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化成処理後の腐食発生を防ぐリンス水質と乾燥条件管理

目次
はじめに:化成処理におけるリンス水質と乾燥の重要性
化成処理は、金属材料の表面に化学反応を起こして皮膜を形成し、耐食性や塗装の付着性を向上させるための重要な前処理工程です。
この工程の後、金属表面の腐食発生を最小限に抑えるためには、リンス(すすぎ)水の水質管理と、処理後の適切な乾燥条件が不可欠です。
しかし、多くの製造現場においては、依然として昭和時代から続くアナログ的な感覚や、「長年このやり方で問題なかった」という習慣に頼る傾向が残っています。
現場の最前線で起こり得る腐食トラブルは、最終製品の品質低下につながるだけでなく、顧客クレームや信頼失墜、コスト増にも直結します。
本記事では、現場目線でリンス水質・乾燥条件管理の実践ポイントと、製造業のアナログ慣習が及ぼす影響を掘り下げ、バイヤーやサプライヤーにとって価値ある情報をお届けします。
化成処理後に発生する腐食のメカニズム
リンス水が残留イオンの“運び屋”になる仕組み
化成処理(リン酸亜鉛処理、クロメート処理など)後、表面には反応残渣や処理薬剤由来のイオン・塩分が残っています。
十分なリンスを行わない場合、これらの残留成分が水分中に溶け出し、次工程の乾燥中や保管中に“点食”と呼ばれる局部腐食を誘発します。
仮にリンス自体の水質が悪い(硬度が高い、塩分やカルシウムイオン、重金属などが多い)と、洗い落とすどころか逆に表面へ不純物を上乗せする結果となり、局部的な腐食発生の引き金となります。
“隠れた敵”としての乾燥不足やオーバードライ
リンス後は乾燥工程に進みますが、ここで乾燥条件が不適切だと、表面に水分が残留し、イオン濃度が上昇する現象(端部濃縮)が起こります。
結果、ピンホール腐食や白錆の原因になります。
また、過度な高温乾燥や急激な加熱を行うと、化成皮膜自体のクラック(微細な割れ)や、熱膨張による密着性低下も起こりやすくなります。
こういった諸問題は、現場目線では「ちょっとした水滴が残っていただけ」「乾かせば何とかなる」という“油断”から生じるケースが多いです。
リンス水質管理の具体的なポイント
水質基準を“数値”で定義できているか?
まず大切なのは、現場単位で「どの程度の水質(硬度、pH、導電率、塩素イオン濃度など)を保持していればOKか」を客観的な基準値で定義できているかどうかです。
特に飲料用基準で安心していませんか?産業用洗浄に必要なのは「不純物が最小限」であること。
飲料水としての基準(例:硬度120以下)は、必ずしも工業用途での理想値ではありません。
純水・軟水の導入と適正な循環管理
高付加価値品や腐食に厳しい用途(自動車部品、医療機器、精密電気分野など)では、RO(逆浸透膜)やイオン交換樹脂による純水製造が主流です。
簡易的な用途でも軟水化によってカルシウムやマグネシウムを除去します。
また、リンス槽を“循環式”としろ過フィルターを併用し、スラッジや溶解イオンを常時低減する運用が効果的です。
リンス槽の定期交換も、分析に基づき判断する姿勢が必須です。
リンス水温度・流量管理で“洗浄力”を補強
水質だけでなく、リンス水の温度も重要です。気温や現場温度に影響されやすい場合は、水温を一定に保つことで洗浄効果を安定化できます。
また、過流やシャワーなどで物理的洗浄力を高めることは、人手に頼らざるを得なかったアナログ現場でも導入しやすい対策です。
乾燥条件管理の徹底ポイント
“急がば回れ”の乾燥プロセス
乾燥は「とにかく素早く乾かせばOK」と思われがちですが、急加熱や空気流動が不十分な場合、表面の一部だけ乾いてイオン濃縮が進み、点食発生リスクが高まります。
