投稿日:2025年10月4日

属人化した工程管理で生産計画が不安定になる課題

はじめに:属人化がもたらす現場の混乱と課題

製造業の現場では「属人化」が長年の課題として根強く残っています。

とりわけ工程管理の属人化は、昭和から続くアナログな業界体質と相まって、生産計画や納期遵守、コスト管理に深刻な影響を及ぼしています。

本記事では製造工場で20年以上の現場経験を踏まえ、属人化した工程管理の何が問題か、現場で実際に起きている事例、解決策、業界動向などを踏み込み、ラテラルシンキングに基づいて考察します。

バイヤー志望の方や、サプライヤーの現場担当者にも実践的なヒントをお届けします。

製造現場に蔓延する「属人化」とは何か

属人化とはどんな状態か

「属人化」とは、業務やノウハウが特定の人に依存し、その担当者でなければ業務が円滑に進まなくなる状態を指します。

製造業の現場では、主に以下のような場面で属人化が進みます。

– 生産ラインの段取り替えや調整がベテラン作業者だけに任されている
– 設備のメンテナンス履歴、加工条件が記録されず口伝に頼っている
– 工場長や現場リーダーの経験値がないと工程の全体最適ができない
– 品質トラブルや異常対応が「○○さんじゃないと分からない」となるケース

表面的に工程管理表や帳票類は存在していても、実際には紙ベースの伝票や、作業者の「経験と勘(KKD)」に頼るケースも未だ多くあります。

昭和的アナログ体質から抜け出せない理由

なぜ製造業界はデジタル化や標準化が進まないのか――。

要因はいくつもありますが、主なものは以下の通りです。

– 「伝統的な現場力」重視の文化
– 高度成長期に培った独特の職人技能や勘、ノウハウの存在
– 現場の声が軽視され、システム化が現場実態と乖離しやすい
– 労働力減少でも、熟練作業者頼みの運用が続いている

これらの体質により、新しいITツールや自動化システムを入れても「使いこなせずに属人化が温存される」といった悪循環が生まれているのです。

生産計画が不安定になる背景と現場の実態

属人化した工程管理が生産計画に与える影響

生産計画の不安定化が現場に及ぼすデメリットは計り知れません。

主な影響としては以下が挙げられます。

– 特定作業者が休暇や退職すると工程全体が滞る
– 工程ごとのリードタイムや仕掛品在庫量が正確に把握できない
– 急な増産、減産、製品変更に柔軟に対応できない
– 部品調達〜最終組立までの計画立案が困難
– バイヤーからの納期短縮要請や急なイレギュラー対応に弱い
– 品質異常発生時の原因分析や是正のスピードが低下
– コストや納期遅延のリスクが肥大化

属人化の実態として、「ベテランが休むと現場が止まる」「あの人にしか分からない帳簿やメモがある」「図面や工程図が最新でなく、現物合わせで作業を進める」といったケースが珍しくありません。

属人化工程管理が引き起こす典型的な事例

私自身が工場長を務めていた際、以下のような事例を複数経験しました。

1. 長年工程管理を一手に担ってきたベテラン社員が、急な病欠で業務が停止。
ライン再稼働まで3日もの時間を要し、その間、生産計画は白紙。
2. 手書きの工程日報や段取り手順が個人管理となり、新人教育が進まずミス多発。
3. 作業工程のどこまでが完了しているか、タイムリーな進捗把握が困難。
バイヤーから進捗問い合わせがあるたびに現場を何度も往復、即答できず信用低下。
4. 自社工程のトラブルを、サプライヤー責任と誤って報告し、無駄な調整が発生。

このように、属人化した工程管理では、単なる現場混乱だけでなく、顧客やサプライヤーとの信頼関係にも大きな傷を残すことになります。

サプライヤー/バイヤー視点で見る属人化のリスク

サプライヤー目線でのリスク

サプライヤー(部品や材料供給側)にとって、工程管理の属人化が強いメーカーは以下のようなリスクになります。

– 受注量の変化や急な短納期要請への対応力が低い
– トラブル連絡や品質クレームの初動が遅く、誤報も起きがち
– 工場稼働状況が可視化されず、納期遅延や在庫過多の兆候を事前につかめない
– 生産・品質異常のフィードバックが曖昧
– QCD(品質・コスト・納期)全体の最適化に消極的

