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塗装密着性不良を解消するための脱脂・前処理条件の見直し

目次
はじめに:なぜ塗装密着性不良が起こるのか
製造業において、塗装の密着性不良は長年にわたり現場を悩ませてきた重要課題のひとつです。
仕上げ工程まで工程が進み、「この製品はお客様の元へ送り出せる」――そう思った矢先、密着不良の不具合が発生し再処理や廃棄につながる例も少なくありません。
トラブルシューティングとして、表面洗浄やプライマーの選定、塗装条件の微調整など数々の手立てが知られていますが、本質的な「脱脂・前処理」の重要性がなおざりにされやすいのが現場の実情です。
ここでは、昭和から現代へと価値観の転換が求められている中で、なぜ脱脂・前処理条件の見直しが決め手となるのか、具体的な現場対策や今後の業界動向も交えて解説します。
塗装密着性不良の根本原因を理解する
表面状態が塗装品質を左右する
塗装は単なる「着色」や「美観向上」のためだけに行われているわけではありません。
腐食防止、耐薬品性アップ、耐摩耗性など多岐にわたり、その機能を十分に発揮するには“塗装皮膜”と“母材”のあいだでしっかりとした密着が不可欠です。
しかし、現実は油脂分や金属加工時の切削屑、酸化被膜、指紋など微量な異物が表面に残存することで密着不良が起きやすくなります。
「なぜ脱脂が決定打になるのか?」
例えば焼付け塗装や電着塗装の現場では、「脱脂洗浄が雑だった」と気づかぬうちに密着トラブルが多発します。
なぜなら、どんなに優れた塗装技術・設備があっても、表面に油分や異物が残っていたら、その上から塗膜を形成しても“防壁”は期待できません。
また、“密着資料・試験片”のようなモデルワークでは問題が出なかったのに、量産現場では頻発する密着不良――このギャップも大半は脱脂・前処理が最適化されていないことで生じます。
昭和的現場の脱脂・前処理あるある
「これまでも大丈夫だった」から抜け出せない心理
長年働くベテラン作業者ほど「今までと同じ手法」で問題ないという潜在的思い込みに陥りがちです。
ところが時代は変化し、製品仕様の高度化、軽量化による材質の変化、海外への生産移管など背景も様変わりしています。
自社だけでなく多くの下請・協力会社と連携する場合も多く、「昔の経験則」だけに頼ると顧客要求から乖離した“ギャップ”が生じるリスクも高まります。
マニュアル・標準の形骸化
「油落としは洗浄機に10分」「脱脂はシンナーを布で拭く」など、一度決まった標準作業を何十年もアップデートせず続けていませんか?
洗浄剤の成分や設備の維持管理状態、作業環境の違いまで考慮せず、単純に「手順通り」だけでは現代の高品質要求には対応できません。
脱脂・前処理 “見直し”のフレームワーク
現場主導で現状把握を徹底する
まずは自分のライン・自社のやり方がなぜ、どこまで守られているのか徹底的に現場観察します。
・洗浄液や液槽はいつ交換・点検したか?
・脱脂後、手袋・素手の扱いは適切か?
・洗浄や前処理後に“乾燥待ち”で長時間放置していないか?
・処理後に可視化検査(油膜検査、表面官能検査)は実施しているか?