均一な温度分布と適度な風速(メタル製の治具やバーの影に“影乾燥”が生じぬよう配慮)を両立し、品物間の配置間隔にも注意を払うことがポイントです。
ドレン水・滴下の排除と熱バランス維持
取り出し直後の部品表面に“玉のような水滴”が残っている現場は要注意です。
一部だけ乾かずに、その水滴の中で化学反応が進み白錆・黄色錆の原因となります。
乾燥前に“エアブロー”で水滴を飛ばす、ヒーター、温風のバランスを見直すなどの工夫が必要です。
また、乾燥過多による皮膜の変質・割れ、静電気帯電にも配慮しなければなりません。温度だけでなく部品の質量や材質、配置によって乾燥時間や方法を調整しましょう。
AI・IoTによる“見える化”で昭和の習慣から脱却
近年は簡易データロガーやIoT温度センサによる記録装置の導入が進んでいます。
「何度でどれだけ時間がかかっているのか」「乾燥工程ごとの実測値」といった“事実”を見える化することで、現場の経験や勘頼みの曖昧さを排除できます。
この変革は、現場が自らトラブル要因に気づく機会をもたらし、更なる改善を後押しします。
調達・購買、現場管理者として押さえるべき“選定・指導”のポイント
「リンス水質データ」を提出させるバイヤー目線
どんなに設備や手順が立派でも、外観に現れない“水質”まで管理が行き届いている現場は多くありません。
バイヤーとしては、サプライヤーから月次あるいはロットごとのリンス水分析データ(pH、導電率、塩素イオン、硬度等)の提出を求めることで、管理の本気度を確認できます。
仕様書で「リンスには純水を使うこと」とだけ定めても、実際には「地元地下水をろ過しているだけ」の工場も珍しくありません。
“本当に現場レベルで意識されているか”を問い、弱点の改善指導を進めることが調達の品質確保につながります。
“現場パトロール”で空気感を五感で確かめる
製造現場で働いたことがある方は、リンス槽や乾燥工程の“空気感”を直感的に嗅ぎ取る力があります。
過去の経験から、リンス槽まわりに白い析出物(乾燥時のスケール)が多い現場は要注意。
設備のメンテナンス頻度や、ちょっとした“掃除の丁寧さ”にも着目してほしいところです。
過去に「ちょっとした水垢がついていただけ」と油断して納入した部品が、ヨーロッパからのクレームで“全数再納品”の地獄を味わったこともありました。
現場巡回や仕組みのヒヤリ感知力は、やはり現場育ちの調達・品質担当者こそが頼りです。
サプライヤー指導で“昭和的ルーズさ”を断ち切る
「仕事が忙しいから、水替えは週一でいいよね」「乾燥ヒーターの調子が悪いけど、まぁ大丈夫」
こうした“現場都合”の判断が、腐食リスクを高める最たる要因です。バイヤーや調達担当は、サプライヤー教育会合等の場で、「数値管理と標準化」の徹底を繰り返し指導しましょう。
ISO審査対応だけのために水質表を整えるのではなく、“事故を起こさない現場体質”づくりが、持続的なパートナー関係の基盤となります。
まとめ:現場力とデータ管理、そして業界の未来へ
化成処理後のリンス水質・乾燥条件管理は、ひとつひとつは“地味な裏方”のように思えるかもしれません。
しかし、その積み重ねが、グローバル競争を勝ち抜く製品品質を支えています。
昭和時代から続く“慣れ・感覚”に頼るアナログ文化に、データ活用やIoT・AIといった最先端技術の融合が進んでいます。
現場で働く皆さん、調達・バイヤーを志す皆さん、サプライヤーでプロフェッショナリズムを磨きたい方々にとって、腐食防止の徹底管理は欠かせません。
水質の“見える化”と乾燥条件の最適化。現場経験者ならではの五感を活かしつつ、次世代のものづくり現場へ進化していきましょう。
製造業の未来は、“現場と科学的管理”の両輪で必ずや切り拓かれていきます。
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