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米国TSCAのPFAS報告規則と、輸出品・輸入品の確認

この記事のポイント(結論先出し)
米国の有害物質規制法(TSCA)に基づく PFAS の報告規則は、2011〜2022 年に PFAS を製造または輸入した者に、用途・量・ばく露などの情報を米国環境保護庁(EPA)へ報告させる一度きりの報告である[1]。輸入には、PFAS を含む成形品(部品・製品)の輸入も含まれる[1]。報告期間の開始は 3 回動き、2026 年 4 月の最終規則で「2027 年 1 月 31 日か、改正の最終規則の発効から 60 日後の早いほう」になった[4]。成形品の輸入や 0.1% 未満の含有を報告の対象から外す改正案は出ているが、2026 年 10 月 1 日に連邦官報を確認した時点では確定していない[3]。日本の発注側・輸出側が今やることは、米国向けに出した部品・製品に含まれる PFAS の情報を、2011 年までさかのぼって答えられる形に集めておくことである。
目次
どんな報告か——一度きりで、過去にさかのぼる
この規則は、2020 年度の国防権限法で TSCA に加えられた第 8 条(a)(7)に基づくもので、EPA は 2023 年 10 月 11 日に最終規則を公布した[1]。規則は、2011 年 1 月 1 日から、規則が発効した 2023 年 11 月 13 日の前の暦年の末まで(つまり 2022 年末まで)のいずれかの時点で PFAS を製造(輸入を含む)した者に、PFAS の用途、生産量、副生成物、廃棄、ばく露、環境と健康への影響に関する既存の情報を EPA に提出するよう求めている[1]。対象期間は 2011〜2022 年で、この期間は 2023 年の最終規則の条文(40 CFR 705.10)で決まっている[1]。
JETRO は 2025 年 5 月の記事で、報告の中身を次のように整理している[5]。物質の一般名称・商品名・化学名・分子構造、使用する分野、製造・加工の量、副生成物の説明、環境と健康への影響に関する既存の情報、作業場でばく露した人数と期間、廃棄の方法である。EPA が対象として想定する業種には、製造業のほか建設業、卸売業、小売業も挙がっている[5]。
この規則での PFAS は、分子の中に次の三つの部分構造のどれか一つを持つ物質と定義されている[1]。
- R-(CF2)-CF(R’)R”(CF2 と CF の炭素がどちらも飽和)
- R-CF2OCF2-R’(R と R’ は F、O、飽和炭素のいずれか)
- CF3C(CF3)R’R”(R’ と R” は F か飽和炭素)
物質名の一覧ではなく構造で決まるので、「このリストに載っていなければ対象外」という確かめ方はできない。EU の PFHxA 制限が特定の物質群を名前と構造で列挙しているのとは考え方が違う。EU 側の動きは EU の PFAS 規制の動きと、PFAS を含む部材の調達 で扱う。
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報告期間は 3 回動いた——2026 年 10 月時点の状態
報告期間の開始日は何度も変わっている。経緯を時系列で並べると次のとおりである。
| 公表日 | 文書 | 報告期間の扱い |
|---|---|---|
| 2023 年 10 月 11 日 | 最終規則 | 報告と記録保存の義務を定めた(発効は 2023 年 11 月 13 日)。当初の報告期間は 2024 年 11 月 12 日〜2025 年 5 月 8 日、成形品の輸入だけで報告する小規模事業者は 2025 年 11 月 10 日まで[1] |
| 2024 年 9 月 5 日 | 最終規則(開始日の延期) | 開始を 2025 年 7 月 11 日に延期(1 回目)[2] |
| 2025 年 5 月 13 日 | 暫定最終規則 | 2026 年 4 月 13 日〜10 月 13 日に延期(2 回目)。成形品の輸入だけで報告する小規模事業者は 2027 年 4 月 13 日まで[2] |
| 2025 年 11 月 13 日 | 改正案 | 報告の対象から除く 6 つの区分を提案。意見募集は 2025 年 12 月 29 日まで[3] |
