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プラスチック・ゴムのトライボロジーの基礎と要求性能を満たす材料選定・摩擦摩耗特性の改質法

目次
はじめに:トライボロジーとは何か
トライボロジーは「摩擦」「摩耗」「潤滑」に関する学問の総称です。
元々は金属同士の摺動(こすれ合う動き)が多く研究対象となっていました。
しかし近年は自動化機器や軽量化製品の普及、さらには省力・省エネの要求により、従来の金属材料に代わりプラスチックやゴムなどの高分子材料が多く使われるようになりました。
特に製造業の現場においては、軸受、歯車、シール、ライナー、ベルト、ワイパーといった摩擦部品の材料に高分子系の採用が年々増加しています。
こうした背景では、単なる「耐薬品性」「機械的強度」といった材料選定だけではなく、「摩擦摩耗特性」すなわちトライボロジー面での適合性を正しく見極めることが求められています。
本記事では、プラスチック・ゴムのトライボロジー基礎を解説しつつ、実際に現場で要求される性能(水準)を満たす材料選定や、摩擦摩耗性を向上させるための改質手法まで深堀りして解説します。
製造業でキャリアを積みたい方や、営業・購買(バイヤー)・サプライヤーの皆さんの実践に役立つ内容です。
プラスチック・ゴム部品にとってのトライボロジーの重要性
軽量化とメンテナンス性向上への貢献
部品点数の集約や可動部の小型化は製造業の永遠のテーマです。
金属に比べてプラスチックやゴムは軽量で設計自由度も高いため、自動車や産業機械、医療機器など幅広い分野での活用が進みました。
これらの材料は摩擦係数が低く、無給油運転や静音化が可能なものも多く、グリースフリーなどのメンテナンスフリー設計につながります。
省エネ・高効率化への寄与
摩擦が高いと、エネルギー損失となり効率が悪化します。
プラスチック・ゴム系のベルトやシール、ライナー類では摩耗への配慮が不可欠です。
また、モータなどの回転部品でもトライボロジー適正の違いにより省エネ性が大きく左右されるため新素材開発が激化しています。
不具合・品質問題の温床にならないために
プラスチック部品で最も多いクレーム原因のひとつが“異音(キーキー音)”や“寿命短縮”です。
ゴムもシール材やパッキンとして使用されることが多く、摩耗やシール性劣化による漏れ事故が発生するリスクを常に抱えています。
これは「摩擦摩耗特性の選定と評価」が不十分なまま材料決定が進行したことが多くの原因です。
プラスチック・ゴムのトライボロジー特性の基礎
摩擦・摩耗のメカニズム
プラスチックやゴム材料は、一般的に金属より柔らかく、弾性率が低いことが特徴です。
そのため「表面変形」や「粘着摩耗」が起きやすく、表面同士が溶着して削れてしまう現象(摩耗)や、摩擦発熱による性質変化が起こりやすいです。
ゴムは特に弾性回復力が大きいため、摩擦時のエネルギー損失が大きく(ヒステリシス損失)、これが高い摩擦線力や摩耗特性へ大きく関係します。
静摩擦と動摩擦の違い
プラスチックやゴムでは、止まった状態から動き始める「静摩擦係数」が、動き続けている「動摩擦係数」よりずっと高い傾向があります。
このため、例えばプリンターの紙送り部のような微小な往復動作機構や、乗用車ドア周囲のゴムシール部分で“ギクシャク”した動きや不快な異音が出やすいのです。
材料と接触相手の相関性
摩擦や摩耗特性は、材料そのもの(母材)の性質だけでなく、接する相手材料や潤滑状態、荷重、速度、温度、雰囲気(湿度、薬品)など、さまざまな使用条件により大きく変化します。
このため「推奨実績のある組み合わせ」を参照して材料選定することが一般的ですが、現場独自の条件では必ず“確認試験”が必要です。
表面状態と界面現象
プラスチックやゴムのトライボロジーでは、単純な化学構造だけでなく、表面の粗さや界面の化学反応、帯電状態など複雑な要素が絡み合います。
微細な異物や潤滑油の介在、または摩擦熱による軟化・変質など想定外の現象がしばしば起きるため、工場長や生産技術担当者にとっても「外観チェック」「摩耗量測定」の観点は非常に重要です。
摩擦摩耗特性を満たす材料選定の考え方
汎用プラスチック・エンプラ(エンジニアリングプラスチック)用途例
一般的な汎用プラスチック(PE、PP、PVCなど)はコスト重視ですが、耐摩耗性や剛性アップが求められる場合はエンプラ(例えばPOM、PA、PBT、PPS、PEEKなど)が採用されます。
用途が滑り軸受やカム、歯車等の場合、POMやPAをベースにした自己潤滑タイプの材料がよく選ばれます。
また、金属置換や高荷重耐性を狙う場合は、ポリアセタール(POM)や高性能PEEKなどが主流です。
ゴム材料ではNBRやEPDMが一般的ですが、摩擦応答性や耐熱・耐薬品性能を重視する場合はFKM(フッ素ゴム)やシリコーンゴム等が選定対象となります。
摺動(こすれ合い)部分の注意点
摺動箇所の基本設計指針は以下です。
– できるだけ平滑な表面
– 油分や異物が溜まりにくい構造
– 十分な支持面積を確保
