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調達先を増やしすぎて管理負荷が破綻する組織の盲点

目次
はじめに:調達先を増やせば必ず良くなるという幻想
製造業において、調達先(サプライヤー)の数を増やすことはかつて“調達リスクの分散”や“コストダウンのチャンス拡大”として美徳とされてきました。
特に昭和の高度成長期、サプライヤーを数多く持つことで突然の需要増や部品の供給途絶に柔軟に対応できる、という考え方が根付いています。
しかし、現代のグローバルかつデジタル化が進んだ市場環境では、この“多ければ良い”という発想が、逆に調達部門や生産管理、品質保証など工場全体に大きな負担とリスクをもたらすようになってきています。
調達購買担当者、生産管理者、バイヤーを目指す方、サプライヤー視点の方も、「調達先の数を増やすこと」の功罪をいまこそ正しく捉えておく必要があります。
調達先の増加がもたらす管理負荷と組織崩壊のメカニズム
1. 管理工数の爆発的増加
取引先が増えると、その分だけ見積もり依頼、価格交渉、発注・納期調整、品質管理、契約・与信管理といった業務が直列に増えます。
昔ながらのアナログ業務(FAX、電話、エクセル台帳など)を温存していると、担当者1人あたりが目を通すべき書類ややり取りは雪だるま式に膨れ上がります。
結果として、調達担当者は日々「追われる業務」に縛られ、本来時間をかけて行うべき価格や品質、納期の改善活動に手が回らなくなってしまうのです。
2. コミュニケーションコストの上昇
日本の部品メーカーや下請け業者の多くは、契約ではなく「阿吽の呼吸」といった暗黙知や関係醸成で仕事を進める文化が強いです。
取引先が10社程度のときは、製造現場の実態や人間関係も把握でき、些細な変化や問題にも迅速に対応できます。
しかし、サプライヤーが20、30と増えていくと、「誰と何を話して、何を合意したか」を帳面や頭の中だけではカバーしきれなくなり、誤解や認識不足が多発します。
最悪の場合、品質事故や納期遅延、トラブル時の責任なすりつけ合いといった大きなリスクに繋がります。
3. 各現場・部門へのしわ寄せ
購買部門だけでなく、生産管理、物流管理、受入検査、品質保証など工場の多部門で「納入仕様」「受入日程」「品質基準」などの調整が複雑化します。
一括購入による物流の効率化や、標準化された仕様の維持が難しくなり、最終的に元の現場(ライン作業者や工程設計者)にまで混乱や負担が波及します。
4. サプライヤーごとの依存度が見えなくなる
調達先が多いほど1社あたりの取引金額は減りやすくなります。
その結果、本当に戦略的に維持・強化すべき中核サプライヤーや、高い技術力を持つ協力会社に対しても、“数多くいるうちの一つ”という扱いになってしまい、関係が希薄化したり、いざという時の協力体制が築きにくくなります。
なぜ今も“サプライヤー数の多さ”が正義だと誤解されやすいのか?
