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技術暗黙知を見える化する言語化手法と設計ノウハウ共有術

目次
はじめに:日本の製造業に根付く「技術暗黙知」問題
日本の製造業は、長年にわたり現場の知恵と熟練者の技術力によって支えられてきました。
多くの現場では、口伝や現物を通して受け継がれる「技術暗黙知」が生産性や品質を支える原動力となっています。
しかし、労働人口の減少や世代交代が進み、ベテランだけに依存した技術伝承の限界が見え始めています。
ここ数年ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれていますが、実際には昭和のアナログ文化が根強く残り、「あの人にしか分からない」「現場で見て覚えろ」といった属人化が今なお課題として現場を苦しめています。
本記事では、この課題をクリアし、技術暗黙知を言語化・見える化するための実践的な手法と、設計ノウハウを共有するしくみについて、現場の視点で深く掘り下げていきます。
バイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーの立場でバイヤーの目線を知りたい方にも役立つ内容です。
技術暗黙知とは何か?現場に根付く“匠の勘”の正体
暗黙知とは
暗黙知とは「言葉や数値では簡単に表現できない、経験や感覚に基づく知識や技術」を指します。
例えば、
– 機械音の微妙な違いから不具合の兆候を察知する
– 指先の感覚で締め付けトルクの最適値を感じ取る
– 図面には書かれていない現物ならではの加工コツ
こういった知識や技術は“阿吽の呼吸”とも表現され、「現場で体得するもの」「経験しないと分からない」とされてきました。
なぜ技術暗黙知が問題になるのか
技術暗黙知は企業に独自の強みをもたらしますが、言語化・可視化されていないために、次のような課題を招きます。
– ベテラン退職=技術流出リスク
– 作業標準化が進まない
– 多能工化が難しい
– 品質バラツキの温床
– 外部サプライヤーとの意思疎通が困難
とくにグローバル展開やサプライチェーン連携が求められる現代では、技術暗黙知の“見える化”は不可避の課題です。
技術暗黙知を言語化・見える化する5つのステップ
暗黙知の見える化は単なる手順書作成ではありません。
現場の技術を体系的に言語化し、共有・伝承可能なカタチへ昇華することが重要です。
以下に代表的な5つのステップを紹介します。
1:暗黙知を洗い出す「観察と対話」
暗黙知を抽出するためには、現場の作業工程を丹念に観察し、ベテランへのヒアリングを深く行うことが有効です。
– 「なぜその順番なのか?」
– 「この作業で気をつけていることは?」
– 「現場でよくあるミスや、ミスしないためのコツは?」
といった問いを重ねることで、本来なら表現されずにいた些細な手技や感覚をあぶり出します。
また、実作業を録画し、再生しながら当人に作業の“キモ”を解説してもらうとより有効です。
2:作業工程の「共通言語」を作る
現場ごと、人物ごとに微妙に異なる表現や呼称を「共通言語」に揃える必要があります。
– 用語の定義を整理・統一する
– 図表やイラストの活用
– 動作・手順ごとの基準値や計測方法を言語化
こうすることで、ベテランだけに通じる“隠語”を排除し、新人や外部人材でも理解できる形になります。
3:ストーリーテリングで「ノウハウの本質」を伝える
単なる説明書や写真だけでは、暗黙知のニュアンスはなかなか伝わりません。
“なぜこの作業が必要なのか”“過去にどんな失敗があったのか”といった業務ストーリーを加え、「なぜ」「どうして」に答える工夫が不可欠です。
エピソードや失敗談を交え、「この一手間が、品質トラブルの未然防止や歩留まりにどう効いているか」を立体的に示しましょう。
4:デジタル技術でノウハウを可視化・共有する
現場目線の言語化が出来たら、デジタル技術を活用して共有と活用を図ります。
– 動画マニュアル
– パワーポイントによる手順書
– AR(拡張現実)で現場へのオーバーレイ説明
– 熟練者の動作データをIoTセンサーで数値化
– 社内wikiやノウハウ管理システム
アナログな手書きのノートや口伝だけでなく、社内外の誰もアクセス&トレースできる仕組みに転換しましょう。
5:現場でのリマインドとフィードバックループ
言語化・見える化したノウハウは「現場で使い倒す」ことが成功の鍵です。
– 実作業時にすぐ活用できるマニュアルやポスター掲示
