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縫製不良を防ぐための糸選びと縫製条件設定の基礎

目次
はじめに:縫製不良がもたらす現場課題と時代背景
縫製業界では「不良品の低減」は長きに渡り永遠の課題の一つです。
現場を担う技術者から管理職、購買バイヤーまでが常に「どうすれば不良をゼロに近づけられるか?」を真剣に考えてきました。
縫製不良の多くは、糸選定ミスや縫製条件の誤設定から生じ、仕掛品ロスや手直し工数の増大、クレーム発生という現実的なリスクに直結します。
デジタル化、AI、IoT──華やかな先端技術が注目されつつも、多くの国内縫製工場では、今も昭和時代から引き継いだアナログな手法と“現場勘”に頼る部分が根強く残っています。
本記事では、こうした製造の現場で苦労と工夫を重ねてきた視点から、糸選びと縫製条件設定の基礎を解説します。
バイヤーにとっても、なぜ工場が細かく糸選定や設定を重視するか、その裏の論理や価値観を掘り下げます。
縫製不良の主な種類と原因──なぜ糸と条件が肝要か
製造現場で頻発する縫製不良には、代表的に以下のものがあります。
1. 縫い目浮き・パンク(糸切れ)
縫製線が美しく仕上がらない、あるいは品物の使用中に糸が切れてしまうケースです。
糸の強度選定ミスや、縫いテンションの張り過ぎ・緩み過ぎが主因です。
2. パッカリング(縫製部のシワ)
衣類や資材の縫い合わせ部に醜いシワや縮みが生じる現象です。
生地と糸がアンマッチだったり、押さえ圧や送り歯の条件が適切でない場合に起こります。
3. 芯浮き・縫い逃げ
インターフェースや複層構造品で、糸が芯材や他部材から浮いてしまい、正しく縫い留められないパターンです。
糸選びとともに、針の種類や縫製速度なども影響します。
実務ではこれらの不良が、品質トラブル・納期遅延・コスト増の三重苦を生むだけでなく、時にバイヤーと工場双方に「なぜ防げなかったのか?」という信頼問題を残します。
つまり、糸選定と縫製条件設定はコストや納期以上に、製造パートナー同士の信頼を左右する要です。
糸選定の基礎知識
糸の選定基準は「素材」「太さ」「形状」「仕上げ特性」など多岐に渡ります。
バイヤーや工場双方が押さえるべき必須ポイントを解説します。
適正な素材選び
代表的な糸素材には、以下の特徴があります。
– ポリエステル:耐久性・耐薬品性・摩耗性に優れる。ユニフォームや家庭用雑貨、工業資材全般で主流
– 綿:吸湿性、耐熱性が高く、肌触りに優れるが、摩擦や水濡れで劣化しやすい。高級・天然志向品向け
– ナイロン:伸縮性と耐摩耗性に優れ、高強度品向け
– 特殊糸(アラミド等):難燃性や特殊用途に対応
対象の生地や最終用途毎に「何を最優先するか?」を明確にし、粘着力や染色性、反射性、耐熱性、耐薬品性など個々のニーズに合致させます。
糸の太さ選び
糸の太さ(番手)は、生地厚みや縫製品の使用環境で決定します。
細過ぎれば強度が不足し、太過ぎれば風合いや美観・縫い目の美しさが損なわれます。
「見た目がすっきりしているのに十分な強度があるか」「太い糸であっても縫い目がゴロつかないか」など、サンプル縫製やテストを必ず行いましょう。
形状・撚糸方法の選定
撚り(よ)りの強い糸はほつれ・毛羽立ちを防ぎますが、柔軟性・伸縮性が劣ることも。
また、フィラメント糸・スパン糸・コアヤーンなど現代は多様な糸構造があり、耐久性や工程特性を左右します。
糸仕上げ・後加工の重要性
防縮加工、防汚加工、難燃加工といった二次処理も品物の最終価値を決める重大項目です。
特にアパレルや産業資材では、用途や基準(JIS, ISO等)に合った処理の確認・選定を徹底します。
縫製条件設定の基礎と最適化
糸が決まっても、ミシンの縫製条件がズレていれば不良が多発します。
現場では次の主要ポイントの調整が勝負となります。
1. テンション(糸調子)の調整
上糸と下糸のバランスは縫製の品質に直結します。
テンションが高すぎると糸がブチ切れ、低すぎれば縫い外れや絡まりが発生します。
地道に試験縫いを繰り返し、「生地・糸・針」の三位一体で最適テンションを探ります。
現場ではベテラン職人の“指の感覚”が重宝されていますが、できるだけ数値での管理(テンションメーター活用等)も推奨されます。
