暗黙知の見える化・形式知化と技術・技能伝承の実践

はじめに

製造業の現場では、長年培われた技術や技能が欠かせません。
しかし、これらの多くは経験豊富な熟練者の暗黙知として存在し、言語化されていないことが多いです。
そのため、後進への技術・技能の伝承が難しい現状が問題視されています。
この記事では、暗黙知を見える化・形式知化する方法とその実践について考察します。

暗黙知と形式知の理解

製造業の技術や技能は、大きく分けて暗黙知と形式知に分類されます。

暗黙知とは？

暗黙知とは、言語化されていない知識やノウハウのことです。
職人が長年の経験で培った直感や、現場特有の細かな技術がこれにあたります。
このような知識は、本人の感覚や経験に基づくため、一般的に伝承が難しいとされています。

形式知とは？

形式知は、マニュアルや図面、データとして記録された知識のことを指します。
形式知は他者に伝えやすく、組織内で共有したり、新入社員教育に活用したりすることが可能です。
製造業では、この形式知化が技術継承のカギとなります。

暗黙知を見える化・形式知化する方法

暗黙知を見える化し、形式知として共有するためには、いくつかの手法があります。

ヒアリングと観察

経験豊富な熟練者に対するヒアリングと観察は、暗黙知を見える化する基本的な方法です。
熟練者がどのように作業を行っているかを詳細に観察し、その背景や考え方をヒアリングすることで、言語化できていないノウハウを掘り起こしていきます。

ワークショップとディスカッション

ワークショップやディスカッションを通じて、暗黙知を引き出すことも有効です。
グループワークでは、参加者が互いの知識を共有し、意見交換を行うことで、新たな視点を発見できます。
これにより、個々の暗黙知が形式知化される可能性が高まります。

映像記録とアーカイブ

熟練者の作業を映像として記録し、アーカイブ化することも一つの手法です。
映像は具体的な動作を視覚的に残すことができ、後進がその動きを再現する手助けになります。
また、振り返りや分析にも活用できるため、形式知化における効果は高いです。

技術・技能伝承の実践事例

実際の現場での技術・技能伝承の具体的な事例をいくつか紹介します。

自動車製造業における技能伝承

自動車製造業では、熟練者の溶接技術や組み立て技能が重要視されています。
ある工場では、熟練者の作業をカメラで撮影し、その映像を新人教育に活用しています。
さらに、映像を分析してマニュアル化し、新入社員や若手に配布することで、技術の伝承を促進しています。

電機製品の製造分野での取組み

電機製品の製造においては、特に精密機器の組み立て技術が求められます。
ある企業では、熟練技術者が行う作業工程を3Dモデリングソフトで再現し、そのデータを基に教育用シミュレーションを作成しました。
これにより、知識を形式知化しつつ、実践的なトレーニングを提供することが可能となっています。

食品製造における伝承活動

食品製造業では、製品の品質を左右する微妙な調理工程が暗黙知となっています。
ある食品会社では、ベテラン社員が持つ技術を「味」と「におい」のデータベースとして形式知化しました。
このデータベースを基にトレーニングを行い、新人が同等の成果を出せるようにしています。

結論

技術や技能の伝承は製造業の命運を握る重要な課題です。
暗黙知を見える化し、形式知化することにより、熟練者から新たな世代へと確実に技術を受け継ぐことができるでしょう。
各企業、工場ごとに異なる環境やニーズに合った方法を取り入れ、より良い形で技術や技能の伝承を実現していくことが求められます。