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投稿日:2025年7月4日

ベクトル位置センサレス制御でモータ高性能化を図る設計技術

はじめに:モータ制御の進化と“センサレス”技術の台頭

近年、製造業の現場では、省エネルギー化や生産性向上のために駆動系の高度化が求められています。
その中核となるのが、モータの高性能制御です。
従来は回転位置や速度を検出するためにエンコーダやリゾルバなどのセンサが不可欠でしたが、部品コストや信頼性、メンテナンス工数の観点から、センサレス制御技術への移行が急速に進んでいます。

中でも「ベクトル位置センサレス制御」は、センサレス化の実現と同時に、高度なモータ特性をも引き出せる点で注目を集めています。
本記事では、その具体的な設計技術や現場適用ノウハウ、そしてアナログ文化が根強い製造業界における浸透実態と今後の展望を、現場目線で深掘りしていきます。

ベクトル制御とは何か?その基本原理と効果

モータには多様な制御方式がありますが、「ベクトル制御」はインバータを用いた交流モータの駆動方式の一つとして広く使われています。
一般的には、「磁束」と「トルク」をそれぞれ独立して自在に制御することで、直流モータのような素早いトルク応答や精密な速度制御を実現する技術です。

磁束ベクトルとトルクベクトルをクラーク変換とパーク変換という数理モデルを用いて二軸座標に分解し、これを数学的に最適化制御します。
その結果、従来のV/f制御やスカラ制御では得られなかった、レスポンス性・省エネ性能・低速度域トルクの安定化など、多くのメリットがあります。

現場で感じる「ベクトル制御」の有効性

私自身、現場の工場ラインでベクトル制御化を進めた際に、「モータがやたら熱をもたなくなった」「起動時のガツンという突き上げが格段に減った」「複雑な生産工程でも各軸のバラツキが無くなった」という劇的な成果を目の当たりにしました。
消費電力は一気に10%前後下がり、トラブルも激減します。
さらに高精度な速度やトルク管理ができるため、生産性向上や品質安定にも大きく貢献します。

センサレス制御とは?省部品・高信頼化のキーポイント

モータの制御には、本来「回転子の位置検出」が欠かせません。
エンコーダはメカ的な故障リスクやケーブルの取り回しの問題、リゾルバは高コストや制御系の設計難度といったデメリットがあります。
こうした課題をクリアするのが「センサレス制御」です。

制御側(インバータ等)が、モータへの通電電流とその応答で生じる端子電圧波形を電気的にキャッチし、それを専用のアルゴリズムで分析することで、「今、どの位置に回転子がいるか」を推定します。

“アナログ”な現場で感じた、センサレス導入の狙い

実際、昭和からの装置文化が根強い製造現場では「エンコーダ=付き」が無言の標準でした。
しかし、これによるトラブル対応や交換品在庫の膨張、狭い盤内での配線地獄…。
センサレス導入で工場全体のメンテナンス工数が3割は減り、ラインの停止リスクも劇的に小さくなった経験があります。

ベクトル位置センサレス制御の設計技術のポイント

1. モータ特性の事前把握とパラメータ抽出

センサレス制御における最大の肝は「高精度な推定技術」です。
そのためには、対象となるモータの巻線抵抗やインダクタンス、回転損失など物理特性を正確に把握し、制御アルゴリズムに反映させる必要があります。
近年は制御器側が通電パターンで自動同定する機能(いわゆる「自己同定」)を持つインバータも一般的になりつつありますが、高性能化を突き詰める場合、やはり事前のラボ検証や現場特性の微調整が不可欠です。

2. スタートアップ領域のアルゴリズム選定と安定化

起動時(低速・ゼロ速域)では、モータの逆起電力(BEMF)が微少のため位置推定が難しく、誤制御になるケースがあります。
このため、初回起動時のみ別アルゴリズムで粗位置を推定し、速度が乗ってきた段階で高精度な推定系(たとえばカルマンフィルタやMRAS)に「バトンタッチ」するといった多層制御が実装されています。
モータ専門メーカーや大手自動化ベンダーの多くは、実はここで独自のノウハウ・差異化を図っているのです。

3. ノイズ耐性と外乱補償へのこだわり

装置や現場は“理想的な実験室”とは違います。
周囲にはインバータノイズや繰り返し外乱、温度ドリフトなど様々な誤差要素が満ちており、これらをいかにフィルタリング・補正して「信頼性の高い情報」を抜き出すかが設計者の腕の見せどころです。
この点、最近流行りのAI制御や機械学習も導入が始まってきています。

4. 安全設計・フェイルセーフも!

