投稿日:2025年10月13日

缶詰の爆発を防ぐ真空密封と加圧殺菌の組合せ技術

はじめに:缶詰の安全性はどう担保されているのか

缶詰は長期間保存できる食品として、私たちの生活に非常に身近な存在です。

しかし、保存食であるにもかかわらず、過去には缶詰の爆発や腐敗による健康被害が起こったこともあります。

そうした事故を防ぐために、現代の缶詰製造には様々な安全技術が取り入れられています。

その代表格が「真空密封」と「加圧殺菌」の組合せ技術です。

この記事では、大手製造業で長年現場を経験した視点から、缶詰の爆発を防ぐための真空密封と加圧殺菌の実践的な技術と、アナログ業界ならではの現場の工夫や課題も交えながら、分かりやすく解説します。

さらに、調達や購買、生産管理や品質管理の観点からも、この技術がどのような意味を持つのか、業界動向も掘り下げて考えていきます。

缶詰が爆発するメカニズムと防止の基本

まず、なぜ缶詰は爆発するのでしょうか。

爆発の主な原因は、缶内で増殖した微生物がガスを発生させ、内圧が上昇するためです。

この内圧が缶の耐圧を超えれば、最悪の場合、破裂=爆発となります。

特に、缶詰のような密封状態では外からの酸素供給が遮断されるため、内部で嫌気性(酸素を必要としない)細菌の増殖リスクが高まります。

こうしたリスクを防ぐためには、次の2点が基本となります。

  • 1.缶詰内部の微生物(特に耐熱性の高い菌)の殺菌
  • 2.内部に余計な空気=酸素を残さない(真空密封)

この2つをしっかり両立することが、缶詰の安全を守る技術の根幹です。

昭和の現場に根強く残る“目視”確認の限界

かつて、缶詰製造の現場では、加熱や殺菌の工程管理がアナログな記録や目視、経験値に頼ることが多くありました。

温度計の針を目で追い、タイマーで時間を測るといった方法です。

これでは、ちょっとしたヒューマンエラーが命取りになることも。

現場の技術者は、実は温度計のクセや缶ごとの違いまで把握し、“匠”の勘をフル稼働させて事故を防いできましたが、人的負担が大きく、品質のばらつきも少なくありませんでした。

この課題が、後述する工程自動化やIoT導入の原動力にもなっています。

真空密封とは何か、その技術的意義

真空密封は、缶詰内部の空気(=酸素)をできるだけ抜き、密閉する技術です。

これは微生物の繁殖抑制と、食品の酸化を防ぐ2つの狙いがあります。

なぜ「真空」が重要なのか

缶詰の腐敗や異常発酵、臭いの発生、あるいは膨張の要因は、大きく分けて次の2つです。

  • 微生物の増殖(腐敗菌、ボツリヌス菌などには極端な嫌気性菌も含まれる)
  • 食品内部の酸化(味や色、栄養価の劣化につながる)

これらを一気に抑えるには、内容物と酸素をできるだけ触れさせないことが大切です。

そのためには缶蓋をする前に、内容物の上にある空気を抜き、「真空」に近い状態で密封する必要があるのです。

現場での真空密封の工程

典型的な真空密封の手順には以下の方法があります。

  • 缶に内容物を詰め、缶蓋を半密閉状態にする
  • 専用設備にセットし、真空ポンプや蒸気で缶内から空気を抜く
  • 真空維持したまま圧着(シーマー機で本締め)する

この工程一つひとつに職人技が潜んでおり、例えば内容物を詰めすぎると“あふれる”、空気を抜ききれないと酸化がすすむ、といった難しさがついて回ります。

加圧殺菌のねらいと実際の工程

缶詰内部を真空にしても、残念ながら完全な殺菌には至りません。

多くの微生物は摂氏100度以上でも生き残ることがあり、特にボツリヌス菌などは耐熱性が高いことで知られます。

そこで必要になるのが「加圧」による高温殺菌処理です。

圧力釜を使った高圧高温殺菌

工場では大型のレトルト釜(オートクレーブ)を使い、以下のようなプロセスで殺菌処理を行います。

  • 真空密封後の缶詰を、バッチごとに圧力釜に投入する
  • 釜内部を目標温度(例えば121℃)・目標圧力に到達させる(加圧することで水の沸点が上がる)
  • 一定時間(熱殺菌条件。例えば15分以上)、高温高圧で“煮る”
  • 段階的に冷却し、釜から取り出す

この工程で、ボツリヌス菌など耐熱性菌の「芽胞」も、ほぼ死滅させることができます。

一方で、加熱し過ぎると食品の風味や食感が損なわれるため、内容物ごとにベストな温度・時間の「プロファイル」を、何百回もの試験・分析を経て設定するのも現場の腕の見せどころです。

