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投稿日:2026年2月4日

運動支援と安全配慮義務の線引きで悩む人事

はじめに 〜製造現場の「運動支援」と「安全配慮義務」のジレンマ

製造業の現場では、労働災害撲滅や健康経営といったキーワードが近年ますます重視されるようになっています。
従業員の作業パフォーマンスを向上させるための「運動支援」は、社員の健康増進や腰痛・肩こり予防などに直結し、現場の生産性に多大な影響をもたらすことは広く知られてきました。

一方で、工場や倉庫などの職場では「安全配慮義務」という法律上の義務が会社側に課されています。
このふたつの潮流は多くの場合両輪で進みますが、しばしば「どこまでが会社の責任で、どこからが個人(従業員)の自発性に任せるべきか」というジレンマ—線引き—に直面します。

この記事では、筆者が長年の製造現場経験を通して感じたリアルな課題や、昭和の体質が残るアナログ業界ならではの“あるある事情”、法的観点や最新事例を踏まえ、現場人事担当者の悩みに応えるヒントを詳しく解説します。

「運動支援」はなぜ製造業の現場で重要なのか

現場労働と運動習慣の乖離という現実

製造現場では、重量物の運搬や立ち作業など、身体への負担が大きい作業が日常茶飯事です。
しかし、多くの職場で課題となっているのは「現場作業=運動になる」と思い込まれがちで、あえて運動習慣を追加で設ける重要性が認識されにくい点です。

昭和の頃から「作業現場で鍛えれば充分」「忙しくて運動の時間など取れない」といった価値観が根強いものの、実際には偏った筋肉の使い方で慢性的な身体トラブル(腰痛・腱鞘炎・肩こりなど)に悩まされる現場社員が後を絶ちません。

健康経営・生産性向上の観点から

健康経営が声高に叫ばれる昨今、企業が積極的に運動支援に投資する事例は珍しくありません。
適切なストレッチや体操の導入による負傷低減は、「労災リスク」や「作業効率ロス」への直接的な抑止効果を持ちます。

例えば、着手前ウォーミングアップ体操の導入や作業中のマイクロ休憩(短時間の自主ストレッチ)の推奨など、現場の生産性アップに繋がる研究も多く見受けられます。
また、2000年代以降、多数の製造現場でエルゴノミクス(人間工学)の知見を導入し、負担軽減と生産性の両立に挑む動きも加速しています。

「安全配慮義務」とは何か?法的・実務的な線引き

会社が負う「安全配慮義務」の基本

労働契約法5条では、企業=使用者には「労働者の生命・健康等を保持するよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)」が明示されています。
現場のリスクアセスメントに基づき、作業手順や職場環境の合理的な安全確保施策を講じなければなりません。

特に労災発生時には、企業の責任の有無が厳しく問われます。
社員が業務中にケガをした際、会社として「予見可能だったリスクに対応していたか」「他社と同水準の安全対策を講じていたか」が厳格に判定されます。

どこまでが企業の責任か?運動支援との関係

厚生労働省の通達によれば、「業務上必要な健康保持対策は企業の安全配慮義務の枠内である」とされます。
そのため、現場作業に直接関わる健康対策(例:腰痛防止研修や作業姿勢教育など)は少なくとも会社側の責務となります。

一方、一般的な運動習慣の自主的推進(休日のジョギング、通勤時間の体力増進活動など)は現状、個人の自発性・自己責任の範囲とされています。

この線引きは一見明確なようで、現場では「就業時間内のストレッチを義務化してよいのか」「朝礼体操を嫌がる社員にどう対応するべきか」など、グレーゾーンが多く存在します。

現場の「線引き」問題〜よくある悩みと対応事例

1. 運動習慣の強制はできる?就業規則との兼ね合い

現場で「就業前体操」や「ストレッチ時間」を設ける企業もありますが、強制力にどこまで踏み込んでよいかは悩ましいテーマです。
就業規則への明記を怠れば「強制される筋合いはない」「宗教や健康上の理由でやりたくない」といった声が出やすくなります。

