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品質保証が現場に嫌われても改善をやめられない理由

品質保証が現場に嫌われても改善をやめられない理由
はじめに:なぜ品質保証は現場に嫌われるのか
製造業の現場で「品質保証」という言葉を耳にすると、どこか固い空気が漂います。
ベテランの作業員も、現場リーダーも、品質保証部門から現場に指摘や是正要求が入ると、気まずい雰囲気になりがちです。
「手間が増えただけ」「また余計なことを…」という本音が飛び交うのが、多くの工場のリアルな姿です。
ではなぜ品質保証部門は、現場の反感を買いながらも改善をやめることはないのでしょうか。
そこには、ただのルール遵守やコスト削減では語れない、深い理由があります。
この記事では、20年以上現場に身を置き、管理職も経験してきた立場から、実践的かつ現場目線で「品質保証が継続的な改善をやめられない理由」、その裏側にある苦悩や意図、業界の本質に迫ります。
品質保証の本質と、現場との“摩擦”の正体
品質保証とは、製品が定められた品質を満たし続けるための仕組みや活動です。
ISOやIATFなどの国際規格への適合も求められるため、文書化、標準化、記録管理、問題発生時のトレーサビリティ追跡など、さまざまな取り組みが行われます。
一方、現場では「実際にモノを作る」ことが最優先。
生産計画を守り、納期通りに出荷するプレッシャーに日々さらされています。
そこに、品質保証が細かいチェックや再発防止策を求めると、「非効率だ」「現場を分かっていない」という、いわゆる“摩擦”が生まれるのはむしろ自然です。
なぜ、品質改善は継続しなければならないのか
一見、手間だけが増えて現場に煙たがられる品質保証活動ですが、実は企業全体にとっては“生命線”となる活動です。
なぜなら、今やグローバル競争が激化し、ちょっとした品質トラブルがネットや取引先を通じて一瞬で拡散し、企業の評判や存続に大きなダメージを与える時代だからです。
また、日本の製造業はかつて「現場力」と「現場のカイゼン活動」で世界一の品質を築いてきましたが、近年は人材不足・技術継承の課題や、アナログな運用の限界など新たな壁に直面しています。
現場の属人性・経験頼みの品質管理だけでは、組織全体の持続的成長に限界があるのです。
サプライヤーやバイヤーにとっての品質保証の位置付け
サプライヤー(部品供給側)としては、「納入先で発生する不良」は大きな減点対象となりますし、最悪の場合は取引停止というリスクも抱えています。
逆にバイヤー(調達購買側)は、サプライヤーの品質安定性やリスク対策を厳しくチェックして、「安心してモノが買えるか」を最優先に判断しています。
このように、バイヤーとサプライヤーとの関係は「信頼こそが最強の武器」。
一度でもクレームや品質トラブルが発生すれば、数年にわたる良好な関係性やブランド価値が一気に崩壊する可能性があるため、品質保証は“現場のためでなく、会社の命運のため”にやめることができないのです。
アナログ業界の現実:昭和の手法に縋るリスク
今なお製造現場では、「ヒトの勘と経験」に依存した手作業工程や、紙帳票による管理、口伝え・伝票ベースでの指示出しが根強く残っています。
それ自体は「職人技の伝統」として誇れる面もありますが、グローバル化する調達ネットワークや、IoT・デジタル化が進む海外の競合と戦い続けるためには、いつまでも昭和的なアナログ体質に安住できません。
品質保証の切り口から言えば、アナログな管理はミスの温床となりやすく、“異常の早期発見”や“再発防止の徹底”が、データやロジックにもとづかない属人的な対応に終始するリスクがあります。
こうした古い体質を脱却するには、現場と品質保証の“両輪”で進める改善活動が不可欠です。
現場に嫌われる品質保証の「ウラ」にある使命
品質保証部門は、単なる“会社の警察”や事務的な存在ではありません。
むしろ現場の真の価値を引き出し、組織として「より強い工場」へ導く橋渡し役でもあるのです。
例えば、現場で起きがちな問題に「ヒューマンエラー」「見落とし」「慣れによる確認不足」があります。
品質保証は、こうした再発を防ぐために、“なぜなぜ分析”や“標準化”“ミスが起きにくい仕組み”の構築を粘り強く現場に促します。
当然、「面倒」「無駄な手間」「現場を信じていない」と嫌われることも多いでしょう。
しかしその“嫌われる役”がいなければ、同じミスが何度も起き続け、取り返しのつかない大事故・大損失につながりかねません。
だからこそ、たとえ煙たがられても、品質保証は地道な改善活動を止めることはできないのです。
現場と品質保証、“歩み寄り”のポイント
双方の対立を和らげ、互いの立場を理解し合うには、いくつかの重要なポイントがあります。
1.「なぜ必要か」を現場目線で説明する
品質保証は、指示や要求だけでなく、「なぜこの取り組みが必要なのか」「どんなメリットや効果があるのか」を、現場の言葉で語りかけることが求められます。
また小さな改善で得られた成果を現場と共有し、“やらされ感”ではなく「自分たちが主役」と思える雰囲気づくりが重要です。
2.デジタル活用で“ラク”にする
アナログ作業のムリ・ムダをIT化することで、記録→集計→分析の手間を激減できます。
現場と品質保証が協力してデータベースやタブレットを導入すれば、「品質活動=やらされ感」の構図から脱却し、ラクしてミスを減らす環境づくりが進みます。
3.現場・QA部門の“相互出向”で理解を深める
短期間でも互いの現場を経験しあうことで、相手の苦労や本音がよく見えるようになり、「動かされている」のではなく「一緒に動く」関係性が築きやすくなります。
バイヤー視点で見る“信頼できるサプライヤー”の条件
品質保証による改善が進むサプライヤーは、バイヤーにとって下記のような魅力があります。
・トラブル時の“逃げない”姿勢と、迅速な原因究明・対策力
・継続的なカイゼン活動による「進化し続ける」企業文化
・データに基づき透明性ある説明責任を果たせること
こうしたサプライヤーは、「次も発注したい」「末永く付き合いたい」と思わせる本物の信頼を勝ち取ることができます。
逆に、品質保証をおざなりにする会社は、“コストは安いがリスクが高い”とバイヤーに判断され、事業チャンスを逃すことになるのです。
さいごに:製造業の未来のために、品質保証が必要な理由
昭和から続くアナログな現場にも、デジタル化・自動化の波は着実に押し寄せています。
しかし、AIやロボットにはまだ人間の現場力=「カイゼンの知恵」や「現地・現物・現実」をみて瞬時に判断する力は敵いません。
だからこそ、品質保証の“嫌われ役”が現場と力を合わせ、人的ミスの削減や仕組み化を地道に積み上げることが、新時代の「ものづくり」の礎になります。
バイヤーもサプライヤーも“品質”をキーワードに、本音と改善をぶつけ合いながら、日本のものづくり文化を次世代に継承していくことが、私たちひとりひとりの責務です。
品質保証が現場に嫌われても改善をやめられないのは、「全員で守るべき価値」がそこにあるからなのです。
製造業に携わる全ての方に——今一度、品質保証の本質と現場との協働の意義を、心に刻んでいただきたいと思います。
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