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投稿日:2026年10月1日

EUのCSDDD(2026年改正後)と、要請を受ける日本の仕入先

この記事のポイント(結論先出し)

EU の企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD、Directive (EU) 2024/1760)は、2026 年 2 月 26 日に官報に載った簡素化指令(Directive (EU) 2026/470)で大きく改められた[3][4]。2026 年 10 月時点の内容では、対象はEU 企業なら従業員 5,000 人超かつ世界売上高 15 億ユーロ超、EU 域外の企業なら EU 域内の売上高 15 億ユーロ超で、加盟国の国内法は2029 年 7 月 26 日から適用される[3][4]。ジェトロは、日系企業の多くが対象から外れるとみている[5]。それでも日本の製造業には、対象となる欧州の大企業の取引先として、行動規範の遵守を約束する契約や情報提供の依頼が届く。簡素化指令は、対象企業が従業員 5,000 人未満の取引先に情報を求めるのは、ほかの手段で合理的に得られない場合に限ると定めた[3]。また元の指令は、対象企業が中小企業の取引先と契約で保証を取り交わすときの条件を公正・合理的・非差別的とし、中小企業についての第三者検証の費用は対象企業が負担すると定めている[1]。日本の仕入先の側は、この線を知ったうえで依頼に応じ、出せる情報を一式にしておくのがよい。

2026 年の改正で何が変わったか

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CSDDD は 2024 年 7 月 25 日に発効した[4]。対象企業に、自社・子会社・取引先の事業活動による人権と環境への負の影響を特定し、防止・軽減・停止する義務を課す指令である[1]。その後、欧州委員会の「オムニバス」と呼ばれる簡素化の取組のなかで二度改められた。2025 年 4 月の Directive (EU) 2025/794 で適用日が先送りされ[2]、2026 年 2 月の Directive (EU) 2026/470 で対象と義務の中身が改められた[3]。欧州委員会は、2026/470 が 2026 年 2 月 26 日に官報に掲載され、3 月 18 日に発効したとしている[4]。

以前の解説記事や社内資料には、2027 年や 2028 年からの適用、従業員 1,000 人超や 3,000 人超といった基準が書かれていることがある。これらは改正前の数字である。2025/794 は、従業員 3,000 人超・売上高 9 億ユーロ超の企業に 2028 年 7 月 26 日から適用するなど段階的な日程を定めていた[2]が、2026/470 が適用日を一本化した[3]。

項目 2024 年の指令(当初) 2026 年の簡素化指令の後
EU 企業の対象 従業員 1,000 人超かつ世界売上高 4.5 億ユーロ超[1] 従業員 5,000 人超かつ世界売上高 15 億ユーロ超[3]
EU 域外企業の対象 EU 域内売上高 4.5 億ユーロ超[1] EU 域内売上高 15 億ユーロ超(前々事業年度)[3]
国内法の適用 規模に応じて段階的に適用[1] 2028 年 7 月 26 日までに国内法化、2029 年 7 月 26 日から適用(報告は 2030 年 1 月 1 日以後開始の事業年度から)[3]
影響の特定 事業の洗い出し(マッピング)と、影響が起きやすい分野の詳しい評価[1] 合理的に入手できる情報だけに基づく範囲の見極め(スコーピング)と、その分野の詳しい評価[3]
取引先への情報要求 影響が起きやすい段階の取引先に直接求めることを優先[1] 必要な場合に限る。従業員 5,000 人未満の取引先には、ほかの手段で合理的に得られない場合に限る[3]
効果の確認 少なくとも 12 か月ごと[5] 少なくとも 5 年ごと(重大な変化や新たなリスクがあれば随時)[3]
気候変動の移行計画 策定義務あり[1] 条文を削除[3]
制裁金の上限 世界売上高の 5% 以上に設定[5] 世界売上高の 3%[3]

表の「当初」の列のうち、効果の確認の頻度と制裁金の上限はジェトロの整理による[5]。ほかは指令の条文で確かめた。

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日本の会社が対象になる場合、ならない場合

EU 域外の会社が対象になるのは、EU 域内での売上高が 15 億ユーロを超える場合である(グループの最終親会社の連結での判定や、フランチャイズ・ライセンスによる基準もある)[3][4]。この規模に当たる日本企業は限られる。ジェトロは 2026 年 6 月の分析で、簡素化指令により一部の大企業を除き日系企業の多くも対象から外れるとみられるとしている[5]。EU 内の子会社が単独で 5,000 人超・15 億ユーロ超になる場合は、その子会社が EU 企業として対象になる[3]。

