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裁断工程で発生するロスを減らすための生地取り設計の工夫

目次
はじめに:製造現場の”ロス”は未来からの借金だ
製造業の現場で毎月現れる損益計算書の数字に、「ロス」という魔物が潜んでいることに多くの方が気付いているのではないでしょうか。
このロス、特にアパレルやシート部品、自動車内装など“裁断工程”を含むものづくりの現場では、生地取り設計の工夫次第で大きく削減することが可能です。
しかし現実には、「10年間同じパターン」「ロス率が固定観念化」している工場も珍しくありません。
ここでは、20年以上現場に身を置いた筆者が、裁断工程の本当の改善ポテンシャルと、生地取り設計(ネスティング設計)の極意を、組織の限界を突破する”ラテラルシンキング”で掘り下げます。
「原価低減が苦しい」「サステナビリティ対応に遅れている」と感じているバイヤーや、サプライヤー現場の皆さんにも必ず役立つ内容にしています。
なぜ”生地取り設計”の工夫が重要なのか
工場の損益分岐点を下げるには固定費や労務費も重要ですが、製造原価のなかでもダイレクトに“無駄”として現れるのが「裁断ロス」です。
例えば、国内外で大量生産される製品であっても、10%のロス削減が生み出す原価圧縮効果は、莫大なインパクトがあります。
反対に、低原価仕入れだけを追い求めて、ロスの多い設計のままでは、せっかくの調達努力も水の泡です。
このため、「生地取り設計」こそ、調達・設計・製造本部の全員が本音で議論すべき、現場力の本丸だといえます。
生地取り設計の基本:伝統的アプローチと課題
昔ながらの“型紙配置”
昭和時代から続く多くの工場では、「型紙配置(マーキング)」を熟練作業者の経験値に頼った手法で行っています。
型紙の並び順や方向、隙間を最適に考えることで、ロスを少なくする。
この考え自体は今も重要です。
ですが、近年の製品多様化や小ロット化、多品種短納期などの市場変化には、この“経験と勘”だけでは追いつけない現状があります。
なぜロスが出るのか―現場目線の根本要因
1. 製品部品の形状が複雑化・ユニフォームでない
2. ロットごとに使用する原反(生地)の幅や染色に微妙なばらつきがある
3. 裁断機やピン止めなど機械・治具側の制約
4. 生地方向制約(目方向や柄合わせなど)への理解不足
5. 量産後の設計変更と現場流用文化
などが複合的に絡んでいます。
この問題を放置すると、「元データの設計流用→現場判断で適当に配置→結果的にロスが高止まり」に陥ってしまいがちです。
最新生地取り設計(ネスティング)の考え方
CAD/CAM+最適化アルゴリズムの活用
現在は、生地取り設計の現場でもデジタル化・AI活用が進行しています。
具体的には以下の考え方が浸透してきています。
1. 部品形状データをCADで設計管理する
2. ネスティング(配置最適化)アルゴリズムをもちいる(例:2Dパッキング・ヒューリスティクスなど)
3. 原反情報(幅、長さ、柄、素材ロット)もシステムで共有し、リアルタイムで配置計算を実施
4. 裁断機(CAM/カッタープロッタ等)と直結して最適な生地取りパターンを現場へ即時伝達
5. 過去のロス実績をデータベース化し、AIが自動で配置傾向を学習・提案
これにより、熟練工でなくても“直感的に”ロスを減らす生地取り設計ができるようになっています。
導入現場のリアルな変化
実際に筆者が関与した国内自動車シートメーカーでは、「同一製品の裁断ロスを14%→9%へ5%削減」でき、月間500万円以上の材料費削減に成功しました。
ポイントは、「生地ロール1本ごとに配置パターンを自動計算・分配」し、並列工程化することで歩留まりも安定させた点にあります。
もちろん、“AI任せ”だけでなく、現場作業者全体へデジタル配置に基づいた段取り教育を同時に進めることが欠かせません。
アナログ現場で根強く残る壁とブレイクスルーの方法
仕組みだけでは変わらない「現場の思考」
“便利な仕組み”を投下しても、現場が変わらなければロスも減りません。
