投稿日:2025年6月23日

DRBFMの進め方と信頼性設計への効果的な応用方法を習得する演習付きノウハウ

はじめに:DRBFMと信頼性設計の重要性

製造業の現場では、製品開発や量産化において「いかにして不具合やトラブルを未然に防ぐか」が永遠の課題です。

開発・設計・調達・生産・品質管理、すべてのセクションで「信頼性」が問われています。

その鍵となる手法が「DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)」です。

DRBFMは、トヨタ自動車の信頼性技術者が提唱した手法で、設計や仕様変更などに潜むリスクを徹底的に洗い出し、対策を打つためのフレームワークです。

今回は、現場歴20年以上の目線から、DRBFMの具体的進め方や信頼性設計への応用ポイント、演習を通じてノウハウとして「自分のもの」にする方法を解説します。

DRBFMとは何か?従来のFMEAとの違い

DRBFMは「Design Review Based on Failure Mode」、すなわち「故障モードに基づく設計レビュー」と訳されます。

従来のFMEA(故障モード影響解析)が網羅的にリスクを拾い出すアプローチであるのに対し、DRBFMでは、「変更点」と「変更によって生じる局所的なリスク」に鋭くフォーカスする点が特徴です。

FMEAが「漏れなく、多面的な分析」ならば、DRBFMは「深く、掘り下げる分析」とも言えます。

製造業あるあるですが、現場ではいまだに昭和的な「経験則」でトラブル予防が語られがちです。

一方で、ある程度自動化された現代の製造業でも、「ほんの些細な設計変更が大事故を引き起こす」例は絶えません。

そこで、DRBFMが現代の信頼性設計に不可欠な武器となるのです。

DRBFMの具体的な進め方

DRBFM実施の流れは、次の3ステップに集約されます。

1. 変更点の把握と背景因子の可視化

まず、設計変更、仕様変更、部材の切り替え、工程変更など、「何が変わったのか」を徹底的に明確化します。

ポイントは、「だいたいこんな感じ」の抽象的なまとめではなく、設計書や図面、プロセスフロー、部品表などを使い、現物・現場・現実(いわゆる三現主義)で具体的に把握することです。

特に、設計者本人だけでなく、実際にものを扱う現場責任者・工程担当者・購買担当・サプライヤーなど多角的な視点が不可欠になります。

2. 変更点に潜む「壊れやすさ」を深堀り(根掘り葉掘り分析)

DRBFM最大の肝はここにあります。

変更点一つひとつについて、「どう壊れるか、その局所要因は何か?」を関係者で徹底討議します。

単なる箇条書き分析に終始せず、失敗事例や過去トラブル、設備・材料・作業環境の変化点、サプライヤーの能力など「ヒューマンファクター」まで掘り下げることが大切です。

バイヤーや購買担当の立場では、サプライヤー側の工程、部材の特性まで踏み込み、「何が不得手なのか」までディスカッションすることで、自社の設計をより強いものにできます。

3. 洗い出したリスクへの対策とレビュー

発見した潜在不具合や故障モードごとに、「検証方法(試験)」「対策(仕様見直し、工程変更など)」「評価基準」を設定します。

この時、モノづくり現場ならではの「現物・現場での確認」を絶対に省略しないことが成功の秘訣です。

わずかなバラツキや組み付け誤差が重大不具合につながるため、現場力を最大限に活かすことが求められます。

現代のIoT工場でも、仕組みや自動計測に頼りきるのではなく、「異常値にどう気づき、何をアクションするか」という現場目線の運用が必須です。

DRBFMを信頼性設計へ効果的に応用するポイント

DRBFMは単なる分析ツールではありません。

開発段階から量産、サプライチェーン上流から下流まで、組織全体で「信頼性思考」を定着させるドライバーです。

現場で成果につなげるための主な応用ポイントを挙げます。

設計変更・調達先変更には必ずDRBFMを組み込む

特にバイヤーや購買担当者は、コストダウン交渉やサプライヤー変更時に「安かろう悪かろう」を避けるため、DRBFMによるリスク洗い出しをルーティン化しましょう。

この仕組みがあることで、経営層・開発部門も安心して変更判断できます。

DRBFMアウトプットをECR(設計変更依頼)やサプライヤー管理に活用する

DRBFMで抽出されたリスク・対策リストは、単なる議事録で終わらせてはいけません。

具体的にECRの承認条件や量産立ち上げ判定に使ったり、定期的なサプライヤー評価の資料根拠とすることで、現場力向上に直結します。

サプライヤーも「自分たちの弱点」が可視化されることで、継続的な品質改善(QCサークル活動など)がしやすくなります。

現場の暗黙知を形式知化し、教育研修に使う

DRBFMの討議過程や失敗事例は、そのまま人材育成・OJT教材として優れた材料です。

新入社員や若手バイヤーには、先輩の失敗談やトラブル予兆を題材にした疑似体験演習が非常に効果的です。

現場世代交代が進む中、「勘と経験だけ」の継承から一歩抜け出すチャンスになります。

演習でノウハウを自分のものにする(実践演習例)

最後に、DRBFMの考え方と活用ノウハウを身につけるための具体的な演習例をご提案します。

ケーススタディ(例題):サプライヤー変更による影響分析の練習

以下のシナリオを想定し、関係者ロールプレイ形式でDRBFM演習を実施します。

【ケース例】
・量産工程の外注部品(樹脂製カバー)について、現行サプライヤーからコスト競争力の高い新規サプライヤーへ切り替え予定
・設計は同一、材料グレードも同等品だが、製造方法・成形機が異なる

【演習の進め方】
1. 参加者をそれぞれ(設計担当・購買担当・新規サプライヤー・品質管理・現場オペレーター役)に分ける。
2. 「変更点」の明確化:材料ロット、成形条件、寸法公差、梱包仕様、人員スキルなど、現実に起こりうる変更点を書き出す。
3. 「壊れやすさ」の根掘り:変更点ごとに、「どんな故障や不具合が発生しうるか」を挙げ、過去トラブルやヒヤリハットを引き合いに議論。
4. 「対策」の討議:不具合予防のための受入検査、サンプル評価、現場立ち会いの方法を考案し、現場視点で実現可能かどうかを精査する。
5. まとめとして、実践時に「何が壁となるか」「今足りていない情報やアクションは何か」を洗い出す。

このような演習を年度ごと、もしくはプロジェクトごとに繰り返すうち、DRBFMの考え方や「リスクを徹底的に可視化する嗅覚」が身に付きます。

まとめ:DRBFMは現場の武器、信頼性設計は全員参加

DRBFMは、設計や調達、生産現場が「一体」となり、リスクを見逃さないための最強ツールです。

現場の知見やサプライヤー現場力を吸い上げることで、設計・調達・生産管理・品質管理すべての力が底上げされます。

特に、バイヤーやサプライヤー側の方が「相手(バイヤー)はどんなリスクを気にしているのか」「どうやって信頼性を確保しているのか」を理解できると、自社の提案力や品質アピールも格段に高まります。

DRBFMを単なるプロセスで終わらせず、現場や組織に浸透させ、「日本の製造業に新しい地平線を拓く」ために、ぜひ活用してみてください。

信頼性設計は現場全員が担うもの――その意識こそが、未来のモノづくりを変えていきます。

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