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マルチソース化の標準化で切替コストを最小にする部品設計

目次
はじめに:製造業の現実とマルチソース化の重要性
製造業において、サプライヤーの一本化、いわゆるシングルソースからの脱却は古くて新しい課題です。
近年、自然災害や地政学リスク、サプライチェーンの混乱など、予期せぬトラブルが次々と発生し、サプライヤーを分散管理する「マルチソース化」の重要性がより明確になっています。
ただしマルチソース化は、理論上は強い供給体制となりますが、現場レベルでは「部品や工程の切替コスト」が大きな障害になるケースが少なくありません。
本記事では、20年以上にわたり現場で購買・生産管理・品質管理・工場運営に携わってきた筆者が、現実的かつ実践的な「マルチソース標準化の部品設計」について解説します。
昭和的調達から進化するために:アナログ慣習がマルチソース化を阻む構造
まだまだ製造業の現場には、「名指し見積もり」や「長年の付き合い」など、暗黙のルールによるサプライヤー関係が強く残っています。
設計段階から特定サプライヤーと繰り返し仕様を詰めていくため、他社への切替には都度図面修正や治具変更、認定試験など莫大な労力やコストが発生しやすくなっています。
この「切替コスト」が、マルチソース化を妨げる最大の要因です。
加えて、設計・購買・生産・品質管理など部門の縦割りも、全体最適ではなく部分最適を生み、部品設計の標準化機会を逸している現実もあります。
これら昭和的慣習から脱却し、「誰でも、どこでも、同じ品質で作れる部品設計」へと転換することが、今まさに求められています。
マルチソース化を支える「共通化・標準化設計」とは
「標準化」とはただコストダウンの手段ではなく、多様なサプライヤーで安定供給・安定品質を達成する“ものづくり力”の核心です。
具体的には、下記3点を重視します。
1. 設計段階からのサプライヤーインボルブメント
従来の設計主導(設計が全仕様を決定し、購買が指示通りに調達)では、設計者の経験や既成概念で部品仕様が一本化されやすくなります。
ここで重要なのが、設計段階から購買・品質管理・場合によっては主要サプライヤーも巻き込み「誰でも作れる・誰でも調達できる」設計となっているかを妥協なく議論することです。
具体的には、
– 「この公差幅で複数メーカーに生産性差は出ないか」
– 「使用部品がグローバル規格になっているか」
– 「材料や表面処理は、どの加工業者でも採用可能か」
– 「測定・検査基準がブラックボックス化していないか」
といった観点で“サプライヤーフリー”な設計を進めましょう。
2. インターフェース・仕様・プロセスの徹底可視化
設計図や仕様書に記載されていない「口伝情報」や「社内だけ通じる言い回し」では、サプライヤー変更時に落とし穴が増えます。
設備・金型や治具の構造、納入頻度、包装形態、物流ルート、納品時検査基準も含め、文書化と公開を徹底しましょう。
英語・CE規格・国際化も見据え、外部人材や海外工場でも「同じ品質・同じコスト」で部品仕様が読めるようにしてこそ、マルチソース化の効果が発揮できます。
3. ダウンサイジングと材料・加工方法の統一
多品種少量の流れが加速する中、部品の集約や大ロット共通設計は難題ですが、「要件の本質」を突き詰め余計な特注を極力排除することも大切です。
例えば、
– 業界標準材料や規格品の採用
– 公差幅の拡大・面取り等の簡素化
– 機能・強度要件に必要十分な寸法設定
– 機能に直接関与しない表面仕上げの簡略化
といった視点で、不要な「オリジナリティ」や「こだわり」をマルチソース目線で精査します。
このダウンサイジングや設計統一が、将来的な切替コスト低減へ大きなインパクトを与えます。
現場で直面した「切替コスト」の実際
現場では、例えば以下のような「切替時の落とし穴」に苦しめられてきました。
