投稿日:2025年7月4日

粉砕乾燥造粒操作のトラブル例と粉体プロセス最適化対策

はじめに:粉体プロセスの現場課題と進化の必要性

製造業において粉砕・乾燥・造粒はバリューチェーンの中核を担う工程です。
食品メーカーから化学・医薬、電子材料まで、日本のものづくり現場では数十年前から続く“昭和的オペレーション”も根強く残っています。
しかし、市場からは品質安定化やコスト低減、省人化などの新しい要求が日増しに高まっており、現場起点のトラブル未然防止や工程自体の最適化が不可避です。

今回は、私の20年以上にわたる製造現場での経験を活かしながら、以下のような方々に実践的に役立つ情報をまとめます。
・調達購買、物流、生産管理の担当者
・バイヤー志望者や若手技術者
・サプライヤーの営業や技術者
・製造業の経営幹部、工場長

現場で頻発するトラブル具体例の紹介から、粉体プロセスの最適化戦略、そして現場改革の第一歩までラテラルシンキングで深掘りします。

粉体プロセスの全体像と工程ごとの特徴

粉砕工程:均一な粒度制御の難しさ

粉砕とは固体原料をより細かく砕いていく工程です。
この工程では目的粒度(粒の大きさ)に均一化することが求められます。
しかし実際の生産現場では、湿度・原料形状・異物混入・摩耗など様々な因子が複雑に影響し合い、ターゲット粒度から外れるトラブルが絶えません。

乾燥工程:水分コントロールと熱効率の追求

乾燥とは原材料に含まれる余分な水分を除去するプロセスです。
過乾燥や乾燥ムラは製品歩留まり低下や品質不良の温床となります。
エネルギーコストの増加が無視できない昨今、熱効率や排気処理の最適化、そして現場作業者の経験値に頼らない“定量化”がトレンドです。

造粒工程:流動性と造粒強度のバランス

造粒は粉末を適度な粒状体(ペレット・グラニュール)にまとめる操作です。
良好な流動性と適切な強度・粒度分布の両立がキモですが、バインダー主剤の配合バランスや混練・押出条件の最適化は長年の現場課題となっています。

代表的なトラブル例と対策の本質

粉砕機での詰まり・粉塵漏れとどう向き合うか

“原料が粉砕機で詰まった”
“集塵機能の不調で粉塵が作業場に漏れる”
こうした現場トラブルは日常茶飯事です。

その主な原因は、原料の粒度分布のばらつき・水分含有量の変動・摩耗部品の交換遅れが挙げられます。
対応策としては、原料受入時の品質チェック強化と、カメラやセンサーによる詰まり監視、定期的なオーバーホール、設備点検の履歴管理が実効性を発揮します。
また、集塵効率を機器メーカー任せにせず、現場発案で集塵ダクトのレイアウト改善を行った事例もあります。

乾燥ムラや加熱しすぎによる品質低下

遠赤外線乾燥やホットエア式、真空乾燥など多様な乾燥装置で頻発するのが、乾きムラや過加熱による色変化、不活性成分の分解などです。

従来のアナログ現場では、経験豊富なオペレーター頼みでしたが、最近はデジタル温度ログや表面温度センサーを活用することで、定量的なゾーン管理やリアルタイム調整が進みつつあります。
実際に、センサーで複数ロットの水分蒸散パターンを見える化した上で、最適な風速や加熱温度プロファイルを策定。
5%のエネルギーコスト削減と製品ロス半減を実現した現場も出てきました。

造粒の不良:分解・摩耗・ダマ形成

造粒工程の要注意トラブルは、ダマ(コイル状の固まり)形成や粉戻り(粒状体が割れて再び粉末化)です。
また、装置部品の摩耗やヒートシール部の劣化も無視できません。

ポイントはいずれも「原因究明の仕組み化」です。
例えば、バインダー配合レシピの微妙なズレに着目し、AIを用いた粒度分布解析や画像診断でトラブルの発生予知を試みる動きも広がっています。
また定期的なクリーニングや材料投入量のリアルタイム制御など、自動化・センシングの導入で再発防止が期待できるでしょう。

