投稿日:2025年12月3日

“原因不明”で片付けられる不良ほど後で再発する法則

「原因不明」の落とし穴:なぜ再発する不良はなくならないのか

製造業の現場では、日々さまざまな不良が発生しています。
その中で厄介なのが、「原因不明」と処理された不良です。
一時は現象が消えたかのように思われても、必ずと言っていいほど後に再発します。
20年以上工場で現場の最前線に立ってきた私だからこそわかる、この「原因不明」という言葉の怖さと、根底にある業界構造や思考の癖についてお伝えします。

「原因不明」とは現場の逃げの一手

昭和的な「人のせい」文化の根強さ

現場の人間関係が密で、阿吽の呼吸が何よりも重視されていた昭和時代の風土は、今なお多くの工場に残っています。
問題が起きても、「◯◯さんがいなかったから」「いつもと違う順番だったから」と、担当者個人や偶然に原因をなすりつけ、真の原因追及から目を背けがちです。

この文化は「見て見ぬふり」や「手を抜く」ことの温床となっています。
その結果、「原因を追及するコスト」より「原因不明として処理するリスク」を選択する現場が残ってしまうのです。

トラブル隠蔽・責任回避という現状維持バイアス

現場や一部管理職が「責任を取りたくない」と考えてしまうことも少なくありません。
特に、製造現場の先頭に立つ工場長や課長クラスになると、自らの責任問題に発展しない範囲で「うやむや」にしたい心理が働きます。

「原因不明」という”あいまいな答え”には、こういった保身の意識や部門の壁を超えた追及の難しさといった、組織的な要因が絡んでいます。

「原因不明」の本質は“深堀りできていないだけ”

5回の「なぜ」を徹底できていない現実

トヨタ生産方式の「なぜを5回繰り返せ」という教訓は広く知られています。
しかし、現実の現場では2回目か3回目くらいで「これ以上は分かりません」「たぶんこれです」などと検証がストップすることが多いです。
本来、「なぜ」を深掘りしていけば、“絶対”解決策や真因に行き着くものです。

追及を止めてしまう理由には、現象を説明するデータや記録の不足、文書化文化の未整備、そして「調べても無駄」という諦め感が混在しています。

データを取らない・残さない現場

工場現場では、今なお手書きの日報やチェックリスト、口頭報告が多く残っています。
設備異常や作業ミスの本当の原因を後追いしようとしても、客観的なログやトレーサビリティが残っていないため、調査はすぐに壁にぶつかります。

「前回も消えたみたいだし」「似た現象が出たらまたでいいや」と現場がなあなあで済ませるうちは、「原因不明」の悪循環から抜け出せません。

原因不明=「再発リスク」の地雷原

現象が再現するまで追え、という鉄則

製造業の不良・異常現象のほとんどは“何かの再現性”があります。
一見偶然に見えた不具合も、環境要因・材料ロット・人の癖・設備コンディションなど、どこかに共通項が潜んでいます。

「原因不明で終了」にすると、その潜在的リスクは未整備のまま大量生産ラインに乗り、ロットアウト・納品後クレーム・リコールなどの“大爆発”を引き起こす可能性を秘めています。
まさに“後で必ず再発する法則”がここにあるのです。

身近な再発事例:あとで全数検査・出荷停止

例えば、
– 溶接不良が「たまたま一個だけ」発生したが、設備記録がなく原因追及されず終了。
– 数か月後、全く同じ症状の不良が大ロット出荷後に判明、過去出荷分すべて後追い全数検査。

こうした「たった一つ」の小さな兆候の“芽”を軽視した結果、後になってコストや信頼を大きく失う例は枚挙にいとまがありません。

デジタル化・自動化の中で「原因不明」は許されない時代に

工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の必要性

IoTやAIによる製造ラインの自動計測・記録は、欧州や中国などの先進工場で当たり前になっています。
センサーやカメラで取りまくったデータ、PLCログ、品質管理システムによって「なぜがわからない」は激減しています。

「昭和的アナログ文化」から「データドリブンの現場」への転換こそが、今、業界最大のテーマです。
現場力の底上げ、属人化脱却、再発防止には、記録と分析の仕組みを根本から作り直す必要があります。

業界全体の動向と取引先からの要求

大手完成品メーカーやグローバルサプライチェーンの中では、「なぜこのロットだけ異常が出たのか」を説明できないと、ビジネス自体が継続できない時代です。

ISOやIATF16949など、顧客・規格の監査でも「原因特定の証跡」を示さないと是正指導・取引停止リスクに直結します。
バイヤーや調達部門の視点からも、「原因不明で片付けている工場」と付き合うことはリスクとみなされ、取引先評価の低下や、場合によってはサプライヤー切り捨ての要因となります。

現場で明日からできる「原因不明」撲滅アクション

1. 小さな異常こそ徹底的に議論する風土醸成

– 作業者全員への「なぜ?」を問いかける習慣づけ
– ヒヤリハットや微細な異常も記録・共有する仕組み
– 管理職自ら現場に出て「現物・現場・現実」で確認

2. データの全数記録と“分析するクセ”

– 日次記録のデジタル化(Excelではなくクラウドや専用DB化)
– 自動設備のセンサーログ保存・グラフ化
– 異常値が出た際の都度分析・再現テストの徹底

3. 「仮説と検証」を繰り返すチーム運営

– 生産・品質・技術・資材など他部門を巻き込んだチーム追及
– 検証結果を全員で振り返る「振返り会議」の定例開催
– 問題をオープンに共有し「隠さない・逃げない」をモットーに

サプライヤーの視点:バイヤーが本音で求めていること

バイヤーや調達担当者は、自社の安定供給・品質責任を守る使命を持っています。
彼らが「一番怖い」と感じるのは、「原因がわからない=再発リスクを評価できない」状況です。

だからサプライヤーには、表面的な対応や言い訳ではなく、「事実に基づき、再発防止策を論理的に説明できる能力」を求めています。
たとえ時間がかかっても再発の芽まで徹底調査し、“同じ轍を踏まない現場力”を築いている会社こそが、これからのパートナーとして選ばれるのです。

まとめ:「原因不明」は現場と組織の思考停止、成長のチャンスを失う言葉

昭和から続く現場文化の残る下では、どうしても「原因不明」で手を抜きたくなります。
しかしこれを繰り返している間は、いつまでたっても同じトラブルが「突然」やってきます。

深く「なぜ?」と問い続け、再発という地雷原を一つずつ潰していく――。
これこそが現場の品質力であり、将来の取引チャンスの拡大、そして現場の働く人々の誇りにもつながります。

「原因不明で終わらせない」現場改革、まずはあなたから始めてみませんか。

You cannot copy content of this page