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デザインが弱く改善のストーリーが伝わらない失敗

目次
はじめに:製造業の「改善」と「伝える力」
製造業の現場では、日々の生産効率や品質管理の改善が欠かせません。
しかしどれだけ優れた改善活動を行っても、その効果や意図が現場全体、さらには経営層や取引先にまで「伝わりきっていない」という壁にぶつかることがあります。
とくに、製造業が長年培ってきた「昭和的」な文化や、アナログ慣習が色濃く残る工場では、「改善のストーリー」を相手に納得感ある形で伝えることが思ったより難しいと痛感しています。
では、なぜ「改善のストーリー」が伝わらないのか。
そして「伝える力」をどう鍛え、現場を動かす原動力にできるのでしょうか。
本記事では、デザインが弱く、改善ストーリーが伝わらない失敗事例から、次に活かせるヒントを現場目線で深掘りします。
サプライヤーとしてバイヤー目線を理解したい方や、将来的に調達部門でキャリアを積みたい方も、ぜひ現場のリアルと課題解決策を参考にしてください。
なぜ「改善のストーリー」が必要なのか
改善活動の現場あるある
製造現場での改善といえば、5S活動、カイゼン提案、工程改善、歩留まりの向上、設備導入などさまざまです。
私自身、過去に数えきれないほどの改善プロジェクトをリーダーとして担当しました。
しかし、「なぜ今これが必要なのか」「改善によってどんな未来が待っているのか」といったストーリーを、メンバーや上司、関連部門、さらには社外のバイヤーに明確に伝えきれず、せっかくの取り組みが「いつのまにか下火」になったことは一度や二度ではありません。
なぜ伝わらないのか?
大きな理由は、三つ存在します。
一つ目は、デザイン力の不足です。
ここで言う“デザイン”とは、美しい資料を作るスキルだけではありません。
本質は、課題から解決策、そしてゴールまでを一貫して“筋道立てて見せる構成力”そのものです。
二つ目は、現場に根付いた暗黙の了解や「話さなくても分かるだろう」という思い込みです。
三つ目は、業界全体がアナログで属人化した文化の中にあること。
「昔からこうやってきた」「改善は現場の技量次第だ」という曖昧な空気が、新しい伝え方を阻んでいます。
現場でよくある「伝わらない」失敗パターン
資料が地味、データばかりで“ストーリー”がない
工場でよく見かけるのは、エクセルで貼り付けたグラフと表を並べただけの改善報告です。
「前月比10%削減、品質不良率0.2%ダウン」という事実は素晴らしい。
しかし、そこに至るまでの苦労や工夫、メンバーがどんな知恵を絞ったのかという、“プロジェクトの物語”が資料や発表からは感じ取れないことが多いものです。
データ自体には説得力がありますが、それに“温度感”や“意義”が内包されていないため、経営層やバイヤーにも響きません。
言葉が現場内輪向け、バイヤーや他部門に伝わらない
現場の専門用語ばかりを並べた説明も壁を生みます。
現場内では「あの治具」「通い箱」「検査の8番」だけで通じても、それを初見の購買担当やサプライヤーが理解できるとは限りません。
また「なぜ今これに取り組むのか」という背景や狙いが抜けているため、「頑張ってはいるけど業績やコストにどう繋がるのか」と疑問を持たれます。
“改善の見える化”が自己満足で終わることも
現場に掲示されるカイゼンボード、ビフォー・アフターの写真など、可視化への努力自体は大切です。
しかし自己満足に留まり「みんなが納得して動き出す」レベルには至っていないのが実情ではないでしょうか。
デザインやストーリーの不足により、「やる気のないポスター」として終わることも少なくありません。
改善ストーリー設計のためのラテラルシンキング
なぜ今、ストーリーが製造現場に必要なのか
日本の製造業がグローバルで戦うために必要なのは、もはや「技術力」や「勤勉さ」だけではありません。
あらゆる部門やステークホルダー、海外サプライヤーやバイヤー、そして社内外の若手人材も巻き込んで前進するためには、「何のために改善するのか」「誰のどんな悩みを解消できるのか」というストーリーが不可欠です。
