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OEMで起きる“仕様の暗黙理解”が事故を生む構造

目次
はじめに:なぜOEM現場で“仕様の暗黙理解”が問題化するのか
製造業の現場において、“OEM”という言葉は今や極めて一般的な存在です。
自社ブランド製品を持たない企業が他社ブランドの製品を生産するOEMは、コスト分散や短期大量生産といったメリットから大手から中小メーカーまで多くの工場で導入されています。
しかし、OEMが普及する中で顕在化してきたのが、“仕様の暗黙理解”によるトラブルや事故です。
「そんなの昔からあるよ」と思われる方も多いかもしれません。
そう、これはまさしく昭和から続く“阿吽の呼吸”。
でも、そのままでは今後の製造業は生き残れません。
なぜ“仕様の暗黙理解”は事故を呼び、不幸な経営結果を生みやすいのでしょうか。
現場目線で構造的な課題を掘り下げ、さらにサプライヤーとバイヤー双方で意識すべきポイントを整理していきます。
OEM現場での“仕様暗黙理解”の実態
図面に書かれていない「当たり前」が分断を生む
日本の製造現場には、「口伝」「経験」あるいは「前はこうだったから今回も」という“過去の慣例”が強固に根付いています。
例えばある自動車部品のOEM現場。
本来であれば図面や仕様書で全ての要求事項を明文化しなければいけません。
しかし、現場のベテランA課長はこう言います。
「いや、うちのエンドユーザーさんはいつもこの仕上げでOK。
前の製品もコレで問題になったことはない」
サプライヤー側は“暗黙理解”をベースに工程を進めます。
しかし、バイヤー側の担当が世代交代。
新担当は「これ、仕上げ精度が図面記載より緩いですね?」と怒り。
結果、「うちの常識」と「先方の常識」がズレたまま納品、重大なクレームやリコールに発展。
最悪の場合、多額の損失や信頼の喪失に至ります。
言葉の定義が一致しないリスク
もう一つ、典型的なのが言葉の解釈の違いです。
たとえば「通常範囲のゲートバリ」と表現した際に、どの程度までが「通常」かは人・現場・国で異なります。
「0.2mmまでOK」という企業もあれば、「0.1mmでもNG」という現場も。
バイヤーが「それくらい分かるだろう」と思っても、受け手が海外工場や別プロジェクトの場合、致命的なすれ違いを生む。
大量生産現場や、複数サプライヤーを巻き込むグローバルなOEMでは、“なんとなく”の理解は極めて危険です。
暗黙の了解が生まれる背景構造
昭和的現場のメンタリティと役割分担
かつての日本製造業は、現場力・技能・属人的ノウハウが強みでした。
その文化は今も多くの工場・バイヤー・サプライヤーで色濃く残っています。
現場と設計、購買部門の壁が厚く、情報共有はメールや口頭で済ませがち。
設計の要求も「これまでの実績通り」「前のサプライヤーがこうしていた」など過去に依存しやすい。
また、バイヤー側は「今度も大丈夫でしょ」の安易な安心感が先行し、仕様の詳細確認や書き起こしを端折る傾向があります。
サプライヤー側も「極力バイヤーのニーズに合わせたい」の思いから、分からないまま作業を進めてしまう。
こうした風土・メンタリティが、“言わなくても分かるだろう” という危険な暗黙の了解を生み続けているのです。
「とりあえずの試作」主義が招く失敗
“まず作ってみて、お互い見てから修正しよう”
これは現場がスピードや柔軟性を重視したことに起因します。
一見、臨機応変な対応にも思えますが、細かな仕様を詰めずに進めてしまい“修正が効かないまま納期直前”という悲劇は枚挙に暇がありません。
失敗のたび、「やっぱり事前擦り合わせを徹底すべきだった」と反省しますが、繁忙や人員不足から“つい今度も”とアバウトな進行に依存する悪循環に陥っているのが現状です。
事故・トラブルの実例とその本質的な構造
誰が「責任」を背負うのかという緊張関係
仕様の曖昧さは、トラブルが起きた際に「どこが悪かったのか」「誰が責任を取るのか」の追及を複雑化させます。
たとえば、
・「ここは交渉の余地だと思った」とサプライヤーが判断
・「なぜ事前に相談・確認しなかったのか」とバイヤー
・「前例では問題なかった」と現場
このように担当者間で責任の押し付け合い、検証や再発防止策も不十分に終わるケースが多く見受けられます。
これは、「明確な仕様の事前共有・合意」という当たり前のプロセスが抜け落ちたゆえの“構造的な事故”です。
グローバルOEM拡大がもたらす新たなリスク
近年はアジア圏など海外サプライヤーへもOEM生産が拡大。
文化や技術レベル、用語定義が大きく異なる中、“日本の常識”を前提にした仕様伝達や品質要求は致命的な齟齬を生みやすくなっています。
納品後に「期待していた仕上げと違う」、あるいは「規制基準が国によって違う」など、リコールや輸出停止に繋がる事例は後を絶ちません。
このようなリスクに対処するためにも、属人的な暗黙共有から脱却し、グローバルスタンダードを意識した仕組み作りが不可欠です。
時代は変わる、現場も変わる──突破口はどこに?
