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投稿日:2026年10月1日

EU強制労働製品禁止規則——2027年12月までに仕入先と揃える記録

この記事のポイント(結論先出し)

EU の強制労働製品禁止規則(Regulation (EU) 2024/3015)は、2027 年 12 月 14 日から適用される。強制労働を使って作られた製品を EU 市場に出すこと・EU から輸出することを禁止するもので、強制労働が製品の一部に、どの段階で使われていても対象になり、業種も企業規模も問わない[1][2]。ジェトロの分析では 2026 年 5 月時点で簡素化や適用延期は提案されておらず[4]、欧州委員会が 2026 年 6 月 26 日に公表したガイドラインもこの適用日を前提にしている[2][3]。この規則は企業にデュー・ディリジェンスの実施義務を課さないが、調査の対象になると当局から情報を求められ、原則 30 営業日以内に答える必要がある[1]。答えられなければ、手元にある事実だけで違反と判断されうる[1]。EU に製品や部品を出す日本の会社の調達部門は、部品表(BOM)の部品ごとに、どの仕入先がどの国で作ったかを示せる記録と、仕入先との約束(行動規範・契約条項)を、今のうちにそろえておく必要がある。

何が禁止されるのか——「製品の一部」でも、どの段階でも

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規則は第 3 条で、事業者が強制労働を使って作られた製品を EU 市場に出したり流通させたりすること、そうした製品を輸出することを禁じている[1]。「強制労働を使って作られた製品」は、採掘・収穫・生産・製造のいずれかの段階で、全部または一部に強制労働が使われた製品と定義され、サプライチェーンのどの段階での加工も含む[1]。強制労働の定義は ILO 第 29 号条約第 2 条によっており、強制的な児童労働も含む[1]。

欧州委員会のガイドラインは、強制労働が EU の内外どちらで起きていても対象になり、強制労働で作られた部分が製品のどれだけの割合かにかかわらず対象になると説明している[2]。対象の「製品」には工業製品のほか、農産物や鉱物などの採掘物も含まれる[2]。ジェトロの解説も、この規則は産業にかかわらず全ての製品が対象で、実質的には EU 市場への上市にサプライチェーンの強制労働リスクを確かめる取組が必要になると指摘している[5]。

日本の会社が直接の当事者になる場面は二つある。一つは EU に子会社があり、その子会社が製品を EU 市場に出す場合。もう一つは、EU の顧客に部品や製品を売っている場合である。規則とガイドラインは、当局が EU 市場に製品を出す事業者に加え、関係する場合にはEU 域外の製品供給者にも情報を求められるとしている[1][2]。EU の顧客が調査を受ければ、その質問は日本の納入先にも降りてくる。

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適用までの日程(2026 年 10 月時点)

時期 内容 出典
2024 年 12 月 12 日 EU 官報に掲載。公布の翌日に発効。データベース・ガイドラインなどの条文は 2024 年 12 月 13 日から適用 規則第 39 条[1]
2026 年 6 月 14 日まで 欧州委員会が強制労働リスクのデータベースとガイドラインを公開する期限 第 8 条・第 11 条[1]
2026 年 6 月 26 日 ガイドライン(C(2026) 4386)公表、ポータルサイト開設 [2][3]
2027 年 12 月 14 日 禁止の適用開始 第 39 条[1]
2029 年 12 月 14 日まで 欧州委員会による最初の評価(以後 5 年ごと) 第 38 条[1]

EU の持続可能性関連の規制は、企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)や森林破壊防止規則(EUDR)のように延期や簡素化が相次いでいる。ジェトロの 2026 年 6 月 12 日の分析は、この強制労働製品の規則については 2026 年 5 月時点で簡素化や適用延期は提案されていないとしている[4]。2026 年 6 月 26 日に公表されたガイドラインも、2027 年 12 月 14 日からの適用を前提に書かれている[2]。この記事を書いた 2026 年 10 月 1 日時点で、延期を前提に準備を遅らせる根拠は、確認できた範囲では見当たらない。

見落としやすいのが、適用日より前に作った製品も対象になる点である。ガイドラインは、規則は 2027 年 12 月 14 日以降に EU 市場に出され・流通する全ての製品に適用され、製品やその部品が適用日より前に生産・輸入されたものでも同じだと書いている[2]。在庫として EU 側に置いてある製品や、長く使い続ける部品の調達先も、適用日を待たずに確かめておく必要がある。