センサレス制御は、万が一アルゴリズムにバグやパラメータずれが生じた場合、位置情報の誤推定がダイレクトに制御ミスに繋がります。
安全設計や二重化設計、異常検知の仕組みを事前に折り込んでおくことが「高信頼化」のポイントです。

製造業の現場目線から見た“センサレス制御”導入の勘所

1. コストダウン(TCO削減)のインパクト

センサ部品・ケーブル類の削減は、装置コストの直接低減だけでなく、可動部が減ることで保守コスト低減やライン停止リスク低減につながります。
導入数年後の「総保有コスト(TCO)」で見ると、まさに“じわじわ効いてくる”経営効果が現れます。

2. サプライチェーン・調達の変革効果

従来バイヤーは、エンコーダ機種の型式管理や多品種在庫で苦労してきたものです。
センサレス制御が一般化すると、インバータ/モータ/ソフトウェアの技術評価が調達部門の新しい“腕の見せどころ”となり、仕様提案やベンダーとの技術的ディスカッション力が求められます。
サプライヤー側も自社製品の「センサレス対応度」や現場調整のしやすさを売り込む実況トークが重要になってきます。

3. 現場オペレータとのリテラシーギャップ解消

昭和的な現場では「センサが付いていないと怖い」「アナログ目視が安心」といった声もしばしば聞かれます。
導入の際は、理論だけでなく「実例に基づいた効果説明」や「現場流の保守点検マニュアルづくり」が大切です。
現場教育やサポート体制も設計の一部と心得て取り組みましょう。

先進事例に学ぶ:センサレス制御の成功パターン

例えば、大手自動車部品メーカーの駆動モジュール組立ラインでは、ベクトル位置センサレス対応のサーボモータに全面更新したことで、装置稼働率が15%向上、突発停止件数が60%減少しました。
実際には「万一のバックアップラインだけセンサ付き機種を残す」といった複線化も併用し、安全性とコスト削減の両立に成功しています。

また、食品工場の搬送装置では、ラインの清掃性重視からケーブルを極力減らすことが求められ、センサレスインバータの採用で盤内設計も大幅に合理化されました。
設計から保守までの全工程で、「部品点数最少=信頼性最大化」という意識改革が進んでいます。

今後の展望:AI・IoT時代のベクトル位置センサレス技術

AIやIoT技術の進化にともない、制御アルゴリズムの自己学習や遠隔状態監視による故障予兆も現実味を帯びてきます。
今後は、「現場の実データから最適パラメータをAIが自動生成」「多拠点のモータ状態をクラウド経由で可視化・制御」など、さらなる効率化や価値創造が加速するでしょう。

また、SMTラインや医薬品製造など、超精密な速度・トルク制御が要求される分野でも、センサレス技術が益々拡大することが予見されます。

まとめ:製造業におけるベクトル位置センサレス制御の“新たなスタンダード”化

もはや「装置=アナログ」「センサ付きこそ安心」という時代は終焉を迎えつつあります。
ベクトル位置センサレス制御は、高性能化&コストダウンの両立を、誰でも実践できる現場の基準へと押し上げました。

調達部門は、ハード・ソフト・サービスを跨いだ判断力を磨き、
設計部門は、最先端技術の本質を理解しながら地に足の着いた現場実装力を高めましょう。
サプライヤーも、単なる部品提供にとどまらず、導入効果を“現場言語”で提案できることが未来を拓く鍵になります。

これからの日本の製造現場は、「アナログからデジタルへ」「ヒトのノウハウからAI支援へ」と、変革を止めてはいけません。
その中で、ベクトル位置センサレス制御は、製造業の品質・生産性・競争力を下支えする最前線の技術であり続けます。

業界を担う皆様も、ぜひ現場の目線でもう一歩先のDX・スマートファクトリー化に挑戦してください。

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