| 2026 年 4 月 13 日 | 最終規則(開始日の変更) | 2027 年 1 月 31 日か、改正の最終規則の発効から 60 日後の早いほうに開始(3 回目)。期間は 6 か月(成形品の輸入だけの小規模事業者は 12 か月)[4] |
2026 年 4 月の最終規則は、改正案のうち開始日の部分だけを先に確定させたものである[4]。EPA は、改正の最終規則をこの期限よりかなり前に出す見込みだとしつつ、どの改正を確定させるかにかかわらず、2027 年 1 月 31 日を「遅くともこの日には始まる」日として置いた[4]。報告期間の長さは今回は変えず、今後の最終規則で扱うとしている[4]。開始日は EPA が連邦官報で公表する[4]。
2026 年 10 月 1 日に連邦官報の検索で確かめた範囲では、報告の対象範囲を改める最終規則はまだ出ていない。社内の計画は「2027 年 1 月 31 日までには始まる」を前提に組み、最終規則が出たら日付を引き直すのが安全である。
改正案で外れるかもしれない 6 つの区分
2025 年 11 月の改正案は、報告の対象から次の 6 つを外すことを提案している[3]。
- 混合物・成形品の中の濃度が 0.1% 未満の PFAS(微量の除外)
- 成形品として輸入された PFAS
- 副生成物(一部)
- 不純物
- 研究開発用の物質
- 単離されない中間体
改正案は、微量の除外は混合物や成形品の総量にかかわらず適用すると説明している[3]。また、場面によっては成形品の輸入と微量の両方の除外が同じ救済になることもあると述べ、すべてを採用するか一部だけにするかについて意見を求めている[3]。どれが残るかは確定していない。成形品の輸入の除外が採用されれば、部品や製品を米国へ輸入する会社の負担は大きく減るが、採用されなかった場合に備える必要がある。
成形品の輸入者に求められること
2023 年の規則は、成形品の輸入者のために簡易な報告様式を用意した[1]。様式で求めるのは、知っている、または合理的に確かめられる範囲での、化学名(営業秘密なら一般名)、CAS 番号などの識別番号、商品名、分子構造、それにPFAS そのものではなく成形品全体の輸入量などである[1]。
「知っている、または合理的に確かめられる(known to or reasonably ascertainable)」という基準について、規則は、自社が持っている情報に加え、同じ立場の合理的な者が持っている・知っていると期待される情報も含むと説明している[1]。組織全体で合理的な問い合わせをすることを求め、情報を埋めるために組織の外への問い合わせが必要になることもあるとしている[1]。つまり「社内に資料がないので不明」で済ませるのではなく、仕入先に聞いたかどうかが問われる。
記録は、報告した情報を裏づけるものを、報告期間の最終日から 5 年間保存する[1]。仕入先に問い合わせた記録と、その回答も保存の対象として扱っておく。
日本の会社に回ってくる場面
報告義務を負うのは米国で製造・輸入した者で、日本の輸出元ではない。ただし、日本の会社は次の三つの場面でこの規則に関わる。
1. 米国の顧客から問い合わせが来る
米国の輸入者は、自社で分からない情報を外に問い合わせることになる[1]。日本から部品・製品を出している会社には、「過去に納めた品番に PFAS が含まれていたか」「どの物質で、どれくらいか」という質問が来る。対象期間が 2011〜2022 年の 12 年分と長いので、現行品だけでなく、生産を終えた品番や旧版の図面についても答えを求められうる。
2. 米国の子会社が輸入者になっている
米国に販売子会社があり、その子会社が日本から製品を輸入している場合、報告するのは子会社である。親会社の購買・品質部門は、子会社が答えられるように部品の含有情報を渡す役回りになる。
3. 物質名を顧客に開示できない
部材の仕入先が物質名を営業秘密にしていると、輸入者は物質を特定できない。規則はこの場合に備えて「共同提出」の仕組みを置いている[1]。輸入者の直接の仕入先(海外の仕入先)が物質を知らない場合、その仕入先がさらに上流の会社に頼み、上流の会社が EPA の報告システムに直接、物質名を登録できる[1]。輸入者も海外の仕入先も上流の会社が登録した情報は見られないので、営業秘密は守られる[1]。共同提出は、輸入者が CAS 名や CAS 番号を知らず、知っている会社が開示しない場合に使うものとされている[1]。
