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検収合格後の隠れ不良発覚を巡る補償範囲とクレーム対応の実務

目次
はじめに
製造業の現場では、品質の維持と向上こそが競争力の源泉であり、最終製品の完成度が会社の信頼を左右します。
しかし、どれだけ厳密な品質管理を行っていても、検収合格後、すなわち製品がお客様先へ納入された後に、「隠れ不良」が発覚するケースがあります。
このような事態が発生した際、調達・購買担当者やサプライヤーの双方はどのように補償やクレームに対応すべきなのでしょうか。
本記事では、20年以上の現場経験と管理職の視点から、補償範囲の考え方や実際のクレーム対応まで、現場目線で具体的に解説します。
検収合格とは何か、なぜ隠れ不良が発覚するのか
検収合格の意義と現場実態
検収とは、納品された部品や製品が注文内容や仕様書どおりであるか、品質が基準を満たしているかを確認し、正式に受領する手続きです。
検収合格となれば、名目上は「納品物に問題なし」と判断され、買い手(バイヤー)は代金を支払い、売り手(サプライヤー)は納入義務を果たしたことになります。
ところが現実には、目視検査やサンプル検査には限界があります。
生産現場では、人手や時間、コストとのバランスを見て検査項目や範囲が決まっているため、「検収合格=100%の不良発見」ではありません。
また、工場内では問題が起きなくても、顧客の使用環境で初めて症状が現れる“隠れた不良”も少なくありません。
隠れ不良とは?
隠れ不良とは、納品直後は発見できず、使用開始後や一定期間経過後に顕在化する不具合です。
例えば、部品内部の微細なクラック(ひび割れ)、材料特有の経時変化による性能劣化、設計や工程の見落としによる潜在的な強度不足などがあります。
これらは検収時にすべてを見抜くことが困難であり、バイヤー・サプライヤー双方にとって頭の痛い問題です。
昭和から続く「検収合格=免責」の呪縛
製造業界では、長く「検収合格=サプライヤーの責任は終了」という商習慣があります。
昭和から続くこの考え方は、メーカー側(バイヤー)もサプライヤーも“表向きの安心感”の下で商売をしてきました。
しかし、時代が進むにつれ、グローバル化やサプライチェーンの複雑化、製品ライフサイクルの長期化などを背景に、本当の顧客満足やブランド価値向上のためには、「検収合格=終わり」では済まない実務課題へと変化しています。
なぜ「免責」では済まされないのか
実際、多くの取引基本契約書(基本取引契約書、品質保証協定書等)には、検収合格後でも「隠れ不良」や「設計・製造ミス」などに起因する重大瑕疵が発覚した場合は、サプライヤー側に補償責任がある旨が明記されています。
また、自動車業界や電気機器業界のように、製品のリコール問題や安全・環境規制の強化を受け、製造物責任(PL)法の視点でも検収後の対応を求められるケースが増加しています。
隠れ不良発覚時の補償範囲をどう決めるか
契約書・協定書の確認が原則
まず最初に重要なのは、双方の契約書や品質保証協定の内容をしっかり確認することです。
多くの場合、「期間の定め(例えば1年保証など)」、「対象となる不良の範囲」、「対応の方法(再納入・補修・金銭補償など)」が定められています。
特に明記されていない場合でも、民法上の“瑕疵担保責任”や商慣習、過去の取引事例などが根拠となります。
実務的には「合理的な保証期間内」かつ「買い手の通常使用中」に発覚した不良は、サプライヤー側の責任になるケースが多いです。
具体的補償範囲の考え方
補償範囲は、単純な製品代金の返金・交換だけでなく、状況に応じて多岐にわたります。
- 代替品の無償提供
- 不良品の回収・廃棄費用の負担
- 現地での修理や検査費用
- スペアパーツ・交換作業の人件費
- 取り付け済み設備の場合は、復旧・再稼働にかかる諸費用