ラテラルシンキング(水平思考)を取り入れ、「従来の常識を疑い、新しい伝え方や見せ方を開拓する」ことが、今求められています。
ストーリー設計の実践テクニック
1. 最初に“Why(なぜこの改善を行うのか)”から抑える
最初に「この改善で現場や顧客、取引先がどんな悩みを解決できるのか」を明確に示しましょう。
データや事実は“なぜ”の補強材料に使います。
2. 改善の苦労や現場の工夫(ヒューマンストーリー)を加える
工程の中で実際に起こった失敗談、現場の知恵や小さな工夫を具体例として盛り込むことで、全員が当事者意識を持てるようになります。
3. “ビフォー・アフター”の変化を分かりやすく可視化する
単なる数字やグラフではなく、現場の写真・映像、工程フロー図などを用いて、どのように変化したのかを感覚的に理解できるように工夫します。
4. 相手によって説明・デザインを変える
経営層には事業戦略への寄与点、取引先バイヤーにはコストメリットやリスク低減効果、現場の後輩には「自分でもすぐできる」再現性――など、“伝える側”から“伝わる側”へ視点を切り替えます。
事例で学ぶ:伝わるストーリー設計の成功例と失敗例
伝わらない失敗例:生産性改善の自己満足資料
ある工場で、設備のレイアウト変更により、部品の搬送距離を30%削減することに成功しました。
しかし、報告書は“改善前後のレイアウト図と搬送距離のグラフ”だけ。
現場では「やっと終わった」という達成感だけが漂い、他部門やコスト管理担当、バイヤーからは「結局どこにどんな効果が出たの?」との声が上がりました。
結果的に、さらなるアイデアや投資判断には繋がりませんでした。
伝わった成功例:品質不良ゼロの一本道を描いたケース
部品検査の際、それまで「全数手作業+オフライン記録」で管理していた現場を、「画像認識AI+リアルタイム不良アラーム」に刷新した事例です。
このプロジェクトでは、現場の検査員の苦労や作業の様子を動画で撮影し、「どれほどの神経を使って不良を発見していたか」「新人が同じ精度に到達するまで何ヶ月かかっていたか」を示しました。
そのうえで、AIシステム導入後に「作業負荷」「見逃しリスク」「教育コスト」などがどのように変化したかを可視化。
最終的に、不良率は0.1%→0.02%まで改善。
「現場の人間の負担が減り、会社全体にどんなメリットが生まれたのか」という“物語”を、グラフィックや数値と一緒に伝えることで、社内外からの投資や追加展開がスムーズになりました。
バイヤーやサプライヤー、若手へのメッセージ——これからの伝え方
現場目線の「分かりやすく・感情に訴える」ストーリー設計は、決して大企業のコンサルだけができることではありません。
重要なのは「誰の困りごとをどんな主体的な取り組みで解消したか」を、水平思考で見つめ直すことです。
バイヤーを目指す方は、調達の現場で「値段交渉」や「書面上の条件」だけでなく、サプライヤーがどんな“プロジェクトストーリー”を描いて努力しているかに注目しましょう。
サプライヤーの立場の方も、「バイヤーは単なる数字だけを見ているのではなく、そこにあるストーリーや継続的な改善への姿勢も評価している」ことを意識することで、コミュニケーションの質が格段に向上します。
また、若手人材への指導やプロジェクト推進においても、「自分たちの行動がどう現場・会社・社会を良くするのか」を、自信を持って伝えることが現場全体の活性化につながります。
まとめ:デザインとストーリーの力で昭和的製造業をアップデートする
“デザインが弱く、改善のストーリーが伝わらない”という課題は、決して一部の現場や時代遅れの人だけの問題ではありません。
むしろ、変化の激しいこれからの製造業においては、「伝える力」こそ最大の差別化要因になります。
現場で磨いた実践的な知識や知恵を、より多様な相手と共有し、業界の慢性的な課題を“新しい当たり前”に変えていく――。
そのために本記事の内容が少しでもヒントとなれれば幸いです。
共に新たな地平線を開拓し、製造業の未来を切り拓きましょう。
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