現場の工夫と自動化の波

釜の圧力・温度制御は、かつては熟練工がバルブ開閉やアナログ計器でコントロールしていました。

現在ではPLC(プログラマブルロジックコントローラ)やIoT温度センサが導入され、データロガーで全て記録し、異常時は自動的に警報が出る仕組みになっています。

その結果、製造ロットごとに殺菌レベルを「見える化」でき、不良品混入リスクが格段に下がりました。

真空密封と加圧殺菌の“組み合わせ”が生むシナジー

缶詰の安全を守るには、「真空密封」と「加圧殺菌」をどちらか一方だけでは不十分です。

両者の技術的な相乗効果

真空密封で酸素を排除すれば、好気性菌による腐敗や酸化リスクが減ります。

一方、嫌気性菌は酸素がなくても増殖しますが、高温高圧の加圧殺菌で死滅させることが可能です。

また、真空密封によって缶の内圧が低く保たれるため、加圧殺菌の際の内圧差による缶の変形や膨張を防ぐ効果もあります。

そのため、多くの工場ではこの2つを「二重の保険」として運用し、どちらかの失敗もマーキングで拾えるトレーサビリティ体制を整えています。

進化する現場と残るアナログ文化

AIやIoT技術の進化で、工程管理が随分とデジタル化されてきました。

しかし根本は、温度、時間、密封度といった“基本を守り抜く地道な作業”の堆積です。

今でも“現場の匠”が異常品の「音」「臭い」「外観」でリスクを弾き出す“最後の砦”になっているのも事実です。

自動化・DX時代こそ、ベースとなるアナログ的技能の継承が重要視されています。

この技術がもたらす生産管理と品質保証の革新

真空密封と加圧殺菌の組合せは、単に「爆発を防ぐため」だけではありません。

購買・調達担当や生産管理、品質保証部門にとって、非常に大きなメリットがあります。

標準化によるロス削減・安定供給

温度・圧力・加熱時間などの工程が徹底的に標準化されることで、「変な膨張缶」や「未殺菌の危険品」が大幅に減少します。

つまり不良品流出が激減し、歩留まり向上も実現できます。

ロスが減るため原価低減にも直結するうえ、取引先(バイヤー)や消費者への安定供給がしやすくなります。

上流工程への波及効果

調達の立場では、原料段階から「異物混入」「菌汚染」のリスクが抑えられれば、後工程(密封・加圧殺菌)の負担軽減につながります。

原料サプライヤーへ適正な温度・衛生管理を発注時点で要求できるため、「工場まかせ」から「全工程マネジメント」へと役割が進化しています。

トレーサビリティ・保証力アップによる対外的信頼

いつ、どのロットで、どの温度・圧力プロファイルで殺菌したか、クラウドで一元管理される現場も増えています。

納品後に万が一トラブルが起きても、原因究明が迅速にできるため、バイヤーやエンドユーザーからの信頼性が格段に高まります。

これは海外取引や、HACCP対応の大規模工場ほど強く求められるポイントです。

サプライヤー視点で知っておきたいバイヤーの本音

サプライヤー(缶や原料の供給側)が知るべきなのは、近年のバイヤーは“価格”だけでなく“安全・安心”やトレーサビリティ、緊急時対応力まで重視して発注先を選んでいるという現実です。

真空密封や加圧殺菌の管理記録と解析成功例を自社の付加価値としてバイヤーに提案できれば、長期取引や新規開拓につながるチャンスが広がります。

たとえば、「缶詰工程のIoT化進行状況」や「最終製品の菌数検査データ」などをシステム的にバイヤーと共有できる企業の価値は年々高まっています。

今後の展望と、現場目線の課題

近年はサステナブルパッケージやノンケミカル殺菌、AI検品なども登場し、大企業のみならず中堅・中小メーカーでも技術革新の波が押し寄せています。

しかし、「過度なコストダウン競争」や「人手不足による経験継承の断絶」など、現場目線では課題も山積しています。

現場の安心・安全を守りながら、テクノロジーとアナログ技能のバランスをとる——。

これが製造業の現場が次の時代に向けて解決すべき最大のテーマです。

まとめ:缶詰を未来へ、「安全と挑戦」の両立をめざして

缶詰の爆発を防ぐ真空密封と加圧殺菌の組合せ技術は、単なる「工場の裏側」ではなく、製造・調達から品質保証、顧客との関係構築まで、あらゆる価値の起点となっています。

昭和の現場で培われた地道な技能と、現代のデジタル技術・標準化のシナジーこそが、爆発事故ゼロ、歩留まり向上、ブランド価値の向上につながります。

これから製造業に携わる方、バイヤーを志す方、あるいはサプライヤーとして新たな価値創出をめざす方は、この「両輪」を現場目線で理解し、皆で“爆発しない安心な未来”をつくっていくことが重要です。

そして、現場からの小さな一歩が業界全体の信頼と進化を生み出す——それが、本記事の一番伝えたいメッセージです。

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