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品質費用COQの指標で最適な検査レベルを導く意思決定

目次
はじめに:なぜ今、品質費用(COQ)が重要なのか
品質への投資は、製造業において永遠のテーマです。
品質を高めることはもちろん重要ですが、検査や管理に多大なコストをかけてしまうと、全体の利益率が圧迫されてしまうというジレンマもあります。
一方で、不良品の流出による顧客クレームやリコール、ブランド毀損のリスクは、無視できるものではありません。
このような背景から、「品質費用(Cost of Quality=COQ)」の考え方が、今再び注目されています。
昭和の時代から根強く続いてきた“付加価値のない検査至上主義”から一歩踏み出し、現代のデータドリブン経営手法へ移行するためにも、COQの計測と活用は非常に有効です。
本記事では、COQの基礎から、最適な検査レベル(検査工程や品質保証体制の水準)を導き出す実践的アプローチまでを、プロの現場視点から解説します。
製造業における品質費用(COQ)の基本構造
COQの4つの分類と主な内容
まずCOQは、単なる「検査コスト」だけでなく、企業活動全体で発生する品質に関連するコストを4つに大別できます。
- 予防費用(Prevention Cost)
- 再発防止、設計ミス対策、作業標準化、教育研修など、事前に不良を発生させない工夫・活動のコスト
- 評価費用(Appraisal Cost)
- 現物検査、出荷前検査、監査、測定機器導入・維持など、「品質を確認する」ためのコスト
- 内部失敗費用(Internal Failure Cost)
- 工場内で発見された不良(手直し・再作業・廃棄・ライン停止損など)
- 外部失敗費用(External Failure Cost)
- 出荷後に市場で発見された不良(クレーム対応、リコール、延長保証、ブランド毀損)
COQを「見える化」することの意味
アナログな現場では、検査や不良のコストが経費として漫然と計上されていることが多いです。
実際には、膨大な検査人員、必要以上に手厚い予防策、手直し作業の二重工程化など、「どこにどれだけの品質コストがかかっているか」を把握しきれていない企業がほとんどです。
COQを「見える化」することで、品質活動のムリ・ムダ・ムラを特定しやすくなり、経営層の意思決定をデータに基づいて合理的に進められるようになります。
最適な検査レベルの意思決定プロセス
現場によくある“勘・経験・根性”型の検査設計の課題
昭和の時代から続く「失敗したくないから、念のため全数検査」「熟練者が見ているから安心」「現物主義」という現場文化は、今も強く根付いています。
しかし、高度化した製品や複雑化するサプライチェーンにおいては、
- 検査すればするほど真の不良ゼロに近づく(と思い込んでしまう)
- 人だけに負荷が集中して属人化してしまう
- 検査工程自体がボトルネックやコスト吸収源となってしまう
といった問題が生じます。
COQを意思決定ツールとして使う手順
COQの考え方を取り入れるだけで、検査レベルの最適化へ一歩近づくことができます。
プロの現場が実際に取り組んできたステップは、以下の通りです。
- 各プロセスの品質費用(予防・評価・内部失敗・外部失敗)を、具体的な金額や工数で算出する
- 現状の検査レベル(例えば抜取検査割合や検査工程数など)に対するCOQ全体値と、生産性データを可視化する
- 導入を検討している改良案(たとえば抜取率を減らす、工程間の自動化検査装置を増設、デジタル監視やAI活用など)ごとのCOQをシミュレーションする
- COQ総量が最小となる検査・品質保証体制がどこかを割り出す
- 経営層や現場リーダーに、データに基づいた意思決定材料として提示する
製品・工程特性の違いを考慮した最適化のポイント
検査の最適レベルは、業界・製品・工程によって大きく異なります。
例えば、命に直結する自動車や医療機器と、日用品や部品のように二次利用可能な製品では、許容される不良ゼロレベルや検査密度が違うのが当然です。
また、サプライヤーへの外注比率が高い場合、納入先毎の品質フィードバックループや検査役割の分担調整も不可欠です。
現場目線では、「自社で全数検査するよりも、相手先(もしくはサプライヤー)が最初から品質不良を防げる体制作りに投資するほうが、COQを低減できる」パターンも多いです。
COQ活用で失敗しない!よくある落とし穴と回避術
数値の見落としがちなポイント
COQを導入する現場でよく起こる落とし穴があります。
- 直接部門コスト(検査員の人件費や材料廃棄)しか集計せず、間接部門(管理、設備償却、教育費用など)はノーカウントにしてしまう
- 外部失敗費用(ブランド毀損や失われた機会損失)が定量化できず、十分な危機感を持てなくなる
- 「手戻りコスト」のうち、再発防止のための教育やルール改訂業務などが集計漏れになってしまう
これらを避けるため、社内での独自定義だけでなく、「他社やグローバル水準」と比較できるフォーマットを選定することが重要です。
現場浸透を妨げる“人”の壁にどう向き合うか
現場では「今までのやり方が一番安全」と感じているベテランや、「数字になじみが薄い」技術系スタッフも少なくありません。
この壁を越えるためには、数字や指標の“見える化”だけでなく、
- 「なぜCOQに取り組むのか」「何が変わるのか」を社内説明会などで丁寧に伝える
- 1つでも自部署の“勝ちパターン”(たとえば、抜取率変更で工数20%減、手戻りコストが30%減など)をつくり、実績ベースで納得してもらう
ことが定着の近道になります。
アナログ現場からDXへ──COQ×デジタルの新時代
DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入とCOQのシナジー
ここ数年、検査や品質管理工程にもAIやIoT、画像解析等が急速に導入され始めています。
デジタルデータによる品質情報の蓄積により、手作業では見落としがちな“不良傾向の早期発見”や、“検査記録のトレーサビリティ強化”が実現できます。
これによって、COQのうち「評価費用(検査労務費)」は削減される一方、「予防費用(データ解析や工程改善)」への投資比率が高まる傾向が出てきます。
つまり、「検査工程を増やせばよい」の時代から、「工場全体の設計レベルで品質を作り込む」マネジメントへ移行するのです。
現場のプロ視点:デジタル活用の成否は“課題設定力”がカギ
自動化ツールやAI活用も、きちんとCOQの可視化・最適化ロードマップが描けていなければ、単なる“高いオモチャ”止まりになるリスクもあります。
重要なポイントは、
- 「どの不良を、どこで、どう発見・検知したいのか」
- 「COQのどの項目が減ればインパクトが最大になるのか」
を明確にすること。
現場主導型で課題を洗い出し、点ではなく線で効果を狙う推進体制が求めされます。
まとめ:品質現場の次世代バイヤー・サプライヤーに必要な視座
COQは、目先のコスト削減策でも、ただの品質活動数値化手法でもありません。
「検査をやればやるほど安心」ではなく、「品質全体でいかにロスなく、不良をゼロに近づけるか」という経営的意思決定を支える“武器”です。
最後に、これからのバイヤー(購買担当)、サプライヤー双方に求められる品質経営の視点をご紹介します。
- COQで定量化する力=「通算でどこまで投資し、どこでコストカットできるか」まで説明できるプロセス思考
- 現場・経営層など立場の違う人たちをつなぐ“翻訳者”としてのファシリテート能力
- 部分最適から全体最適、「ゼロイチ発想(ラテラルシンキング)」で変化をもたらすアイデア提案力
品質費用指標を味方につけ、最適な検査レベルを自律的に設計できるプロ・組織こそが、激動する市場で信頼を勝ち取ることができると確信しています。
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