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発泡インクとラメインクを同時使用する際の順序設計と乾燥工程

目次
はじめに
発泡インクとラメインクの同時使用は、Tシャツやパッケージ、装飾品など、多彩な表現を必要とする製造現場で欠かせない印刷技術です。
しかし、この二種類の特殊インクを併用する際、塗工順序や乾燥工程を適切に設計しないと、不具合や品質低下、工数増大の原因になりかねません。
今回は、昭和から平成、令和と歩んできた製造現場の視点から、実戦で活きる発泡インクとラメインクの順序設計・乾燥工程のポイントについて解説します。
製造現場のリアルな悩みやノウハウを交えて、“アナログだけど結果が出る”進め方も盛り込みます。
バイヤーとして工程設計を依頼する方、現場で工夫している方、あるいは新たな表現を追求したいサプライヤーの方に、ぜひ参考にしてほしい内容です。
発泡インクとラメインク、それぞれの特徴を理解する
発泡インクとは
発泡インクは加熱することで膨張し、表面に厚みや立体感を出せるインクです。
主にシルクスクリーン印刷で使われることが多く、独特な質感によるデザイン性向上を目的にTシャツ、雑貨、パッケージ、ディスプレイ等さまざまな分野で利用されています。
膨らむ量や質感は温度管理や印刷厚みなどの条件で変化し、意図しない仕上がりになるリスクもあります。
ラメインクとは
ラメインクは、細かい金属片やプラスチック片(ラメ、グリッター)が配合されたインクです。
印刷面にキラキラとした光沢感や高級感を与えられるのが特徴で、やはりシルクスクリーン印刷やグラビア印刷などで多用されています。
懸念点としては、ラメ粒子の大きさや分散状態によって仕上がりがまちまちになりやすいこと、また定着性がインクの種類や基材によって左右されやすい点があります。
発泡インクとラメインクの相性
発泡インクは膨らみますが、ラメインクのラメ粒子は膨らみません。
発泡層の上にラメインクを乗せれば立体感が増し印象的ですが、発泡インクの膨張によってラメ層が割れたり、剥がれたり、逆にラメが発泡を邪魔して膨らみにムラが出ることもあります。
組み合わせることで表現に幅が出る反面、想定外のトラブルを招きやすい部分も多いのです。
なぜ順序設計が重要なのか
実際の現場で多いトラブルの一つが「どちらのインクを先に塗るか」「間に乾燥工程を入れるか」という、いわば“順序設計”の選択ミスです。
この順序が現場の効率、コスト、品質にダイレクトに影響を及ぼします。
工程設計があいまいなまま進めてしまうと、以下のような問題に直面します。
・発泡層の膨張でラメ層が剥離する
・ラメ層がきれいに乗らず、キラキラ感が不十分
・ラメ粒子が発泡層に埋もれてしまい、デザイン性が低下
・インク同士が適合せず、滲みや剥がれ、色移りが発生
・乾燥不良によるインクのベタつきや密着不良
・歩留まりや再工数のロス発生
現場での実体験として、習慣的な順序で進めてしまうことが多いですが、新規コンビネーションの場合はテストパターンの作成と条件検討が不可欠です。
発泡インクとラメインクの順序設計パターン
発泡インクとラメインクの順番として、主に2つのパターンが考えられます。
パターンA:発泡インク→ラメインク
まず発泡インクを先に印刷、加熱して十分に膨張・硬化させ、その後でラメインクを上から印刷・乾燥する方法です。
【利点】
・発泡インクの持つ立体感や膨らみを確実にコントロールできる
・膨らみ後の形状にラメインクをキレイに載せられ、粒感・輝きが活きる
・膨張後の熱によりラメが変質するリスクを抑えられる
【注意点】
・発泡層が凸状のため、ラメインクの厚みコントロールが難しい
・凹凸面にインクが均一に載りにくく、ラメ密度にムラが出やすい
・接着力確保のため、発泡層表面の状態(粗さ、油分、表面張力等)に注意
パターンB:ラメインク→発泡インク
ラメインクを先に印刷・軽く乾燥し、その上から発泡インクを印刷、まとめて加熱膨張させる方法です。
【利点】
・ラメインクをフラット面に均一に印刷でき、発色や粒感が安定
・発泡インクの膨張でラメ粒がインク層へ適度に埋まり、剥がれにくくなる場合がある
【注意点】
・発泡インクの膨張でラメ層にダメージ(クラックや浮き)が発生しやすい
・発泡インクの厚みにラメ粒が邪魔をして膨張が不十分になる可能性
・ラメ粒が熱で変質・変色するリスク
パターン選択の勘どころ
実際には、インクの種類(油性・水性、インク成分)、ラメ粒の材質とサイズ、基材の性質、製品の用途・耐久性などによって最適な順序が異なります。
一概にどちらが良いとはいえませんが、
・立体感やラメの輝きを最大限生かしたい場合…パターンA
