投稿日:2025年8月22日

支給材の在庫紛失で補償責任が不明確だったトラブルと再発防止

はじめに ― 記事の全体像と課題意識

製造業の現場では、多種多様な部品や資材が日々動いています。
その中でも、「支給材」と呼ばれる、顧客や親会社、あるいはバイヤーから支給された部材を使用して生産を行う場面は非常に多くあります。
支給材管理は、調達購買・生産管理・品質管理の全てに関わる根源的かつ重要な業務です。

ところが、「支給材の在庫がなくなった」「どこかで紛失した」「責任の所在がうやむやになった」。
このようなトラブルは、現在でも製造業の現場で頻発しています。
しかも昭和から続くアナログ体質や“なあなあ”の慣習により、トラブルが起きても補償や責任分担が不明確なまま放置されがちです。

本記事では、実際に現場で起こりがちな「支給材の在庫紛失とその責任問題」に焦点を当て、なぜそのようなトラブルが生じるのか、責任が曖昧になる背景、再発防止のために現場や組織が取り組むべき実践的施策を深く掘り下げていきます。
バイヤーとサプライヤーの立場、あるいは現場の担当者が今すぐできる改善ポイントも具体的に紹介します。

支給材管理の現状と紛失トラブルの実態

1. 支給材とは何か ― 現場用語の実際

製造業において「支給材」とは、取引先(バイヤー)が製造委託先(サプライヤー)に直接部材や材料を供給し、指定仕様での製品製造を求める取引スキームで使われます。
バイヤー視点では高価かつ手配が難しい特殊部品を自社管理したいという意図があり、サプライヤー側は受託生産の一環として預かった部材の管理責任を負う形となります。

例えば、完成品メーカーが自動車用センサーの基板のみを先行手配し、実装と組立を協力工場に支給材として支給するケースなどが当てはまります。

2. なぜ支給材の紛失が現場で起こるのか?

支給材の紛失トラブルは、経験豊富な現場でもゼロにはできていません。
主な原因は次の4つに大別されます。

・現場日報や入出庫帳がアナログ手書きなどで、「記録とモノの実態」が合致せず在庫数が合わなくなる
・部材置き場や作業エリアが曖昧で、現物の所在管理が徹底されない
・部分的に複数ラインや複数担当者で支給材を流用し、責任の帰属が曖昧化する
・本来ならば不要な伝票処理(受領・社内移動・返却など)の省略や手抜き

特に中堅~中小規模の製造現場では、手順やルールが属人的だったり、「みんなでやってるから大丈夫」という油断がトラブルの引き金になることが多いです。
また多忙な時期ほど、現場管理者も細かなチェックや記帳を後回しにしがちです。

3. 責任の所在がなぜ不明確になるのか?業界の背景

根本的な問題は、この「支給材」の管理・紛失時の補償責任について、契約や業務フローで明確に規定できていないことが多い点です。

・発注元であるバイヤー側:資材の所有権は持ちつつ、実務的な管理までは現場任せ
・受託するサプライヤー側:納入物は預かるものの、契約書での補償責任記載は曖昧
・現場担当者の心理:「うちで無くしたのかな?」「どこかで記録ミス?」と自らの責任感が褪せる

さらに、業界特有の慣習として「穏便に済ませましょう」「次回の納品時にまとめて調整しましょう」といった曖昧決着もまかり通っています。
これが昭和以来根付いた“阿吽の呼吸”の悪習として今も残っています。
不明確なままだと、最終的に調達部門同士の信頼関係が損なわれたり、万一の時に多額の損害が発生しても誰も責任を負わない、という事態に発展しかねません。

トラブル実例と現場での対応

1. 具体的なトラブル事例

A社(組立工場)では、B社(完成品メーカー)から月に一度のペースで基板を「支給材」として受領していました。
案件は順調で、何ヵ月も問題なく進んでいたものの、ある日月末の資材棚卸しで「伝票上は10枚あるが、現物は8枚しか無い」ことが発覚しました。
棚卸しサイクルが長く、担当者も複数いるため、どのタイミングで誰がどこで間違ったのか特定できませんでした。

B社が損失分2枚の補償をA社に求めるも、A社は「うちだけの責任では断定できない」と主張し、お互いが歩み寄らず揉めました。
結果的に、両社が納期遅延分も含めて損失を折半する形で“妥協”しましたが、以降、取引信頼度は下がり、B社はA社への支給材管理指導を強化。
現場でも管理コストの増大を余儀なくされ、両社とも「どうすれば根本的に防げるのか?」という課題意識を持つに至りました。

