投稿日:2025年9月7日

Excelをそのまま活かす段階導入で二重入力を減らす現場起点DX

Excelが根強く残る現場の実情

製造業の現場を取り巻くデジタル化の波は、かつてない勢いで高まっています。

しかし一方で、多くの現場では依然としてExcelが主力の業務ツールとして使い続けられています。

理由は明快です。

既存の業務フローに組み込まれ、加工しやすく、自由度が高いからです。

加えて、長年にわたり磨き上げられた「Excelフォーマット」は現場担当者にとって日常の一部であり、システム化による全面的な刷新には抵抗が大きいのが実情です。

この「昭和型のアナログDX遅延」とも言える状況は、部門横断的な情報連携の遅れや、二重入力による業務負担、属人化が生むリスクを現場に根付かせています。

なぜExcelをすぐ捨てられないのか

生産管理、調達購買、品質管理—こうした工程では、Excelの「使い慣れた安心感」と「カスタマイズ性」が大きな価値を持ちます。

また、小規模現場や多品種少量生産の場合、新しいシステムに適応するコストや業務の混乱を嫌がる傾向が強いです。

実際、「現場の声」を整理すると、次のような課題が浮かび上がります。

  • 過去データが大量にExcel内に蓄積されている
  • 自社専用の帳票・集計マクロが稼働し、現場の“勘所”と直結している
  • Excelから無理に脱却すると現場の柔軟な運用力が落ちる恐れがある

この状況で、いきなりERPや生産管理システムに切り替えることは現実的ではありません。

ミスマッチを生む「全面置換」型DXの落とし穴

DXプロジェクトで多発するのが「現場のExcelをすべて捨て、ITシステムに一気に置き換える」アプローチです。

ですが、これがうまくいっていない事例は枚挙に暇がありません。

理由は二つ。

第一に、現場が抱えている課題の本質を見極めないまま、システムの機能優先で導入が進むことで、かえって現場に手間が増えます。

第二に、移行初期に現場が慣れるまで二重入力が恒常化し、どちらのデータも劣化していく「負のスパイラル」に陥るのです。

結果的に、現場は「新システムは不便で使えない」と判断し、失敗に終わるケースが後を絶ちません。

Excelを“そのまま活かす”段階導入の考え方

現場主導のDX成功のカギは、Excelを“悪”と決めつけて排除する発想ではなく、「現場に根付いたExcelを徐々に業務システムに溶け込ませる」段階的なアプローチにあります。

大切なのは、現場にストレスと混乱を与えない形で徐々に“二重入力”を減らし、現実的な歩幅で連携と省力化を進めていく発想です。

新規システムの導入にあたっては、以下のポイントを押さえておく必要があります。

  • まずExcelを業務標準の「台帳」と見なしてデータ連携の基点とする
  • システムとの間でCSV連携やマクロ活用、RPA等を組み合わせて段階的に自動化する
  • 現場内で「本当に不要な項目」や「入力の意味が不明な欄」を洗い出し、帳票から断捨離する
  • 可視化や集計の最適化だけを部分的にシステム化する
  • 現場が慣れた段階で帳票ごとシステムに“移植”する

段階導入のステップと実践例

段階的な導入の現場目線での進め方をステップごとに紹介します。

ステップ1:現行Excel帳票の徹底棚卸し

まずは現場で使われているExcel帳票をすべて一覧化します。

「誰が」「何のために」「どのデータを」「どんな方法で」記入しているのかを明確化します。

現場ヒアリングを通じて、無駄な入力や誰も活用しないデータ項目を削除し、シンプルな標準フォーマットに整理します。

ステップ2:ファイル連携の自動化(CSV・マクロ化)

複数部門やシステム間で手動転記が発生している箇所は、VBAマクロやRPA、外部連携ツールで半自動化します。

生産実績や購買計画など、基幹システムに取り込む必要があるデータについては、CSVエクスポート・インポートによって人手を介さない仕組みづくりを優先します。

特に、二重入力が頻発している領域ほど効果が現れやすいです。

ステップ3:データベースとリアルタイム連携

CSVやExcelマクロによる連携が安定してきた段階で、現場帳票の都度集計や検索をデータベースと連動させる方向に移ります。

このとき、現場操作は変えずに裏側でデータベース連携を構築し、例えば「リアルタイムなものづくり進捗共有」や「仕入先情報の自動最新化」など、中核部分の業務効率化を優先します。

ステップ4:部分的なWeb化・システム移植

最終的に、現場が慣れ親しんだ帳票が機能ごとにシステム化できそうなタイミングで、Web入力画面化や生産システムへの組み込みを進めます。

この段階でも「現場ユーザー」が仕様策定に深く関与し、使いやすさファーストで開発するのが肝心です。

段階導入が生む現場メリット

このような段階導入の最大の利点は、現場負担を最小限に抑えつつ、誰もが着実に変化を実感できる点にあります。

  • 入力作業や転記ストレスの削減
  • 業務フロー全体の属人化リスクの低減
  • データ品質(精度・鮮度)の向上
  • 現場スタッフの「やらされ感」解消と自律的改善意識の醸成

現場起点で不要な工数が見える化されるため、自分ごととして納得感あるDXに歩みつつ、経営の意思決定やトレーサビリティ強化にもつながります。

バイヤー、サプライヤー双方にとっての利点

調達やバイヤー職を目指す方、またサプライヤーの立場からバイヤーの内情を知りたい方にも、この段階導入は重要な視点となります。

バイヤーは、サプライチェーン全体での情報の正確性やスピード、コスト管理が重要視されます。

現場主体でExcel業務が最適化・自動化されていれば、不意の発注ミスや納期遅延・余剰在庫の原因を未然に防げます。

また、サプライヤーは「自社を巻き込んだデータ連携文化」への対応力が競争力になります。

取引先の二重入力や手戻り削減に積極的に応じ、段階導入をサポートできる企業は「選ばれるサプライヤー」となるでしょう。

業界的なトレンドとこれから

日本の製造業界は、部分最適化に強い反面、全体最適に向けた変革やデジタル連携が遅れがちです。

今後、中堅・中小企業を中心に「段階導入型の現場起点DX」が主流になると予想されます。

また近年では、Excelファイルをそのまま利用できるクラウドサービスや、帳票の自動データベース化ツールが次々登場しています。

部門間の“壁”を越え、ものづくり情報をつなぐエコシステムを育てる企業が生き残る時代です。

まとめ:現場“らしさ”を守りながら進化するDXへ

無理に現場を変えようとするのではなく、今あるExcelと現場文化を尊重し、その上で段階的にシステム連携や自動化を図ること。

この現場起点のアプローチが、二重入力ストレスを減らしながら、現場主体の本質的な業務改善とデジタルトランスフォーメーションを育みます。

現場の知恵を活かした「段階導入型DX」が、日本の製造業全体を強く、しなやかにしていく——その新しい地平が、今まさに切り拓かれつつあるのです。

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