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投稿日:2026年10月1日

化学物質の自律的な管理と、仕入先から受け取るSDS

この記事のポイント(結論先出し)

労働安全衛生法の化学物質規制は、物質ごとに細かく決めた規制から、事業者が自分でリスクを評価して対策を選ぶ「自律的な管理」へ切り替わった[1]。ラベル・SDS・リスクアセスメントが必要な物質は、2026 年 4 月に国の GHS 分類で危険性・有害性が確認された約 2,900 物質まで広がった[3]。同じ 2026 年 4 月から、成分名が営業秘密の場合に一定の条件で「代替化学名」による通知が認められている[3][4]。2026 年 10 月時点で購買が変えるべきことは、SDS を受け取って保管するだけの窓口から、版・記載事項・更新の通知を確かめて社内の化学物質管理者へ渡す窓口に変わることである。

何が変わったのか——規制の軸が「自分で管理する」に移った

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厚生労働省は、化学物質による労働災害を防ぐための新しい規制を、令和 4 年(2022 年)から政令・省令の改正で順に施行してきた[1]。柱は三つある[1]。

  • リスクアセスメントが義務づけられた物質(リスクアセスメント対象物)を製造・取扱い・譲渡提供する事業場ごとに化学物質管理者を選び、管理体制を強化すること
  • SDS(安全データシート)などによる情報伝達を強化すること。「人体に及ぼす作用」の定期的な確認・見直しや、通知事項の拡充を含む
  • 事業者が自ら選んだばく露対策で、労働者のばく露を最小限にすること(一部の物質は国が定める濃度基準以下にする)と、皮膚や眼に障害を与える物質を扱うときに適切な保護具を使わせること

厚生労働省のパンフレットは、化学物質を原因とする労働災害(がん等の遅発性疾病を除く)は年間 450 件程度で推移していると説明している[2]。また、代替化学名の指針は、近年の化学物質による労働災害の大半が特別規則の個別規制の対象とならない物質によるもので、規制対象の物質の使用をやめたあと、危険性・有害性を十分に確かめずに規制対象外の物質へ替えて災害が起きる例が多いと述べている[4]。「規制対象外の物質に替えれば安全」という購買の常識が通らなくなったのは、この背景による。

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2026 年の節目——対象物質の拡大と代替化学名

規制の対象となる物質と、2026 年に施行された主な事項を表にまとめる。

時期 内容 購買への影響
2024 年 4 月 1 日 リスクアセスメント対象物が約 1,100 物質に[3] ラベル・SDS が義務になる物質が増えた
2025 年 4 月 1 日 約 700 物質を追加[3] 同上
2026 年 1 月 1 日 皮膚等障害化学物質を告示で定める形に変更[5] 保護具の要否を判断する物質の範囲が告示で示される
2026 年 4 月 1 日 約 800 物質を追加。この時点の対象全体は約 2,900 物質[3] これまで SDS が無かった製品にも SDS が付く
2026 年 4 月 1 日 成分名が営業秘密の場合の代替化学名等の通知[3] SDS に「営業秘密」と書かれた成分が出てくる
2026 年 10 月 1 日 個人ばく露測定を作業環境測定の一つに位置づけ、作業環境測定士などが行う[3] 測定を外注するときの委託先の資格
公布後 5 年以内に政令で定める日 譲渡提供者の危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則[3] 仕入先にとって SDS を出さないことの重みが増す

厚生労働省の資料は、段階ごとの追加数(約 1,100・約 700・約 800)と、2026 年 4 月時点の対象全体(約 2,900 物質)を別々に示しており、追加数を足し上げても全体の数とは一致しない[3]。どちらも概数なので、自社が買っている品物が対象かどうかは、件数ではなく物質ごとに一覧で確かめる。

表の施行日は、令和 7 年法律第 33 号(労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律)の概要に書かれた施行期日による[3]。罰則の施行は「公布後 5 年以内に政令で定める日」とされていて、2026 年 10 月時点で日付は書かれていない[3]。同じ概要は、通知事項を変更したときの再通知を、現行の努力義務から義務にすることも挙げている[3]。