2. 現場ならではの“曖昧な結末”が業界を弱くする

多くの現場では、「多少のロスなら目をつぶる」「大きなトラブルでなければ見なかったことにする」という“現場流”が横行しがちです。
しかしこれを放置すると大きな損失や訴訟リスクに発展する可能性があり、近年はISO監査やサプライチェーン全体の透明性要求がより厳しくなっています。

調達購買や品質保証のプロフェッショナルからすれば、この状況こそが自社の競争力をむしばむ最大のリスクです。

支給材紛失トラブルへの根本対策 ― 現場目線の再発防止策

1. 入出庫管理のデジタル化と棚卸しサイクル短縮

第一に、入出庫や管理記録のデジタル化が不可欠です。
エクセルや基幹システムでバーコード管理を導入し、現物と記録が必ずリンクする体制を作ることが重要です。
出庫・返却・投入時には担当者名を必ず登録し、誰が何をどこで扱ったか“トレーサビリティ”を確立します。

棚卸しも月1から週1、あるいは日次での簡易チェックに切り替え、異常が即座に発見できる体制を取りましょう。
物理的なチェックローテーションを複数名で実施することで、どこかで“ごまかし”が効かなくなります。

2. 作業標準書や保管場所ルールの徹底

支給材の受領から出庫、組立現場での一時保管、余剰品の返却に至るまで、全ての作業プロセスについて「標準書」「写真付き手順書」を用意します。
保管場所は必ず固定化し、仮置きや別現場への持ち出しを明確に禁止します。
必要なら施錠・ICカード管理するなど、ヒューマンエラーリスクも極力減らしましょう。

また、間違いやすい品目に対しては“赤札管理”等の注意喚起を徹底し、現場責任者が毎日チェックして見落としを防ぎます。

3. バイヤーとサプライヤー間の「補償規定」明文化

最も重要なのは、支給材管理の「契約条項」を明文化することです。
・どのタイミングで受領確認するか
・引き渡し後の所有権や管理責任はどちらか
・紛失や損傷時の損害補償責任と補填範囲
・定期的な監査や棚卸しの立ち合いルール

これらを調達購買契約や個別仕様書で明記しましょう。
実際の現場担当者ともルールを共有し、イレギュラー発生時の一次報告先や判断基準を整備します。

4. システムと習慣 ― ITと現場意識の両輪改革

特に昭和型アナログ企業では、「システムだけ入れても慣れたやり方を変えない」ケースが多いです。
IT導入に加え、「なぜ管理が重要なのか」「紛失でどれほど全体損失が大きいのか」などを現場作業者に腹落ちさせる教育やミーティングを並行して実施しましょう。
現場OJTや“改善発表会”をうまく活用し、成功事例を全員で確認・共有することが、人とシステム両面での定着を促進します。

バイヤー・サプライヤー・現場それぞれの立場でのアクション

バイヤー(発注側)視点

・必ず支給材の物量・ロット番号・品番単位で書面受領証を取り交わす
・契約条項に「管理不備時のペナルティ(損失補償)」など具体的記載
・定期受け入れ監査や棚卸しへの立ち合い、抜き打ち検査の実施
・サプライヤーとの定期的な管理改善ミーティングの場を設ける

サプライヤー(受託側)視点

・現場責任者単位での“Wチェック”体制(作業者と管理者の二重チェック)
・支給材専用の管理箱・管理エリアの整備
・記録のデジタル化と、万一トラブル発生時の経緯追跡(ログ取得)
・契約書への不明点やリスクの棚上げなどは、必ず事前に質問・修正要望

現場担当者の立場

・「自分の仕事=会社の信頼を守る最前線」という自覚を持つ
・日々の入出庫管理・仮置き徹底を習慣化(“明日やればいい”を止める)
・異常や発生リスクを上司と即座に相談し、“握りつぶさない”こと
・小さなミスでも改善提案としてチームでシェアし再発防止

まとめ

支給材の在庫紛失は「どこでも起きる」普遍的なトラブルです。
しかしそこで責任を曖昧にせず、「なぜ起きたのか?」「どこに問題があったのか?」を現場・組織・契約全体で見直し、再発防止策を根本から仕組み化することが、現代の製造業には不可欠です。

昭和のままのなあなあ管理・属人化を放置せず、ITとマネジメント・現場力を融合した“現場目線”で、強いものづくり体制を共に構築していきましょう。
本記事が、製造業の発展を願う皆さまの現場改革の一助になれば幸いです。

You cannot copy content of this page