- お役立ち記事
- 「成果が出ないから叱る」がパワハラになる境界線
「成果が出ないから叱る」がパワハラになる境界線

目次
はじめに ― 製造業の現場で問われる「叱る」とパワハラの違い
製造業の現場では品質・納期・コストなど、目に見える成果が何より重視されてきました。
そのため、成果が上がらないときに「厳しく指導する」「強い言葉で叱る」といった行為が日常的に行われていました。
私自身、20年以上製造現場を経験し、現場リーダーや工場長という立場で多くの後輩や部下に関わってきました。
しかし近年、時代の流れとともに、こうした行為が「パワハラ(パワーハラスメント)」として問題視されることが増えています。
「なぜ昔は“叱咤激励”が当たり前だったのに、いまは“パワハラ”とされるのか?」
「どこまでが適切な指導で、どこからがパワハラなのか?」
この記事では、現場目線・管理職経験者の立場から、この課題の境界線を具体的に紐解いていきたいと思います。
「叱る」と「パワハラ」の違いとは
1.「叱る」とは何か―現場での本来の目的
製造業の現場で「叱る」行為には、教育や指導、改善の意図があります。
品質基準を守らない、作業手順に従わない、納期遅延を引き起こすといった問題には、厳しい指摘が必要な場合もあります。
現場は安全や品質で一切の妥協が許されないため、「指摘が厳しい=悪」ではありません。
むしろ、「やる気に火をつける」「失敗を糧に次へ活かさせる」「再発防止を徹底させる」ことが、現場の指導者の役割であり、製造業文化の根底でもあります。
2.パワハラの具体的定義
一方、パワハラとは、上司がその地位や関係性を利用して部下に不当に精神的・身体的苦痛を与える行為です。
厚生労働省のガイドラインでは、パワハラの典型例として以下を挙げています。
– 身体的な攻撃(暴力)
– 精神的な攻撃(人格を否定する暴言・叱責、侮辱等)
– 人間関係からの切り離し(無視、隔離)
– 過大な要求(業務遂行不可能な指示)
– 過小な要求(仕事を与えない)
– 個の侵害(プライベート詮索など)
これらに共通するのは、「成果や会社目的のために必要な指導」ではなく、個人への攻撃や社会的排除、組織秩序・安全性への脅威となっている点です。
「成果が出ないから叱る」は、なぜパワハラと誤解されやすいのか
1. 昭和的マネジメントの名残―成果第一主義の功罪
高度経済成長期、現場は“成果第一主義”が当然であり、成果を上げなければ声を荒げて叱るのも当然とされてきました。
しかし現代社会では、働く人の価値観が多様化し、職場環境や精神的健康が極めて重視されるようになっています。
「成果が出ないという理由で叱られる」ことが、本人の努力不足によるものか、職場環境や上司の指導不足によるのか―これを問う視点が、これまで以上に重要視されています。
2. 叱る内容と方法、そして“受け手の感じ方”問題
同じ「叱る」でも、内容と方法によって受け止め方は大きく異なります。
たとえば、「なぜ品質検査を怠ったのか? 失敗の原因は何だったか?」と冷静かつ具体的に事実指摘するのと、
「お前はダメだ!こんなこともできないのか!」と人格を否定するのでは、伝わるメッセージも”残る傷”もまったく違います。
成果が出ない=すべて本人のせいとして人格否定に至った瞬間、これは完全にパワハラに該当します。
また、受け手が「自分だけ理不尽に叱られている」「言葉が怖い」「相談できる雰囲気がない」と感じた時点で、
ハラスメントリスクは急上昇します。管理者には「伝え方」「現場の空気」「個々の感じ方」に敏感になる視点が求められます。
「パワハラと叱る指導」の具体的な境界線 ― ケース別に徹底解説
ケース1:成果未達を指摘する場合
良い例:
「作業効率が落ちているね。どこで詰まっている?一緒に改善策を考えよう」
「納期遅延の理由は何か。どんなサポートが必要か教えてほしい」
悪い例:
「ノロマだな!他のやつはできているのに、なんでお前だけ…」
「何度同じことを言わせるんだ。会社に損害を出すな!」