1. 昭和型製造業神話の根強さ
日本の製造業は多くの中小零細、町工場と二重、三重の下請け構造で発展してきました。
“複数社に競争させれば自然と値下げになる”、“多ければセーフティネットになる”というのが組織文化の根底にあります。
デジタル化やサプライチェーン改革が遅れている企業ほど、この神話から抜け出せず、新規サプライヤー開拓だけを目標化しがちです。
2. 定量評価が難しい調達業務の特徴
調達購買という仕事は、短期で分かり易い成果(コストダウンや即納率向上)を出しにくい部門です。
そのため、上層部から「とにかく件数を増やせ」「年間何社登録したのか?」といった、目に見える数字ばかりが求められる傾向があります。
肝心なマネジメント工数や管理負荷の増加リスクは可視化できていない場合が多く、気付いたときには“担当者の疲弊”や“現場の混乱”が表面化します。
3. サプライヤー開拓=仕事をしている感覚
新しいサプライヤーの発掘や商談会への参加は端的に分かりやすい「活動実績」となりやすいです。
調達部門にとっては「手を打った」「改善に取り組んだ」という実感を持ちやすい一方、その先の継続的なマネジメントやコスト・品質実績への効果測定がおざなりになるケースも多くなります。
解決策:調達先の“質的管理”へのシフト
1. サプライヤー選定の基準を明確化・可視化する
現代の調達購買部門には、単なる“数”ではなく“質”を重視したサプライヤー管理が求められています。
どの部品・品目で何社必要なのか、その根拠(リスク分散やBCP、技術力、コスト競争性など)を明文化し、定期的に見直すフレームワークを設けるべきです。
自社製品の工程や品質要件、納期リスクなどから「本当に必要な調達先数」をロジカルに算出し、“聖域なき棚卸し”を行うことが大切です。
2. サプライヤー情報・コミュニケーションのデジタル化
取引先数が増えても管理負荷を抑えるには、調達管理システムやサプライヤーポータルといったITツールの活用が不可欠です。
たとえば、見積・契約情報や過去の取引実績、品質・納期のトラブル履歴などを全担当者が容易に参照できるようにし、担当者間での属人化・情報の断絶を防ぐ仕組みを作りましょう。
また、定型的なやり取りをなるべく自動化し、「本当に話すべき内容」にリソースを割けるように分業・統合管理していくことが重要です。
3. サプライヤーとの相互信頼関係の構築
どれほどデジタル化が進んでも、調達現場は“人対人”の信頼関係・現場感覚が根底にあります。
調達先が多すぎる組織は、サプライヤーごとに期待や課題、今後の取引方針を的確に伝えることが難しくなるケースが多いですが、逆に、選択と集中を行い重点取引先に絞ることで、“協議型”のパートナーシップを築きやすくなります。
現場との定期的な意見交換や共通課題の洗い出しを通じ、単なる“発注先”ではなく“ものづくりの同士”としての関係構築を目指しましょう。
業界動向と今後の調達戦略のあり方
1. グローバルサプライチェーンのリスク再認識
2020年以降、コロナ禍やウクライナ危機、半導体不足などにより、分散調達や複数サプライヤー戦略が再注目されています。
ただし、“数を増やす”だけでなく“情報共有とBCP連携”が効率的に行えるサプライヤー網づくりが問われています。
もう「複数社確保したから安心」ではなく、“災害時にどこからどんな代替調達ができるか”を地に足ついた現場データで管理・運用できているか、その仕組みこそがこれからの競争力の源泉となるのです。
2. サプライヤーとの共存共栄・価値共創センスがカギ
今後の製造業は、単なる買い叩きや値下げ要求一辺倒の購入者では生き残れません。
サプライヤーにとっても利益が残るWin-Winの関係性を築き、品質・納期の安定供給や技術開発、コスト低減といった“価値共創”を加速できる調達戦略が求められます。
中堅・有力なサプライヤーを戦略的に選定・重点育成し、時に共同開発、時に情報共有会など“協業”を重ねながらエコシステムを形成することが不可欠です。
3. 調達の“プロ”に必要な視点
調達や購買業務を志す方、バイヤーを目指す方にとって、「会社の規模よりも調達先の多さよりも、“どのようにして価値のある取引先との長期的な関係を築くか”」という視座がこれからのキャリア形成には重要になります。
また、サプライヤー側の方も、単に価格で選ばれる取引先ではなく、“ものづくり全体での付加価値”を提示できるような、情報発信や提案力が求められています。
まとめ:「調達先の絞り込み」と「現場起点のマネジメント」へ
製造業の現場で長年培った経験から申し上げます。
調達先は“多ければ多いほどよい”という時代は、すでに過去のものです。
むしろ、増やしすぎた結果、組織のマネジメントリソースと現場の反応速度が破綻し、小さな不具合が大問題に発展するリスクを孕んでいます。
本当の調達バイヤー力、供給戦略力とは、「必要最小限のサプライヤーと、最大限の成果を出すための関係性を構築・維持する力」にほかなりません。
ぜひ今一度、ご自身の現場や組織の調達戦略を振り返り、「数」よりも「質」、「断片的な商談」よりも「現場とつながった長期的なパートナーシップ」の構築を志向してみてください。
日本の製造業が真にグローバル競争を勝ち抜き、次世代のイノベーションへとつなげていくために、“調達現場の目線”での地道な改革が何より重要です。