2. 針の選択とメンテナンス
縫製針は「番手」のほか、「先端形状」「表面硬度」「メッキ処理」なども含め生地・糸ごとに最適なものを選びます。
針先が摩耗・変形すると不良が急増するため、一定方法で交換・管理するルールが重要です。
3. 押さえ・送り歯・下糸ボビンの設定
生地・糸・商品形状によって押さえ圧や送りスピードを調整します。
二重送りや差動送りなどミシンの付加機能を活用し、縫いズレやパッカリングを抑えます。
下糸ボビンも容量・巻き方・材質毎に特性があり、不具合発生時はここもチェックが必要です。
4. ミシンスピードと縫製環境
過度な高速運転は糸切れ・熱膨張・撚れ戻りによる不良の原因です。
省力化や生産性向上の流れの中でも「品質が確保できる速度」での運転が優先されます。
湿度・静電気・温度など現場環境も不良発生に影響するため、作業場の保守・導線にも継続的な配慮が求められます。
事例:現場力で不良率を半減した改善ストーリー
某工場での事例を紹介します。
アパレルOEM品で「パッカリング頻発」という課題を抱えていました。
バイヤーは“縫製工賃の安さ”を主軸に工場選定していましたが、不良対応の手直し・再検査によるロスで真のコストメリットが消えていました。
この工場は「糸の番手をワンランク下げ、生地とのミスマッチを解消」する提案を敢行。
さらにミシンテンションを標準より10%ダウン、押さえの種類を変更し、縫い始め・中間・終端部で一時停止を加える運用へ切り替えました。
結果、短期で不良率は半減。
バイヤーも“表面の工賃”だけでなく、「品質起因コスト」や「再発防止のノウハウ」に価値を見出すようになり、以降パートナーシップが深化した経験があります。
このように糸・条件の微細な調整、現場の工夫・経験の積み重ねが真の品質管理につながります。
デジタル化・自動化時代の縫製現場:昭和的知見をどう進化させるか
近年、IoTデバイスによる縫製データの自動取得、AIによる糸・条件最適化システムの導入も進みはじめています。
しかし、現実の国内下請け工場や中小企業では「昭和流」の紙記録・勘と経験への依存がまだ根強いのが現状です。
ラテラルシンキングの観点では「アナログ知見」と「デジタルツール」の融合が重要です。
現場で磨かれた“失敗の記憶”や“指先の感覚”を、数値化・標準化し、次世代への継承や全工場横断のナレッジとして活用する発想が求められます。
– 失敗事例集のデータベース化
– ベテラン技能者の作業を動画やセンサーで記録し、分析・教育に活用
– 糸選定理由やパラメータの変遷をエビデンスとしてバイヤーとシェア
このような“昭和の現場力にデジタルの翼をつける”取り組みこそ、不良撲滅に向けた究極の差別化要因となります。
サプライヤー・バイヤー・現場担当者それぞれが知っておきたいポイント
サプライヤー(工場)の皆様へ
糸・条件の選定はコスト・工数・不良率など「見えるコスト」と「見えないコスト」の両方に直結します。
数値による根拠と“責任感あるこだわり”を明確に持ち、バイヤーにそのメリット・リスクも含めて提案していく姿勢が重要です。
バイヤー・購買担当者の皆様へ
「なぜこの糸や条件でなければならないのか」の現場論理を理解し、トータルコストと将来トラブル低減の視点からパートナー選定に臨むことをおすすめします。
無理なコストダウン要請は「不良隠れコスト」を増やします。
縫製現場の若手担当者・管理者へ
ベテランが受け継いできた“なぜこの糸・条件なのか”の裏側の理由を積極的に吸収・可視化しましょう。
新しい技術や情報の活用を恐れず、「現場発の標準化」「ナレッジ共有」にチャレンジしてください。
まとめ:糸選びと条件設定こそが縫製品質の命綱
縫製不良は単なる「現場の一過性のミス」ではありません。
糸選びや条件設定といった“工程の基本設計”が、目に見えぬところで最終品質・納期・コスト・信頼関係のすべてに波及します。
アナログな現場経験も、先端デジタルも、ともに活かすことで「競争力ある縫製工場」「トータルコストの安いパートナー」に進化できます。
現場の深い知恵と新しい発想で、「日本の縫製現場の底力」を未来へつなぎましょう。
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