日本の輸出元にとっては、「物質名は顧客には言えないが、EPA には直接提出できる」という選択肢があるということである。顧客から開示を迫られたときに、取引を止めずに済む道として知っておく価値がある。
報告とは別に、州が販売そのものを制限している
TSCA の報告規則は情報を集める規則で、PFAS を含む製品の販売を禁じるものではない。一方、州のレベルでは販売の禁止が先に進んでいる。JETRO の 2026 年 4 月の調査レポートによれば、食品包装に関する PFAS の規制法は 2026 年 3 月時点で 15 州で成立しており、共通しているのは「意図的な混入」の禁止と、混入量の上限が決まっていないことぐらいで、意図的混入の定義さえ州によって違う[6]。同じレポートは、連邦議会では食品包装への PFAS 混入を規制する法案が 2019 年から 2024 年までに 3 度提出されたが、いずれも成立しなかったと伝えている[6]。
食品包装以外にも広がっている。コロラド州は 2024 年 5 月に成立した州法で、2026 年 1 月 1 日からクリーニング製品・デンタルフロス・生理用品・スキーワックス・調理器具の PFAS 使用品の販売を禁じ、2028 年 1 月 1 日からは繊維製品や透湿防水加工したアウトドア衣料、主に商業用の食品器具などに広げるとした[7]。
米国向けの製品では、連邦の報告(過去の情報)と、州の販売制限(これから売れるかどうか)の二つを別々に確かめる必要がある。前者は輸入者からの問い合わせとして、後者は販売先の州と製品区分で決まる要求として届く。どちらも、部材ごとの PFAS の情報がなければ答えられない点は同じである。
発注側・輸出側が今やること
1. 米国向けの品番を洗い出す
まず、2011〜2022 年に米国へ出した(または米国の顧客に納めた)品番の一覧を作る。現行品と、生産を終えた品番を分けて持つ。顧客から問い合わせが来たときに、品番ごとに「調べた」「仕入先に照会中」「情報なし」の状態を答えられるようにしておく。
2. 部材ごとに PFAS の情報を集める
PFAS が入りうるのは、フッ素樹脂の部品、シール・パッキン、ケーブルの被覆、潤滑剤、撥水・撥油加工した材料、表面処理の薬剤などである。部品表から該当しうる部材を選び、仕入先に問い合わせる。含有化学物質の調査をどう頼むか(様式・物質リストの版・判断の単位)は 含有化学物質の調査を仕入先に頼むとき——REACH と chemSHERPA を参照してほしい。PFAS の定義が物質一覧ではなく構造で決まるので[1]、調査票の物質リストに載っていない物質が落ちないよう、「フッ素系の物質を使っているか」も別に聞く。
3. 濃度の情報も取っておく
改正案の微量の除外は 0.1% 未満を基準にしている[3]。採用されるかは決まっていないが、採用された場合に「0.1% 未満であること」を示せないと除外を使えない。含有の有無だけでなく、どの部材にどれくらい含まれるかの情報も取っておくと、どちらに転んでも対応できる。
4. 回答と問い合わせの記録を残す
報告者は報告を裏づける記録を 5 年間保存する[1]。顧客に回答した側としても、どの仕入先に何を聞き、何が返ってきたかを残しておく。回答を後から修正するときに、根拠を示せるようにするためである。
5. 共同提出の窓口を決めておく
物質名を開示できない仕入先がいる場合に、EPA の報告システムへ誰が登録するか、顧客にどう伝えるかを決めておく。仕入先の担当者に仕組みを説明できる人を社内に置くと、顧客との交渉が止まらない。
よくある質問
日本から米国の顧客へ部品を輸出しているだけで、報告義務はあるか
報告義務を負うのは米国で製造・輸入した者である[1]。日本の輸出元そのものに報告義務はない。ただし、米国の輸入者から問い合わせが来るので、回答の準備は要る。
改正案で成形品の輸入が外れるなら、今は何もしなくてよいか
改正案は確定しておらず、成形品の輸入の除外が採用されるかは決まっていない[3]。報告期間は遅くとも 2027 年 1 月 31 日に始まる[4]。2011 年から 2022 年までの情報を集めるには時間がかかるので、品番の洗い出しと仕入先への照会は今のうちに始めておくほうがよい。
