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プラスチック材料・複合材料の劣化メカニズムと寿命推定および劣化対策

目次
はじめに:プラスチック材料・複合材料の重要性と課題
プラスチック材料や複合材料は、現代の製造業において不可欠な存在となっています。
家電、自動車、航空機、医療機器に至るまで、これらの高分子材料は、軽量、高強度、耐食性、成形のしやすさなど、多岐にわたる特長を活かして用いられています。
一方で、プラスチック材料や複合材料には「劣化」という避けられない課題がつきまといます。
劣化が製品の寿命を左右し、品質の低下や安全性のリスクを引き起こすケースも珍しくありません。
また、昭和の時代から続くアナログな現場では、劣化や寿命推定に関して「経験則」や「なんとなく」で意思決定がなされている状況も未だに多く見受けられます。
そこで今回は、プラスチック材料・複合材料の劣化メカニズムの基礎から、寿命推定の実践ノウハウ、現場で取り入れやすい最新の劣化対策までを、工場現場目線で徹底解説します。
日本のものづくりを支える皆さまの実務に、確かな根拠と納得をもたらす一助となれば幸いです。
プラスチック材料・複合材料の主な種類と特徴
プラスチック材料の基本分類
プラスチックは大きく分けて「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」に分類されます。
熱可塑性樹脂は、加熱することで柔らかくなり、冷却すれば再び硬くなる特性を持っています。
ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリカーボネート、ABS樹脂などが代表例です。
熱硬化性樹脂は、加熱によって一度硬化すると、それ以降は再加熱しても元の形に戻らず、高温でも変形しにくい特性があります。
エポキシ樹脂やフェノール樹脂、ウレタン樹脂などがよく使われています。
複合材料とは何か
複合材料(コンポジット)は、2種類以上の材料を組み合わせて一体化させた新しいマテリアルです。
一般的には、マトリックス(母材、樹脂)と強化材(ガラス繊維や炭素繊維など)が組み合わされています。
代表格は、「ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)」や「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」などです。
自動車の軽量化や航空宇宙分野、スポーツ用品など幅広い分野で採用が進んでいます。
なぜこれらの材料が選ばれるのか
これらの材料は、金属に比べて軽くて強い、また成形の自由度が高く、大量生産が容易などの理由から選ばれています。
しかし、長期間の使用や過酷な環境下では「劣化」の問題が避けられません。
ここからは、具体的な劣化メカニズムについて解説していきます。
プラスチック材料・複合材料の主な劣化メカニズム
熱劣化
プラスチック材料や複合材料は、高温環境下にさらされると「熱劣化」を起こします。
高温によって分子鎖が切断され、物性(強度・剛性・耐衝撃性など)が著しく低下します。
例えば、エンジンルーム内の配線被覆や、高温部品のハウジングに使われるプラスチックではこの熱劣化が顕著です。
ガラス転移点(Tg)や分解温度近辺での使用は、特に注意が必要です。
光・紫外線劣化
太陽光や屋外の照明に含まれる紫外線は、プラスチック材料の劣化要因の1つです。
紫外線は高分子鎖の結合を切断し、色褪せや割れ、脆化の原因となります。
建築外装部品や自動車外装部品、サインボードなど、常時屋外で使われる用途では、特に紫外線対策が不可欠です。
酸化劣化
酸素との化学反応(酸化反応)も、プラスチック材料の劣化要因です。
酸化によって基材の分子鎖が切れ、べたつきや割れ、強度低下を招きます。
さらに、光や熱の影響下では酸化劣化が加速します。
「熱酸化劣化」とも呼ばれ、寿命推定を考えるうえで見逃せないファクターです。
加水分解・吸水劣化
一部のプラスチック(ナイロン等)は水分と反応し、「加水分解」により分子鎖が切断され劣化が進行します。
また、吸湿による寸法変化や物性劣化も課題となります。
洗濯機部品や、湿度変化の激しい環境で使われる製品では、この吸水劣化に注意が必要です。
その他の要因
塩素やアルカリ、油分などの薬品にも弱いプラスチックがあります。
そうした場合には、適切な材料選定や表面コーティングが必要となります。
また、複合材料の場合は界面(母材と強化材の間)の剥離、ファイバー抜けといった特有の劣化も考慮しなければなりません。
寿命推定の考え方と実践例
現場で使われる寿命推定の勘と落とし穴
工場現場では「この材料は○年もったから大丈夫だろう」「前回、特に問題なかったから今回もOK」といった経験則による判断が根強く残っています。
