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航空輸送のセキュリティ強化による出荷拒否を避けるRA/Known Shipper対応

目次
はじめに:加速する航空輸送のセキュリティ強化
現代のグローバルサプライチェーンにおいて、航空輸送は迅速かつ確実な物流手段として欠かせないものです。
しかし、ここ数年でその重要性とともに厳しくなっているのが「航空輸送におけるセキュリティ対策」です。
テロ対策の強化、国際間の規制整備により、かつては黙認・慣れ合いで通ったアナログ現場の運用が大きく変化しています。
特に日本国内のメーカーやサプライヤーから「出荷は完了したはずなのに空港で貨物が止められた、場合によっては返送された」といった報告が頻発し、その裏にはRA(規制代理人)やKnown Shipper(公認出荷者)といった新たなルールが影響しています。
このセキュリティ強化の流れと正しく向き合い、スムーズな航空輸送を実現するための実践的なポイントを現場目線で徹底解説します。
航空輸送におけるセキュリティ規制の基本
航空貨物のセキュリティとは何か、その根底にあるのはテロ対策です。
航空機に積まれる貨物に爆発物や危険物が紛れ込むのを防ぐため、国際民間航空機関(ICAO)や日本の国土交通省(MLIT)は年々規制を厳格化させています。
この流れのなかでキーワードとなるのが
・RA(規制代理人、Regulated Agent)
・Known Shipper(公認出荷者)
の二つです。
どちらも「信頼できる出荷・取扱体制が構築されている事業者」を認定・登録し、その貨物についてはX線検査を省略したり、優先的に扱うことで物流全体の流れを効率化しつつ、セキュリティを担保しようという仕組みです。
逆に言えば、この体制に”非対応”である場合、追加検査や最悪の場合は輸送拒否(出荷拒否)となるリスクが付きまといます。
出荷拒否される具体的な事例
例えば、以下のような事例が相次いでいます。
・X線・開封検査に非協力的だったため、積載拒否
・出荷者情報・パッキングリストの記載ミスによる遅延
・RA/Known Shipper未登録貨物として空港で別検査指示→時間切れで輸送不可
いずれも「ちょっとした抜け漏れ」が即座に重篤なトラブルへ発展するリスクがあるのです。
RA/Known Shipperとは何か?現場のプロが分かりやすく解説
RA(Regulated Agent:規制代理人)
RAは「国土交通省の審査をクリアした、セキュリティ管理体制の整った貨物取扱業者(主にフォワーダー等)」です。
RAに認定される事業者は以下のような義務を持ちます。
・出荷者の情報管理と本人確認
・貨物の安全管理(不審物混入防止)
・関係文書の保存と定期点検
RA経由で出荷された貨物は、”前段階のセキュリティ管理が担保されているもの”と判断され、スムーズに空港に搬入されます。
Known Shipper(公認出荷者、KS)
Known Shipperはメーカーや商社、サプライヤーなど「貨物の出発点となる出荷者」が独自に認定を受ける制度です。
KSに認定される条件は
・出荷施設へのアクセス管理(誰が貨物に触れるのかを厳格に管理)
・貨物パッキング、保管中のセキュリティ対策
・作業従事者の定期的な教育
・貨物追跡・管理体制の整備
などです。
KSとして登録された事業者から出荷され、RAを経由する貨物は、空港で”既に信頼できる出荷元の管理がなされている”と見なされて取り扱われます。
航空輸送現場のアナログ慣習と最新セキュリティルールのギャップ
日本の製造業、とりわけ伝統ある大手メーカーや日本独自の下請け構造を持つ現場では、「とりあえずルールに形式的に従う」「輸送は物流会社さんに丸投げ」といったアナログな風習が未だに根強く残っています。
例えば
・パッキング作業中に作業者がツールや私物を管理せず貨物のそばに残してしまう
・輸出用書類がいつも”誰かの記憶”や”ローカルExcel”に依存
・現場作業員がセキュリティ教育を受けていないまま、重要貨物の取り扱いに従事
といった場面が珍しくありません。
こうした運用は、海外の先進的な競合メーカーやサプライヤーと比べ、大きなリスクとなっています。
なぜ今、厳格なKS/RA対応が求められるのか?
