投稿日:2025年6月19日

実務に活かすための英文テクニカル・ライティングの基本徹底習得講座

はじめに:製造業に不可欠な英文テクニカル・ライティングとは

グローバル化が進む現代、製造業の現場では海外とのやりとりが日常茶飯事になっています。

その中で、英文によるテクニカル・ライティングの重要性はますます高まっています。

図面・仕様書・クレーム対応・調達バイヤーとの交渉・品質要求書の作成など、「英語で正確・簡潔に伝える力」は今や大手メーカーの現場でも必須のスキルです。

この記事では、実際の業務に直結するテクニカル・ライティングの基本を、「現場目線」で徹底解説します。

英語が苦手でも大丈夫。

要点をおさえれば、アナログな業界でもスムーズに英文ドキュメントが作れるようになります。

テクニカル・ライティングとは何か?製造業界で求められる理由

「説明上手」が命運を分ける現代のビジネス環境

テクニカル・ライティングとは、専門的な知識を持たない相手にも「誤解なく・正確に」技術内容を伝えるための文章技術を指します。

メーカー現場では、図面や手順書だけでなく、サプライヤーへの技術仕様依頼・海外工場への作業説明・海外バイヤーとの契約条件協議まで、文章のやり取りが発生します。

昭和的な「阿吽の呼吸」は世界では通用しません。

相手が誰で、どのようなレベルの知識・役割を持っているかを把握し、「正しく伝えて正しく理解してもらう」ことが、品質事故やトラブル、納期遅延の防止につながります。

製造現場の実感:「書く」「伝える」ことで業務効率と信頼性が劇的に変わる

私が工場長として現場を預かっていた頃、複数拠点のサプライヤーと英語で仕様書や品質基準を交わしていました。

「ちょっとの表現ミス」「根拠曖昧な一文」が数百万単位のコスト損失に直結する現実も見てきました。

責任ある立場になればなるほど、ドキュメントの品質=仕事の質となります。

テクニカル・ライティングを制する者は、グローバル調達や品質保証の現場でも絶対的な信頼を得ることができるのです。

英文テクニカル・ライティングの基本3原則

「三語原則」:Simple, Short, Specific(簡単・短く・具体的に)

日本語では「なんとなく」伝わるニュアンスが、英語では誤解や齟齬のもとです。

英文テクニカル・ライティングでは「Simple(簡単) Short(短い) Specific(具体的)」が鉄則です。

一文は15〜20語以内、主語と動詞は明確に。

曖昧な表現や、文脈頼みの表現は避けましょう。

【例】
誤:Please work carefully so as not to make any mistakes.
正:Do not make mistakes.

冗長な修飾語より、「何を・どうする」を明確に書くことが極めて重要です。

「5W1H」の明記:責任範囲を定義づける

現場指示や品質問題のレポートでは「Who, What, When, Where, Why, How」を一貫して明記します。

日本語特有の「主語が抜ける」癖は絶対にNG。

誰が何をいつまでに、どの方法で、なぜ?を常に明確にします。

英語の文章構造(SVO: 主語・動詞・目的語)に慣れることで、論理的な流れが身につきます。

曖昧な単語・表現の回避:昭和的現場用語に要注意!

昭和の現場では「よしなに」「早急に」「至急」などの抽象ワードで意図が伝わっていましたが、英語では通じません。

「as soon as possible」「quickly」も正確な指示ではありません。

数量・期日・範囲・責任範囲はAlways Digitize(必ず数値化)を意識しましょう。

【例】
Bad: Please send it as soon as possible.
Good: Please send it by June 10th, 18:00 JST.

現場で役立つ!英文ドキュメントの実践テンプレート

調達・購買の現場:Inquiry(引き合い)メール例

Subject: Request for Quotation – Part No. 12345

Dear Mr. Brown,

We would like to request a quotation for the following item:

Part No.: 12345
Quantity: 500 units
Required delivery date: July 20, 2024
Required specification: See attached drawing.

Please send us your quotation, including unit price and lead time, by June 10, 2024.

Best regards,

(署名)

品質トラブル報告(Non-conformance Report)の例

Subject: Non-conformance Report – PO#45678

Dear QC Manager,

We found a dimensional defect in the delivered parts (PO#45678).

Details:
– Defect: Out-of-tolerance at hole diameter
– Specification: Ø10.0 ±0.05 mm
– Measured: Ø10.17 mm (5 samples out of 20)

Requested action:
– Please investigate the root cause.
– Please propose corrective and preventive actions by June 15, 2024.