DXやデジタル化で“曖昧さ”を減らす取り組み
デジタル技術の進歩が進む製造業。
仕様書や図面管理、工程の進捗や検査内容までを一元的にデータで管理・共有する“デジタル化”は、曖昧さの排除に大きく貢献します。
例えばPDM(製品データ管理)やPLM(ライフサイクル管理)ツールでは、設計変更や承認履歴の全てがタイムラインで残り、双方での合意事項も「言った/言わない」論争を未然に防ぎやすい特徴があります。
また、品質管理体制もデータ化することで、各工程ごと・個人ごとのバラつきを可視化。
「なぜこうなったか」が明確になれば、個人任せでなく“仕組み”としての品質づくりが浸透していきます。
バイヤー視点の「本当に伝えるべき」仕様明確化のポイント
バイヤーが陥りがちな「これくらい伝えなくても分かるだろう」というポイントを明文化しましょう。
・OK/NGの基準を数値で全て明言する
・原材料や副資材の想定レベル・グレードまで記載する
・納入・検査方法や梱包仕様の“些細な違い”も共有
・図面や仕様書の最終版に承認サインを義務づける
・定期的な現場監査、試作段階の細密なすり合わせ
このような“徹底的な言語化”が事故やトラブルの芽を最小限に留めます。
サプライヤー視点からみた「確認・提案・報告」の徹底
一方で、サプライヤー側も
「気になる/曖昧な点は、遠慮なくすぐ確認・相談する」
「過去の事例との違いがあった場合はイニシアチブを持って報告する」
「改善提案やコストダウン案も仕様変更点として書面で提案する」
といったアクションが重要。
“行間を読む”だけでなく、“双方で納得できる明文化”まで持ち込むことが、信頼されるパートナー像へとつながります。
おわりに:アナログからの脱却、“自分ごと”としての仕様管理を
製造業、とりわけOEM現場では、阿吽の呼吸や“言外の理解”が美徳とされた昭和の時代から、今もなお“暗黙の仕様理解”による事故が根強く起きています。
ですが、時代は変わります。
サプライチェーンも組織体制も、国内外での競争環境も、そして“モノづくり”に求められる品質やスピードも刻々と変化しています。
バイヤーは、「言わなくても分かるだろう」の意識から一歩抜け出し、「仕様のすべては言語化・データ化してこそ伝わる」へ。
サプライヤーは、「お客様の顔色をうかがう」から、「本当に価値のある提案型パートナー」へ。
“仕様”は、あなたと取引相手の技術・信頼・経営リスクすべてを左右する共通言語です。
ぜひ、「現場が分断されている」「今もどこかで曖昧なまま進めている」──そんな自社の状況を“自分ごと”として見つめ直してみてください。
仕様の明確化は、新たな事故を未然に防ぐだけでなく、貴社の強みとなり、そして産業全体の成長にも寄与するはずです。
まずは、ひとつひとつ“あやふやな部分”を洗い出し、関係者とよく対話することから始めてみましょう。
昭和的アナログ業界の先へ、新たな製造業の未来を切り拓くために。
OEMでの“仕様の暗黙理解”に、私たち全員がもう一度、真剣に向き合うときが来ています。
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