特にプラスチックで重要なのは「相手金属部品への攻撃性(摩耗粉の発生や二次損傷)」です。
自己潤滑・耐摩耗性グレードを採用する、または摺動部のみ“ライナー”や“インサート”で補強するなどの配慮が実践例です。
現場実証による擬似評価(トライアル)は必須
カタログデータやメーカー資料には「摺動対象:鋼、荷重10N、速度0.3m/s」といった標準状態の比較データが多いですが、現場では負荷の繰返しや温湿度変化、潤滑油や異物の介在など、複雑なストレスが頻繁に発生します。
試作品や既存設備でのトライ実験、摩耗量や摩擦係数の定量評価を実際の動作条件で実施することを強く推奨します。
サプライヤー選定・バイヤー視点の現代的アプローチ
バイヤー(購買担当者)が材料を選ぶ際は、単に単価や納期の観点だけでなく、以下の点が重要です。
– 標準グレードへの自社向けカスタム対応可否
– 摩擦摩耗以外のスペック(耐候・色・溶着等)のバランス
– 品質異常の即時対応体制
– モールド(金型)や後加工との適合性
– SDGs観点(再生材活用、VOC発生量など)
そうした点から「総合ソリューション提案型サプライヤー」や、「評価サンプル出荷、現地立ち合いサポート」なども重視すべき現代の調達方針になります。
摩擦摩耗特性の改質手法と実践例
1. 材料内部への潤滑剤・充填材の添加
一般に、PTFE(フッ素樹脂)やシリコーンオイル、グラファイトなどのソリッド潤滑材を樹脂母材に混ぜ込むことで、摺動面への自己潤滑性を付与できます。
また、無機充填材(ガラス繊維、カーボンファイバ、ナノ粒子など)を添加して強度アップ+摩耗耐性を向上させている事例も多いです。
2. 外表面処理/コーティング
代表的なのがフッ素系樹脂コーティングや、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コートなどの薄膜表面処理です。
摩擦低減だけでなく離型性向上や耐薬品性の強化にも寄与します。
また、ゴム系ではPTFE被膜やガラスライニング、シリコーンコーティングなど複数の選択肢があります。
3. 部材形状の工夫(設計段階でのトライボ設計)
材料特性に頼るだけでなく、部品形状や肉厚、表面粗度の最適化で摩擦摩耗を抑制するケースも増えています。
とくに摩耗粉トラップ溝、エッジのR加工、ミクロパターンによる油膜保持効果など、設計者と現場作業者との連携がポイントです。
4. システムとしての潤滑環境整備
必要であれば給油方式やグリース保持部を追加することも考慮し、使用環境(気温変動や粉じん発生など)ごとの最適潤滑方式を選定することも忘れてはいけません。
5. 劣化要因への予防保全
摩耗や摩擦の問題は「使いつぶし」で発生するだけでなく、経年劣化や熱・紫外線・オゾンによる材料脆化もきっかけとなり得ます。
定期的なメンテナンス計画と、摩耗・変色・ひび割れの早期発見を日常点検のルーティンに組み込むことが、重大品質問題の未然防止につながります。
昭和的アナログ体質の現場をどう変えていくか
勘どころとトレンドの融合
昭和時代の製造業現場では「先輩の経験則」や「勘とコツ」に頼りがちな材料選定やメンテナンスポイントが多くありました。
現場の声や、音、臭い、摩耗粉の色や粒子感に熟練技能者が判断する様子は今でも日本の多くの工場で見られます。
そうしたアナログ的蓄積に、現代のデータドリブン(摩耗量の測定、AIによる異音解析など)、可視化技術(摩耗量のセンサー計測や画像解析)を組み込み、より効率的な材料検証・部品管理へ移行していくことが理想です。
新旧融合型プロセス改善事例
例えば摩擦音トラブルが発生した際、「異音現場でのパトロール聞き取り」+「摩擦音波形データのログ取得」、それをもとに材質・形状・表面処理を多面的に変更するループ開発手法などが実践されています。
購買・サプライヤーも現場参加型に
材料選びを価格交渉や重視データのみに頼るのではなく、現場の品質・生産エンジニアや、古参の作業者=“現場の目・勘”も巻き込むことで、トラブル予防や、阻害要因の早期抽出が図れます。
このアプローチは、サプライヤー(材料屋)にとっても“本当に意味ある提案”の機会となり、差別化戦略の一部です。
まとめ:真に要求性能を満たす摩擦摩耗対策とは
プラスチック・ゴムのトライボロジーは、材料科学・部品設計・生産現場・購買流通と多岐に絡み合った幅広いテーマです。
単なる摩擦低減や摩耗寿命アップだけでなく、製造現場における実々効的な検証サイクルや、アナログ的現場スキルとの融合、SDGsも見据えた材料選定や工程改善が今後ますます重要になってきます。
“選定・試験・改質・現場評価”というサイクルを高速回転できること、そして現場の「声」や「気付き」に耳を傾けられる組織文化を育てることこそ、製造業の競争力につながります。
現場で悩む方、これからバイヤー・サプライヤーとしてステップアップしたい方も、まずは基礎知識の深化と現場実践の融合を意識して日々の業務に活かしていただきたいと思います。
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