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海上と航空のモード選択を総着地コストTLCで意思決定する輸送最適化

目次
はじめに:総着地コスト(TLC)の重要性とは
製造業の調達・購買部門において「海上」と「航空」どちらの輸送モードを選ぶかは、毎度悩ましい問題です。
伝統的には「輸送費の安さ」「納期の短さ」など、分かりやすい要素だけで判断されがちでした。
しかし、今やグローバル競争が激化し、部品調達やサプライチェーンの複雑化が進む中で、単なる“目先の運賃の安さ”で判断してしまうと、想定外のコスト増やリスクを招くことも珍しくありません。
そこで近年注目されているのが、「総着地コスト」(Total Landed Cost = TLC)という考え方です。
TLCとは、商品の出発地から最終仕向け地まで、すべてのコスト要素を合算した“本当のコスト”です。
調達・購買プロの視点から、TLCを起点とした輸送最適化の方法について、現場のリアリズムと最新の業界トレンドを交えて解説します。
TLCを構成するコスト要素の全体像
単なる運賃比較がもたらす落とし穴
多くの現場では航空便は「高いから使いたくない」、海上便は「安いが納期は気になる」といった二元論で議論が発生しがちです。
この単純な“運賃比較”だけで判定してしまうと、本来見逃せない隠れコストやリスクを見過ごしてしまう可能性があります。
TLCの核となるコスト項目
TLCは輸送にかかる直接コストだけでなく、納期による在庫コストや、オペレーションにかかる手間やリスクも含みます。
具体的には以下のような構成になります。
- 運賃(海上運賃・航空運賃)
- 通関費用・関税・各種税金
- 港湾(空港)での取り扱い手数料
- 現地配送費用
- 在庫保有コスト(調達リードタイムに応じて発生)
- 為替変動リスクや納期遅延リスク(金融コストや生産停滞リスク)
- 破損・紛失・品質劣化による補填・検品コスト
- 書類作業や現場スタッフのオペレーション負荷
こうした全体像を“金額換算”して意思決定することが現代的な調達戦略において不可欠なのです。
海上便のメリット・デメリットをTLCで再評価
安くて大量輸送できるが…
海上輸送は単位コストでは最安です。
特に大量ロットの定期調達や、重量物・容積の大きい商品の輸送に向いています。
しかし実際の運用現場では以下のような観点で追加コストや隠れたリスクが潜みます。
- リードタイムが数週間~1ヶ月と長い(在庫を多く持つ必要がある)
- 天候・港湾混雑・ストライキ等による遅延リスク
- 荷役・積み替え時の破損リスク(特に精密部品、医薬品等)
- 通関や書類手続きの煩雑さとそこに伴う人件費増大
例えば、在庫が多くなれば“倉庫費用・資金コスト”が膨らみますし、部品が遅れて生産ラインが停止すれば“逸失利益”という形で巨大なコストになります。
航空便のメリット・デメリットをTLCで再評価
高いが早い、それだけじゃない隠れた価値
航空便はコストが割高ですが、リードタイムの短縮、予期しない需要変動への即応力など、決して単純に「高いから損」と切り捨てられません。
特にこんなケースでその真価を発揮します。
- 生産ラインが止まる可能性がある重要部品の緊急調達
- 医療・食品などリードタイムが品質に直結する商品の輸送
- 新製品立ち上げ時の予測困難な急な需要変動
またリードタイムが短いことで、在庫持ちすぎによる死蔵リスクの低減や、キャッシュフロー改善といった定量化しにくい恩恵もあります。
航空便利用の見えざる副次効果
航空便活用によりバイヤー側・サプライヤー側双方にこんな変化が起きています。
- 現地調達やローカルベンダーとの連携促進になり、現地一括購買の弾力性向上
- 調達短縮による新製品開発サイクルの高速化
- 大量在庫を持たずとも柔軟に需給ギャップに対応可能
TLC評価はこうした“儲けられる時間”や“生産への影響”も織り込む必要があります。
ケーススタディ:TLC分析による輸送モード最適化プロセス
現場でよくある意思決定の混乱
例えば、A社では中国から電子部品を毎月5000個輸入しています。
これまではコスト重視で海上便一択でしたが、毎回「納期遅延で生産計画が乱れる」「追加在庫を持つしかない」といった負担が増え、現場と購買部門の対立も激化していました。
TLCシミュレーションによる意思決定の明確化
以下のようなシナリオでTLCを計算してみます。
- 海上輸送…運賃1個当たり100円/納期30日/在庫追加分1000個必要(在庫コスト:1個50円/月)
- 航空輸送…運賃1個当たり500円/納期3日/追加在庫不要
このとき、海上輸送は運賃500,000円+在庫コスト50,000円(=1000個×50円)=550,000円
航空輸送は運賃2,500,000円のみ(追加在庫不要)
一見海上の方が安上がりですが、“もし海上便が更に7日遅れたら、工場のラインが1日でも止まった場合の逸失利益”が1,000,000円と仮定すると、航空便の方が「リスク回避の意味で結果的に安価」になるイメージが鮮明になります。
現場で活用できるTLC比較の進め方・ツール活用
TLC試算の標準化と数字の『見える化』
製造業の現場ではエクセルを使った独自TLC試算ツールや、最近ではAI・RPAを使ったシミュレーションツールも普及し始めています。
この「数字の見える化」を通じて、“部門間の共通言語”としてTLCを扱えば社内意思決定が格段に円滑化します。
アナログ慣習からの脱却こそ輸送最適化の鍵
昭和型の「慣例的判断」や「運送会社との長年の付き合いだけで決める」やり方を見直し、TLCを組織全体の論理に据えることが、これからのグローバル競争を勝ち抜くための基本です。
まとめ:TLC発想による輸送最適化は“製造現場の競争力”に直結する
海上便と航空便の単純な運賃比較だけでは、現代の製造業の複雑なサプライチェーンと競争環境に適応できません。
TLC(総着地コスト)という“全体最適”の概念を導入し、「どこまでを自社が受け持つべきか」「現場のリードタイムといかに擦り合わせるか」という観点から意思決定プロセスを見直しましょう。
バイヤーはもちろん、工場やサプライヤーの皆さんも、“何にどれくらいコストとリスクが隠れているのか?”を常に問い続けることで、昭和的慣習から一歩踏み出した真のサプライチェーン強化が可能となります。
これからの時代の「購買」「調達」「生産管理」に携わるすべての製造業関係者に、TLCという視点を持った輸送最適化への転換が求められています。
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