投稿日:2025年10月5日

社内の権限設定が甘く不正リスクが高まる課題

はじめに:製造業現場の「権限設定」問題とは?

日本の製造業は、長く続いた「昭和の成功体験」に多くの現場が依存している側面があります。
この中で見落とされがちなのが、調達購買や生産管理、品質管理を支える「社内権限設定」の脆弱さです。

昨今では、不正アクセスや情報漏洩、内部不正のニュースが相次ぎ、外部攻撃だけでなく、「内部者脅威」が経営を揺るがしています。
実は、その多くが「権限付与の甘さ」や「ルール形骸化」によるものです。

この記事では、「なぜ日本の製造業で権限設定が甘くなってしまうのか」「どんな不正リスクが実際に存在するのか」「現場目線でどう対策するか」を、実務経験を踏まえて解説します。

なぜ製造業の現場で権限設定が甘くなるのか?

昭和型業務プロセスの名残

多くの工場が、紙やハンコ文化に頼った昔ながらのオペレーションを続けています。
新しいITシステムを導入しても、現場は「誰がどの工程をどこまで操作できるべきか」といった厳密な設計を後回しにしがちです。

その理由は、「現場に権限を持たせて対応力を高めよう」という良かれと思った意識、あるいは「全員できる状態のほうが便利で早い」という思い込みです。
新人パートからベテランまで、パスワードも共有しがちで、「とりあえず全員OK」の運用が蔓延しています。

人間関係を優先する日本型マネジメント

日本の製造現場は、人間関係重視で「疑う」マネジメントを忌避しがちです。
「まさかあの人が」「長年勤めてくれたし」と、暗黙の信頼が先行します。

しかし、経営環境が変われば社員の価値観も変わります。
不正の入口は、ほとんどが「魔が差した隙」に生まれています。

アナログ業種だからこそのデジタルギャップ

工場という現場は、IoTや自動化が入り始めても「権限管理」の考え方まではITや専門家に丸投げしがちです。
システム導入時に「誰が何をできて、何をできないべきか」の設計議論をパスしてしまうことが多いのです。

製造業に潜む不正リスクの具体的な実態

システム権限のダダ漏れ問題

多くの製造現場で、調達システムや生産管理システムのアカウントを「共有ID」や「誰でも使える」状態で運用しています。
たとえば発注・検収・支払い・マスタの登録/修正など、重要業務を一人で完結できてしまう現場が意外なほど多いのです。

これにより、
– 架空取引や水増し請求
– 在庫の横流し
– 不正な購買先との癒着
– 意図的な納期改ざんや隠蔽

といったリスクが生まれます。

名義貸し・なりすましの横行

業務負荷や「誰も休めない」文化のため、代わりに操作してもらう、という状況が無自覚に権限バグを生みます。
上司・同僚のアカウントを使って勝手に承認処理を進めたり、不正な修正を加えたりする温床となっています。

紙文化ローカルルールの悪用

いまだに残る紙運用、ハンコ運用。
特定の人がハンコを預かって複数人分を押して回る…こうした「代理処理」も、実際には制度疲労を起こし不正リスクを隠します。

なぜ今、権限設定の強化が必要なのか

DX時代の「内部リスク」顕在化

DXや業務の自動化が進むことで、不正の痕跡(ログ)やデータが「見える化」しやすくなりました。
裏を返せば、システムの抜け道を突くスキルや知識も不正に利用されやすくなっています。

従来の「紙・現物確認」に加え、権限設定による「やれる/やれない」の物理的制限を設けないと、不正リスクは増大します。
実際、日本でも名だたる大手メーカーで、従来型の権限管理の甘さが数億円規模の不正を生んだ事例もあります。

多拠点・多国籍化するバリューチェーン

海外拠点やグローバルサプライヤーとのやり取りが増えるほど、
「誰が、どこから、いつ、何をしたか」
がシステマチックに把握できない会社ほど、不正の温床となります。

現場目線で即実践できる権限管理の強化策

業務フローを書き起こして「出口」を見極める

まずは現場単位、部署単位で「誰がどの工程(発注・受入・検収・支払・マスタ修正)を実際に行っているか」を可視化します。

業務マニュアルやシステム設定だけでなく、「実態」と「理想のあるべき像」のギャップを見つけることから始めましょう。
無駄・重複・例外運用が明るみに出ます。

ジョブローテーションと多眼チェックの推進

一人が一つの業務や工程を独占しない仕組みを作ります。
「現金・重要書類・権限持ち」を複数人で管理し、「どの権限も複数人でクロスチェック」できる体制を日常業務に組み込みましょう。

現場でありがちな「忙しいから代理でできるように」は、不正の入口になります。
システム側の制御を徹底し、「なぜ代理なのか」を日次・週次でログ確認する運用に変革します。

人材教育&意識付けの徹底

「社内の人間は絶対に不正をしない」という神話を見直すべき時期です。
新人研修や定期教育で、「過去起きた自社・業界内の不正事例」を生々しく伝え、権限付与と利用の責任感を植えつけることが肝要です。

また、「不正チェックは疑いではなく牽制・健全化のため」と現場リーダーが丁寧に説明しなければ、現場に根付きません。

システム レベルでの「最小権限の原則」導入

IT部門任せにせず、「実際の現場担当がどんな業務(閲覧・登録・修正・承認・実行)をどこまで必要とするか」に基づいた細やかなロール設計にこだわります。
必要最小限の機能だけ与え、それ以外は都度申請方式にしてルート化します。

また、IDや承認権限の管理・棚卸は、半期・年度ごとにしっかり運用しましょう。

内部監査と現場担当者の協働

形式的な監査だけでなく、現場担当者の意見や「なぜやりづらいのか・なぜ抜け道が生まれているのか」生の声を反映した改善活動を続けることがカギです。
現場を置き去りにしない運用設計を重視します。

買い手目線・売り手目線の双方に求められる視点

バイヤー側:サプライヤーにも「権限設計」を求めるべき理由

購入先やパートナー企業のシステム・業務フローが「ガバガバ」だと、自社サプライチェーンにも不正が流入するリスクがあります。
「高品質=安心」ではありません。

サプライヤー監査や定期レビューの際にも、権限管理・認証プロセスの健全性をしっかり確認しましょう。

サプライヤー側:バイヤーが重視する「安心調達」の実現

バイヤーが安心して発注できる工場・企業は、「厳格な業務フロー・権限設計」があることを求めています。
不正の余地をつぶし、客観的に証明できる記録・監査体制が、今や品質管理・調達競争力の一部となっています。

「古いやり方が正しい」という固定観念を脱し、生産性向上やコスト低減だけでなく「不正防止へのこだわり」もアピールできる現場が生き残ります。

おわりに:まず「当たり前」を疑い、地道に変革を

製造業の現場には、長年続いたローカルルールや人情・慣習があります。
しかしそれが、「甘さ」になって不正リスクを増大させているのは厳然たる事実です。

守るべき伝統と、変えるべき権限管理は徹底的に分けて考える。
従業員の利便性だけを優先せず、「最小限」「多眼」「定期的な見直し」を徹底する。
これが、不正への備えとなります。

製造業に携わるすべての方が「他人事ではない」と自覚し、一歩ずつでも現場と経営層が協力して権限設定の強化に取り組むことが、業界全体の健全な成長の基礎になっていくのです。

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