受け取った SDS で、購買が確かめる 5 つのこと

SDS を受け取って社内のフォルダに入れるだけでは、自律的な管理の入口として足りない。受け取った時点で、次の 5 つを確かめておく。

1. 「人体に及ぼす作用」が見直されているか

SDS の通知事項のうち「人体に及ぼす作用」は、5 年以内ごとに 1 回、記載内容の変更の要否を確認し、変更があるときは確認後 1 年以内に更新することになった(2023 年 4 月 1 日施行)[2]。更新したときは、SDS の通知先に変更内容を通知する[2]。手元の SDS の作成日・改訂日が古いままなら、仕入先に最新版の有無を聞くきっかけになる。

2. 想定される用途と、必要な保護具が書かれているか

SDS の通知事項に「(譲渡提供時に)想定される用途及び当該用途における使用上の注意」が加わった[2]。厚生労働省は、想定される用途で吸入や皮膚・眼への接触を保護具で防ぐ場合に必要な保護具の種類を必ず書くよう求めている[2]。自社の使い方が SDS の想定用途と違う場合は、その使い方での注意を仕入先に確かめる。

3. 含有量が重量パーセントで書かれているか

成分の含有量は、従来の 10% 刻みの書き方を改め、重量パーセントで書くことになった[2]。含有量に幅がある製品は濃度範囲で書いてよく、重量パーセントへの換算方法が明記されていれば重量パーセントで書いたものとみなされる[2]。リスクアセスメントでは含有量が計算の前提になるので、「10〜20%」のような古い書き方の SDS は更新を依頼する。

4. 「営業秘密」と書かれた成分の扱い

2026 年 4 月から、成分名が営業秘密にあたる場合は、有害性が相対的に低い物質に限り、成分名の代わりに代替化学名などを通知できるようになった[3]。指針によれば、代替化学名を使う成分には SDS 上で成分ごとに「営業秘密」であることを明示しなければならない[4]。非開示にできるのは成分名だけで、人体に及ぼす作用や応急の措置は非開示にできない[3]。

代替化学名を使える物質には条件がある。指針は、濃度基準値が定められた物質や皮膚等障害化学物質などに当たらないこと、発がん性・生殖細胞変異原性・生殖毒性に区分されないこと、急性毒性の区分 1〜3 に当たらないことなどを挙げている[4]。受け取った SDS で、発がん性の区分がある成分に「営業秘密」と書かれていれば、それは条件に合わない可能性がある。購買が判断するのではなく、化学物質管理者に回して仕入先へ確かめる。

代替化学名を通知する側は、医師が診断・治療のために求めた場合に成分の情報を直ちに開示し、そのための緊急連絡先を譲渡提供先に通知することになっている[4]。SDS に緊急連絡先が書かれているかも、受け取ったときに見る。

5. 通知の方法と、版の管理

SDS の通知方法は柔軟になり、相手の承諾がなくても、電子メール、FAX、記録媒体の交付のほか、通知事項を書いたホームページのアドレスや二次元コードを伝えて閲覧を求める方法でもよくなった[2]。便利になった反面、「URL を伝えられただけで、どの版を受け取ったかが残らない」ことが起きやすい。URL で受け取る場合も、受け取った日の版を保存しておくと、後から「その時点で何が書かれていたか」を示せる。

SDS と含有化学物質の情報は別のもの

SDS は化学品(物質や混合物)の危険性・有害性と取扱いを伝える書類である[3]。部品や成形品に何が含まれているかを伝える書類(chemSHERPA の成形品向けなど)とは役割が違い、互いの代わりにならない。部品の仕入先に SDS を求めるのが的外れになる理由と、含有情報の頼み方は 含有化学物質の調査を仕入先に頼むとき——REACH と chemSHERPA に書いた。海外向けの規制(EU の PFAS 制限など)で求められるのも、多くは含有情報のほうである。EU の動きは EU の PFAS 規制の動きと、PFAS を含む部材の調達 で扱う。

購買が関わるのは「買うとき」だけではない

設備の修理・清掃を外注するとき

労働安全衛生法第 31 条の 2 は、化学物質の製造・取扱い設備の改造・修理・清掃などを外注する注文者に、危険性・有害性や作業で注意すべき事項、安全確保措置などを書いた文書を請負人へ交付するよう求めている[2]。2023 年 4 月から、この対象となる設備に、SDS などによる通知の義務対象物を製造・取り扱う設備が加わった[2]。設備の保全や清掃を外注する発注書を出すときに、この文書が付いているかを確かめる役目は、発注の窓口である購買にも回ってくる。

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個人ばく露測定を外注するとき

2026 年 10 月 1 日から、個人ばく露測定は作業環境測定の一つとして位置づけられ、作業環境測定士などの有資格者が行うことになった[3]。測定を外部の機関に頼む場合は、委託先の資格を確かめる項目が増える。