場合によっては、製造ラインの停止による逸失利益や二次的な損害(例: クレーム処理、納期遅延のペナルティなど)が請求されることもあります。
ただし、この点は故意・重過失がない限り、一般的には契約上免責とされていたり、紛争の種になる部分です。
冷静に実態と契約のバランスで判断する視点が求められます。
現場目線でのクレーム対応のリアルと盲点
まずは誠意あるヒアリングと事実確認を
隠れ不良の連絡を受けた際に現場がまずやるべきことは、感情的にならず、徹底した「事実確認」です。
不良の発生時期・数量・状況と製品ロット・号機の特定、現象の詳細把握、御客様側での取り扱い履歴、保管・使用条件など、できる限り詳細なデータを集めます。
時には、バイヤー側の使用ミスや物流中の損傷、極端な環境条件による品質異常など、サプライヤー責任と断定できないケースも多いのが実情です。
自社の工場で同様不良が生じていないか、工程記録や検査履歴も必ず遡及して調べます。
分かりやすい説明と現場への即対応が信頼を生む
品質トラブルに対峙した時、最も強調すべきなのは「御客様目線での分かりやすい説明」と「初動スピード」です。
昭和時代のように“お偉方”同士で曖昧にする文化では、現代の厳しいサプライチェーンでは信用を失います。
現場責任者レベルで一次報告を迅速に行い、「何が起きたのか、現段階で分かっていること・調査中のこと」「仮対応策や今後のスケジュール」を率直に伝える姿勢が、後々の大事に繋がりにくくします。
また、同時に現品回収や現地確認が必要な場合は、面倒がらずに現場に足を運びます。
調達・購買や品質管理担当にはこの“泥臭さ”が極めて重要です。
工場自動化時代の質的変化と対応のコツ
IoTやスマートファクトリー化で現場の自動化が進み、AI分析で流出不良の未然検知やトレーサビリティが高度化してきました。
ですが、いくらデータが進化しても、人の目と現場感覚でしか気づけない現実も多いものです。
例えば、自動化ラインの状態監視ログをAIが“異常なし”と判定していても、現物の微妙な色変化や異臭を現場スタッフが見逃さないことが、重大クレームの未然防止に直結する事例があります。
現場の「経験値」「違和感を指摘する文化」こそが、昭和のアナログ産業から学ぶべき強みです。
バイヤー・サプライヤー双方がWin-Winとなるために
隠れ不良に備えた関係性づくりのすすめ
近年は「パートナーシップ構築宣言」「ホワイト物流宣言」など、取引先との協調を求める兆候が強くなっています。
バイヤーとサプライヤーは、互いに敵対的に補償条件を突きつけ合うのではなく、隠れ不良が出たときこそ関係性を深化させるチャンスだと捉えるべきです。
たとえば、
- 納入後の一定期間は両者で「市中監視」や「追加抜き取り検査」に協力する
- 品質異常が発生したら定例で原因究明会議を実施し、全体の仕組みを改善する
- 重大インシデント時は両社幹部が早期に情報開示し対策を協議する
といった、共にリスク・コスト負担もシェアしながら、信頼されるサプライチェーンを構築していくことが重要です。
まとめ ~“検収合格後”にも価値ある現場力を~
“昭和”の「検収合格=バイヤー責任」では、現代の多様化・高機能化した産業では通用しません。
サプライヤーには「納品後も品質保証・クレーム対応力」で信頼を獲得し、バイヤーには「現場に根ざしつつもサプライヤーをパートナーとして尊重する協調姿勢」が求められています。
現場に根差した誠意ある対応、泥臭い“足運び”と、契約・データに基づく論理的な解決策。
これこそが、昭和のアナログ業界を知る“現場経験者”が、新しい製造業の時代に提供できる最大の価値です。
調達購買担当もサプライヤーも、「検収合格後の隠れ不良発覚」に備えた真摯な現場対応を磨きましょう。
それが、グローバル競争の最前線で“選ばれる企業”となるための、新時代の答えです。
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