世界規模で進むサプライチェーンの透明化と、国際的なセキュリティ強化の潮流が背景にあります。
アジア圏の一部では、過去に貨物テロや危険物混入事件が発生したこともあり、日本国内でも空港での持ち込み検査やエビデンス提出要求が厳しさを増しています。
また米国やEUを最終仕向地とする場合、これらの法令(例:TSA/米運輸保安局規則、EU2021/255号など)を順守しなければ容赦なく積載拒否・返送、ひいては顧客・ビジネスロスに直結するためです。
RA/Known Shipperの実践運用ポイント:現場目線で解説
1. サプライヤー・バイヤー双方の意識改革が必須
多くの現場で見落とされがちなのが「サプライヤー側(出荷者)の意識」です。
バイヤーから預かった貨物でも、実際に現場でどのようにパッキングがされ、誰が携わっているか、最終エビデンスまで遡れなければ機械的にNGとされるケースが増えています。
製造工程や検査工程で扱う管理台帳、荷受伝票、出荷者情報の一元管理—「いつ・誰が・どの商品を・どのようなプロセスで出荷したか」のトレーサビリティを徹底しましょう。
2. 貨物のセキュリティ教育を現場に徹底
「出荷エリアでは、私物や不要な道具を絶対に貨物の近くに置かない」
「作業に関与する全員がRA/KSのルール・意味を理解し、マニュアルを守る」
これらは基本中の基本です。
月例の教育・訓練の場を設け、現場リーダーが定期的に指差し確認・実地テストを実施するのが望ましいでしょう。
3. 書類・情報管理のデジタル化推進
現場の抜け漏れ・記載ミスは深刻な遅延要因です。
RA/KS関連の書類・パッキングリスト・出荷管理情報をシステムで一元管理し、ヒューマンエラーを最小限にしましょう。
万一トラブルが発生した場合、「誰の、どの工程で」問題が起きたか即座にさかのぼれる体制が求められます。
4. フォワーダー・物流会社との密な連携
RA資格を持つフォワーダーは、日々のセキュリティ情報や規則改訂の最前線にいます。
逐次、規制のアップデートや具体的な現場ルールの最新情報を受け取り、即社内の業務フローへ反映する体制を築きましょう。
古い感覚で「物流会社さん任せ」はもはや通用しません。
5. 体制構築のための投資と説明責任
セキュリティ強化対応には、初期投資(設備、教育、システム化など)が避けられません。
上層部へ「出荷拒否やビジネス損失の潜在リスク」を数値で見える化し、コスト対効果を説明。
現場の“言い伝え”や属人的運用から脱却し、標準化・マネジメントシステム化(ISO等)を推進しましょう。
サプライヤー・バイヤー双方に求められるラテラルシンキング
従来、「バイヤーとサプライヤーの関係」はコストや納期、品質の視点で語られがちでした。
しかしセキュリティ規制は、いわば「両者が同じ立場で透明性を持ち、サプライチェーン全体のリスクを平等に負う」新しいパラダイムです。
たとえば
・新規のサプライヤー開拓時は、RA/KS取得状況や現場の安全管理体制も必ずチェック項目に
・全ての貨物に「誰の責任でどのセキュリティプロセスを経たか」を記録し、定期的なレビューをバイヤー・サプライヤー合同で実施
・トラブル発生時は“現場叩き”でなく、プロセスと体制の改善に注力
こうしたラテラルシンキングでセキュリティ対策を根付かせることが、グローバル化・DX化する製造業に不可欠です。
まとめ:変化をチャンスに、現場から強いサプライチェーンへ
航空輸送のセキュリティ強化は、新たな“手間”や“負担”ではなく「未来に向けた競争力強化の投資」として取り組むべき課題です。
現場それぞれの役割が、サプライチェーン全体の信用・効率化に直結する時代。
RA/Known Shipper制度の正しい理解と、実践的な現場対応の徹底こそが、出荷拒否というリスクの回避と新たなビジネスチャンスの獲得、ひいては日本の製造業全体の持続的な成長につながります。
古い慣習にとらわれず、先進的な現場から「航空輸送のあるべき姿」を現実のものとしていきましょう。
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