物質名を顧客に教えたくない
共同提出の仕組みを使えば、上流の会社が EPA に直接、物質名を登録できる[1]。顧客には「EPA に直接提出する」と伝え、どの情報を誰が登録するかを取り決める。
SDS を渡せば足りるか
SDS は化学品(物質・混合物)の危険有害性を伝える書類で、部品・製品の中の PFAS の量や過去の取引量を示すものではない。成形品の輸入者が求めているのは、部品ごとの含有情報と輸入量である[1]。化学品として出荷している場合は SDS も必要になるが、別の書類として用意する。国内の SDS の扱いは 化学物質の自律的な管理と、仕入先から受け取る SDS で扱う。
まとめ
TSCA の PFAS 報告規則は、2011〜2022 年に PFAS を製造・輸入した者に、過去の用途・量・ばく露などを一度だけ報告させる規則で、PFAS を含む成形品の輸入も対象になっている[1]。報告期間の開始は 2026 年 4 月の最終規則で「2027 年 1 月 31 日か、改正の最終規則の発効から 60 日後の早いほう」とされた[4]。成形品の輸入や 0.1% 未満の含有を外す改正案は確定していない[3]。日本の会社は、米国の輸入者からの問い合わせに答える側として、米国向けの品番の一覧、部材ごとの PFAS の有無と濃度、問い合わせの記録を準備しておく。物質名を開示できない場合は共同提出の仕組みが使える[1]。EU や日本の PFAS 規制、冷媒など関連する規制の動きは 冷媒(フロン類)規制の強化と、空調・冷凍設備の調達 も合わせて確かめてほしい。英文で照会を出すときの書き方は 英文の見積依頼・発注書の書き方 が参考になる。
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出典・参考資料
- Toxic Substances Control Act Reporting and Recordkeeping Requirements for Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances(88 FR 70516)(米国環境保護庁・連邦官報/2023 年 10 月 11 日)
- Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) Data Reporting and Recordkeeping Under the Toxic Substances Control Act (TSCA)(90 FR 20236)(米国環境保護庁・連邦官報/2025 年 5 月 13 日)
- Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) Data Reporting and Recordkeeping Under the Toxic Substances Control Act (TSCA)(90 FR 50923・改正案)(米国環境保護庁・連邦官報/2025 年 11 月 13 日)
- Modification to the Start of the Submission Period for Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) Reporting and Recordkeeping Rule(91 FR 18786)(米国環境保護庁・連邦官報/2026 年 4 月 13 日)
- 米環境保護庁、PFAS関連企業に対するデータ提出の報告期間開始を再延期(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2025 年 5 月 19 日)
- 米国包装材規制の今(3)州レベルで導入進むPFAS規制(日本貿易振興機構 地域・分析レポート/2026 年 4 月 17 日)
- 米コロラド州、有機フッ素化合物PFASの規制強化、2028年までに段階的に販売禁止を拡大(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2024 年 7 月 3 日)
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