投稿日:2025年12月16日

製品の置き場所を誰も覚えていない倉庫が陥る悪循環

はじめに – 製品の置き場所問題は製造業の“あるある”

製造業の現場に身を置いて20年以上、全国の工場を見てきた立場から断言できますが、「製品や部材、治具の置き場所が誰も覚えていない倉庫」――これは決して一部だけの特殊な話ではありません。

日本の多くの製造業、とくに昭和から続くアナログな体制の職場では、ベテラン作業員の“記憶”や“勘”だけを頼りにした管理が、今も根強く残っています。

「誰々さんなら知ってるかも」「以前はあそこに置いたはずなんだけど…」という会話。
棚の奥からほこりまみれで出てくる部品箱。
繰り返される捜索と問い合わせ。

これらの現象が、非効率な作業や納期遅延、コスト増大、さらには現場のモチベーション低下といった様々な悪循環を引き起こしています。

<倉庫の“カオス化”はなぜ起こるのか?>
今回は、こうした「置き場所を誰も覚えていない状態」がなぜ起きるのか、その結果どのような悪循環がもたらされるのか。
そして、どうすればこの負のスパイラルから脱却できるのか。

現場目線で徹底解説し、最新のテクノロジー導入だけではない本質的な打開策を考えます。

日本の製造業が陥りやすい倉庫カオスの“構造的要因”

属人化と非体系的管理 ― 昭和的“マンパワー管理”の功罪

高度成長期から、現場の“できるベテラン”が仕切るマンパワー型の現場が主流でした。
「小骨のように細かい部品も、この人がいれば見つかる」という熟練者への依存。
ルール化やシステム導入にはコストも時間もかかるため、どうしても曖昧な管理に寄りがちでした。

この属人化は、変化への対応力・即戦力というメリットはありましたが、一方で、人がいなくなると「誰も分からない」「記録がない」状態になりやすいという致命的な問題を抱えていました。

図面や帳簿・台帳の限界

紙の図面や手書きの帳簿、ホワイトボードのメモといった“アナログ情報管理”が主流でした。
しかし最新の動静が反映されるまでタイムラグがあり、「今日中にどこかの誰かが移動した」「急遽、別部署の棚に仮置きされた」などの情報はほとんど伝達されません。

サプライヤーとのやり取りもFAXや電話、口頭での確認。
情報が点在・分散し、いざ必要な時には書類をめくっても「記録なし」。
こうして“現場だけが知っている不文律”が増加し、それが属人化・曖昧化をさらに加速させます。

スペースと運用ルールの“無策”

限られた倉庫スペースに、多品種少量化が進んで品目が激増。
『とりあえず空いてる場所に置く』『作業の流れでとっさに動かした』――こういった使い方が常態化します。
一度混乱状況になると、整理・整頓にも膨大な労力がかかり、「緊急対応が優先」「日々の出荷対応に追われルールの再構築が後回し」という循環に陥ります。

倉庫カオス化がもたらす“悪循環”

無駄な「探索コスト」が業務負担を直撃

倉庫内で“捜しもの”にかかる工数は膨大です。
作業員一人当たり、1日あたり10分の探索があれば1ヶ月(20日)で約3.3時間。
100人規模の工場なら合計で月330時間がムダな探索に消えます。
物によっては数時間、複数人での捜索になることもしばしばです。

それだけではありません。
納期が差し迫った現場で「部品が見つからない!」となれば、調達購買担当者へ追加発注依頼。
結果として『二重在庫』『過剰発注』が発生し在庫コストが膨張します。

納期遅延・品質リスクの増大

必要な部品・資材を把握できないまま生産スケジュールが進行した場合、直前になって不足や紛失が発覚し、納期遵守に大きなマイナスとなります。
特急の手配や代替対応でバイヤー・サプライヤー間の調整も難航しやすく、場合によっては品質リスクやトレーサビリティの不備から重大なクレーム・事故へと発展しかねません。