対象外でも関係は続く。ジェトロは同じ分析で、欧州ビジネスでは規制対応だけでなく、投資家や消費者の要請、取引先の調達方針に基づく情報提供の要請や監査、認証取得などでサステナビリティーの取組が必須になっており、規制の簡素化で取引先からの要請がどこまで減るかは不透明だと書いている[6]。日本の製造業に直接届くのは、指令の条文ではなく、対象となる欧州の顧客からの依頼である。

対象企業は取引先に何を求めるか——条文から読む

指令は、対象企業がとる措置として、直接の取引先から、自社の行動規範と(必要に応じて)防止行動計画を守るという契約上の保証を取り付けることを挙げている。直接の取引先には、その先の取引先からも同様の保証を得るよう求める[1]。保証を取り付けたら、遵守を確かめる適切な措置を伴わせる必要があり、独立した第三者による検証を使ってもよい[1]。

日本の仕入先から見て重要なのは、指令が取引先側を守る規定も置いていることである。

1. 中小企業との契約条件
中小企業から契約上の保証を取り付けたり、中小企業と契約を結んだりするとき、条件は公正・合理的・非差別的でなければならない[1]。

2. 検証の費用
中小企業について遵守を確かめる措置をとる場合、独立した第三者検証の費用は対象企業が負担する。中小企業が自ら一部を負担したいと申し出たとき、または合意したときは、その検証結果をほかの会社と共有できる[1]。

3. 中小企業への支援
中小企業の取引先には、必要に応じて研修や管理の仕組みの整備などの支援を行い、行動規範の遵守が存続を危うくするなら資金面の支援も行う、とされている[1]。

4. 情報を求める範囲の限定(2026 年の改正)
詳しい評価のために取引先に情報を求めるのは必要な場合に限り、従業員 5,000 人未満の取引先には、その情報がほかの手段で合理的に得られない場合に限る。複数の取引先から得られる情報は、影響が最も起きやすい取引先に直接求めることを優先する[3]。

ここでいう中小企業は、EU の会計指令の基準でいう零細・小・中規模の企業で、大規模なグループに属さないものを指す[1]。日本の仕入先がこれに当たるかは会社ごとに確かめる必要があり、この記事では断定しない。

取引の停止については、2026 年の改正で考え方が変わった。防止できなかった影響について、対象企業は最後の手段として、新たな取引を控え、法律上可能なら関係を一時停止し、強化した防止行動計画を実施する。計画がうまくいくと合理的に見込める間は、取引を続けたこと自体で制裁や責任を問われない。停止の前には、停止による影響のほうが明らかに深刻にならないかを評価する[3]。ジェトロは、当初の指令にあった最終手段としての取引停止の義務が削除されたと整理している[5]。

欧州委員会は、任意で使える契約条項のひな形についての指針を 2027 年 7 月 26 日までに出すことになっている[3]。欧州の顧客から届く契約書の文言は、この指針を受けて変わる可能性がある。

日本の仕入先がしておくこと(提案)

以下は指令の要求ではなく、欧州の顧客から依頼を受ける日本の製造業の側の実務の提案である。

1. 出せる情報を一式にしておく
人権方針、行動規範、従業員と外国人労働者の雇用状況の概要、主要な仕入先の国別の内訳、苦情の受付窓口、監査や認証の結果。顧客ごとに別々の質問票に答えるより、一式を作って要約を渡すほうが速い。日本の政府ガイドラインに沿った自社の取組を書けば、そのまま説明の土台になる[7]。進め方は調達で進める人権デュー・ディリジェンスの記事にまとめた。

2. 依頼の中身を確かめる
求められた情報が何の評価に使われるのか、なぜ自社に聞くのかを確かめてよい。改正後の指令は、従業員 5,000 人未満の取引先への情報要求を、ほかの手段で合理的に得られない場合に限っている[3]。公開している報告書で足りるなら、それを示す。

3. 契約条項の費用と範囲を読む
行動規範の遵守を約束する条項、監査に応じる条項、下請先にも同じ約束を求める条項が届いたら、監査費用を誰が負担するか、監査の頻度と範囲、是正の期限、契約解除の条件を読む。指令は中小企業についての第三者検証の費用を対象企業の負担としている[1]。監査が実際に何を見るかは、発注側の視点で書いたサプライヤー監査のやり方の記事が、受ける側の準備にも使える。条項の読み方は基本取引契約書とはの記事を参照してほしい。

