- お役立ち記事
- 製造業が取り組むべき国際取引における人権デューデリジェンス
製造業が取り組むべき国際取引における人権デューデリジェンス

目次
はじめに:急速に高まる人権デューデリジェンスの重要性
近年、グローバル化が加速する中で、製造業にも大きな潮流の変化が訪れています。
かつてのサプライチェーンは、コスト削減や納期短縮が最優先でしたが、今や「人権尊重」は避けて通れない重要テーマとなっています。
欧州を中心に人権デューデリジェンス(DD:Due Diligence)を義務づける法規制が次々と施行され、バイヤー・サプライヤー問わず、あらゆる事業者に対応が求められるようになりました。
本記事では、現場目線で見た人権デューデリジェンスの重要性と実践ステップ、アナログ文化が色濃く残る日本の製造業の現状、今後の対応策までを徹底的に解説します。
これからの製造業に求められる「新しい常識」を一緒に考えましょう。
人権デューデリジェンスとは何か?
人権デューデリジェンスの定義と国際的な動向
人権デューデリジェンスとは、自社の事業活動やサプライチェーン上で発生しうる人権へのリスクを特定し、評価し、防止・軽減するプロセスのことです。
この考え方は、2011年の「国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」を契機に世界標準となりました。
さらに2023年に施行された「ドイツサプライチェーン・デューデリジェンス法」や、今後予定されている「EUサプライチェーン・デューデリジェンス指令」など、各国で法制化の動きが加速しています。
これにより日本企業も直接・間接的に「人権リスク管理体制の整備」を求められる状況となっています。
なぜ今、製造業にも求められるのか
かつては人権は「CSR(企業の社会的責任)」の一部として捉えられ、綺麗事だと片付けられがちでした。
しかし今、グローバルの大手バイヤーは、取引先選定の基準に「人権デューデリジェンス」の有無を明確に組み込んでいます。
海外の完成品メーカーだけでなく、日本国内でも多国籍展開する自動車・電機メーカーなどが「サプライヤー行動規範」改定の動きを加速。
「下請けだから関係ない」では済まされなくなり、商取引の“前提条件”へと変貌しています。
アナログ文化が障壁になる日本の現場
一方、日本の製造業現場には、「昭和」のアナログ文化が色濃く残っています。
「現場で見てきたから問題ない」「長年の付き合いだから信用できる」といった感覚が根強く、データに基づくリスク評価や、全工程にわたるトレーサビリティ確立は、まだ一部に留まっているのが現状です。
このギャップが国際取引での「新たな壁」となりつつあります。
人権デューデリジェンス対応のための4ステップ
では、日本の製造業が持続的な成長・取引条件維持のために、具体的にどのような対応をすべきなのか。
20年以上現場に関わってきた経験をもとに、実効性ある4つのステップを提案します。
1. 方針とガバナンス体制の整備
まずは経営層が「人権方針」を明文化し、社内外へ公開することが第一歩です。
これは“対外的なアピール”以上に、現場に「このテーマは例外なく重要だ」と腹落ちさせるマネジメントの覚悟表明でもあります。
次に、人権リスクを管理するための専任部署や担当者(例:CSR部、調達部内の人権管理担当など)を設置し、業務フローを明確化します。
国内外の子会社やサプライヤーも含めた“横串”のガバナンス体制をつくることが肝心です。
2. サプライチェーン全体のリスク特定・評価
自社の現場はもちろん、原材料メーカーから2次・3次協力会社まで、「仕入れている」全てを洗い出し、その工程ごとに以下のような人権リスクを分析します。
– 児童労働・強制労働が存在しないか
– 労働時間や賃金が適切か
– 劣悪な労働環境の放置・現地コミュニティへの悪影響がないか
表面的な「調達先リスト」ではなく、実態を把握するため、現地訪問や第三者機関による監査も(段階的にでも)導入すべきです。
また、データベースやITツールを活用し、「情報の見える化」を進めることで、従来の“勘と経験”に頼るリスク判断から抜け出しましょう。
3. 改善・是正措置の実施
リスク評価から何らかの課題が見つかった場合、是正措置が必要となります。
たとえば、外国人技能実習生の働き方や、下請け加工業者の労働時間規制など、想定外の「落とし穴」は少なくありません。
現場管理者と連携を強化し、具体的なアクションプラン(例:教育研修の実施、労働契約の見直し、工程変更)を策定・記録することが欠かせません。
バイヤーとしての立場を利用して圧力をかけるのではなく、「共に成長するパートナー」として対話・改善を進める姿勢が評価されます。