Sincerely,

(署名)

英文仕様書の記述Tips

– Use consistent units (mm, kg, sec).
– Define abbreviations and technical terms.
– List requirements in bullet points for clarity.
– Always include revision date and author.

世界標準へ脱皮するための「昭和的表現」の落とし穴と対策

「先方の意向を汲んで」vs.「合意事項のEvidence化」

昭和的な製造業文化では「お互い様」「忖度」「根回し」を重視しますが、海外パートナーとの合意形成は「文章証拠」がすべてです。

記録・エビデンスをしっかり残す英文書類の作成力は、トラブル時に自社を守る最大の武器となります。

案件ごとに議事録・議論の経過・修正履歴を淡々と「英語」で書くことを習慣化しましょう。

「カタカナ英語」のわなを避ける

現場では「トラブる」「アサイン」「フィックス」などカタカナ英語の乱用が目立ちますが、これらは世界標準では異なる意味や誤解を招く場合があります。

ネイティブスピーカーが使う本来の意味と現場用語のギャップに注意し、本物の英語表現を調べて書く習慣をつけたいところです。

例えば「NG(No Good)」は和製英語、英語圏では「defective」「non-conforming」が正しいです。

自分でできるテクニカル・ライティング練習法

現場ドキュメントを「英訳」し練習する

現場の日報・連絡事項・不良報告書など実際に使用している日本語ドキュメントを、まず自分で英訳してみましょう。

Google翻訳やAI翻訳も使いながら、構造や単語選びにも工夫をこらしましょう。

できあがったら、必ず主語・述語・数字記載・時制が正しいか再チェック。

プロの書き方を徹底的に模倣する

海外向け製品マニュアルやISOの公式資料には、極めて論理的・簡潔に記述されたテクニカル・ドキュメントがあふれています。

信頼できる資料を模写し、定型表現や構文パターンを「型」としてインストールしましょう。

仲間とPeer Review(査読)を行う

一人で書くだけでなく、他部門や英語が得意な同僚に英語文書を見てもらうことで、想定外の間違いや曖昧表現に気づくことができます。

「伝わるかどうか?」を常に第三者目線でチェックしましょう。

バイヤー・サプライヤーの心理を左右する「伝え方」の真髄

バイヤーは何を見ているか?

世界の大手メーカーでは、バイヤーは「英文仕様書」「契約書」「不具合報告」など膨大なドキュメントに目を通しています。

論理構造がクリアな英文を書くと「このサプライヤーは信頼できる」「プロセスがしっかりしている」と評価されやすくなります。

逆に、拙い英語・省略や誤解を生む表現が多いと、毎回のチェックに手間が増え、ビジネス上の信頼構築が難しくなります。

サプライヤーこそ「伝達力」が命

下請け・協力会社でも、英文ドキュメントの品質が高ければ、上位バイヤーからの評価は一変します。

単なる価格競争に陥らず、「正確・確実・わかりやすい文書提出」のできるサプライヤーは、付加価値が高まり提案力も強くなります。

英文テクニカル・ライティング今後の展望:AI時代の新たなスキルとは

AI翻訳やChatGPTなどテクノロジーの進化で、簡単な文章は自動生成できるようになっています。

ただし、AI翻訳は現場用語や業界特有の文脈、責任範囲の明示など、人間が制御すべき項目はいまだ多いです。

これからの現場人材には、「AIをベースに、最終的なロジック・構造・数値記載・責任関係の調整」を自分自身で行える力が求められています。

「AIの出力を正しく活かすための最終チェック能力」「自社基準・顧客要件への適合性や現場の実情を加味した英文校正力」が、グローバルメーカー現場の新しい競争軸となるでしょう。

まとめ:明日から実践できる英文テクニカル・ライティングへの第一歩

この記事では、製造業の現場で必要とされる英文テクニカル・ライティングの真髄と実践ノウハウを徹底的に解説しました。

大切なのは、
・Simple, Short, Specificの原則
・5W1Hと数値記載の徹底
・現場独特の曖昧表現や和製英語を避けること
・「Evidenceとして残せる」英文ドキュメントの意識
・AIと人間のハイブリッド活用

まずは、日常使っている日本語ドキュメントを英語でまとめることから始めてみてください。

そして、サプライヤー・バイヤー問わず「伝わる英文」を武器に、グローバル製造業の最前線で信頼と成果を勝ち取りましょう。

製造業での経験を積む皆様が、新しい知識を“現場で形にする力”を身につけ、次世代の製造業をリードしていかれることを心から願っています。

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