以下のような工場あるあるに、バイヤーや管理職の皆さんも心当たりがあるはずです。
– 「昔からこれでやってきた」文化
– 「急な設変に柔軟対応したいため、常に多めに見込む」現場の心理
– 上司が“経験値重視”ゆえに新しい配置案を受け入れない
これらを突破するには、「数字(データ)×現場リアリティ」を両立する“納得の見える化”が効果的です。
失敗例と、その学び
ある中堅サプライヤーでは、AI生地取り自動化を始めたものの、現場が「結局人間の手直しがいる」と使いこなせず頓挫。
これは「サンプル時のロットバラツキ(色・幅」を無視して設計だけで最適化してしまい、“現物とのミスマッチ”を見落としたためです。
やはり、現物を見ながら都度フィードバックをシステムに戻し、現場とのキャッチボールを繰り返すことで初めて本質的な改善になるのです。
ブレイクスルーのための“ラテラルシンキング”実践
– 材料メーカー・サプライヤーとの連携を強化し、「原反幅、染色ロット管理」を一元化
– 部品設計段階から「裁断しやすい」「互い違い配置可能な設計」への意識転換
– 現場・設計・調達でワークショップ開催し、実物型紙・配置パズル体験を通じてロス削減の本質を共有
– 「月1回ロス率トップ3現場へフィールド調査し、頑張った現場を表彰」する文化づくり
このように、クロスファンクショナルで現場と設計・調達が“互いの立場”を実感し、遊び心も交えたアプローチこそが昭和体質を突破するカギです。
調達・設計・現場の“壁”を溶かすために
バイヤーや設計担当が知るべき現場目線の実態
バイヤーや設計担当が「なぜロスが出るのか」をきちんと現場で見ることは実は少ないです。
現場からすれば、
– 生地幅ぎりぎりの設計だと量産安定が難しい
– 裁断効率無視で小さい部品追加依頼があると、大幅にロスが増える
– 新素材や海外仕入れ材はロットごとに“クセ”が違う
といった具体的な悩みが現実です。
仕入原価の数%ダウンよりも、「現場ロスの2%減」の方が、よほど効果が大きい場合が多いのです。
現場担当が知るべき、バイヤーやサプライヤーの視点
一方で、バイヤーやサプライヤーからみた現場の課題は、
– 原反ロスが高いと調達全体のコスト競争力が落ちる
– 歩留まり悪化は即「見積もり単価の上昇」につながる
– 材料メーカー側への交渉力を高めるには、工場からの具体的なロス削減データが武器になる
といった視点があります。
現場手作業だけに頼らず、理論値・実績値をシステム的に蓄積すれば、調達サイドも“攻めのバイヤー”としてサプライヤーへ堂々と交渉ができます。
生地取り設計の改善がもたらす未来価値
サステナビリティと事業競争力の両立
ロス削減は単なる目先の原価ダウンにとどまりません。
CO2削減、材料ムダの抑制、サーキュラーエコノミーへの対応——全てが世界的な企業価値向上にダイレクトに結びつきます。
生地取り設計の工夫によって、日本のものづくりはグローバル競争でも決して埋もれない武器を得ることができるのです。
現場起点の”知財”として未来世代につなぐ
ひとつの工夫、たとえば「型紙の一部を可変対応」「原反ごとに最適配置するアルゴリズムの独自化」などは、まぎれもなく”現場の知財”です。
この知恵をデジタルツール×リアル現場で進化させ、組織に定着させることが、未来世代の現場力UPとものづくり発展への最大投資となります。
まとめ:現場の“慣習”を、現場の“誇り”と知恵で突破する
裁断工程で生じるロスを減らす生地取り設計は、「未来からの理不尽な借金」を減らし、現場の誇りを守る最重要の現場改革テーマです。
伝統だけでも、AIだけでも、どちらか一方に寄りすぎては本質的な改善は達成できません。
ラテラルシンキングで発想を柔らかくし、技術×現場知恵×多職種連携で、一歩踏み込んだ改善をぜひ現場から仕掛けていきましょう。
材料費削減、サプライチェーン全体強化、そしてサステナビリティへの貢献に向けて、明日からできる小さな“生地取り改善”を実践してみませんか。
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