投稿日:2025年10月17日

タオルの吸水性を左右する糸の撚りと精練漂白の工程

はじめに ― タオルの吸水性を科学する

タオルは私たちの日常生活に欠かせないアイテムです。
一見、どれも同じように見えるタオルですが、吸水性や肌触り、耐久性などに違いが出るのはその製造工程に秘密があります。
特に「糸の撚り」と「精練漂白」という2つの工程が、タオルの吸水性を大きく左右しています。

本記事では、20年以上製造業現場に携わった経験をもとに、普段は意識されにくい「糸の撚り」と「精練漂白」の現場での工夫や課題、そして昭和から続くアナログ的手法と最新トレンドとの融合について、わかりやすく解説します。
バイヤー志望の方やサプライヤーとして自社製品の強みを深掘りしたい方、現場管理職や若手技術者の方々にも役立つ情報をお届けします。

糸の撚りがタオルの品質を左右する理由

撚り(より)とは何か ― タオル用糸の基礎知識

糸の撚りとは、繊維同士をねじり合わせて1本の糸に仕上げる工程です。
撚りが強いほど糸自体の強度は高まりますが、同時に表面が締まり、吸水性や柔らかさが犠牲になる傾向があります。
逆に、撚りが甘い糸はパイルがふんわり立ちやすく、肌触りもよく吸水性も上がりますが、毛羽落ちや糸切れが起きやすくなります。

このバランス調整は、そのままタオルの用途や高級・実用などのポジショニングに直結します。
現場では用途や顧客ニーズを見極め、撚り回数(撚回数)や撚り方向(S撚り、Z撚り)をコントロールしています。

「無撚糸」タオルの登場と現場の葛藤

2000年代以降「無撚糸タオル」が一大ブームとなりました。
無撚糸とは、極限まで撚り回数を少なくした糸で、ふんわり感と抜群の吸水性が特徴です。
しかし、現場目線で見ると、「糸切れ」「毛羽落ち」「パイル抜け」「洗濯耐久性」に大きな課題が出てきます。
これをカバーするため、繊維選択(コットンの繊維長)や糊付けによる加工、精練工程での糸残留物管理など、多くのアナログ的ノウハウが今も生きています。

また、吸水性基準のJIS(日本産業規格)適合試験をクリアしながら、海外用は国ごとに好まれる吸水性や風合いが異なるため、各市場のバイヤーや消費者ニーズに応じて撚り加減を調整する高度な現場判断も重要です。

精練漂白が吸水力の決め手 ― その工程と現場の実態

精練漂白の全体像

精練漂白とは、原綿に含まれる油分や不純物、色素などを除去し、純白で清潔な状態をつくる工程です。
これにより糸本来の吸水性が最大化され、タオルが水をよく吸い取るようになります。
具体的には、苛性ソーダなどのアルカリ剤により油分・ワックス分を溶解し、次に過酸化水素水などで漂白処理を施します。

このとき、漂白剤の配分、温度、時間管理が製品の吸水率に大きく影響します。
製造ラインの自動化が進む中でも、この「最適管理」は職人技とデータ管理が織り交ぜられる現場の醍醐味です。

昭和時代から続くアナログ的工夫と現場改革

一方で、昭和から続く伝統的な現場では、精練釜(スチーマー)の温度分布やバッチごとに条件が異なる「手触りと勘」も活躍しています。
最新の自動ラインではIoT・AIによる温度・圧力・pHのリアルタイム制御が進みましたが、水質や綿の出来が年によって大きく変動するため、「基準外ロットの微調整」は今も現場の重要な役目になっています。

また、漂白工程での排水処理や環境負荷低減も無視できません。
エコへの取り組みや排水のリサイクル、BOD(生物化学的酸素要求量)低減などSDGs時代の現場対応も、バイヤー視点から見るとメーカー選定の大きな要素です。

吸水性検査の現実とその意義

吸水性は、製品化後に必ずJIS規格や社内規格によるテストを行います。
毛細管現象による水の広がりや、一定量の水滴を乗せてからの吸収時間など、目視・計測機器を用いた検査が実施されます。

現場では、検査済みの「Aロット品」でも出荷前にもう一度手触りや吸水性テストを実施するアナログ的対応がいまだ根強いです。
なぜなら、糸ロット・バッチ単位の微妙な違いが出るため、バイヤークレームや出荷先ごとに個別対応することが求められているからです。

サプライヤー目線で言えば、「実際にバイヤーがどんな検査を求めているのか」「どの用途で使われるのか」によって吸水性強化や耐久性のバランス取りが差別化ポイントとなります。

吸水性と商品価値 ― バイヤー・サプライヤーの戦略

タオルのバイヤーは家庭用品メーカーのみならず、ホテル業界、医療・介護現場、スポーツジム、大手アパレル、百貨店PB(プライベートブランド)など多岐にわたります。
それぞれの用途で「求められる吸水性」は大きく異なり、ユーザーの生活シーンや洗濯頻度も異なるため、製品のスペック訴求は単なる吸水データだけでは不十分です。

具体的には、デザイン性や肌触り、ブランド価値などと結びつけて「ふんわり×吸水性」「しっかり吸水×長持ち」などUSP(独自販売提案)を打ち出せるかどうかが勝敗を分けます。
バイヤーとしては、そのブランドイメージや用途別のターゲティングに応じて「糸の撚り見本」「吸水性検査データ」「調達先の工程管理水準」まで細かくヒアリング・リサーチすることが重要です。

一方、サプライヤーは現場の改善小ネタやノウハウ(たとえば、「夏場と冬場で精練条件を変えている」「糸の供給元を複数持って安定供給に努めている」など)をストーリーとして伝えることで、競争力ある提案材料となります。

デジタル時代の到来と現場の未来

AIやIoTの発展によって、原材料由来のデータ、撚り具合、精練漂白のレシピ、吸水性検査のデータを一括管理する企業が増えています。
データの可視化による不良率低減、トレーサビリティ向上、工程内リアルタイムモニタリングによる歩留まり向上は日本のものづくりの大きな武器です。

しかし、「現場はアナログ」「昭和式の職人感覚」も依然根強い。
このギャップを埋める「現場×データ」のハイブリッド型運用が、今後大きな差別化要素となるでしょう。
実際、多くの現場ではベテラン職人の嗅覚とAI生成のプロセスデータをすり合わせ、最適なバランス点を模索しています。

まとめ ― 現場から見た吸水性タオル開発の新視点

タオルの吸水性は、糸の撚り具合や精練漂白の工程で大きく決まります。
これらは単なる定量データの世界ではなく、原綿条件や各工程の絶妙なマネジメント、そしてバイヤー・消費者それぞれのニーズに応える細やかな現場対応に支えられています。

製造業の現場力は「量産力」だけではなく、バイヤーや顧客視点をもとにした差別化提案や不文律のノウハウの積み重ねにあります。
これからの時代は、熟練者の感覚とデジタル管理を融合させ、「ふんわり」「しっかり」「長持ち」など顧客ごとの価値を追求する現場改善が競争力となるでしょう。

バイヤーを目指す方、サプライヤーとして現場で何が起きているか知りたい方こそ、この糸の撚り・精練漂白の奥深い世界に一度足を踏み入れてみてください。
きっと新しい「ものづくり日本」の地平線が見えてくるはずです。

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