4. 継続的モニタリングと情報公開
人権リスクの管理は「やれば終わり」ではなく、「運用し、磨き続ける」ことが重要です。
定期的な自己評価や外部監査、現場の声を拾うヒアリング体制の構築が求められます。
さらに、サステナビリティレポートなどで取り組み状況を情報公開することで、顧客・株主などステークホルダーからの信頼を高められます。
現場でよくある“誤解”とその本質
誤解1)「人権リスク=海外だけの話」
「人権リスクは東南アジアや発展途上国でよくある話で、日本国内なら問題ない」と思われがちです。
しかし、製造業の現場では、技能実習生・派遣労働者に依存する構造や、長時間労働・安全衛生の課題が身近に潜んでいます。
また、マイノリティや女性の待遇格差なども、見過ごせません。
国際的には「国内・海外」を問わず、“自社とサプライチェーン全体”を広く俯瞰することが求められています。
誤解2)「形式的な書類やアンケートで十分」
「チェックリストやアンケートで“問題なし”と書いてもらえば、とりあえずOK」という見かけ倒しの管理も、まだまだ横行しています。
しかし、海外の大手バイヤー企業は、「現地の管理体制や監査記録の開示」「実動のログ(労働時間、給与明細等)」まで求めてきます。
仕組みを“紙”から“データ”へ、「言葉」から「証拠」へと進化させなければ、アップデートについていけません。
なぜ、今“本気で”取り組むべきなのか?
取引停止リスクと日本製造業の生き残り戦略
人権デューデリジェンスを怠れば、最悪の場合「取引停止」「ブラックリスト入り」「ブランド毀損」など深刻なダメージに繋がります。
特に自動車・電機業界などのグローバルサプライチェーンに参入する企業は、「一社のミスで全体に損失…」という事態の重大性を実感しています。
「コストや生産性」だけでなく、「人権」も評価指標となる時代。
本気で取り組んだ企業と、そうでない企業――明暗はすぐに分かれます。
調達・バイヤーのプロとしての“視座”
調達・購買担当やサプライヤーの経営層は、単なる“買う側/売る側”の意識に留まらず、「社会的要請に応える責任」が問われています。
「このサプライヤーを本当に選んで良いのか」
「現場の働き方や雇用環境まで保証できるのか」
「自社の名に恥じない品質と倫理性が担保できているか」
これらの“厳しい問い”こそ、今後の事業継続・拡大の鍵となります。
アナログ業界からの脱却・具体アクションプラン
紙文化から「デジタル・トレーサビリティ」へのシフト
帳票・マニュアルを紙で保管、現地監査も慣例行事――このアナログ体質を変えるには、段階的なIT化が不可欠です。
– 原材料・部品の「入出庫情報」をデータベース化
– 作業者の労働時間・出退勤をタイムレコーダやICカードで記録
– 品質工程に合わせて「ロットトレース」を見える化
これにより、監査や改善指導の際も「感覚」ではなく「データ」で話ができます。
「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は脅威ではなく、持続的な成長の“原動力”となります。
教育と現場コミュニケーションの強化
トップが方針を掲げても、「現場で何が“人権リスク”なのか分からない」では効果が出ません。
– 全社員向けeラーニングや研修会
– 外国人労働者への多言語マニュアル提供
– 労働環境の“現場サーベイ”や相談窓口設置
こうした取組みが従業員の「気づき」を促し、小さなサインを早期発見につなげます。
オープンなパートナーシップづくり
バイヤーとサプライヤー間で、「人権リスクは二人三脚で解決する」という信頼関係が何より大切です。
価格交渉や納期調整の場だけでなく、課題を共有し、具体改善策をともに考える“ワークショップ”の開催なども有効です。
正直な対話こそが取引の安定と信頼性を築きます。
まとめ:時代を超える製造業の使命
人権デューデリジェンスは、かつての「コストカット・納期ファースト」に並ぶ、新時代の“必須要件”となりました。
アナログな現場文化に安住せず、変化を受け入れて「やればできる」組織体質を生み出すことが──昭和を超え、令和の製造業として生き残る鍵となります。
あなたがバイヤーでも、サプライヤーでも、現場管理者でも、今このテーマに目を向け、行動することが業界全体に新しい地平線をもたらします。
一歩踏み出す勇気が、あなたの会社、ひいては日本のものづくり全体の未来を創ります。
今こそ、人権デューデリジェンスの「主体者」となりましょう。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)