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設計者が理解していない材料特性が量産歩留まりを大きく左右する現実

目次
はじめに – 材料特性の理解が製造業の鍵を握る
製造業の世界において、製品の品質や歩留まりを大きく左右する要因として「材料特性」があります。
しかし、設計段階でこの材料特性を正しく把握し、十分に考慮した設計ができているケースは意外と少ないのが現実です。
設計者は図面上で理想形を追い求めますが、その裏側には現場で苦労する生産技術者や調達購買担当、品質管理担当者たちの影の努力があります。
今回は、製造現場で20年以上の経験を持つ筆者が、設計者が見落としがちな材料特性の重要性と、それが量産歩留まりにどれほど大きな影響を与えるのかを、具体例を交えながら分かりやすく解説します。
量産歩留まりと材料特性の密接な関係
量産歩留まりとは、不良品の発生を抑え、良品を効率的に生産できているかを示す重要な指標です。
歩留まりが低下すれば、コスト増や納期遅れ、顧客からの信頼低下につながるため、企業経営にも直結します。
この歩留まりに決定的な影響を与えるのが材料の「特性」です。
材料特性には以下のようなものがあります。
主な材料特性の項目
– 強度(引張強度、圧縮強度、曲げ強度など)
– 加工性(切削、塑性加工時の変形しやすさ等)
– 温度特性(熱膨張、熱伝導率、耐熱性)
– 膨張・収縮(寸法変化)
– 表面状態(粗さ、平滑性)
– 耐食性、耐薬品性
– 許容応力・許容変形
– 材料のばらつき(ロットによる差など)
設計者がこれらの特性の本質を深く理解せず、カタログスペックや理想値のみで設計すると、量産現場では大きな困難に直面します。
設計者と現場、交錯する「認識ギャップ」とは
現場で長く働いていると、「設計は夢見る、現場は現実を知る」という場面に幾度となく遭遇します。
設計者が“机上の空論”で材料を選定し、構造設計を進めてしまったが故に、量産化段階で次々と障壁にぶつかるのです。
よくあるギャップの具体事例
1. 材料ばらつきの見落とし
標準的な材料物性値のみで成立する設計を行い、材料のロット差や異常ロットによる品質低下を想定していない。
2. 加工性への理解不足
「形状がシンプルだから、どんな材料でも簡単に削れる」と安易に考えることで、実際の加工現場ではビビり(びびり振動)やバリ発生が止まらず歩留まり低下。
3. 熱処理や応力除去の過信
図面上の材質記号や熱処理指示だけで十分と考えてしまい、寸法変動や歪み取りのリードタイムを考慮せずラインが詰まる。
4. 供給業者の苦悩を無視
短納期・安値発注するが、特殊材料や難加工材をサプライヤーに強いることで、思わぬ納期遅延や原価高騰が発生。
これらはいずれも「設計段階での材料特性理解の甘さ」から来る問題です。
実際に起こりがちな量産トラブル – 材料特性が引き起こす危機
量産工程では、設計者の想定を超えた材料特性のばらつきや、設備との相性によって場所ごとにトラブルが発生します。
成形工程でのトラブル
樹脂成形品で「流動性が悪い材料」を選択するとヒケやウエルドライン、寸法不良が多発します。
初期試作では問題ない範囲でも、量産スピードや金型の熱収支が変化することで、歩留まりが急降下することも多々あります。
加工工程でのトラブル
難削材を設計者が安易に指定した場合、工具寿命の短さや思わぬ歪みで連続生産がストップするなど、現場の生産性を著しく下げる事態に繋がります。
また素材内部の不均質さや巣(空隙)・内包物など「見えない不良」が最終工程で発覚し、全量検査や手直しという非効率な処置を余儀なくされることも。
表面処理・仕上げ工程でのトラブル
同じ金属でも鋼種や合金元素の微差によって、メッキや塗装の密着性が激変します。
設計図面では同じ記号でも、サプライヤーごとにムラが生じ、歩留まりを安定させるのが至難の業です。
このようなトラブル事例は、材料特性の“深い”理解が不足していることが主な根本原因です。
なぜ日本の製造業は「材料特性」の教育が遅れているのか
日本の製造業界、特に昭和の時代から続く“アナログ”な組織文化では、現場の暗黙知(経験則)を重視しすぎる傾向があります。
設計部門と製造部門が分断され、材料工学や生産技術の基礎的な教育は設計者への落とし込みが弱いという特有の構造的課題が存在します。
さらに、設計の若手育成にあたり「図面がキレイであること」や「3D CADスキル」など表面的なスキルばかり重視され、本当に重要な『製造プロセスと材料の相関理解』は自ら現場に赴くか、問題が起きてから学ぶのが実情です。
しかし昨今のグローバル化、カーボンニュートラル・DX(デジタル変革)などを踏まえると、この構造的遅れは大きなリスクとなります。
日本のみならず海外サプライヤーとの協業でも、材料調達段階でトラブルが頻発するため、調達バイヤーや品質保証部門も「材料特性リテラシー」が不可欠になっています。
現場と設計の連携がもたらす真の“品質向上”
材料特性を正しく理解し、“設計者目線”と“現場目線”のギャップを橋渡しすることが、次世代の製造現場の競争力を大きく左右します。
現場から設計へのフィードバックの重要性
アナログ体質の企業こそ、“現場から率直に意見を返せる文化”を作ることが重要です。
例えば材料選定会議に現場リーダーや品質管理者を加え、実際の困りごとや「この材料は止めてください」といったNG事例を可視化・記録しておくことが、歩留まり改善に直結します。
サプライヤーとの情報共有
サプライヤー任せにせず、設計者自らが材料メーカーや加工業者と直接対話し、“加工現場での問題点”や“ロットごとの品質変動”をヒアリングする姿勢が大切です。
この一歩が、想定外のトラブルを未然に防ぎます。
材料特性への理解を深めるための実践的アプローチ
製造現場で即役立つ、材料特性に関する知識習得・維持のためのポイントをまとめます。
1. 材料メーカーや問屋主催の技術セミナーに積極参加
新素材や現場での基礎的な加工性向上のヒントについて、最新情報を吸収できます。
2. 少量試作・量産前検証を徹底
設計段階で「想定通りに動くか」を必ず実験・計測で確認します。
現場と設計者が一緒に試作、評価を行うことでリスクを減らします。
3. 材料特性のばらつきデータを設計仕様に反映
公差の設定や材料選定において、「自社実績値」「サプライヤーの工程能力」「第三者機関公表データ」など多角的なデータを重ねてジグザグ思考することが大切です。
これからの製造業を担う人たちへのメッセージ
技術の進化に合わせて競争は激化する一方で、“現場力”と“設計力”のバランスが今まで以上に問われる時代が到来しています。
特にバイヤーを目指す方、サプライヤーの方は「材料特性に無関心な設計」は、調達コストや納期、品質リスクを跳ね上げる要因になることをぜひ意識してください。
また、設計者自身も「図面を書いて終わり」ではなく、その材料がどのように変化し、どのように製品価値を左右するのか、現場に足を運びサプライヤーと対話することを習慣化して欲しいと思います。
最後に――
材料特性の理解は、設計現場の“武器”であり、製造現場の“盾”です。
昭和の時代の「なんとなく」で終わらせず、新しい時代にふさわしい知見の共有と連携を、現場主導で加速していきましょう。
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