調査はどう進むか——質問が来たら 30 営業日

当局はリスクに基づいて調査対象を選ぶ。規則は優先づけの基準として、疑われる強制労働の規模と深刻さ(国家による強制労働の懸念を含む)、EU 市場に出ている製品の量、強制労働で作られた疑いのある部分が最終製品に占める割合を挙げている[1]。ガイドラインは、強制労働に近く、やめさせる影響力が大きい事業者に重点を置くこと、規模と経済力を考慮すること、ただし小さな会社への外注で逃れる動きにも注意することを書いている[2]。

調査の流れは次のとおりである。

1. 予備段階
当局は本調査を始める前に、対象の事業者(関係する場合はほかの製品供給者にも)に、強制労働リスクを特定・防止・軽減・停止・是正するためにとった措置について情報を求める。事業者は受け取ってから 30 営業日以内に答える。当局は回答を受け取ってから 30 営業日以内に、違反の「実質的な懸念」があるかを結論づける[1]。

2. 本調査
懸念があると判断すると、当局は調査開始の決定から 3 営業日以内に、調査の開始、対象製品、理由、資料を出す権利と期限を事業者に知らせる[1]。当局は調査開始から 9 か月以内に決定するか調査を閉じるよう努める[1]。

3. 決定
違反と判断されると、EU 市場への上市・流通と輸出の禁止、すでに市場にある製品の回収、製品の処分が命じられる。強制労働で作られた部分が交換できる場合は、その部分の処分を命じ、交換すれば再び市場に出せる[1]。命令に従う期限は原則 30 営業日以上とされる[1]。

注意したいのは、協力しないこと自体が不利に働く点である。正当な理由なく情報の提供を拒む、期限までに出さない、不完全・不正確な情報で調査を妨げる、といった場合、当局は手元にあるほかの事実に基づいて違反を認定できる[1]。ガイドラインは、非協力は原則として証拠になり、ほかの事実と合わせれば違反の認定に十分な根拠になりうると書いている[2]。一方で、どうしても期限に間に合わない事情があるときは、期限が来る前にできるだけ早く当局に伝えるべきだとしている[2]。

なお、米国のウイグル強制労働防止法は、特定の地域・事業者が関わる製品を強制労働で作られたものと推定し、輸入者がその推定を覆す仕組みである。EU の規則には、こうした推定の規定はない[1]。当局が情報と証拠を集めて違反を判断する。米国の制度はウイグル強制労働防止法と調達の書類の記事で扱う。

当局が求めうる情報——調達部門が持っているべき記録

規則は企業にデュー・ディリジェンスの実施を義務づけていない。ガイドラインも、サプライチェーンのデュー・ディリジェンスは製品が強制労働で作られていないことを示す有用な方法だが、規則はデュー・ディリジェンスの義務を課しておらず、トレーサビリティの確保、責任ある購買慣行、認証制度、労働者主体の監視なども有効だと書いている[2]。ジェトロも同じ点を指摘したうえで、調査の対象になれば措置に関する情報を当局に出す必要があるので、何らかの対策を講じておくことが求められるとしている[3]。

ガイドラインは、当局が求めうる情報の例を三つに分けて挙げている(例示であり、網羅ではない)[2]。調達部門が手元に持てるものに印を付けて整理すると、次のようになる。

事業者の取組についての情報
会社の方針・行動規範、研修資料、調達方針、サプライヤー行動規範、強制労働を禁じる契約条項、仕入先の受け入れ審査と監視の記録、分野別のリスク評価、予防措置の記録、苦情処理の仕組みの記録、是正計画と評価、第三者監査報告書など[2]。太字の部分は、調達部門が作り、持っているはずの書類である。

現場の労働条件についての情報
労働者への聞き取りの記録、社会監査、労働条件や寮の写真、労働者名簿・雇用契約・賃金台帳など[2]。これらは仕入先が持つもので、発注側は「出してもらえる約束」を事前に結んでおくしかない。

製品についての情報
トレーサビリティの記録や貿易・通関・輸送のデータ、HS コードや型式・ロット番号などの識別情報、加工・流通の連鎖を示す証明書、完成品と原材料の出どころをつなぐ書類、部品表(BOM)(強制労働の疑いのある部品の割合を判断するのに特に関係する)、原産地証明書、対象期間の数量と金額など[2]。ジェトロは、生産・製造・採掘の主要段階を含むサプライチェーンの説明、主要な工程に関わる製造・生産・供給事業者の一覧、直接・間接の供給事業者を示すサプライチェーンマップが求められると要約している[3]。

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発注側が今から変えること(提案)

