のギャップ制御、接触加熱ならヒーター治具の圧接均一化など細かすぎるほどの詰めがポイントです。
現場で培った豊富な失敗例とノウハウの蓄積こそアナログ業界の“財産”であり、これが外部ベンダーでは手の届かない強みとなります。
エネルギーコスト削減にも直結する“見落とされた効用”
単なる省力化にとどまらない
単純な「時間短縮」の数字だけでなく、熱エネルギー投入量の最適化=省エネにも大きく寄与します。
乾燥炉の場合、余分な加熱(=加熱時間・待機運転)をカットすれば、機器単体で年間数十万円~数百万円規模の電気代削減が可能になります。
加えて、硬化待ち品が減ることでWIP削減→保温スペース不要、ひいてはライン全体の配置最適化・床面積削減にもつながります。
順番に流し、即時に硬化品を次工程に送る「ワンピースフロー」の徹底こそ、トヨタ生産方式にも通じる現代ものづくりの神髄です。
見落とされがちな、現場発“副次効果”
・残業削減/工程短縮による従業員満足度向上
・品質ばらつき(硬化不足、オーバー硬化)の根絶
・エンドユーザー視点での「環境配慮型ものづくり」アピール
こうした現場目線の副次的メリットも、来るべきグリーン社会での企業価値向上にダイレクトに寄与します。
現場でのサーマル設計成功事例
事例1:小型モーター組立ライン(自動車部品)
従来はエポキシ接着剤+30分加熱硬化、その間完全にラインがストップ。
工程分析から「加熱効率を高めるアルミ製治具」「PID制御ヒーター」「初期昇温ブースト設定」を導入。
結果、硬化時間7分に短縮・年間工数500時間減・電力使用量35%減・WIP50%削減を実現。
事例2:電子モジュール(UV硬化型)
“UVランプ照射ムラ”による硬化不良頻発、工程やり直しで歩留り大幅悪化。
3Dサーモグラフィーで“影”となる部位発見、そこで「多方向同時照射方式」に変革。
投入エネルギー総量は20%減なのに、硬化タイムは半減、再加工ゼロ、作業者の手待ち激減。
バイヤー目線・サプライヤー目線から見たサーマル設計の価値
調達担当・バイヤー目線
取引先工場の「タクト」が遅ければ、納期遅れや余分な在庫を余儀なくされます。
生産・品質・コストの最適化につながるサーマル設計力は、バイヤーが評価する“競争力の源泉”と言えるでしょう。
また、持続可能性(SDGs)やCO2削減要請の高まりのなか、単に納品するだけでなく「省エネ改善提案」ができる工場は、取引継続や優遇条件の獲得にも有利となります。
サプライヤー目線
「バイヤーは接着剤硬化ひとつ取っても、納期だけでなくコスト・品質・環境の最適を狙っている」と意識することが、サプライヤー自身の強みづくりに直結します。
単なる「速硬化材」アピールではなく、設計・工程設計に踏み込んだソリューション提案ができれば、“価格以外”の差別化でリードタイム短縮や新規受注獲得につながります。
アナログ業界から抜け出すサーマル設計革新のすすめ
最後に、まだ昭和的な「手待ち・手加工・頼りの勘」に頼るものづくり現場へ伝えたいのは、「小さな変化への挑戦」の価値です。
サーマル設計の刷新は一足飛びにデジタルやIoT化へ進める前段階、現場と設計部門が連携しやすい“見える化+高速反復改善”が本質です。
少しずつでも一歩進めば、毎年数%、10年で数十%のコストセーブが積み上がり、結果として会社の競争力や社員の働きやすさが劇的に変わってくることを、私は現場で実感してきました。
まとめ:小さなプロセス改革が製造現場の未来を拓く
接着剤の“硬化待ち”という小さなボトルネックを、現場発のサーマル設計改革で克服する。
これは単なるタクト短縮や省エネにとどまらず、現場を根本から強くするイノベーションの一手です。
時代遅れを嘆く前に、現場主体のラテラル思考で“新しい効率化”に挑みましょう。
これが未来のものづくり、日本の製造業現場再生の第一歩になるのです。
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