成果への指導であっても、“責める”から“問いかけ・支援”へ意識をシフトさせることが、「適切な叱る」を維持するコツです。
ケース2:安全違反や品質事故の場合
良い例:
「重大なルール違反があった。原因と再発防止を一緒に整理しよう」
「どうすれば再発を防げるか、皆で知恵を出し合おう」
悪い例:
「ミスなんて言い訳だ。お前みたいなやつは現場にいらない!」
「バカじゃないのか、作業者失格だ!」
重大トラブルでも、事実の確認・再発防止という“目的”を外さず、感情的にならないことが、パワハラとの一線です。
「成果が出ないと叱る」現場あるあるへの対応
なぜ昭和的叱責文化が根強く残るのか
製造業は“現場主義”“現物主義”とも呼ばれ、現場一体の粘り強さや知恵の蓄積によって発展してきました。
歴史が長く、上下関係や徒弟制度の色が強く残っています。
「叱られて育つのが当たり前」「先輩もそうやってた」が刷り込まれ、新たな指導スタイルへの移行が進みにくい現実があります。
しかし、少子化による人材流出、熟練技能の継承断絶、若手の離職率上昇など、「変わらなければ生き残れない危機感」も高まっています。
働き方改革やダイバーシティ推進、そして2022年のパワハラ防止法施行を機に、
多くの現場で「厳しさと優しさ」「個人尊重と組織成果」のバランスが模索されています。
現場リーダー・バイヤー・サプライヤーの視点で考える
– リーダー/管理職:自分が怖い存在でないか、部下が相談しやすい空気を意図的に作ることが必要です。
成果が出ないときこそ、「何が問題か」を対話し、協力・指導・育成のバランスを意識しましょう。
– バイヤー:「要求が過剰になりすぎていないか」「公正でオープンな取引になっているか」に敏感になることが、
サプライヤーとの良い関係を生みます。過剰な納期プレッシャーや人格攻撃はパワハラになりえます。
– サプライヤー:「納期や品質要求の根拠は何か」「無理な要求で現場が追い詰められていないか」を問いかけつつ、
コミュニケーションを強化しましょう。理不尽さを感じれば、記録・相談・対話のステップで自己防衛が重要です。
叱責文化をアップデートするには―これからの製造現場で求められる力
1. ファクトベースの指摘×リスペクト
感情ではなく事実・行動に着目し、人格否定にならないよう「伝える力」「聴く力」を磨きましょう。
「事実に即した冷静なフィードバック」は、現場力を育てながら心理的安全性も守ります。
2. アナログ現場でも実践できる、対話文化
いきなり“フルデジタル”に舵を切らなくても、3つの具体的コミュニケーション習慣で現場は変わります。
– 「見える化」:手順書や現場指標を明確に誰でもわかるよう工夫。
– 「朝礼・終礼」:小さな共有や表彰を繰り返し、オープンな空気を作る。
– 「一人ひとりの背景理解」:ミスや未達を単なる「能力不足」と結論付けず、日々の困りごとやアイデア出しの時間を意識的に配分する。
3. パワハラ防止ガイドラインの活用
厚生労働省や大手メーカーが公表している「パワハラ事例集」や「チェックリスト」など、
現場に貼り出す、定期的な自己点検を行うなど、環境改善に積極的に使いましょう。
まとめ ― 成果主義を超えて、共創の時代へ
製造業の「叱る文化」が完全否定されるべきではありません。
現場を守る厳しさ・プロ意識は、依然として“町工場日本”の強みだからです。
しかし、時代は大きく変化しています。
強すぎる叱責や人格攻撃・ムリな成果圧力は、人材流出・生産性ダウン・企業ブランド毀損に直結し、決して得になりません。
「成果が出ないから叱る」という昭和的常識を、現代的な「建設的指導」「協働改善」「リスペクト文化」へと進化させること。
これが今、製造業の発展を担う全ての現場人に求められています。
現場リーダー、バイヤー、サプライヤー――それぞれの立場を超えて、
“厳しさを残しながら、優しさと対話”。
今日からできる小さな変化の積み重ねが、製造業の未来を明るくします。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)