投稿日:2025年10月26日

飲食業がオリジナル食器を開発するための成形・焼成・印刷工程の理解

はじめに〜オリジナル食器開発の時代背景〜

飲食業界では、「他店との差別化」や「ブランドイメージの向上」のために、オリジナル食器の開発に注目が集まっています。

かつては業務用食器専門商社から既製品を仕入れるのが一般的でしたが、SNSやインスタ映えの影響もあり、最近では自店独自の食器を使いたいという要望が増えています。

しかし、実際に食器をゼロから開発しようとすると、思いのほか工程が多く、専門的な知識が要求されます。

この記事では、成形・焼成・印刷といった食器製造の基本工程にフォーカスし、飲食店経営者やバイヤー志望の方、サプライヤーサイドにも役立つ現場目線での知見を解説します。

また、昭和のモノづくり文化が色濃く残るアナログな業界事情や、近年の自動化・デジタル化の流れも交えて掘り下げます。

食器製造の全体像をつかもう

食器の製造は、主に以下3つの工程が柱となります。

  • 成形工程(形をつくる)
  • 焼成工程(高温で焼き固める)
  • 印刷・加飾工程(ロゴや模様を入れる)

それぞれの工程にはいくつもの技術や方式が存在し、どの工程でも「オリジナリティの追求」と「量産性」「コスト」が複雑に絡み合います。

まずは大まかな流れを把握しましょう。

成形工程の種類と特徴

成形工程は、食器の「かたち」を作り出すプロセスです。

主な成形方法としては、

  • 圧力鋳込み成形
  • ロクロ成形
  • プレス成形
  • 鋳込み成形

などが挙げられます。

飲食店の大量導入を前提とした場合、最も多いのが「圧力鋳込み成形」。

これは石膏型に泥状の土を流し込み、型に圧力をかけて水分を吸い出すことで短時間で成形できる方式です。

これにより、同じ形の食器を大量に短納期で製作可能となります。

一方、個性的なフォルムやハンドメイド感を重視するなら「ロクロ成形」や「手びねり」などの手作業系も視野に入ります。

ただし、工数アップや形状のバラつき、歩留まり低下といった工業的課題が付きまといます。

デザインとコストのトレードオフ

「こんな斬新な形にしたい!」というアイデアがあっても、量産に落とし込むとなると話は別です。

なぜなら、極端なアールや直線、複雑形状は型代の高騰や成形時の歪み・割れ・反りなどのリスクを大きくします。

現場では、「見た目」と「つくりやすさ」、「コスト」と「品質」をどう落としどころにするか、まさにバイヤーや工場長の腕の見せ所。

妥協とも違う、プロのラテラルシンキング(横断的思考)が重要です。

焼成工程〜食器の品質・個性を左右する鍵〜

焼成とは、成形した素焼き食器を高温で焼いて強度を出し、同時に本質的な質感や色調を与える作業です。

焼成は、製造現場において最もファジーかつアナログな要素が残る工程でもあります。

主な焼成方式

食器製造で広く用いられる窯は以下の通りです。

  • 電気窯
  • ガス窯
  • トンネル窯
  • シャトル窯

また、焼成温度も素地や釉薬によって変わりますが、おおよそ1200度〜1350度の範囲が主流です。

1回の焼成で白磁のような本焼きを仕上げる場合や、「素焼き→施釉→本焼き」と複数回焼成するケースもあります。

最近ではトンネル窯を使った連続焼成ラインが主流となりつつありますが、昔ながらのシャトル窯で時間をかけて焼き上げる窯元も依然多いのが現実です。

焼成不良と歩留まりの現実

焼成工程は、その日の天候や窯のクセ、原材料ロットごとの微妙な差で品質が大きくブレます。

有名な話ですが、「焼き物は生き物」とも言われるくらい、焼成後の反りやひび割れ、色のブレなどが生じます。

これが食器製造における歩留まり(合格率)の低さの元凶であり、デジタル化や自動化を阻む難題です。

