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飲食店がブランド商品を立ち上げるときに大切な「おいしさの言語化」

目次
はじめに──「おいしさ」は感覚だけに頼れない時代へ
飲食店がブランド商品を立ち上げるとき、最大の壁となるのが「おいしさの言語化」です。
一般的に飲食業界は“旨いかどうか”という曖昧な評価基準だけで回ってきた背景があります。
しかし、昭和時代の「女将さんの勘」だけに頼る職人技術では、近年のマーケットニーズやEC展開、OEM化の要求に対応しきれなくなっています。
特にブランド商品の展開や、パッケージ食品の開発の際には、製品のおいしさ・品質・安全性を社内外に伝わる「言葉」と「指標」に落とし込むことが不可欠です。
本記事では、私が製造業で培ってきた方法論や視点を活かし、現場目線かつミクロとマクロ両方の観点から、「おいしさの言語化」に注目して解説します。
飲食店の現場で奮闘している方はもちろん、将来バイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーとしてバイヤーの心を知りたい方にも役立つ内容です。
なぜ「おいしさ」を言語化する必要があるのか
属人的な判断を超えて、再現性を高めるため
多くの飲食店は、ベテランシェフの経験や、現場スタッフのお客様のリアクションをもとに「おいしさ」の基準を決めてきました。
しかし、ブランド化や商品展開を検討する場合、店舗ごとの属人的な判断だけでは再現性や品質の維持が難しくなります。
具体的な「おいしさの基準」がないと、工場で製造した際に「店の味と違う」というクレームが発生しやすくなります。
外部の協力会社や、消費者と価値観を共有するため
OEMメーカーやパッケージデザイナー、流通バイヤーなど、ブランド商品の立ち上げでは多様な関係者と連携する必要があります。
「おいしさが他社と何が違うのか」「強みは何か」が明確になっていなければ、伝言ゲームの中で商品コンセプトがどんどんズレていきます。
商品開発やプロモーション戦略の柱となるため
食のブランド力は、しばしば「体験」や「記憶」という感覚的な言葉で片付けられがちです。
ですが、語彙力を磨き「おいしさ」を言語化すると、機能面、情緒面、ストーリー性や独自性を伝達できる「設計図」になります。
これは広告や店頭販促だけでなく、社内教育や原材料管理、品質チェック体制にも応用が利くのです。
「おいしさ」はどうやって言語化するべきか
五感で分解する──「味」「香り」「食感」「見た目」「音」
まず「おいしさ」を構成する5つの要素を洗い出します。
味覚(甘味・塩味・酸味・苦味・旨味)、嗅覚(香り)、視覚(色合い、盛り付け)、触覚(舌触り、弾力性)、聴覚(咀嚼音、パリッとした音)のそれぞれを言葉に落とし込んでいきます。
例えば、唐揚げなら
・外皮は「カリっとした音」
・中は「ジューシー」「香ばしさが広がる」
・「肉の旨味とニンニクの風味が絶妙」
と、構造的に要素分解します。
数値化と視覚化──官能評価+物理的指標
プロの現場では、官能評価(テイスティングシート)と理化学的測定を併用して「数値化」を意識します。
例えば「サクサク感」を客観化するために、「歯ごたえ」「水分活性」「表面の油分残留率」といった物理的指標を用います。
熟成肉なら「ドリップ率」「脂肪交雑」「肉色」、出汁なら「グルタミン酸濃度」といった科学的な裏付けができます。
これは今後AI技術やDX活用の時代に、さらに大きな武器になります。
ストーリーと体験価値で独自性を言葉に落とし込む
モノだけでなく「コト」=体験やストーリーもおいしさの一部です。
たとえば「三代続いた秘伝のタレ」「一日限定三食の特別感」「農家直送・朝採れ野菜の新鮮さ」など、ストーリーテリングの要素を加えることで、食そのものではなく食の背景や感動体験も合わせて「言語化」します。
このようにすると、顧客の記憶に残る“語れる商品”になりやすいです。
現場でどう実践する?「おいしさの言語化」の現場術
現場の声とデータをセットで集めよ
①スタッフによるテイスティング記録
②お客様アンケートやSNSの食レポ
③製造現場の物理値やレシピ管理情報
