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“とりあえず動いている”状態が実は危険な兆候であるケース

目次
はじめに:“とりあえず動いている”が生み出す現場の落とし穴
日本の製造業において、“とりあえず動いている”という言葉は、日常のあちこちで聞くフレーズです。
長年この業界で仕事をしてきた身としては、現場が機能している安心感や、納期を守るためにとにかく止めてはならないという現場意識の強さを感じる一方、ここには大きな落とし穴も潜んでいると痛感しています。
今回は、この“とりあえず動いている”状態に内在する危険な兆候について、現場目線かつ管理職経験者・バイヤー双方の視点も交えて深掘りしていきます。
“とりあえず動いている”の意味は何か?昭和から続く現場文化
多くの日本の工場や事務現場では、業務に多少の不具合があっても「とりあえず動かしておこう」「動いているうちは触らないでおこう」という空気があります。
この背景には、「止めるな」「問題は現場で何とかするべき」という昔ながらの現場主義が根強く残っています。
たしかに大量生産、大量消費の時代には、機械が止まり続けることが最も大きな損失になりやすい背景もありました。
現場でアドリブ対応し、現場力で乗り切ることも日本型ものづくりの強みだったのは事実です。
ただ、現在はグローバルな競争にさらされ、製造現場も高度に複雑化しています。
サプライチェーンも広域化し、異物混入や遅延、品質トラブルが社会問題となる事例も後を絶ちません。
“とりあえず動いている”という安心感は、今や安定の証明ではなく、変化対応力や再現性・品質保証の弱点になる恐れがあります。
“とりあえず”が招く具体的な危険性とその現れ方
では、この“とりあえず動いている”状態は、どこにどのようなリスクや危険信号を孕んでいるのでしょうか。
20年以上の現場経験から、しばしば見かけるパターンを紹介します。
1. 不具合の隠蔽や属人化による再発事故
最も頻繁に起こるのは、小さな不具合やヒューマンエラーが蓄積し、現場の“匠”やベテランスタッフが裏側で調整や手直しをして成立している状態です。
「Aさんがいれば何とかなる」「ひとまず応急対応で乗り切ろう」といった属人的運用が根付くと、対策しないままリスクが時間差で再発し、大きな事故や損失につながります。
品質管理的にも「不良の芽」が温存され、いずれ外部へ流出する“品質事故予備軍”が増えていきます。
2. ブラックボックス化による変化対応力の低下
古くから手順書や標準化が進まない現場の場合、“実はマニュアル通りにやっていない”“実態が現場任せ”という箇所が残りがちです。
これが新工法・新設備導入、あるいは人の入れ替えといった変化のタイミングでブラックボックスが顕在化。
「A工程が止まった」「誰も分かる人がいない」といった問題対応力の低下につながります。
「やったことがないから」とイノベーションを拒む、“変化拒絶型工場”の土壌にもなりがちです。
3. ムリ・ムダ・ムラの温床となる
TPS(トヨタ生産方式)や“カイゼン”、IE(インダストリアル・エンジニアリング)といった言葉は浸透しつつあるものの、「とりあえず今のやり方で回っているから変更しない」という意識が強い場合、工程や物流の中に“ムダ”が残り続けます。
異常な力技や余剰在庫、二重三重のチェック…見直すことで大きなコスト削減余地があるところを、現状温存で見過ごしてしまう傾向が強まります。
なぜ“とりあえず”で動かし続けてしまうのか?業界特有の心理要因
どうして“とりあえず動いている”ことが危険だと分かっていながら、多くの現場で同じような習慣が続くのでしょうか。
その根源には、昭和型経営文化と現場マインド、さらにはアナログ的固定観念が複雑に絡み合っています。
止めること=悪という風土
製造業では、設備が止まることで顧客納期遅延や生産損失がダイレクトに経営を圧迫します。
現場リーダーや工場長は「止めるな」「納期最優先」という無言のプレッシャーにさらされがちです。
特に日本のメーカーは「計画通り」「日程-出来高重視」の傾向が強く、問題提起よりも“とにかく動かしてつじつまを合わせる”ことが優先されてしまうのです。
“カイゼン”の本質的誤解と、目先対応主義
「カイゼン」が口癖のように唱えられていても、実際には“目先の現場対応” “やり方の小手先修正”にとどまり、省力化や抜本的な効率改善、デジタル化には踏み込めていない現場も多くみられます。