代替品に切り替えるとき

規制の対象になった薬剤をやめて別の薬剤に替えるときは、替えた先の SDS でも危険性・有害性を確かめる。前に述べたとおり、規制対象外の物質へ安易に替えて起きる災害が問題になっている[4]。購買が「規制対象外なので問題なし」と判断して切り替えを決めるのではなく、化学物質管理者のリスクアセスメントを通してから発注する流れにしておく。

仕入先との取り決めに入れておくこと

SDS の情報が途中で古くならないよう、購入の条件として次の項目を取引基本契約や購買仕様書に入れておくとよい。これは法令が購買に義務づけているものではなく、法令の仕組みを社内で回すための実務上の提案である。

  • SDS の内容を変更したときは、変更内容と新しい版を通知すること(法令上の更新・通知の考え方に合わせる[2])
  • 配合・原料・製造所を変更したときは、SDS の変更がなくても事前に連絡すること
  • 代替化学名を使う場合は、営業秘密である旨の明示と緊急連絡先の通知を確実に行うこと[4]
  • 通知の方法(電子メールかホームページか)と、受け取る側の窓口(購買か、化学物質管理者か)

発注書に書く項目全体の整理は 購買仕様書の書き方 を参照してほしい。

よくある質問

SDS をもらう必要があるのは、どの品物か

ラベル表示・SDS の義務がかかるのは、通知の対象となる化学物質とそれを含む製剤などである。2026 年 4 月時点で対象は約 2,900 物質まで広がった[3]。今後の追加候補の物質は、労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所の化学物質情報管理研究センターのウェブサイトに CAS 登録番号つきで公開されている[2]。部品や機械など成形品に含まれる物質の情報は、SDS ではなく含有情報として別に求める。

仕入先が SDS を出してくれない

通知の対象物を譲渡・提供する者には SDS を交付する義務がある[3]。改正法で、この通知義務の違反に罰則が設けられることになった(施行は公布後 5 年以内に政令で定める日)[3]。まずは対象物にあたるかを仕入先と確かめ、あたる場合は発注の条件として SDS の提出を求める。

代替化学名の SDS では、リスクアセスメントができないのでは

指針は、代替化学名を使える物質を有害性が相対的に低いものに限り、リスクアセスメントに必要な危険有害性の情報が適切に伝わるようにすべきだとしている[4]。成分名以外の情報(人体に及ぼす作用、応急の措置など)は非開示にできない[3]。足りない情報があれば、緊急連絡先とは別に、仕入先の担当窓口に問い合わせる。

SDS は何年保存すればよいか

受け取った SDS 自体の保存年限は、この記事で引いた資料には書かれていない。一方、リスクアセスメント対象物のばく露低減措置の内容と労働者のばく露の状況の記録は 3 年間(がん原性物質は 30 年間)保存しなければならない[2]。その記録の根拠になった版の SDS を、記録と同じ期間残しておくと、後から説明がつく。

まとめ

化学物質の規制は、事業者が自分で危険性を評価し対策を選ぶ自律的な管理に移った[1]。2026 年 4 月には対象物質が約 2,900 に広がり、成分名が営業秘密の場合の代替化学名による通知も始まった[3][4]。購買は SDS を受け取ったときに、人体に及ぼす作用の見直し、想定用途と保護具、重量パーセントでの含有量、営業秘密の明示と緊急連絡先、受け取った版を確かめ、化学物質管理者へ渡す[2][4]。設備の修理・清掃の外注や薬剤の切り替えでも、発注の前に安全の確認を通す流れを作っておく。社内で使う化学物質の切り替えは、海外の規制とも関わる。冷媒の規制は 冷媒(フロン類)規制の強化と、空調・冷凍設備の調達、米国向けの PFAS の報告は 米国 TSCA の PFAS 報告規則 で扱う。

出典・参考資料

  1. 化学物質による労働災害防止のための新たな規制について(厚生労働省)
  2. 労働安全衛生法の新たな化学物質規制(パンフレット)(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
  3. 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(厚生労働省)
  4. 通知対象物に係る代替化学名等の通知に関する指針(指針公示第1号)(厚生労働省)
  5. 労働安全衛生規則の一部を改正する省令等の施行について(基発1118第1号)(厚生労働省労働基準局長/2025 年 11 月 18 日)

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