– 新人教育やOJTでの活用
– 定期的な現場フィードバック(なにが分かりづらいかの声取り)
形骸化させず、現場で日々アップデートされるリマインドループを設計することが大切です。
設計ノウハウ共有のための仕組みづくり
技術暗黙知の言語化は、設計現場でも重要課題となっています。
設計部門では製図や仕様書だけでは伝わらない“考慮事項”や“こだわりポイント”が埋もれがちです。
設計ノウハウの共有において気を付けるべきポイントをいくつか挙げます。
ナレッジベース構築:トップダウンとボトムアップの融合
設計ノウハウ共有には、トップダウン(公式な技術標準やベストプラクティスの制定)と、ボトムアップ(現場設計者の声や工夫の吸い上げ)の両面が必要です。
– チェックリストや設計レビューフォーマットを共通化する
– 言語化された“失敗事例集”や“ちょっとした工夫のタネ”をデータベース化
– オープンコミュニケーションを促す場(設計者同士の事例共有会など)
「こんなハマりポイントがあった」「加工現場からこの指摘が来た」など、小さな現場知の積み重ねが組織の競争力に直結します。
サプライヤーやバイヤーとの知識の壁を壊す
特にサプライヤーとバイヤーの関係では、設計意図やノウハウが十分に伝わらず、QCD(品質・コスト・納期)悪化やコミュニケーションの齟齬につながりがちです。
– 3Dモデルや動画解説で補足情報を伝達
– サプライヤーレビューにて設計意図や難易度を直接ディスカッション
– 誤解を防ぐ“極限まで丁寧な仕様書”の作成
– サプライヤーからのフィードバック窓口の設置
デジタルツールや共有プラットフォームも積極利用しましょう。
デジタル化とアナログ文化の壁-両立の工夫
「現場は昭和の感覚、設計は20XX年」となっていないでしょうか。
デジタル技術は強力な武器ですが、現場にはアナログ文化も根強く残っています。
– 現場作業者でも直感的に使えるUI(ユーザーインターフェイス)の工夫
– 紙とデジタルのハイブリッド運用(QRコード付き作業指示書など)
– 年次・職種を超えた“使い方勉強会”の常設
技術伝承が分断されないよう、デジタルとアナログの良さを活かした“つなぎ役”づくりが重要です。
暗黙知“見える化”成功事例:現場の工夫3選
参考までに、私がリアル現場で実際に見たり関与したりした「暗黙知見える化」の成功事例を3つ紹介します。
1. 機械操作の熟練手順を1分動画で蓄積
ある工場では、作業者のコアな調整方法を短い動画(1分以内)にまとめ、社内ポータルで全員が見られるようにしました。
– 各作業ごとに“ベストオペレーション”動画を収集
– 失敗例やNG集もあわせて別動画として保存
新人は動画を何度でも見直せ、ベテランも自分の手技と比較できる“気づき”の場に。
現場のバラツキが減少し、教育期間も大幅短縮できました。
2. 失敗事例集の“見える化会議”
品質管理部門で定期的に「最近の失敗事例・ヒヤリハット」をみんなで持ち寄る場を設置した例です。
– 名もなき失敗や、図面指示モレの気づきをカジュアルに共有
– 「こうしたら防げた」「この工夫で品質安定した」という具体策を言語化
“失敗を責めない場”にすることで現場から建設的なノウハウが集まり、形骸化しがちなルールも現場目線で改善。
3. 新旧世代間のペアリングOJT
ベテランと若手をペアにして、熟練ノウハウの伝承と記録化を同時実施。
若手が「なぜこうやるのですか?」と質問するたびに、ベテランが暗黙知を解説。
その場で若手が要点を“自分の言葉”でまとめてナレッジDB(データベース)化しました。
お互いの気づきが増え、ノウハウが“現場目線”と“若手目線”の両方で言語化されます。
おわりに:技術暗黙知の見える化は現場DXの第一歩
製造業の未来は、現場の技術力と設計ノウハウの言語化・共有にかかっています。
属人的でブラックボックス化した“昭和の職人芸”を、令和時代の持続可能な“社内資産”に転換する仕組みづくりが急務です。
その現場の実践こそが、多能工化・グローバル対応・品質安定・新規バイヤー/サプライヤー開拓といった市場競争力に直接つながります。
「言葉にできない技術」を「見える/伝わる言葉」に換えるため、現場の観察・問いかけ・共通言語化・デジタルツール活用・継続的な改善サイクルをぜひ推し進めてください。
未来のものづくり現場が、きっと大きく変わります。
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