治具・設備の微妙な違い
A社とB社で同じ図面を投げたはずが、「このバリの処理方法が違う」「ロット品質にバラつきが出る」といった細部の違いで歩留まりやコストに大きな差が発生。
バックアネラシス(工程逆分析)とベンチマーク試作を繰り返し、共通治具設計や製造条件チェックリスト化を地道に進めてきた経験があります。
規格品採用の壁
安易な特注設計はサプライヤーの切替不能を生みやすいです。
例えばねじ類・ばね・Oリング・プレスパーツなど「業界標準規格」採用の徹底は導入初期こそ時間がかかりますが、後々大きな柔軟さをもたらします。
一方で「社内規格=ガラパゴス仕様」も多いため、外部業者を巻き込んだ規格見直し会議が有効です。
検査・品質基準の曖昧さ
実は「社内基準表」が“標準”ではなく、“前担当の個人エクセル”や“慣行でなんとなく通じていた”など、ブラックボックス化しているケースも多数経験しました。
この状態だとサプライヤーどころか生産拠点間ですら品質トラブルを生みやすいため、測定器校正や判定フローも含めた文書整備が必須です。
バイヤー・サプライヤーをつなぐ信頼の可視化と現場力
マルチソース化の切替コスト最小化には、単なる技術・書類整備だけでは不十分です。
最も重要なのは「現場レベルでのリアルな情報共有」と「バイヤー・サプライヤー双方の信頼醸成」にあります。
1. サプライヤー監査の標準化・デジタル化
業者毎に「見える部分」と「隠れている実作業」が違いすぎる場合が多いため、工場監査やトレーサビリティ記録も標準化し、できうる限りデジタル化しておくべきです。
PDCAと現場確認を繰り返すことで、万一の際にも素早くサプライヤー切替・代替投入決定が可能です。
2. 内製部門・外注サプライヤー間のデータベース共有
購買・生産管理・品質管理など、部門を横断した共通マスタDBには、「図面だけでは伝わらない仕様差異」や「過去異常事例とその是正通知」も蓄積しましょう。
バイヤーが持つ“経験知”や現場作業者の暗黙知をデータとして残し、ローテーションや世代交代に強いものづくり体制を築くことが肝要です。
サプライヤー視点でバイヤーの思考を理解するには
サプライヤーの立場から考えても、「なぜバイヤーが標準化・マルチソース化を重視するのか?」その本音を理解することは、自社にとって大きな強みとなります。
例えば、
– 「いつでも他社に切替え可能な状況」は、取引継続の危機ではなく、逆に“冗長性を担保した上で貴社を選択し続ける理由”をバイヤーに提示する好機となります。
– 標準化された上で、プラスアルファの技術・品質・サービスを示すことで、価格以外の差別化要素が明確に伝わります。
– サプライヤー主導で共通化・代替提案を積極的に行う企業は、信頼度・評価ランクともに上がっていく傾向です。
従って、バイヤー側の全体戦略・コストダウン・リスク分散意識を理解し、「標準化設計+自社独自ノウハウ」というW軸で競争力を磨くことが肝要です。
まとめ:未来を見据えた部品設計と次世代バイヤー像
マルチソース化の標準化設計――それは単なるコストダウンやリスクヘッジのための手段ではなく、「強く、広く、しなやかなものづくり」を実現し、製造業全体の競争力を底上げする根幹です。
設計部門・購買部門・サプライヤー各社が相互理解の元に、“切替コストが最小になるような共通設計・標準化設計”を実現すること。
繰り返し現場を歩き、工程の裏側まで立ち入ったラテラルシンキングを持つことで、旧態依然のアナログや縦割り文化を突破できる次世代バイヤー像が築かれます。
製造業に関わる皆様、
– 「本質を見抜く現場力」
– 「データと標準化で可視化する設計力」
– 「サプライヤーとの協調による競争力」
この三本柱で、“マルチソース化時代”をリードしてください。
部品設計の現場から、未来への一歩をともに踏み出しましょう。
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