投稿日:2025年8月22日

不良率削減要求が短期間で非現実的な課題

はじめに:求められる「不良率削減」の現実と向き合う

近年、製造業では納期短縮・コストダウンと並ぶ主要なKPIの一つとして「不良率削減」が強く求められるようになっています。

バイヤーや経営層からは「来月から不良率を半分に下げてほしい」「半年以内にゼロディフェクト(=不良ゼロ)を目指せ」といった、非常に高い、場合によっては非現実的な短期間での改善要求が現場に降りてくることもあります。

こうした動きは昭和から続く製造業の「現場頼み」体質や、アナログな工程が残り続ける業界文化とも深く結びついています。

この記事では、長年の現場経験をもとに、不良率削減の背景や現場での実際の課題、それをどう乗り越えるかについてバイヤーやサプライヤー双方の立場から解説します。

なぜ今「即効性のある不良率削減要求」が強まるのか

グローバル競争とコストプレッシャーの高まり

自動車、電子部品、機械部品など日本の製造業は、長く「高品質・低不良」のイメージで信頼を得てきました。

しかし海外メーカーとの価格競争が激化し、コスト競争力強化が求められる中で「不良によるロスゼロ」「品質保証コストの抑制」は以前にも増して重視されています。

製造バイヤーの多くが、グローバル調達やサプライチェーンマネジメントの観点から「歩留まり率改善」をKPIに組み込み、サプライヤーへも厳しい要求を突き付けます。

IoT・DXの進展とデータ重視傾向の増加

さらに、IoTやDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み品質データのリアルタイム取得が容易になったことも、「数値目標による即時改善要求」を後押ししています。

根拠となるデータが可視化されたため、バイヤー側の品質管理部門や購買担当者が「ここからこれだけ改善できるはずだ」と、やや現実離れした短期間の削減要求を出しやすい風潮が生まれています。

現場に「短期間での不良率大幅削減」という指令が降りる実態

サプライヤーによくある光景

「来月から不良は半分にしてください」

このフレーズに、製造現場で働かれる方なら一度は心当たりがあるのではないでしょうか。

しかも、現場には「これまで不良低減に取り組み続けてきた」のに、突然これまでの努力を無視するかのような非現実的な短期目標だけが降りてきます。

「これ以上どう減らせというのか」「魔法じゃあるまいし」と困惑することも多いでしょう。

そもそも現場は「ずっと改善し続けてきた」

製造現場は長年にわたり5S活動やQCサークル、故障解析、工程改善、現場管理のPDCAを地道に繰り返し、すでに“簡単に減らせる”ムダやロスは徹底的に潰してきた歴史があります。

つまり、大幅な不良率削減が「短期間で」可能なら、とっくに実現されているはずなのです。

それでも短期で削減せよと指示が出てくる背景には「現場の実態」と「数字上だけの目標」が乖離したまま、調達・購買部門や経営層が現場にプレッシャーをかける業界体質が根強く残っているためです。

「不良率削減要求」が非現実的になりがちな理由

達成可能性を無視した目標設定

よくあるのは、「今期不良率●%→来月には△%」と、過去実績や工程固有の制約を無視して、外部や経営の都合だけで数値目標が独り歩きするパターンです。

この場合、現場は「根本的な要因分析やイノベーション無しで、直ちに削減だけ求められる」ことになり、持続的な改善どころか真の品質向上、モチベーション向上も期待できません。

古い体質・現場任せの風土

日本の伝統的な製造業では、「現場の知恵と根性でなんとかせよ」「何かあったら現場が尻拭い」という構造が長年温存されています。

バイヤーも「納入部品の不良はサプライヤー責任」として一方的に求めがちですが、それだけでは根本的な体質改善になりません。

データが示す「難しさ」

例えば、歩留まり99.9%(=不良率0.1%)の工程から0.05%を削減しようとすれば、数十万、数百万個に1つのレア不良を根本解決する必要があります。

これはちょっとした工程管理や部品選別だけで済むレベルではなく、材料や工程設計の抜本的変革、時には設備や要員配置の根底から見直しが必要になる難易度です。

現実的かつ効果的な「不良率削減」へのアプローチ

1.「現状分析」を徹底せよ

まず重要なのは、現状不良の種類(初期不良・後工程不良・経年劣化等)と発生頻度、要因構造、既存の改善策の棚卸しです。

「どの工程で、なぜ、どんな不良が出るのか」を客観的にデータと現場ヒアリングで深掘りします。

現場任せになっている情報を、バイヤーや購買担当も工場に足を運び、リアルな現実から数字の意味を確かめることが重要です。

2. 改善インパクトの「見える化」と「優先順位付け」

全ての不良を一律に減らすのではなく、「現状のロスにどの不良がどれだけ影響しているか」をPareto分析等で可視化したうえで、削減インパクトの大きい要因から順に着手します。