これらを一元的に収集・編集し、「自社の独自語彙リスト」を作成します。
たとえば「ホロホロ感」と「しっとり感」がどう違うのか、あるいは顧客は“あっさり”と“さっぱり”をどう使い分けているのか。
この細かな感覚まで深掘りし、独自ワードで言語化を進める=“自社だけの辞書”をつくるイメージです。
PDCAで精度をアップ! 1回で“完成”を目指さない
言語化は「書いたら終わり」ではありません。
何度もPDCAサイクルを回すことで、おいしさの本質や、変化する顧客感覚に追従することができます。
試食イベント、ターゲット層の違うモニタリング調査、時には工場のデータにさかのぼっての改善も必要です。
現場の「肌感覚」と「数字」をうまく統合し続けることで、強くてブレないブランドコンセプトが育ちます。
意思決定のスピード・説得力が劇的に変わる
おいしさの基準が言語化・数値化できていれば、社外パートナーやメーカー、バイヤーとの打ち合わせでも「これがウチの旨さです」と論理的かつ短時間で説明できるようになります。
バイヤー側から見れば、「味のイメージが掴めない」「現場シェフが居なければ説明できない」商品は、取り扱いリスクが高く、敬遠されがちです。
逆に、明確な価値基準を共有できれば、「御社はなぜ選ばれているのか」「他商品とどう違うのか」が明確になり、導入障壁がグッと下がります。
「昭和的勘頼み」からの脱却──アナログ現場でも使える着眼点
熟練者の経験則を言語化して“見える化”する
昭和の時代は、ベテランが「見ればわかる」「味をみればわかる」で現場を支配してきました。
しかし、それらの高度な経験知を「属人ノウハウ」として死蔵せず、「共通言語」に落とし込むことが、今後の成長には欠かせません。
たとえば老舗の「焼き加減」は、表面の色や感触だけでなく、「時間」「温度」「何度返すか」「焼き場の湿度」など細かい条件が複合的に関与しています。
これをベテランスタッフが後進に教える際、「コツ」や「勘所」をレシピシートや動画に残すことで、ノウハウ伝承と人材育成の土台になります。
デジタルツールを組み合わせて“アナログ感覚”を補完する
例えば現場のタブレットやスマホで、作業過程のちょっとした気づき・コツを即座に記録できる体制をつくることで、経験知の言語化・蓄積が促進されます。
また、温度や湿度、画像データなどをIoTやセンシング技術で自動記録するだけでなく、それを「自分なりの言葉」でサッと補足できると、技術伝承のスピードが劇的に高まります。
こうした小さな積み重ねこそが、この業界に根強い“アナログ文化”と、これからの“デジタル化”の架け橋となります。
サプライヤー・バイヤーは「おいしさの言語化」で新たな価値を掴む
飲食店発ブランド商品は、「ストーリー性」や「現場の手作り感」と引き換えに、「再現性」や「品質の安定性」を損ないやすい特徴があります。
しかし、言語化・数値化・ストーリーテリングという三方向からの「おいしさ可視化」を徹底すれば、小規模ブランドでも大手流通と対等に戦える武器となります。
バイヤーやサプライヤーの立場からしても、「店の味」をスペックやビジュアルで理解できるか否かで、商談の深さや速さが大きく変わります。
今後、メーカー連携や異業種コラボ、DX・AI導入が進むにつれ、「おいしさをどう表現し・共有するか?」が競争力のコアになっていくはずです。
おわりに──「おいしさの言語化」は製造業の未来価値
飲食店のブランド商品化において、「おいしさの言語化」は単なる販促ツールではありません。
現場力の継承、他社との差別化、新しい顧客体験の創造、外部パートナーとのコミュニケーションの設計図という、本質的な競争力となりえます。
逆にここを曖昧にしたまま事業を拡大しても、「結局あそこの再現はできなかった」「現場シェフじゃないと説明できない」という壁に必ずぶつかります。
最も強いブランドは、商品・人・言葉が一体化し、「おいしさ」の本質と進化を惜しげなく語れる企業です。
今こそ現場の知恵を言葉にし、誰もが引き継ぎ・誰もが磨ける、新しい製造業の地平線を一緒に切り拓いていきましょう。
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