以下は規則の要求そのものではなく、上の情報を 30 営業日で出せる状態にするための調達実務の提案である。

1. BOM と仕入先台帳をつなぐ
EU 向け製品について、BOM の部品ごとに、仕入先・製造国・製造工場を引けるようにする。商社経由の部品は、商社の先の製造元まで記録する。規則は部品単位で処分や交換を命じうるので[1]、部品と仕入先の対応が取れていないと、どの部品を替えればよいかも示せない。

2. 材料の出どころを聞く品目を絞る
全部品の原材料まで一度に遡るのは現実的でない。欧州委員会が整備する強制労働リスクのデータベース(規則は地域・製品ごとのリスク情報を載せるとしている[1])や、ガイドラインが説明するリスク指標を見て、リスクの高い地域・品目に当たる部品から始める。政府のガイドラインも、深刻度の高いものから優先して取り組むべきだとしている[6]。

3. 情報提供に協力する約束を契約に入れる
仕入先との基本契約やサプライヤー行動規範に、強制労働の禁止に加えて、当局や顧客から照会があったときに期限を決めて必要な情報(下請先の名称・所在地、労働条件の記録など)を出すことを入れておく。条項の置き方は基本取引契約書の記事を参照してほしい。日本の政府ガイドラインも、調達指針の遵守義務と、不履行時の改善要求・解除の条項を契約に入れることを例示している[6]。

4. 仕入先に一方的な負担を負わせない
情報の提出や監査の受け入れを求めるときは、話し合いで進める。政府のガイドラインは、契約上の立場を利用して一方的に過大な負担を負わせる形で人権尊重の取組を要求すると、下請法(現在の取適法)や独占禁止法に抵触する可能性があると注意している[6]。進め方は調達で進める人権デュー・ディリジェンスの記事にまとめた。

5. 見つかったときにすぐ切らない
強制労働の疑いが見つかったとき、取引を直ちにやめても強制労働そのものはなくならない。政府のガイドラインは取引停止を最後の手段として位置づけている[6]。一方で EU の決定は製品の流通そのものを止めるので、EU 向けの製品については、代わりの仕入先の候補を並行して探しておく。

よくある質問

中小企業は対象外か

対象外ではない。規則に企業規模による適用除外はなく、当局が調査対象を選ぶときに規模と経済力を考慮する、という仕組みである[1][2]。中小企業は、調査対象になったとき加盟国の窓口に当局とのやりとりの支援を求められる[2]。

EU に直接輸出していなければ関係ないか

EU の顧客に部品を納めているなら関係する。当局は EU 域外の製品供給者にも情報を求めうる[1][2]。また、日本で作った部品を組み込んだ顧客の製品が EU で調査されれば、顧客から BOM の部品ごとの出どころを聞かれる。

紛争鉱物の調査票(CMRT)で足りるか

足りない。CMRT は錫・タンタル・タングステン・金の製錬所を特定するための様式で、強制労働の有無を部品全般について示すものではない。紛争鉱物の調査は紛争鉱物調査(CMRT)を仕入先に依頼するの記事で扱っている。

まとめ

EU の強制労働製品禁止規則は 2027 年 12 月 14 日から適用され、製品の一部にでも強制労働が使われていれば EU での流通と輸出が禁止される。デュー・ディリジェンスの義務はないが、調査では 30 営業日で措置と製品の出どころを示す必要があり、協力できなければ不利に扱われる。調達部門は、BOM と仕入先をつなぐ記録、強制労働の禁止と情報提供の約束を入れた契約、リスクの高い品目から順に遡った調査記録を、適用開始までにそろえておくとよい。

出典・参考資料

  1. Regulation (EU) 2024/3015 on prohibiting products made with forced labour on the Union market(欧州議会・EU 理事会/2024 年 11 月 27 日、EU 官報 2024 年 12 月 12 日)
  2. Guidelines on the application of Regulation (EU) 2024/3015 on prohibiting products made with forced labour on the Union market(C(2026) 4386 final)(欧州委員会/2026 年 6 月 26 日)
  3. 欧州委、強制労働製品の域内流通禁止規則のガイドラインを公表(日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信/2026 年 7 月 9 日)
  4. EU人権・環境政策の転換点(1)延期相次ぐ規制簡素化のポイント(日本貿易振興機構(ジェトロ)地域・分析レポート/2026 年 6 月 12 日)
  5. EU人権・環境政策の転換点(2)日系企業はどう対応すべきか(日本貿易振興機構(ジェトロ)地域・分析レポート/2026 年 6 月 12 日)
  6. 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(参考資料 Q&A を含む)(ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議/令和 4 年 9 月・厚生労働省掲載)

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