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開発した技術を品質部門が理解できず議論が噛み合わない典型例

目次
開発した技術を品質部門が理解できず議論が噛み合わない典型例
はじめに:製造業における“壁”の正体
製造業の現場では、企画開発部門や生産技術部門が新しい技術や工法を生み出す一方、その成果物の妥当性や信頼性を担保する品質管理部門が存在します。
この二つの部門は、製品の革新と安定供給の両立を目的に密接に連携するべき存在ですが、現場では「議論が噛み合わない」「お互い話が通じない」といった悩みが絶えません。
特に、新技術導入やイノベーションに挑戦する現場では、開発者が情熱や理論をもって立ち上げた技術に、品質部門が難色を示すことも多々見られます。
なぜこうした“壁”が生まれるのか、本稿では現場でよく起こる典型例とそのメカニズムを深掘りし、突破のヒントをラテラルに考えます。
典型的なコミュニケーションギャップの構造
技術用語と品質用語の非対称性
開発部門は最先端の理論や、工程改善、材料の革新、AIや自動化技術などを駆使し、新しい価値を創造しようとします。
その説明には、制御工学や材料科学、ソフトウェア特有の専用用語が飛び交いがちです。
一方で品質部門は、統計管理手法やISO規格、顧客要求事項といった、「再現性」「安定性」「最悪ケース」に重きを置いた目線で製品を見ています。
開発は“理想像”を描き、品質は“最悪の事態”を想定する。
この“前提の違い”が、用語や重視ポイントの食い違いにつながります。
評価基準のズレ
開発担当は「この新工法により歩留まりが5%改善し、コストが下がる」というメリットを強調します。
しかし品質部門は、「統計的データが少なく、異常時の挙動・安全マージンが不明だ」「顧客監査項目に合致していない」など、リスクへの備えに意識が向きます。
開発者が“実験室での成功”をアピールしても、品質側は“現場での再現性・安定稼働・万一の保証”が不足していると認識します。
ここで「開発は変化を推し進めたいが、品質は変化を抑えたい」という対立構造が形成されがちです。
昭和的な“アナログ現場”がぶつかるデジタル技術
現場主義の強さと“暗黙知バイアス”
特に日本の製造業では、長年の経験や「職人勘」に根ざした現場主義が強く、工程異常の際もベテラン担当者が即座にリカバリーする文化が根付いています。
そのため新しいIT技術やAI、IoTによる“見える化”導入時に「そんなものは本当に必要か?」「現場を混乱させないか?」といった警戒心が出やすいです。
技術部門が「最新の自動化で品質を均一化できます」と主張しても、品質部門は「イレギュラー時に加工条件がどう変わるか説明できるのか?」と尋ね、内部ロジックが“暗黙知”で処理されてしまう事もしばしばです。
紙とエクセル文化 VS クラウド・システム思考
昭和の頃から続く「紙での検査記録」「エクセルでの手入力分析」は根強く、証跡を紙で残す安心感が大きい現場も多いです。
それに対し開発側は「自動取集・自動判定・リアルタイムアラート」のシステム化を推進しがちです。
ここで「エラーが起きたらどうする?」「データに異常があれば、その場で何を判断すればいい?」など、“紙文化”の現場特有の心配が強く表面化します。
進めたい側と守りたい側―両者の立場の違いが、議論のすれ違いを生みます。
よくある具体的な議論の噛み合わなさの現場例
材料置換・新規プロセス導入のケース
開発部門が「新しい樹脂を採用すると、成形性も強度も優れます」とプレゼンし、サンプル評価では好結果。
しかし品質部門が「長期経時変化や輸送環境、量産現場でのバラツキ試験は済んでいるか?」と問うと、開発は「時間・コスト的にそこまで追えていません」と返す。
品質は「顧客に対して万が一の時どう説明する?」と返し開発は困惑する。
信頼性・安定性の担保方法を共通言語に落とす前に、話が頓挫します。
