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投稿日:2026年1月8日

サーモウェル部材の溶接焼けが衛生性を損なう背景

はじめに:サーモウェル部材とは何か

サーモウェルとは、温度センサーや測温抵抗体などを保護するための筒状の部材です。
主に流体が流れる配管やタンクへ設置され、過酷な現場環境下でもセンサーの測定精度と寿命を維持する役割を持っています。

サーモウェルは食品・医薬・化学・エネルギーなど幅広い業界で重要なパーツです。
特にステンレスなどの耐腐食性金属で構成されることが多く、衛生性が強く求められる分野では、素材や加工方法についても慎重に検討されます。

しかし、現場ではサーモウェルの溶接加工に伴う「溶接焼け」がしばしば問題となります。
ではなぜこの溶接焼けが衛生性を損なうと言われるのでしょうか。

溶接焼けとは何か?

溶接焼けとは、溶接作業時に高温にさらされたステンレスなどの金属表面に発生する酸化被膜や変色のことを指します。
この現象はステンレスの本来の光沢を失わせ、色味が黒色や茶色、青みを帯びることが特徴です。

溶接焼けの発生原因は主に2つあります。
一つは溶接時の熱そのもの、もう一つは大気中の酸素と鉄が反応してしまうことです。
通常のステンレスは、表面に薄い酸化クロム皮膜を形成し、内部の腐食を防いでいます。
しかし、溶接焼けによってこの保護膜が損傷したり、再生成されずに不動態化されない部分が生まれます。

溶接焼けが衛生性を損なう理由

1. 腐食のリスク増加

溶接焼け部分では、ステンレス本来の耐食性が大きく損なわれます。
通常の不動態被膜(酸化クロム皮膜)は0.001ミクロン程度の非常に繊細な構造です。
溶接焼けが発生した箇所は保護膜が破壊されており、そこから腐食が進行しやすくなります。

とりわけ医薬・食品工場では、腐食部が菌の温床になる“デッドスペース”をつくりかねません。
これは衛生的にも大きなリスク要因となります。

2. 汚染物質の付着・滞留しやすさ

溶接焼けが発生した面はミクロスケールでざらざらになっており、目には見えない細かな凹凸やクラック(ひび割れ)が生成されます。
この凹凸は液体や微粒子が溜まりやすく、洗浄しても完全に除去しきれないことがあります。

特に食品や医薬品業界では、微生物汚染やクロスコンタミネーション防止の観点から非常に深刻な問題です。

3. 見た目の問題と供給側・需要側の意識差

バイヤー(調達側)は見た目からも衛生状態や管理レベルを推測します。
溶接焼けが目立つ製品=品質意識が低いと判断され、サプライヤーへの信頼を落とすことがあります。

一方で、生産現場や従来型サプライヤーの中には「溶接部は現場でしか見えないから気にしない」「焼けは仕方ないもの」という古い価値観が残りがちです。
このギャップが品質管理上のすれ違いを生み出します。

昭和から抜け出せない業界の現実

1. クリーン化意識の変遷

日本の製造業では昭和~平成初期までは、目に見えるトラブル(漏れ、破損、不適合)を防ぐことが主眼で、表面処理や衛生性まで徹底した管理は重視されていませんでした。
とくに食品業界では、HACCP(ハサップ)などの衛生管理国際基準の導入が進むまで「多少の溶接焼け=瑕疵なし」扱いです。
当時流通していた機械や配管部材の多くが、現在の基準から見ると“アナログ”な品質でした。

2. 国際基準と日本の現場意識

しかし平成後半~令和になると、グローバル規格(EHEDGや3-A、ISO22000など)の適用が不可欠となってきました。
海外取引や外資系顧客の要求事項では「溶接焼けのない状態(ピッカピカ)がスタンダード」とされ、日本の旧態依然とした加工ワークフローでは通用しなくなっています。

それでも現場レベルでは人手不足や納期重視、コスト抑制のため、「溶接焼けは最後の最後まで気にしない」という昭和的な慣習が根強く残ります。
ここに、サプライヤーとバイヤーの間での認識ギャップが生まれています。

