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トライボロジー基礎エンジン計測流体潤滑混合境界潤滑摩擦低減技術

目次
はじめに:製造業の根幹を支える「トライボロジー」
トライボロジーという言葉をご存知でしょうか?
聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、じつは自動車や工作機械、家電製品から大型プラント設備に至るまで、あらゆる“動く機械”の根幹を支えているのが、摩擦、摩耗、潤滑に関する技術、つまりトライボロジーです。
これまで私は20年以上にわたり、製造業の現場管理者およびエンジニアリング担当者として、設備保全、品質管理、生産性向上、多様なコスト低減活動に携わってきました。
現場目線と経営的な視点、そしてラテラルシンキングを織り交ぜながら、この記事ではエンジンの計測技術や流体潤滑・混合潤滑・境界潤滑の違い、そして摩擦低減の最新技術について、わかりやすく深掘りしていきます。
トライボロジーがなぜ今、あらためて重要視されているのか。その業界動向まで掘り下げ、バイヤー視点・サプライヤー視点の両面でご紹介します。
トライボロジーとは何か?製造業での知られざる価値
トライボロジーの基本定義とその応用領域
トライボロジーは、「摩擦(Friction)」「摩耗(Wear)」「潤滑(Lubrication)」という三要素の科学技術です。
機械の摺動部(回転・スライドなど可動部)において、摩擦をコントロールし、摩耗を抑え、適切に潤滑することで、長寿命・高効率・高信頼性の製品づくりを可能にします。
自動車や航空機のエンジン、変速機、工作機械の摺動案内、ポンプ、コンプレッサー、各種ベアリング、果ては一見動かないように見える半導体製造装置の分子レベル精密摺動部まで、幅広く応用されています。
「目に見えないコスト」と生産性へのインパクト
摩擦・摩耗・潤滑に関わるトラブルは、製造現場で非常に“見えにくいコスト”となって潜在しがちです。
例えば、エンジンのベアリングが焼き付く、シャフトが磨耗する、こうしたトラブルが一度でも発生すれば、生産の停止・部品交換・不良品発生という“三重苦”を招きます。
私の経験上、こうしたトラブルは「定量的な計測」によって管理されないことや、表面上の油脂管理だけで根本対策を見誤っているケースが多々あります。
トライボロジーの本質を知ることは、今や製造現場に必須のスキルだと断言できます。
エンジン計測技術と現場現実:摩擦・摩耗の“見える化”
「解析」から「現場測定」へのパラダイムシフト
1970~80年代、日本のアナログ製造業では「経験」「音」「臭い」といった職人の感覚に多く頼っていました。
昭和の現場力は確かに強みでしたが、近年は計測技術の進歩により、「摩擦」「摩耗」「温度」「振動」など、定量的な数値で把握できるようになっています。
たとえば、エンジンのクランクシャフトやカムシャフトにおける摩擦力の測定には、トルクメータや複雑なセンサアレイを用い、リアルタイムでグラフ化。
部品ごとの摩擦抵抗を定量管理できることで、設計変更や潤滑油の見直し時に根拠ある意思決定がしやすくなりました。
定量データで“責任所在”を明確に
現場の視点で重要なことは、トライボロジーデータを積み重ねることで
「誰のどんな操作が、どこで摩耗を生んだか?」 「本当にその部品交換は必要だったのか?」
こうした振り返りと改善PDCAを「感想」ではなく「証拠」として回せることです。
万一サプライヤー部品の初期摩耗が疑われる事案があった場合でも、計測値と部品仕様書を照合し、サプライヤー・バイヤー双方の納得いく議論が可能になります。
流体潤滑・混合潤滑・境界潤滑―製造業の現実的な選択
流体潤滑:理想だが“過度な神格化”に注意
流体潤滑とは、部品表面の間に十分な油膜(潤滑油やグリース)が形成され、直接金属同士が触れ合わず油膜で分離されている状態を指します。
引用される古典理論(レイノルズの潤滑理論)は「摩耗しない」「発熱しない」という理想状態を描きますが、現実の工場では、
・高負荷時に油膜切れが生じる
・再稼働時に境界潤滑状態に一時的に遷移する
・流体潤滑を安定維持するには、油温・清浄度・供給圧等細かな管理が不可欠
という現実課題をしっかり理解しておく必要があります。
境界潤滑:「最悪を想定する」現場のリアリズム
多くのメーカー現場では、始動停止時や高荷重時にどうしても「油膜切れ」が生じ、部品表面と表面が直接接触する「境界潤滑状態」となります。