自動化ライン導入時のトラブル
現場自動化のため開発部は「AI検査導入で判定精度アップ、検査コスト30%削減」と説明します。
でも品質側は「AIの“誤判定時”の責任は? 再学習には誰がどう関わる? データが壊れたら復旧策は?」と突っ込む。
開発側は「ベンダー保証」「理論上のエラー率の低さ」を語るが、現場品質は「現物・現場・現実」でのリスクを想像する。
最終的に“どこまで担保するか”の観点が合わず、導入スピードが大きく遅れる例が多いです。
議論の“噛み合わなさ”はなぜ埋まらないのか
組織内の【KGI/KPIの非対称問題】
開発部門の目標(KGI・KPI)は「新技術採用数」「歩留まり向上」「コスト削減」「市場投入までの期間短縮」など、前向きな数値が求められます。
品質部門は「クレームゼロ」「社内不良減」「安全性保証」「外部監査パス数」など“変化しないこと”や“不良を出さないこと”が目標になりがちです。
変化にポジティブな部門と、変化に慎重な部門が、同じテーブルで最適解を探そうとすると、意見の基軸自体がずれるのは必然です。
コミュニケーション不足と“暗黙裡の期待”
古い業界慣習として、暗黙の前提や「聞かずとも分かるだろう」という期待がまだまだ根強いです。
忙しい現場では「議論を省略しがち」「先入観で判断しがち」になり、当事者同士で丁寧に合意形成する工程が抜けやすいです。
両者に「相手は自分の部門の苦労を知らない」「あの人たちとは考え方が違いすぎる」という“レッテル貼り”が始まるのも、このタイミングです。
打開策:ラテラルシンキングで現場を変えるには
“翻訳者”としての役割を持つ人材の重要性
このギャップを埋めるには、言葉や思考のレイヤーをつなぐ“バイリンガル”のような人材が不可欠です。
開発用語と品質用語、現場の勘とデータの理論、両方に精通した“架け橋”役の存在はますます求められています。
例えば、購買・サプライヤー管理経験者、あるいは生産技術と品証両方を経験した人材を“議論のファシリテーター”に据えることで、双方の意見を分解整理し合意点を探ることが可能になります。
“目的のすり合わせ”と“前提情報の可視化”
「なぜこの技術に挑戦するのか」「どんな品質リスクが想定されるのか」など、双方がゴールやリスクマップをホワイトボードで“見える化”する習慣が有効です。
“コンセプト図”“リスク分析マトリクス”などを活用すれば、「ここは開発、ここは品質が押さえる範囲」と、共通理解が生まれやすくなります。
プロトタイプの“共創”と“実験現場への品質部門の早期参画”
新技術開発時の初期段階から、品質部門を巻き込む仕組みも有効です。
たとえば「小さな試作ラボ」で現場・開発・品質チームを混成プロジェクトにし、“リアルな現場ノイズ”や“想定外トラブル”を両者とも体験することで真の一体感が生まれます。
体験を通じて納得感を育むことで、現場固有の“不安”や“気付き”を開発にフィードバックしやすくなります。
まとめ:昭和の“分断”から、令和の“共創”へ
製造業現場の技術者や品質担当者、さらにはサプライヤーやバイヤーの皆様へ。
「開発した技術を品質部門が理解できず議論が噛み合わない」という状況は、多くのものづくり現場でまだまだ頻繁に起こっています。
その要因は、単なるコミュニケーション不足だけでなく、部門KPIの違いや文化的背景、あるいは“暗黙知”に縛られた昭和の現場主義が根底にあります。
この壁を超えるには、部門の垣根を越えた“議論の可視化”や“両言語バイリンガル”の育成、そもそものゴールのすり合わせが不可欠です。
現場で培った経験や知恵を活かしながら、アナログ文化とデジタル革新をどう”調和”させていくか。
全てのものづくり従事者が、自分ごととして柵(しがらみ)を飛び越え、新たな地平線を切り拓いていける現場づくりを、今こそ目指したいものです。
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