使いやすい製品のためのユーザビリティ調査・評価・テスト手法と開発基準値の活かし方

はじめに：なぜユーザビリティが重要か

製造業の世界において、製品開発の最終目標は「使いやすく、選ばれる製品」を作り出すことです。
とりわけ近年はデジタル化やIoT化が加速する一方で、現場に根付くアナログ的な発想も混在しています。
そのなかで製品のユーザビリティ（使いやすさ）は、従来以上に差別化のポイントになっています。

ユーザーの使い勝手が悪い製品は、どんなに高機能でも市場で受け入れられません。
そのため、調達購買、生産、品質管理という各部門の垣根を超え、「ユーザー目線」での評価手法や基準を現場に落とし込むことが今、強く求められています。

ユーザビリティの基礎と設計段階での課題

ユーザビリティは「誰にとって、どのような状況で、どれだけ簡単に使えるか」を測る指標です。
製造業、とくにBtoBの現場では「操作性」「安全性」「誤操作のしにくさ」などが重視されます。
設計段階でよくある課題は、現場の実態を無視した“設計者本位”の開発です。

現場を見ずにオフィスで作られた操作パネルや、マニュアルの読解性の低さ――。
こうした課題は、現場ユーザーの生の声や作業環境に即した調査・評価を経ないと解決できません。

ユーザビリティ調査・評価・テストの手法

１．現場観察とシャドウイング

ユーザビリティ向上のため、現場でユーザーが実際に製品を使っている様子を観察するのは必須です。
製造ラインでの運用、保守作業、異常時の対応など、現場ならではの“クセ”や“工夫”を見極めます。
シャドウイング（ユーザーの後ろについて行動を追うこと）を行うと、本来気づかなかった改善点が浮き彫りになります。
たとえば、パネル操作が片手で完結しない、点検作業に想定以上のステップが必要、などです。

２．ユーザーインタビュー

現場の担当者や実際のバイヤーに直接インタビューすることで、「どこが使いづらいと思いますか」「他社製品との違いは何ですか」といった率直な意見を引き出します。
このとき重要なのが、設計者や開発担当ではなく“第三者の立場”でヒアリングすること。
現場で根付いた昭和的な習慣や暗黙のルールの中にも、ユーザビリティのヒントが隠されています。

３．実地モックアップテスト・プロトタイプ評価

早期段階（できれば設計フェーズ中盤まで）で、簡易モデルや試作品を現場で使ってもらい、評価を得ます。
この段階で“机上の空論”から“現場の体感”への転換が重要です。
例えば、安全柵の開閉方向やツールの握り心地などは、実際の使用者の意見で大きく改善されることが多い領域です。

４．ユーザビリティテスト（定量・定性）

作業効率や操作ミス率、作業時間などを定量化し、製品同士、世代間で客観比較します。
その一方で、現場担当者の「使いやすい」「分かりづらい」といった主観的なフィードバック（定性評価）も大切です。

５．フォーカスグループディスカッション（現場クロストーク）

異なる立場（工場長・現場担当・保全・バイヤー・サプライヤーなど）の代表を集めて、中立なファシリテーターのもと意見交換させます。
この場で現場目線を深く掘り下げることで、隠れた課題や組織横断のヒントを抽出できます。

ユーザビリティに関する評価基準値の考え方

ユーザビリティ基準値は、「数値によるゴール設定」が現場浸透のカギとなります。
チェックリストやパフォーマンステスト指標を明確にし、設計と検証の両方で使えるようにすることが大切です。

主な評価基準指標

– 操作ステップ数（例：スタートアップに必要な手順が5ステップ以内か）
– 作業ミス発生率（例：100回作業してミスは1回以内）
– 認知負荷（例：一目で必要な操作が分かるレイアウトか）
– 教育コスト（例：操作教育が1時間以内で完了できるか）

これらの数値は業界標準をまるごと取り入れるのではなく、自社・自現場に最適化してアップデートしていくことが肝心です。
現場観察やテスト結果に基づいて、評価基準の見直しを定期的に実施します。

調達・バイヤー・サプライヤーの視点を意識した現場対応

バイヤーやサプライヤーにとっても、ユーザビリティ評価は新しい差別化武器となります。
調達選定時に「使いやすさの評価指標」を入れることで、これまで価格とスペックだけだった評価軸が多様化します。

バイヤー視点では、安全性や保守性と併せた使いやすさが“現場受け”の決め手にもなり得ます。
サプライヤーは自社製品を売り込む現場で「導入後もどれだけ楽で効率的か」を具体的に示す必要が出てきます。

そのため両者とも、現場でのモニタリング調査や短期間トライアル（現場検証テスト）を積極的に取り入れる傾向が強くなっています。

アナログな現場文化との共存――ラテラルシンキングの重要性

製造現場には、今なお根強い昭和的・アナログ的な価値観が残っています。
現場担当者が自分流の使い方で工夫し、担当制や口頭伝承が価値とされるカルチャーです。

こうした文化の中でユーザビリティ評価や基準値を導入する際、トップダウン型だけでは反発が起きがちです。
ラテラルシンキング（水平思考）が求められる場面です。

例えば、「現場での独自工夫」を完全否定するのでなく、ベースの標準作業（スタンダード）をしっかり作りつつ、柔軟にカスタマイズできる余地も残す。
「現場で長年使われてきた理由」をヒヤリングし、良い点を新規設計へフィードバックする。

バイヤーやサプライヤーも、「現場でのリアルな使われ方」に寄り添って提案・評価できる体制が、今後の信頼獲得のポイントになります。

現場で活かす工夫――多様なフィードバック循環

ユーザビリティは一度作って終わりではありません。
現場反映と改善サイクルを意識した「短期Feedbackループ」を仕組み化することが成功の鍵です。

たとえば、
– 新製品導入時の現場ヒヤリング会
– 半年ごとのユーザビリティ再評価
– 小集団活動やQCサークルでの現場課題抽出

これらを定常化し、調査・評価・改善が自然に回る組織文化を作ることが理想です。
経営層・現場・調達・設計が一体となって“現場起点のユーザビリティ向上”に取り組むことが、真の競争力となります。

まとめ：ユーザビリティ重視が製造業の新しい価値基準

ユーザビリティ評価は、もはや“付加価値”ではありません。
アナログ文化とデジタル思考がせめぎあう現在、現場目線のユーザビリティ調査・評価・テストは製造業に新たな競争軸をもたらします。

調達・バイヤー・サプライヤーという立場を超え、ユーザビリティ基準値を現場運用に落とし込むことで、実践的な品質向上と現場力強化が実現します。

今後の製造業を担う皆さんが、新しい地平線を切り開くために、ぜひ現場を起点にしたユーザビリティの追求に取り組んでみてはいかがでしょうか。