3. 適正コストと歩留まりの狭間

衛生仕様のサーモウェル加工には、溶接後の“酸洗い”や“電解研磨”といった仕上げ工程が必須です。
これらは確実にコストが上がります。
「そこまでやるとコスト競争力が落ちる」と考え、対応を渋るサプライヤーが多いのも現実です。

しかし、バイヤー側は歩留まり改善・異物混入リスク低減といった長期的メリットを重視しています。
短期コストvs長期品質・安全性――このせめぎ合いの中で、対応レベルが分かれているのが現状です。

最新トレンド:AI・ロボット化で溶接焼けは減らせるのか

AI・自動化技術の進展によって、ファイバーレーザー溶接機や協働ロボットによる精密溶接の導入例が増加しています。
ロボットは均一なスピードとトーチ角度を保つため、焼けを極力抑えた溶接が可能です。
また、AIカメラによる表面の変色感知や、溶接直後の自動検査・仕上げまで連動させることでヒューマンエラーを大きく減らせるようになってきました。

ただし自動化設備を現場に導入するには初期投資や働き方改革など様々な課題もあります。
中小規模のサプライヤーでは依然として職人技頼りの現場も多く、最新ツールが即時普及するわけではありません。

調達購買・バイヤー側の視点:なぜ衛生仕様が重要なのか

食品・医薬・化学バイヤーの立場からすれば、サーモウェル部材の衛生性には下記の点で強いこだわりがあります。

1. 社内外監査のチェック項目に「焼け」が含まれること
2. 顧客クレームの大半が「洗浄しても落ちない汚れ」に起因しやすいこと
3. 従来の何気ない焼けから重大なコンタミ(異物混入)問題が起きた実例への危機意識

バイヤーは「美観」だけでなく材料の“ライフサイクルコスト”や“リスク低減”といった総合的な要素でサプライヤーを評価しています。

このため、溶接焼け1つだけで入札脱落やサプライヤー再選定が起きることも珍しくありません。

サプライヤーが押さえたい「衛生仕様」への実践対策

1. 溶接作業の見直し

・アルゴンシールドガスをしっかり使い酸化を徹底防止
・溶接条件(電流・速度・隙間)を事前に規格化し焼け低減
・溶接トーチの角度・スパッタ対策をマニュアルで統一

2. 焼け除去の仕上げ(後処理)強化

・酸洗い/電解研磨の徹底
・表面粗さの測定・検査記録化
・焼けの残留範囲を作業者に教育し、NGサンプルを現場掲示

3. バイヤーへの明確な説明責任

・製品出荷時に焼け除去工程や検査記録書(写真付き)を添付
・「従来はこれが当たり前でしたが新たな仕様で改善しています」と安心感をアピール

こうした地道な努力が信頼につながり、バイヤーとの長期的な関係強化につながっていきます。

まとめ:現場目線からバイヤー・サプライヤー双方への提言

サーモウェル等の溶接焼けが衛生性を損なう理由は、
「腐食耐性の低下」
「汚染リスクの増加」
「バイヤーの品質意識の変化」
という複数の要素が密接に関係しています。

製造現場としては伝統的な「コストや納期優先」だけでなく、国際規格やエンドユーザー目線での衛生管理という“新しい地平”へ対応することが求められます。

現場の経験に裏打ちされた「溶接焼けは現場でしかわからない」という姿勢を脱し、
バイヤーとしっかり対話しながら「なぜこの仕様が求められるのか」を腹落ちさせ、
時に先を読むラテラルな視点――つまり未来の顧客要求を先取りする柔軟性が、今後の製造業の持続的成長に直結します。

サプライヤー側も「焼けをなくす価値」を言語化・数値化して提案し、現場作業者の意識向上に努めましょう。
バイヤー側も「自社リスクの全体像」や「長い目で見た品質向上」を明確化し、サプライヤーと共に成長できる関係を築いていくことが重要です。

その積み重ねが、昭和的発想から脱却し“グローバルで通用する日本のものづくり”へと進化させるはずです。

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