現場の“見える化”がもたらす最適化と省人化

データ収集とトラブル予兆検知の最新動向

現状、国内の多くの粉体プロセス現場では「温度」「湿度」「原料投入量」すら記録用紙だけで残しているケースも少なくありません。
一方、最近の先進現場では、次のようなIoT活用が進んできました。

・PLCやエッジデバイスで稼働状況・異常振動を計測
・画像解析で外観や色ムラ、ダマをリアルタイム検出
・クラウド上で工程データを一元管理し、異常兆候を“見える化”
このような「データレイク」の構築によって、ラインのどこで問題が起こりやすいかを解析、その場しのぎではなく体系的な改善活動が可能となります。

マニュアル依存からの脱却×技術伝承の仕組み化

熟練工の退職、高齢化にともない、現場力=アナログ勘頼みから論理的な伝承が不可欠です。
操作条件のレシピ化、動画やデジタル標準作業書の整備、さらには新人がVRでトラブルを“仮想体験”するトレーニングも始まっています。

こうした変革には、現場作業者-技術-マネジメント部門が現場課題を“同じ目線”で共通認識することも大切です。

現場が輝くための“自動化”と“共創”へのシフト

「自動化」と聞くと、一律にヒトが不要になる――と誤解されますが、実際は“人が持つ経験値”と“データ・自動化”の両輪が重要です。
工程ごとに最適な自動化度(フルオート・半自動・手動+IoT監視など)を現場の声で見直し、サプライヤーとも率直にディスカッションすることで新たな業界標準が生まれています。

調達・サプライヤー視点から見たプロセス最適化

なぜ粉体プロセスがバイヤーにとって重要か?

バイヤーや調達担当者は、単価交渉だけでなく納品安定、品質基準遵守の観点からも工程の深い理解が必要です。
「なぜこの工程でコストが膨らむのか?」「現場トラブルのリスクを減らして原価低減できないか?」――こうした現場起点の課題抽出は、コストダウンやサプライヤー評価の核心です。

特に粉体原料のスペック違いによる不良や歩留まり悪化は、工場だけでなく調達・販売全体のサプライチェーンに波及します。
そのため、取引先の工場見学・エンジニア同士の技術議論が今まで以上に重要になっています。

バイヤーとサプライヤーの“共創型パートナーシップ”とは

昭和型の「指示と従属」の関係ではなく、今後は現場課題を共に分析し“共創”する形が主流となります。
たとえば、
・サプライヤースタッフを巻き込んだ工程監査、現場巡回
・トラブルデータの相互開示(守秘義務付きで)
・低コストで導入可能な改善案の試作・効果検証
こうした一歩踏み込んだ取り組みによって、粉体プロセスの最適化→サプライヤー評価→最終顧客満足の好循環が生まれます。

現場改革の第一歩:小さな“気づき”を積み重ねよう

粉砕・乾燥・造粒という一見古典的な工程も、現場に密着してみると課題・新しいヒントが満載です。
群馬の現場で私が実感したのは、「現状維持が最大のリスク」だということです。
小さな異音や振動変化に気づき、センサーで可視化し、他部門と共有して初めて“未然防止”が実現します。

現場スタッフだけでなく、バイヤーやサプライヤーが能動的に現場ラウンドテーブルに参加し、異業種発想やラテラルシンキングで「どうすれば目の前のプロセスが一段進化できるか?」を問う文化が求められています。

まとめ:粉体プロセス最適化の未来と皆さんへのメッセージ

今こそ、製造現場とサプライヤー、バイヤー、エンジニア、経営陣が一体となり、現場現物現実=“Gemba”に向き合う時代です。
ご紹介した実例や最新トレンドはあくまできっかけに過ぎません。
現場に「なぜ?」を持ち込み、データとヒトの知恵を融合し続けることで、昭和から令和へと日本のものづくりがアップグレードされます。

皆さんの虫の目・鳥の目・魚の目を総動員し、ぜひ今日の現場から“粉体トラブルゼロ”と“新たな最適解”を発見してください。
それがニッポン製造業の未来をつくる第一歩です。

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