バイヤーや飲食店サイドからすれば、「全数同じ品質で納品してほしい」と思われるかもしれません。

しかし実際には、数パーセントの不良発生は避けられず、その分が商品単価に転嫁される点を理解しておく必要があります。

また、「オリジナル感=手作り感」は、多少の焼成ムラや微差を許容する懐の深さも大事なポイントです。

印刷・加飾工程〜ブランド訴求の主戦場〜

食器にロゴや模様、ショップ名などを加飾することで、強いオリジナル性を演出できます。

代表的な加飾方法は以下の通りです。

  • 転写印刷(デカール貼り)
  • パッド印刷
  • 和紙貼り
  • 釉下彩・釉上彩(下絵付け、上絵付け)

印刷の方式ごとのメリット・デメリット

最もポピュラーなのが「転写印刷」。

紙にプリントした絵の具(転写紙、デカール)を素地に貼り付け、再び窯で焼き付ける方式です。

細かいデザインや色指定、ロゴなども自由度が高く、比較的小ロットでも制作できます。

一方、パッド印刷は曲面にも直接印刷できるためカップの内底、側面など幅広い用途に適しています。

ただし、色数や解像度には限界があります。

また、釉下彩や釉上彩は手描きの風合いが魅力ですが、職人手作業ゆえ高コスト・納期長という弱点を持ちます。

このように、加飾方法によって表現できる世界観もコストも大きく違います。

「SNSで拡散したい」など明確な用途を加味しつつ、バイヤーや経営陣は方式選択とコスト換算の目利きが求められます。

オリジナル食器を量産する際の注意点

製造現場からみると、オリジナル食器は「型代」「試作費」「最低ロット」など、既製品にはないコストやリスクが伴います。

型代・初期費用の把握

一度に何百、何千と注文する場合は型代も1客あたりは薄まりますが、少ロットだと型代・初期費が割高になります。

「せっかく作ったのに回収できない」という事態を避けるため、サプライヤーとの綿密な打ち合わせと事業計画が欠かせません。

サプライチェーンの安定化

日本の陶磁器食器産地は、岐阜県の美濃・岐阜、多治見、愛知県の瀬戸や有田焼など地域ごとに特色があります。

一方で、零細窯元・町工場が多く、技術の継承者不足や老朽設備、原料価格の高騰、国際情勢による物流停滞といった昭和時代からの“アナログ課題”が根深く残っています。

このため、バイヤーあるいは飲食店経営側は、

  • 各産地・工場の強みやリスクの把握
  • サンプル製作から量産移行時の納期調整
  • もしものトラブル時の代替案確保

などを現実的に考えておく必要があります。

現場で得られる最大の価値とは

食器は単なる「載せる器」ではありません。

料理と空間、テーマ、顧客体験を統合するコピーライター的な“価値演出装置”です。

バイヤーや企画者には、「伝えたいイメージ」と「製造現場の制約」を橋渡しする現実的視点と、想像力のラテラルシンキング(水平思考)が求められます。

また、工場サイドもスマホ世代・SNS時代の新たなニーズやスピード感に寄り添う意識変革が不可欠です。

まとめ〜オリジナル食器開発の未来へ〜

オリジナル食器開発は、単なるブランディング戦略を超えて、現場の知恵と創造性を結集させる日本製造業の真骨頂です。

より良い食体験、より豊かなブランド体験のために、成形・焼成・印刷それぞれのノウハウを相互理解し、“作り手と使い手”双方の納得点を目指しましょう。

これからの食器開発は、製造・調達・現場が一枚岩になって、「新たな地平線」を切り拓いていく時代です。

オリジナル食器の開発を考えているバイヤー、飲食業関係者、そして工場の皆さま、ぜひ現場の知恵とプロの目線、水平思考を武器に、次の一手を探求してみてください。

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