戦略的に長期取引をしたいバイヤーからすれば、不安定なサプライヤーはリスクを避ける傾向が高まります。

そのため、サプライヤー側でも自身の工程属人化リスクを把握・改善し、信頼性を高めることが必須です。

バイヤーが求める現場力と課題意識

バイヤー企業(発注側)が近年、求める現場力は「見える化・標準化」に集約されます。

– 受注から生産、納品まで一気通貫した進捗管理
– トレーサビリティ(製造履歴・工程履歴)が明確
– 異常対応やリードタイム短縮のポテンシャル
– データドリブンで状況報告・対策が迅速
– 技能継承・教育の体系化
– 繁忙期でもバッファーを持たせた生産計画

バイヤー目線で属人化工程管理を続けている工場は、「納期も品質も信用できない」「大きな投資案件や新規大型受注を任せられない」と見なされやすくなるのです。

現場で実践できる属人化解消の具体策

1. 標準化の徹底:誰がやっても同じ品質

最も簡単かつ効果的な属人化対策は、工程ごとの作業マニュアルや標準作業手順書(SOP)作成です。

– 写真や動画、イラスト入りで「誰でも分かる」内容に
– ノウハウやコツも併記し、暗黙知を形式知化
– マニュアルは定期レビューし、現場改善や工程変更に即対応
– 新人教育プログラムに、標準作業習得を必須化
– IT化できる箇所はデジタルデータ管理にシフトしバージョン管理

この取組みだけでも「○○さんじゃないと分からない」工程を激減させられます。

2. 可視化・データ化で「現場の今」を見える化

日々の作業進捗やリードタイム、生産遅延の兆候を紙や口伝ではなく、「数値・データ」で可視化します。

– 工程ごとの作業進捗管理システム導入(Excelベースでも可)
– 日報を紙からデジタル化し、リアルタイムで情報共有
– 設備の稼働状況や異常内容もクラウド記録
– KPI(重要業績指標)を工場全体で見える化

これにより、生産計画立案も「勘」や「経験」頼みでなく、合理的判断につながります。

3. 多能工化・OJT強化で人に依存しすぎない現場づくり

KR(キーリソース)に属人化が集中しやすい工程については、計画的な多能工化とOJT教育が効果的です。

– 重要な工程は複数人でスキルシェア
– シフトローテーションで経験値を分散
– OJTで「現場力」を段階的に可視化・標準化
– 年代や技能ギャップを縮める教育コンテンツ化

「人材不足だから属人化は仕方ない」のではなく、少数精鋭でもリスクを分散する「全員戦力化」を進めましょう。

ラテラルシンキングで考える属人化の逆転活用法

現場の属人性自体が全て悪ではありません。

むしろ、長期にわたる経験値は「現場力」の核でもあり、一朝一夕に代替不可能な財産です。

そこでラテラルシンキング(水平思考)の視座から次のような新たな地平を開けます。

– 熟練作業者のノウハウを「動画による社内教材」や「技能伝承ワークショップ」化
– AIやIoTを活用し、ベテランの判断基準をデジタル解析。新人へのナレッジ還元
– 局所的な属人技術を「強み」と捉え、他社との差別化や独自技術に昇華
– ノウハウ共有の社内コミュニティや学習サークルを創出し属人知を全社知に

このような取り組みでは、単なる効率向上ではなく「現場知による競争力強化」にもつながります。

業界トレンド:DX・スマートファクトリー時代に向けて

属人化問題の根本解決には、IT化・DX(デジタルトランスフォーメーション)が不可避です。

多くの大手サプライヤーやバイヤー企業が、以下のような最新トレンドに取り組んでいます。

– MES(製造実行システム)やIoTデータによるリアルタイム工程管理
– クラウド型ERPによる生産・調達・在庫の統合管理
– AI自動スケジューラーで最適な生産計画とリードタイム解析
– バーチャルトレーニングやVRを活用した新人教育
– 製造DX推進チームの機能強化、外部専門家との連携

しかしDX導入も「現場の標準化」「知識の可視化」「教育体系化」がなければ宝の持ち腐れです。

どんな最先端ツールも、現場目線で属人ノウハウを形式知化してこそ本来の価値を発揮します。

まとめ:一歩ずつ、現場力をみんなの力へ

属人化した工程管理からの脱却は一朝一夕にはいきません。

それでも、「標準化」「見える化」「多能工化」「IT化」「知識共有」を一歩ずつ積み重ねれば、必ず現場は安定し生産計画も強くなります。

なにより、現場で働く一人ひとりが「自分の技能を誰かが引き継いでくれる」「チーム全体で共有し成長できる」と感じられる職場づくりが大切です。

ものづくりの現場は、知恵と創意工夫の宝庫です。

バイヤーもサプライヤーも、「属人知」を超えた「現場の総合知」に支えられる未来を目指し、ともにラテラルシンキングで成長していきましょう。

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