しかし、実際には使用環境が少し違うだけで劣化速度が大幅に変化するのがプラスチックの世界です。
同じ樹脂でも配合やロット、設計、成形条件、取り付け状態、部品ストレスの有無などで劣化挙動が別物になることは珍しくありません。
安易な予測は、思わぬ早期トラブルや保証コスト増大を招くリスクが伴います。
実際の寿命推定手法
代表的なのが「加速劣化試験」による寿命推定です。
人工的に高温・高湿・高紫外線など厳しい条件下にさらし、劣化進行を観察することで、通常環境での寿命を短時間で予測します。
< 代表的な加速劣化試験例 >
・恒温恒湿試験:所定温度・湿度に長時間保持
・サンシャインウェザーメーター:紫外線照射での色褪せ・亀裂観察
・サイクル試験:温度や湿度を周期的に変動
これらのデータを使って「アレニウス式」(温度依存性の法則)などの統計手法を活用し、20年分の寿命を2週間でシミュレートするといったことが行われています。
ポイントは現場条件との「すり合わせ」
加速試験は環境が厳しすぎて実態と合わない、という声もよく聞きます。
重要なのは、「現場の実際の使われ方(荷重・環境・保管状態等)」を加速条件にきちんと反映させること、そして実際の製品寿命と加速データがどのくらい合致しているかを地道に追跡することです。
現場×評価担当者×設計担当者の密な連携が、信頼できる寿命推定の最短ルートです。
劣化メカニズムをふまえた設計・調達・購買のポイント
材料選定の段階から始める劣化対策
設計・調達段階で、「どんな環境で、どんなストレスが想定されるか」を関係者全員で突き詰めて議論することが、劣化問題の未然防止に直結します。
材料メーカーのカタログ値だけで判断せず、現場で起こりうるリアルなリスクを洗い出す—これがアナログ現場でも根付いてきた“地に足のついた”品質確保の鉄則です。
例えば、「太陽光に曝される看板部材ならUV安定剤が配合されたグレードを選ぶ」「エンジンルームで使うカバーは熱安定性と酸化安定性のデータを徹底確認」など、使われ方の想定をまず固めましょう。
どこまでのライフサイクルをカバーするかを合意形成する
寿命とは「どんな性能が、どこまで保持されていればOKなのか」の定義でもあります。
納入先バイヤーや設計・品証部門と目線を合わせ、「色が変わったらNGか」「割れたり寸法が狂ったらダメか」など、許容できる劣化の範囲を明確化しましょう。
共通のゴールを持って初めて、工場・メーカー・サプライヤーが一体となった材料調達・部品設計が可能になります。
サプライヤーへ要求すべき追加情報と試験
調達担当者としては、従来の「安さ」や「納期」だけでなく、材料の「耐劣化性能」「寿命データ」の提出をサプライヤーにしっかり求めましょう。
加速劣化試験の成績書や、最悪条件下での安全マージン、トレーサビリティ情報の取得まで広げるのが昭和型現場から進化する一歩です。
サプライヤー側も“現場志向”で「どんな使われ方ですか?」と一歩踏み込むコミュニケーションが差別化ポイントとなります。
現場でできる劣化対策とトレンド
設計段階からの予防策
・肉厚の適正化で応力集中を回避
・暗色系意匠や遮光コーティングで紫外線吸収
・凝集部(リブ、コーナー部)のラウンド化でクラック発生を低減
・可塑剤や安定剤、UV吸収剤添加での弾性・耐候改善
設計に“ちょっとした工夫”を入れることで、劣化によるトラブル件数は劇的に減少します。
工程管理・保全でのポイント
成形工程では「温度管理」「冷却速度」「保管環境(直射日光・高湿・埃)」が製品の微妙な劣化発生につながっています。
現場改革の第一歩は
・成形条件変動の見える化
・定期的な寸法・強度モニタリング
・“寝かせ在庫”の温湿度管理
こうした地味な作業を実直に積み重ねることです。
最新対策:IoT×AI×素材技術の活用
最近は、IoTセンサーによる「現場の温度・湿度・UV照射量の自動記録」や、AIによる「色調の自動劣化診断」が進みつつあります。
また、バイオベース素材、自己修復性材料、超耐候性添加剤など、劣化そのものを抑える革新的な新素材も増加しています。
「昔ながら」の知見と「先端技術」のハイブリッド活用が今後の現場力強化の鍵になります。
おわりに:日本の製造現場の未来へ
プラスチック材料・複合材料の劣化と寿命推定は、決して“感覚”“前例”“経験”だけで語れるものではありません。
現場の経験値を活かしつつ、加速試験や材料科学の正しいロジックも取り入れ、現場・設計・サプライヤーと一体となって材料選定や評価を進めることこそが、変革期を迎える日本のものづくりの真価だと考えます。
昭和型のアナログ現場から脱却し、「確かな根拠で未来をつくる」ために、今こそ正しい知恵とチームワークで新たな地平を切り拓きましょう。
本記事が現場の皆さまの実践に少しでも役立てば幸いです。
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