このような「知らぬ間の逸脱」を洗い出し、工程ごとに見える化することが第一ステップです。
現場と一体で「本質改善」を進める
「洗浄槽の温度・濃度をなぜこの設定にしているのか」
「どんな品種・ロットで密着不良が多いのか」
「代替薬剤や新しい洗浄方式は実用化できないか」
現場の技能者・オペレーターの直感と、技術・品質部門の分析を組み合わせて現状の問題点を棚卸ししましょう。
必要であれば、日々のテストピースで塗膜付着力テスト(クロスカット、テープ剥離、引張試験など)や、表面分析装置(XPS、TOF-SIMS)も活用します。
よくある脱脂・前処理の“抜け道”とそのリスク
エタノール・シンナーの「なんとなく拭き」
油分を拭く際、ウエスでエタノールやシンナーを使ってさっとひと拭き――見た目ではきれいになりますが、これだけでは金属表面の微細な有機物、指紋まで除去できていない場合が大半です。
さらに、拭き取り用のウエスそのものが汚れている場合、新たな汚染源になってしまうこともありえます。
旧態依然の油分溶解型のみの洗浄
昔ながらの有機溶剤(トリクレン、メチルエチルケトン等)は確かに油脂分を溶解できますが、現代では環境対応・作業者の安全の観点から規制も進んでいます。
充分な換気や廃液処理、個人防護具の使用が徹底されていない工場も散見されます。
もし新たに設備投資を検討できるなら、アルカリ水溶性洗浄や炭化水素系洗浄、超音波洗浄など、より高い洗浄力と安全性を両立した技術選定がおすすめです。
バイヤー目線からみる前処理プロセスの評価ポイント
何を問われる?サプライヤーへの要求仕様
大手メーカーのバイヤーや仲介業者がサプライヤーに求めるのは「再現性ある安定品質」と「現場での技術的裏付け」です。
・洗浄液の濃度管理や液交換履歴を明文化しているか
・“脱脂後何分以内に次工程”などリードタイムの管理ルールがあるか
・表面汚染の有無を検査する指標や工程管理記録を残しているか
このような細かな現場運用の有無こそ選定の分かれ目となり、「きちんと証明できる現場力」が、過度な価格競争から脱却する強みとなります。
脱脂工程の外部委託リスクと管理方法
サプライチェーンの一部工程(前処理だけ外注等)をバイヤーが許可する場合、どこまでプロセスが見える化されているか、作業者教育や設備保全に抜けがないかを厳しく精査します。
日本の昭和型工場では「下請けに任せっきり」という“口約束運用”も見かけますが、現在では品質監査や実績データの提示など外部証明が求められます。
生産管理・品質管理から見る前処理改善アプローチ
設備メンテナンス管理の徹底
脱脂・前処理設備は日常点検に加え、定期的に洗浄液交換や内部配管のスラッジ清掃、液温・pH・導電率などのモニタリングを欠かせません。
作業者任せのアナログ日誌では管理が形骸化しがちなので、IoTセンサーや電子帳票ツールも活用し「見える化」をはかることで、質の底上げが実現します。
異常品の“なぜなぜ分析”をサボらない
密着性不良が起きた際には、「現象」と「起点」を必ず切り分けてトレーサビリティを守ります。
洗浄設備の異常、洗浄剤の希釈率変化、周辺工程の変更などを納期優先でスキップせず、再発防止まで現場・管理者が一体となって追及する文化が大切です。
最新の自動化技術と前処理工程への活用
ロボット洗浄・自動搬送による人依存脱却
人の手作業による拭き取りや浸漬では工程バラつきが発生しやすいですが、ロボット洗浄装置や全自動脱脂システムの導入によって精度と再現性が格段に向上します。
また、人手不足が常態化する現場にとっても、作業の“技能伝承”を自動化で担保できるため、今後ますます普及すると見られます。
検査工程の自動化とAI活用
AI画像解析による塗装面の汚染検知技術も急速に発展しています。
これまでは官能評価や抜き取り確認だった工程が全数検査に変わり、「見落とし品」の劇的な減少が期待できます。
まとめ:現場体質の“進化”で塗装密着性不良をなくす
塗装密着性不良は“現場の脱脂・前処理力”次第で劇的に減らすことができます。
昭和から続くアナログ作業の見直し、現場主導の工程可視化、管理データのデジタル連携、そして自動化技術の段階的導入。
これらを着実に積み重ねていけば、品質クレームの大幅削減と同時にバイヤーとの信頼関係構築、生産性・コスト競争力の強化につながっていきます。
最初の一歩は、最も基本となる「脱脂・前処理条件の本気の見直し」から。
これをきっかけに現場力進化にチャレンジし、令和の製造業になっても選ばれる企業を目指していきましょう。
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