特にグローバル化が進んだ現代では、「どこに、何が、何個、いつ、どこからどうやって手配されているのか」という可視化がない会社はバイヤー評価でも大きく後れを取ります。

モチベーション・士気の低下と離職率悪化

頻繁な「探し物」や「責任のなすり合い」、「一部のベテラン依存」は、若手社員や外部パートナーのやる気減退に直結します。
「また今日も見つからない…」「何十年も同じことで苦労している」と感じれば、キャリア志向の若手ほど転職や離職のリスクが高まるでしょう。

現場の管理職・工場長にとっては、日々の尋ね回りやトラブル対応に追われ、本来するべき“現場改善”に力を割けなくなってしまうのです。

打開策のポイント~倉庫“見える化”と現場主導のDX

基礎の“5S”を冷静に再点検する

改めて強調したいのは、「整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)」の5S。
今さら、と感じるかもしれませんが、「本質的な5S」を貫くことは激変する時代でも有効です。

たとえば「整理」は“保管してよい/いけない”のルール明確化と廃棄判断。
「整頓」は“誰が見ても分かる”を軸に、置き場所の地図化・色分け・標識などを徹底すること。
これだけでも迷子になる部品や工具は激減します。

安価な“IT”から始める「見える化」

大規模な自動化は難しくとも、今やスマートフォンやタブレットを活用した“物流棚管理アプリ”“QRコード管理”など、低コストなクラウドITソリューションが豊富に普及しています。

現場リーダー主導で「どこに、何が、いくつ、いつ入出庫したか」の記録を、みんながリアルタイムで閲覧できる仕組みを導入します。
現場の使いやすさを最優先に、日本語フリーワード検索なども付けて業務フローにピッタリ合う仕組みを作ることが大切です。

現場×調達購買×サプライヤーの“巻き込み”

倉庫管理は現場だけの課題ではありません。
調達購買部門・サプライヤー担当者の協力を得て、「納品した資材はすぐ記録、仮置きした時の報告ルール」など横断的なルール作りが求められます。
入出庫の責任を数字で見える化し、属人的な知識にせず、全員が関われるマネジメントにしましょう。

今は、カメラ画像のAI解析で“棚の状況”を自動監視するサービスや、スマートグラスで“どこに何があるか”案内できるシステムも登場しています。
部分的な先端技術導入も十分現場改革の強力な武器になるのです。

バイヤー・サプライヤーの視点:信頼される“管理力”が新たな競争力

バイヤー(調達・購買担当者)にとって、取引先企業の「現場管理力」は今や大きな評価軸です。

「探し物で日々右往左往しているような工場」に、大切な部品や製品の安定供給を期待することは難しいもの。
反対に、”探す手間ゼロ”で“必要なものが、必要なタイミングですぐに出せる現場”は圧倒的な信頼を得られます。

これからのバイヤーを目指す若手や、対バイヤー営業を展開するサプライヤーも、「資材や完成品のトレーサビリティ」「現場の見える化」「万が一にも混乱しない仕組みづくり」を自社の武器とするべきです。

まとめ:アナログ体質脱却の小さな一歩が現場を変える

倉庫のカオス化問題は、単なる“片付け”や“整理整頓”の課題にとどまりません。

属人化・情報のアナログ管理・スペース活用の無計画…。
こうした積年の“昭和的発想”は今こそ見直す時期に来ています。

見える化やIT活用、小さなルール再構築から現場改善を着実に進めていけば、「置き場所を誰も覚えていない」という悪循環は必ず断ち切れます。

現場で働く皆さん、サプライヤーの立ち位置でバイヤー視点を知りたい方、そして新たにバイヤーを目指す方――
「倉庫問題をどう突破するか」の取り組みこそが、これからの日本の製造業再生、現場競争力の強化の第一歩となるのです。

変革の扉は、今、あなたの現場から開きましょう。

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