特にITやデジタル自動化、人材流動化が加速する現代において、現物現場現実主義の一辺倒では回らなくなってきています。
人手不足・教育の遅れと、属人頼みの弊害
熟練工が減り、採用難・若手の早期離職が常態となりつつある業界では、教育訓練や標準化が間に合わず、問題発生時の対応が結局ベテラン・上司任せになっています。
「誰かが気付くまで」「何とか今日も乗り切った」という安易な安心感が、“変化しないリスク”として積み上がってしまいます。
現場とバイヤーをつなぐ:「動いているから大丈夫」を打破する調達・購買の視点
この“とりあえず動いている”状態は、実は工場現場だけの話にとどまりません。
部品・材料サプライヤー側、バイヤー側の視点からもリスクや新しい気付きを持つことが大切です。
サプライヤーは何を知っておくべきか
バイヤー(調達担当)は、サプライヤーが「現物納入できているからOK」「不良は現場対応・再送付で凌げる」といった短期的視点にならないように、品質・納期トラブルが顕在化する前の“予兆把握”を強化しています。
例えば
– クレームも出ていないし、納品もできている
– 小さなミスは現場(ライン)で吸収できている
このような状態こそ、「現場が無理に吸収しているリスク要因」としてバイヤーがサプライヤーと定期的に情報交換し、“おかしいと思う点”“違和感ポイント”を洗い出します。
現場見学や改善要請、工程見直しの提案など、購買-現場-サプライヤーの三位一体で本質的改善を行う仕掛け作りが鍵となります。
バイヤーを目指す方が知るべき視座
調達購買部門は、サプライチェーン全体の“リスクマネジメント”を担っています。
「動いている=管理不要」ではなく、「動いているその裏側で現場負荷や属人対応が横行していないか?」を注視し、現場・サプライヤーから小さなサインを拾う力が重要です。
業務プロセスや品質保証の“見える化”、異常時のエスカレーションルート構築など、現場と外部ベンダー双方のコミュニケーション強化・PDCAサイクル構築が、今後の持続的成長を支えます。
“とりあえず動いている”状態から脱却するために今日から現場ができること
高度なデジタル化や自動化、大がかりな組織改革だけが打ち手ではありません。
一人ひとりが今日から実践できる、“とりあえず動いている”状態脱却の第一歩を紹介します。
1. 現場の違和感・ヒヤリハットを「見える化」する
日々の作業・段取り作業で「いつもと何か違う」「この工程、無理しているな」と感じる瞬間を、“なんとなく”で済まさず、紙やデジタルで記録しましょう。
小さな違和感が大きな事故・不良の芽になることは、現場経験者ほど身に染みて分かるはずです。
ヒヤリハットや設備の調子が悪い時は、写真や動画で記録し、チーム内や他部署と迅速に共有する仕組みを確立することが大切です。
2. 標準手順や品質要件の定期点検・アップデート
変化に対応できる現場を作るには、標準作業手順書や工程ごとの品質チェックリストを定期的に見直し、「現場実態」と「書類上の理想」にギャップがないか確かめましょう。
この作業は属人化対策にもなり、新人・ベテランの知見融合による柔軟な現場運用がしやすくなります。
3. 設備・工程の“止める勇気”を持つ
本当に危険な場合や、品質・安全が守れない場合は管理者や現場の責任者へ即報告し、「一度止めて徹底的に見直す」「根本原因を追及し、再発予防策を練る」 という判断を恐れずすることが重要です。
“止めること=悪”という固定観念を乗り越え、組織的に“止める勇気”を養う風土を作りましょう。
まとめ:”とりあえず動いている”から、一歩踏み出そう
“とりあえず動いている”という現場の空気や安心感は、かつての日本の製造業の強さそのものだったかもしれません。
しかし、今やそれは表面上の安定であり、変化やリスクへの備えを放棄する“温存リスク”そのものです。
ベテランの経験や現場力は大切にしつつ、それに依存しない仕組みや、現場の小さな違和感を拾い上げる現代型ものづくりへ。
現場と調達購買・サプライヤーが一体となり、互いの声・違和感を可視化して、持続可能な成長のための一歩を踏み出してください。
“動いているから大丈夫”の先に、真の現場力と競争力がある。
それを実感できる日々への転換を、今日から一緒に歩み出しましょう。
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