投稿日:2025年10月2日

外部からのサイバー攻撃に脆弱な状態が明らかになる課題

はじめに:製造業に迫るサイバー攻撃の現実

近年、製造業が外部からのサイバー攻撃に対して脆弱であることが、国内外問わず大きな課題として顕在化しています。
デジタル化やIoTの導入が進む一方で、昭和時代から続くアナログな現場文化や、レガシーシステムの存在が攻撃対象となりやすい温床を生み出しています。
この記事では、製造業の現場で培った知見をもとに、サイバー攻撃の実態と、その脆弱性が顕在化する背景や解決策について、バイヤーや現場担当者目線で深堀りします。

見過ごされてきた製造現場のサイバー脆弱性

なぜ今、製造業がターゲットになるのか

製造業は、従来から「止められないライン」「守らねばならない生産計画」を最優先してきたため、生産現場のシステムや設備が想定外の外部接続に対して極めて脆弱なまま運用されていることが多いです。
昨今のサイバー攻撃は、製品の図面流出や生産工程の停止、さらには取引先企業への二次攻撃など、単なる情報漏えいにとどまらない深刻な被害をもたらしています。

昭和のアナログ文化が生む落とし穴

多くの工場では、生産ラインの自動化や設備の更新が段階的に進められてきましたが、一方で「手堅い」「顔の見える取引」を重視する昭和的な文化も強く残っています。
たとえば、機密データを紙で管理したり、USBメモリによるデータ移送が標準的な現場もいまだに多く存在します。
これらの習慣は「便利」「慣例」とされつつも、サイバー攻撃の入口となり得る重大なリスクを孕んでいます。

アナログ機器のレガシー化とセキュリティのジレンマ

工場の設備の多くは、数十年単位で稼働することを前提としたレガシー機器です。
ネットワークへの接続を想定していない設備は、最新のセキュリティ対策が施せず、大規模なシステム更改は生産効率やコスト負担の面で現実的でないことも多いです。
この「古いまま長く使う」という産業界の常識こそが、攻撃者にとっては絶好の標的となっています。

現場目線で語る、脆弱性が明らかになる瞬間

ある日のサイバーインシデント——現場の混乱

実際に私が工場長として経験した事例を紹介します。
ある日、生産管理システムの一部で不審な挙動が発生し、ラインが一時ストップしました。
原因を調査すると、取引先との間で用いられていたファイル転送システムの脆弱性を突かれ、不正アクセスが行われていたことが判明しました。
普段からシステムの堅牢性に注意を払っていたつもりでも、人のちょっとした油断や「いつものやり方」への固執が大きなリスクにつながることを身をもって痛感しました。

バイヤー・サプライヤー間の信頼関係に潜むギャップ

バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場から見れば、「情報化対応の進んだ大手メーカーなら安心」と考えがちです。
しかし、実態は現場ごとのITリテラシー・セキュリティ意識に大きなムラがあります。
さらに、サプライチェーンの一部で脆弱性が見つかると、連鎖的に他社にも影響が及びます。
この「どこまでが自社の責任か」という視点が曖昧になりやすいのも、昭和から続く日本的取引慣行ゆえの課題です。

なぜ脆弱なまま放置されるのか——業界構造の壁

製造業特有のリソース分配と意思決定遅延

工場経営者の多くは、「まずは現場を止めないこと」に最大の意識が割かれます。
サイバー対策は投資額の割に“見えにくい効果”が多く、現場から「仕事が増えるだけ」「面倒な制約」と敬遠されがちです。
さらに、多層的な下請け構造や系列会社文化の中でセキュリティポリシーが十分に落とし込まれないケースも目立ちます。
この現状は、業界全体で抜本的な変化を求められている典型例です。

「コストセンター=後回し」のジレンマ

製造設備投資やプロセスの自動化は生産性向上に直結しますが、情報システムやサイバーセキュリティ強化には、どうしても「コストセンター」というイメージがつきまといます。
これによって、競争力強化策として理解されにくく、現場の合意形成も遅れがちです。
しかし、サイバー攻撃の被害額・ブランド毀損リスクを考えれば、「投資せざるを得ない」時代に突入していると言えます。

ラテラルシンキングで考える、これからの戦略

単なる保護策から“知的生産性”への転換

サイバーセキュリティは「守り」だけでなく、「データやノウハウのシェアに安心感をもたらすインフラ」として捉え直すべきです。
たとえば、IoT化による生産データの分析やAI活用も、セキュリティ基盤が盤石でないと信用されません。
安心してデータを活用するには、日常業務の中に“セキュリティを組み込む”意識改革が不可欠です。
これはバイヤー・サプライヤー双方にとって、これまでの「性善説」から「性悪説」的な意識転換を促す大きなチャレンジです。

現場主導型のセキュリティ啓発——“工場長発”が突破口に

トップダウンでのルール設定だけでは現場には浸透しません。
現場リーダーや工場長自らが「セキュリティは現場の信頼性向上策、品質の一部」としてメッセージを発信することが有効です。
たとえば、“ヒューマンエラー防止”と“サイバー事故防止”の教育をセットにするなど、既存の品質管理手法と連携させることで、現場の納得度が高まります。

バイヤー・サプライヤーの意識共有が差別化に

昨今は「セキュリティ対応がしっかりしているサプライヤーを選ぶ」という動きが加速しています。
バイヤー目線でみれば、納品物だけでなく「情報の取り扱い方」「サイバー攻撃発生時の初動体制」まで評価対象になっていきます。
サプライヤー側も「自社はこういうリスク対策を講じている」と具体的にアピールできれば、商談の差別化につながります。

具体的な対応策と今後の展望

対策の第一歩:現状把握から始める

まずは、自社の工場・サプライチェーンに“どんな脆弱ポイントが存在するか”を棚卸しすることが出発点です。
レガシー機器のネットワーク経路、USBメモリや紙運用、サプライヤーとのやりとりのフローなど、日頃当たり前となっているオペレーションの全てが見直しの対象となります。

現場起点の“プロセスごとの対策”が有効

たとえば、USBを使わざるを得ない現場には、“使用ログの自動取得”“定期的なウイルススキャン”を義務付ける運用へ移行します。
また、外部とのファイル交換には信頼性の高い専用サービスや暗号化を標準化し、「人のルール」頼みから「仕組みの強化」へ発想転換を図ります。

サイバーレジリエンス=継続的改善活動

単発の対策導入ではなく、品質管理のPDCAサイクルのように「定期的なリスク評価」や「インシデント発生時の訓練」をセットで運用します。
これは強固なサイバーレジリエンス(サイバー上でのしなやかな復元力)構築に不可欠です。

産業全体での連携・文化醸成が鍵

個社単位の努力だけでは限界があります。
協力会社や業界団体との情報共有、相互監査制度の強化、グローバル準拠のセキュリティ認証取得など、産業全体での取り組みがより重要となります。

おわりに——“変化を恐れない”ことが未来を切り拓く

製造業におけるサイバー攻撃の脆弱性問題は、旧態依然とした業界構造、歴史的な働き方、現場の文化そのものと密接につながっています。
これらを克服し、新たな競争力を得るためには、目の前の効率やコストにとらわれないラテラルシンキング(水平思考)が求められます。
現場の知恵と経験を活かし、“自分たちの現場を、自分たちで守る”意識を持ち、これからも日々進化するサイバー脅威に立ち向かいましょう。
それがバイヤーにもサプライヤーにも、そしてものづくり全体の未来にも明るい道を開く鍵となります。

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