ここで摩耗や焼き付きが発生しやすくなるため、潤滑油には「極圧添加剤」や「固体潤滑成分(グラファイト、MoS2など)」の配合が重要です。
私は現場指導の際、「流体潤滑は理想、常に最悪の境界潤滑を想定した上で材料・表面処理・潤滑剤の選定をせよ」と伝えてきました。
過信・油断こそ現場トラブルの最大要因です。
混合潤滑:新しい設計思想へのヒント
境界・流体の中間、つまり「部分的に油膜」「部分的に金属表面が接触」しているのが混合潤滑です。
近年の精密摺動部では、表面粗度や微細テクスチャ(レザーテクスチャなど)を意図的に設計して、安定した微細油膜と低摩耗を両立する技術が普及しつつあります。
「すべてを油で守る」従来発想から、「設計的に最適な摩擦・摩耗状態をつくる」ことこそ、競争力向上の鍵です。
摩擦低減技術の最前線とバイヤー・サプライヤーの視点
材料・表面処理革新で劇的に変わる摩擦係数
摩擦低減には、
・超低摩擦コーティング(DLCコート、PVD、テフロン等) ・表面硬化処理(イオン窒化、炭化) ・摩擦調整型新素材(自己潤滑樹脂、ナノカーボン添加材) など、新世代の表面技術が次々誕生しています。
部品コストは一見高く感じられますが、ライフサイクル全体でみれば摩耗減・エネルギー削減・ダウンタイム減となり、トータルコストメリットの方が大きい場合がほとんどです。
潤滑剤、グリースの進歩―“粘度至上主義”からの脱却
これまで多くの工場現場では、「高粘度=高性能」のような思い込みもありました。
しかし、モダンなエンジンや機械装置では用途に応じて
・低温流動性
・酸化安定性
・固体微粒子分散性
など、多変数で潤滑剤を選定。
欧州車メーカーや半導体設備メーカーの部品調達では、潤滑剤の種類指定やグリース管理にまでバイヤー・サプライヤー協働で行うことが増えてきています。
摩擦低減による“省エネ・不良削減”―バイヤー視点の提案
現場のバイヤーとしては、摩擦低減=コスト増と見てしまうのではなく、
1. エネルギー消費量とCO2 排出量の低減
2. 設備保全費・交換部品費の削減
3. 生産性ロス(トラブル停止時間減)の低減
など、トータルベネフィットを可視化した提案が求められます。
とくにSDGsやカーボンニュートラルが叫ばれる現代、摩擦・潤滑の知見自体がサプライヤー選定の新たなバイヤー評価軸になっています。
一方で、サプライヤー(部品・材料メーカー)は、自社製品の付加価値として「摩擦低減による具体的な省エネ効果」や「長寿命データ」を開示できれば、価格競争力以外での受注拡大も期待できます。
アナログ現場の“昭和思考”から抜け出すヒント
<h3>管理職・現場リーダーのためのトライボロジー教育
日本の製造業で課題となっているのは、ハードウェア・材料工学・設備側に強いエンジニアが増えている一方で、「潤滑」、「摩擦」、「摩耗」、「計測」などトライボロジーの基礎知識が体系的に伝承されていない現実です。
私は工場長として、新人教育の一環で「なぜグリースを月一回塗るのか?」、「油温管理を変えると何が起こるのか?」、「設備異音発生の本質的な原因は何か?」を実製品を使いながら体験させるプログラムを組んできました。
トライボロジーこそ、現場改善の“最後の砦”であり、競争力の源泉だと伝えたいです。
昭和の“闇雲過剰給油”から科学的潤滑管理へ
油とグリースは「多ければよい」という考えは今や完全な時代遅れです。
過給油はシール劣化・軸受温度上昇・漏洩や火災リスク増、さらには無駄なコスト増大を引き起こします。
現場で油脂管理の“見える化”を徹底し、
・油膜厚さの定量管理 ・油脂寿命推定と交換サイクル最適化 ・潤滑剤品種の一元管理による在庫最適化
こうした現場力の底上げが、次世代競争力となります。
まとめ:トライボロジーは現場から未来を変える武器
摩擦・摩耗・潤滑を“見えないコスト”のまま放置し続けるか、定量データ管理&現場改善へ昇華するかで製造業の未来は大きく変わります。
“アナログ全盛期”だった昭和時代から、今日に至るまでの経験をふまえ、バイヤーもサプライヤーも「摩擦」「摩耗」「潤滑」の本質を理解し、共通言語で議論することが、ものづくり世界における新たな地平線を切り開くという強い信念を持っています。
トライボロジーの知見と実践力を、今日からぜひ現場で活かしてみてください。
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