・ラメの均質な光沢や面精度を優先したい場合…パターンB
というのが目安です。
乾燥工程設計の重要ポイント
順序設計だけでなく、“乾燥工程”の組み立てこそが問題解決のカギです。
発泡インクの膨張および硬化には高い温度と十分な時間が必要ですが、ラメインクの定着や表面仕上がりも乾燥条件に大きく左右されます。
ここでありがちな失敗例を現場から紹介します。
失敗例1:短時間乾燥で発泡不十分
経済効率を優先し短時間乾燥した結果、発泡が中途半端になったり、十分に膨らんだと思っても内部で未硬化が残り、ラメインク印刷後に変形や剥がれ、ベタつきが出てしまう。
失敗例2:高温過乾燥でラメ変色
乾燥温度を上げすぎた結果、ラメ粒子が熱変色したり、インク層がヤケて風合いが悪化した。
失敗例3:表面乾燥のみで密着不良
表面だけが早く乾き内部に溶剤や水分が残り、そのまま次工程に進めたらインク層同士の密着が悪く、歩留まり低下。
発泡&ラメ併用時の最適乾燥工程
発泡インクの乾燥(一次乾燥)
発泡層の十分な発泡・硬化にはメーカー規定の温度・時間を厳守します(例:140~160℃で1~2分など)。
ライン化されていない現場や少量生産現場では、乾燥機の特性を理解し、中心温度がしっかり上がるよう調整するのがポイントです。
厚盛り印刷の場合は複数回のプレ乾燥、あるいは加熱後の自然冷却を取り入れると、発泡層の歪みやシワ発生を防げます。
ラメインクの乾燥(二次乾燥)
ラメインクは乾燥不足だと密着力・耐久性が落ちます。
また、粒子の加熱変色や浮きにも注意が必要です。
表面ラメ層の仕上げには、低温長時間(例:80~100℃で5~10分)の乾燥、あるいは自然乾燥(常温24時間以上)を加えるのが、高品質・高歩留まりへの王道です。
特にラメ層は厚盛りになりやすいため、乾燥が不十分にならないよう、生産体制に応じてクリップ乾燥や棚干しを活用する等の現場ノウハウが重要になります。
歩留まりを高めるための現場の工夫
テストパターンの作成
新規の組み合わせを本番生産にいきなり投入するのは危険です。
小面積でテストパターンを作り、乾燥条件、順序、印刷方法(メッシュ、厚さ)別に比較サンプルを作成。
これを工程設計会議やバイヤーとの打合せの資料に使いましょう。
前処理&脱脂工程を徹底する
基材の表面洗浄や脱脂が不十分だと、インクの密着トラブルが多発します。
作業効率や“抜け”を考慮しつつも、アルコール拭きやイソプロパノール拭きなど、前処理工程をマニュアル化しておくとトラブルの芽を事前に摘めます。
温度・湿度管理の徹底
乾燥工程の温度・時間だけでなく、作業場の環境(湿度、気温)を記録・管理することが意外と重要です。
季節によって同じ乾燥条件でも仕上がりが異なるため、現場での簡易温湿度計の設置や、過去のトラブル履歴の“見える化”が功を奏します。
品質検査のタイミングと内容を見直す
完成品の検査では、単純な目視だけでなく、引張試験やラメ粒子の脱落テストなど“工程内検査”も必須。
また、バイヤー視点では詳細な検査報告書や再発防止策も評価材料となるため、現場と管理部門が協力して仕組み化することが期待されます。
製造業バイヤー・サプライヤー向けの提言
バイヤーや購買部門が工程設計を依頼・発注する際、下記をポイントとしてコミュニケーションすることが品質安定やコスト削減に直結します。
・順序設計と乾燥条件の根拠やサンプル数値を要求する
・ラメや発泡のグレード(メーカー、型番、推奨温度)を細かく指定
・テスト結果を写真や物理・化学試験データで提出させる
・季節変動やロット毎の対策も契約書等に明記
サプライヤー側も、ベテラン職人の「感覚」だけに頼らず、デジタル記録や作業標準化、トライアルデータの共有を積極化しましょう。
双方が“工程を科学的に管理する意識”を高めることで、発泡&ラメの新たな価値創出と、製造業全体の進化に寄与できるはずです。
まとめ
発泡インクとラメインクの同時使用は、未知の表現や価値を生み出す反面、工程設計に高度な現場力と工夫が要求されます。
昭和型の“勘と経験”はもちろん大切ですが、デジタルデータや標準化、PDCAの徹底活用が、現代の製造業の競争力となります。
順序設計では両インクの特性を見極め、最適な乾燥条件を現場の環境や商品特性に合わせて設計しましょう。
バイヤー・サプライヤー間の密なコミュニケーションを通じて、現場の失敗事例と改善ノウハウを積み上げていくことで、業界の成熟・発展をめざしましょう。
製造業に関わるすべての方が、今回の知見を実践で活かし、より高品質で魅力的なモノづくりにチャレンジされることを心より願っています。
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