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共同サプライチェーンKPIで物流ムダを抑え原価を下げる可視化

目次
はじめに:なぜ今、「共同サプライチェーンKPI」なのか
近年、製造業の現場は目まぐるしい変化に直面しています。
グローバルな競争激化、物流費の高騰、そして人手不足——これらの課題はどの現場担当者や工場長にとっても他人事ではありません。
特に日本の製造業は、いまだ昭和時代のアナログな商習慣や組織文化が色濃く残っている業界でもあります。
その中で、物流コストのムダを徹底的に抑え、原価低減を目指す「共同サプライチェーンKPIの可視化」が注目を集めているのをご存じでしょうか。
単なる流行語ではなく、現場の痛み・実態を捉えきった抜本的な変革へのカギです。
本記事では、過去20年以上にわたり大手メーカーの調達・生産管理・工場運営・品質保証・IT戦略まで幅広く経験してきた筆者の現場目線で、共同サプライチェーンKPIの仕組みや実践ポイント、そして現代の製造業に強く根付く業界構造も交えて徹底解説します。
共同サプライチェーンKPIとは何か?
KPIが「自社だけのもの」だった時代の終焉
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、従来「社内」や「部門単位」での業績管理ツールでした。
しかし、今やグローバル調達・マルチサプライヤー・多層化サプライチェーンの時代、バイヤーにとってもサプライヤーにとっても「自社内KPI」だけでは問題を解決できません。
輸送のムダや在庫過多、納期遅延がサプライチェーンのどの部分で生じているのか。
従来型の部門最適では可視化しきれず、属人的な調整や無理なリードタイム短縮が常態化してしまいます。
共同KPIによる「全体最適」へのシフト
共同サプライチェーンKPIとは、自社と主要サプライヤー、あるいは協力会社、ロジスティクス事業者まで含めた「サプライチェーン全体」をひとつの組織と見なし、共通の指標に基づいたパフォーマンス管理を行うアプローチです。
たとえば、次のような指標が共同KPIの代表例です。
- 納期遵守率(OTD:On Time Delivery)
- 物流コスト率(売上または原価に占める物流コスト比)
- 輸送効率(積載率、マルチピック率、配送回数など)
- 在庫回転率
- 全体リードタイム
これらのKPIを客観的データで「サプライチェーン全体」で可視化することで、局所的な責任の押し付け合いや、サイロ化した改善から抜け出しやすくなります。
なぜ共同サプライチェーンKPIが物流ムダの削減と原価低減に効くのか
物流の「見えないムダ」はどこで発生しているか
製造業では、物流のムダ=「余剰在庫」「過剰輸送」「アイドリングコスト」に集約されます。
具体的には:
- 必要以上の安全在庫やバッファー在庫
- ロット最適化のための部分的な多頻度小口輸送
- 共同便活用の遅れや、空車率の高さ
- 計画−現場オペレーションの連動不全
これらは、商社・卸・メーカー・一次サプライヤー・調達部門・生産管理部門・配送会社など、複数にまたがる「分断されたKPI」の隙間で膨れ上がりがちです。
サプライチェーン全体の「数値化」で本当の課題が浮かび上がる
共同サプライチェーンKPIにより、物流ムダの根本原因を「見える化」できるメリットは絶大です。
たとえば、「個別最適」では、あるサプライヤーはコスト圧力から出荷ロットを減らそうとします。
一方、物流会社は空車回避と効率化のためにまとめ出荷を求めがち。
バイヤー側では欠品リスクも恐れてバッファー在庫を持ちがちです。
ここで、KPI(たとえば全体物流コスト・輸送積載率・最終納期遵守率)を「チェーン全体で可視化」し、どこでムダ・偏りが生じているのか客観的に見られるようにする。
定量的な見える化がサプライチェーン全体の議論の土台となり、「誰かが無理して帳尻を合わせる」の悪循環から解放されます。
具体的な成果:原価低減の好循環サイクル
共同KPIを継続管理し、「現場起点のPDCA」を回すことにより、
- 根本的な物流ムダ(回送・空車・過剰・欠品発生)排除
- 在庫最適化による金利・倉庫コスト削減
- 全体リードタイム短縮と納期遅延・停止の抑止
- 「原価低減余地」の社外・社内両面での可視化
といった成果が生まれます。
昭和型アナログ業界で根付く障壁——どう乗り越えるか