稀なレアケース(特殊ロットの突発不良等)なのか、日常的に起きがちな凡ミス系なのかでアプローチも変わります。

3.「現場と現場つなぐ」コミュニケーション改革

短期間での不良削減目標が降りてきても、現場だけに責任転嫁せず、「なぜこの目標なのか」「実現可能なオプションは何か」を率直に対話し、調達・バイヤー・現場・品質保証部門が横断的に連携できる体制に進化できるかが鍵です。

「不良ゼロ」だけでなく、生産効率・お客様満足・納期などマルチKPIを一つのテーブルで議論し、目標達成への現実的なロードマップを共創します。

4. システム導入・自動化だけに頼らない

近年はAI検査機、IoT監視システム、データ解析ツールなどが注目されています。

確かにテクノロジーは強力な武器ですが、肝心なのは「現場の技能・ヒューマンエラー」「ロットばらつき」「急な変更対応」といった“生きた現実”にテクノロジーを無理なく組み込むことです。

システム導入前に、「現場の工程・習慣をどう変えるか」「既存の改善活動がどう活かされるか」をしっかり準備することが欠かせません。

5.「再発防止」と「学びの蓄積」

改善が進む現場でも、不良の根絶は困難です。

発生時には「原因究明→対策→再発防止→変化点管理→教育」という王道サイクルを粘り強くまわし、ナレッジを現場に蓄積することが、最終的に不良低減活動の底力となります。

サプライヤーにとっての「バイヤーの期待と真意」を読む

バイヤーが求める「見えない安心感」とは?

要求される不良率削減の「背景」には、納入後のトラブル損失・万が一のリコールリスク低減など、サプライチェーン全体の“安心安全”を守りたいという切実な思いも隠れています。

バイヤー側に「このサプライヤーなら何かあった時も迅速に対応してくれる」「原因究明→対策が速やかにできる」と信頼してもらえる関係性こそが、価格や納期以上の“差別化要因”にもなります。

「報・連・相」の質が信頼に直結

納入不良や異常発生があった場合、隠し立てせず即時の「報告・連絡・相談」(報・連・相)を徹底しましょう。

むやみに言い訳せず原因究明に協力的な姿勢や、リカバリー策を先回り提示できれば、「現場主導型」の頼られる存在になれます。

製造業バイヤーを目指す人へのアドバイス

バイヤーはスペックや価格だけでなく、品質管理体制、現場力・柔軟対応力も“売り手”を評価して決定しています。

現場へ足を運び、不良低減や改善プロジェクトに積極的に巻き込まれることで、将来的な全体最適型バイヤーへと成長できます。

昭和体質の製造業でも「新たな地平線」を切り開くために

旧態依然の“根性製造業”や“現場頼み至上主義”に閉じこもるのではなく、DX推進やサプライチェーン全体の共創型管理へと転換していくことが不可欠です。

そのためには、「不良率削減という数字だけの呪縛」を手放し、人と現場の知見、データ、技術を生かし、地に足の着いた現実的かつ挑戦的な目標管理へと進化する必要があります。

現場力という日本のメーカーの強みを、“責任の押し付け合い”ではなく“全体最適を目指す推進装置”として活用できる時、製造業は新しい価値創造の地平線を切り開いていけると信じています。

まとめ

不良率削減の短期間・非現実的な要求には、現場の実態や努力、そしてアナログからデジタルへの変革途上である業界特性への理解が不可欠です。

この“現場のリアリティ”と“時代の要請”の間でどう折り合いをつけ、持続可能な改善サイクル・新しい信頼関係を構築するか。

現場・バイヤー・サプライヤーが互いの立場と課題を理解し、変化を恐れず学び合うことで、昭和の延長線上にとどまらない真の成長と価値創出が実現できると確信しています。

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