4. 自社の仕入先にそのまま流さない
欧州の顧客から求められた約束を、そのまま国内の仕入先に一方的に求めると、別の問題が起きる。日本の政府ガイドラインは、契約上の立場を利用して一方的に過大な負担を負わせる形で人権尊重の取組を求めると、下請法(現在の取適法)や独占禁止法に抵触する可能性があるとしている[7]。顧客の要求のうち、どこまでを自社の仕入先に求める必要があるのか、品目とリスクで絞ってから話し合う。

5. 他の EU 規制と分けて管理する
CSDDD の対象から外れても、製品そのものを規制する EU の制度は企業規模を問わずかかる。強制労働で作られた製品の流通を禁じる規則は 2027 年 12 月 14 日から適用され、2026 年 5 月時点で延期は提案されていない[5]。詳しくはEU 強制労働製品禁止規則、木材やゴムなどを使う製品はEU 森林破壊防止規則の記事を見てほしい。

よくある質問

2029 年まで何もしなくてよいか

指令の適用は 2029 年 7 月 26 日からだが[3]、欧州の顧客の調達方針に基づく依頼はそれより前から届いている[6]。欧州委員会の実務ガイドラインは 2027 年 7 月 26 日までに出ることになっている[3]。顧客は適用に向けて仕組みを作るので、依頼はむしろ適用前に増えると考えておくのが無難である。

また改正されるのではないか

改正後の指令は、欧州委員会が 2031 年 7 月 26 日までに、対象の基準の見直しの要否などを含めて報告すると定めている[3]。ジェトロも、今後の見直しで対象企業の範囲などが変わる可能性があり、動向を注視する必要があるとしている[6]。この記事の数字は 2026 年 10 月時点のものである。

民事責任はなくなったのか

なくなってはいない。改正で EU レベルの規定は大きく削られ、損害を受けた人の完全な補償を受ける権利(懲罰的な賠償は含まない)などに整理された[3]。具体的な責任の範囲は加盟国の国内法で決まる。ジェトロは、罰則や民事責任が国ごとに異なる可能性があり、複数の加盟国で事業を行う日系企業は注意が必要だとしている[6]。

まとめ

2026 年の改正で、CSDDD の対象は従業員 5,000 人超・売上高 15 億ユーロ超の EU 企業と、EU 域内売上高 15 億ユーロ超の域外企業に絞られ、適用は 2029 年 7 月 26 日からになった。日本の製造業の多くは直接の対象ではないが、対象となる欧州の顧客から契約上の保証や情報提供を求められる立場にある。指令は、中小企業との契約条件を公正・合理的・非差別的とし、中小企業についての第三者検証の費用を対象企業の負担とし、従業員 5,000 人未満の取引先への情報要求を限定している。この線を知ったうえで、出せる情報を一式にし、届いた契約条項の費用と範囲を読み、自社の仕入先へは絞って話し合うことが、仕入先の側でできる備えである。

出典・参考資料

  1. Directive (EU) 2024/1760 on corporate sustainability due diligence(欧州議会・EU 理事会/2024 年 6 月 13 日)
  2. Directive (EU) 2025/794 amending Directives (EU) 2022/2464 and (EU) 2024/1760 as regards the dates of application(欧州議会・EU 理事会/2025 年 4 月 14 日)
  3. Directive (EU) 2026/470 as regards certain corporate sustainability reporting requirements and certain corporate sustainability due diligence requirements(欧州議会・EU 理事会/2026 年 2 月 24 日、EU 官報 2026 年 2 月 26 日)
  4. Corporate sustainability due diligence(欧州委員会/2026 年 10 月 1 日閲覧)
  5. EU人権・環境政策の転換点(1)延期相次ぐ規制簡素化のポイント(日本貿易振興機構(ジェトロ)地域・分析レポート/2026 年 6 月 12 日)
  6. EU人権・環境政策の転換点(2)日系企業はどう対応すべきか(日本貿易振興機構(ジェトロ)地域・分析レポート/2026 年 6 月 12 日)
  7. 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(参考資料 Q&A を含む)(ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議/令和 4 年 9 月・厚生労働省掲載)

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