アナログな温情主義・暗黙知の壁
日本の製造業は現在も、「現場任せ」「数値化より現場感覚」「社内調和重視」「付き合い最重視」の文化が根強くあります。
正直なところ、共同KPI導入の議論はトップダウンで一気に進むことも少なく、各現場担当者の「アナログな人間力」や「現場勘」に依存しがちです。
KPIデータを公平かつオープンに公開することへの抵抗感。
「数字化=現場のしわ寄せ」「客先優先=サプライヤー側の負担増」といった思い込み。
IT導入・IoT化へのアレルギーなども障壁となります。
まずは”小さな実績”を積み上げよ
完全なサプライチェーン全体KPI化には時間を要します。
最初のステップとして、「特定品目」「一部部門」「実験的なプロジェクト」でのKPI小規模導入をおすすめします。
バイヤーと主要サプライヤーの少人数チームで、以下のようなPDCAを実施してみましょう。
- アナログ現場日報や帳票レベルでもいいので、現状KPIをFactで数値化
- 数字をもとに定例ミーティングで率直に課題議論(犯人捜しをしない)
- 「どこに、どんな物流ムダが多いか?」をストーリーで把握
- KPI改善に向けた現場実装(納期調整・まとめ便・工程間緩衝縮小など)
- 短期的成果をチーム内で讃え合い、水平展開にトライ
現場重視の文化だからこそ、「現実に即した数字」「小さな勝ち体験」が最も強い推進力となります。
バイヤーとサプライヤー、それぞれの視点でのメリットと変化
バイヤー(調達側)のメリットと意識変革
- サプライヤー起因の納期・品質遅延の”予兆”をKPIで把握しやすくなる
- 在庫や物流対応コストのムダが数値で明確化され、根拠ある原価低減につながる
- 「コストダウン一辺倒」ではなく、対話を通じた”Win-Win改善”の交渉がしやすい
- 現場業務から経営的視点への成長機会となる
サプライヤー(供給側)のメリットと姿勢変化
- 「無理な納期」「神経質な在庫圧縮」などの一方的な注文から脱却し、全体最適への競争力づくりが可能
- KPI根拠ある改善提案や協働プロジェクトへの参画で顧客との信頼強化につながる
- 納入遅延リスクや工程停滞の要因を、客観的に説明・提案できる材料となる
現場でどう実践するか:導入プロセスとポイント
1. KPI項目の設定とゴールの明確化
最初はシンプルに、「納期遵守率」「在庫回転率」「物流コスト率」など現場でデータが拾えるものだけでOKです。
会社や部門単位ではなく、「サプライチェーン単位」で設定することを意識してください。
2. データ収集と小さな可視化からスタート
最先端のIoT・ERP連携でなくても構いません。
Excel集計、伝票や配送レポートからの手計算のような、小規模で現場に負担がかからない運用から始めてください。
3. 率直な議論と現場主導の改善サイクル
「KPIは犯人捜しのツールではなく、共通言語」であることを確認し合いましょう。
数字を根拠に、現場の現実を遠慮なく可視化し、合意のもと改善案を試行する。
トライアンドエラーでの小さな成功事例を重ねることで、現場の納得感が増してきます。
4. 成果の共有と全体展開
KPIによる「実績」や「成果」を、現場だけでなく、マネジメント層・他部門・他社にも公開し、水平展開に活用してください。
SNSや社内報、共同会議での事例発表など、情報共有の場を意図的につくると効果的です。
まとめ:共同サプライチェーンKPIは物流ムダ撲滅・原価低減の切り札
製造業の世界は、昭和のアナログ価値観と令和のデジタル革命がせめぎ合う複雑な時代にあります。
ですが、物流ムダの可視化と原価低減を両立するために、サプライヤーと共同でKPIを運用するというアプローチは、普遍的で効果の高いものです。
最初は「ムリ」「面倒」「なぜ自分たちがそこまでする?」という忌避感が現場を包むかもしれません。
しかし、実績をともなった「小さな成功体験」を積み重ねれば、確実に組織を変え、業界全体の新しいスタンダードとなる可能性を秘めています。
読者のみなさまが、現場の一員として、あるいはバイヤーを志す方として、またはサプライヤーとして、物流ムダと原価課題に真摯に向き合い、実践へ踏み出されることに心より期待します。
「共同KPI」の力で、現場の未来をともにつくりましょう。
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