そこで、法的トラブルを防ぐためには
1. 就業規則や安全衛生管理規程への明文化
2. 個々の事情(既往症、宗教、障害等)への配慮
3. 継続的な説明と社員の納得形成
が不可欠になります。

現場での落としどころとしては「全員強制はあくまで安全配慮義務の一環として明確に説明し、やむを得ない場合は免除・別対応を設ける」「形式的・儀礼的な運動習慣にせず、目的や効果を共有しながら進める」などの方法が有効です。

2. 熟練作業者ほど「昔ながら」に固執しがち

昭和世代を中心とした熟練工層では、「昔からこうやってきた」「今さら体操なんて」と運動支援への抵抗感が根強いケースも見られます。
その土壌には「自主性を尊重」「無理強いしない」といった現場文化が影響していますが、これが逆に安全対策推進の足かせになることもあります。

成功事例としては「ベテランほど自負心をくすぐる=安全指導者として体操の模範役を任命する」「ミドル層が率先して実践し若手のロールモデルをつくる」「多拠点合同の安全衛生活動コンテストを実施し、MVP表彰する」といった現場参加型の工夫が挙げられます。

3. サプライヤー・協力会社との「温度差」も課題

大手企業の工場では、サプライヤーや協力会社のスタッフが日常的に現場を出入りします。
このとき「当社基準で運動支援や安全教育を一律適用すべきか?」という問題が生じがちです。

一歩間違えれば「内製社員だけ強化して、外注スタッフはノータッチ」「協力会社の文化と衝突」となり、不平不満や現場の分断を招くリスクがあります。

対策としては、「協力会社とも安全衛生委員会を合同化し、指針や体操内容の統一を図る」「各請負会社にも安全配慮義務の観点を周知し、必要なら合同教育を実施する」など、現場の“温度差”解消を目指す取り組みが不可欠です。

今後求められる「実践的運動支援」と「安全配慮義務」の新たなあり方

テクノロジーの活用で生まれる新しい現場支援

近年では、ウェアラブルデバイスやAI姿勢解析、スマートフォンアプリ等を用いた体力測定・健康管理システムが開発されています。
これらを現場に導入することで「誰のどの作業が負荷過多なのか」「日々のストレッチ効果はどうか」など、定量的な運動習慣の評価・最適化が可能となります。

また、特定スタッフの身体的リスク(加齢・持病など)を個人データで把握し、個別最適化した予防体操やワークフロー改善へのフィードバックも実現できます。

多様な価値観に対応する線引きコミュニケーション

現代の職場では、多国籍・多世代化・ダイバーシティへの配慮が不可欠です。
「一律指示型」から「個別最適型」への移行、つまり「あなたに合った運動支援・安全配慮」のためのコミュニケーション力が問われます。

現場人事には、「ルールで縛る」だけでなく「なぜ必要か」を科学データや身近な災害事例・健康被害など具体例で説く、積極的な情報発信と対話のスキルが不可欠です。

加えて、現場社員自ら「これならやってもいい」と感じる仕組みや自発参加できるムードづくり、日々の声を吸い上げて即座にフィードバック・改善につなげる柔軟さが重要になります。

まとめ 〜アナログ業界の“地殻変動”を恐れず進化を

製造業の現場では、これまで「運動支援」と「安全配慮義務」の境界を明確にせず、曖昧なまま“習慣”で動いてきた歴史があります。

しかし、労災・健康被害への社会的な目の厳しさ、従業員エンゲージメントや人材定着率向上の観点から見ても、「現場での線引き問題」に正面から向き合うことは、避けて通れない時代となっています。

テクノロジーの進化や働き方の多様化を追い風に、「業界の常識」というアナログな壁を打ち破り、現場全体で“自分事”として運動支援・安全配慮義務を再定義する——。

その先にこそ、真の意味での現場力強化・企業競争力アップへの新たな地平線が広がっていくのではないでしょうか。

現場人事の皆さま、バイヤー志望者、そしてサプライヤーの皆さまも、「線引き」の悩みを現場変革のチャンスに変えていきましょう。

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