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人ごとに散らばった取引先の情報を一か所に——棚卸しと正の出どころ

この記事のポイント(結論先出し)
取引先の窓口・締め日・支払条件・登録番号が、担当者の名刺入れ・個人の Excel・メールの署名・経理の台帳に散らばっている状態は、集める前に「どこに何があるか」を棚卸しし、項目ごとに正の出どころを一つ決めるところから始める。いきなり一覧に書き写すと、古い値と新しい値が混ざったまま一か所に集まるだけになる。散らばった情報の中には個人情報も含まれる。個人情報保護委員会のガイドラインは、従業者が名刺の情報を業務用パソコンの表計算ソフト等で入力・整理している場合を「個人情報データベース等」に当たる例として挙げている[2]。担当者が自分用に作った取引先の Excel も、会社として正確さを保つ努力の対象になる[2]。取適法の対象取引では、取引の記録を取引先ごとに残し、電磁的記録で作る場合は取引先の名称で検索できることも求められている[1]。取引先が数十社で、購買を見る人が 1〜2 人なら、Excel の一覧を一つに決めて運用するだけでも足りる。
目次
取引先の情報は、どこに散らばっているか
購買の担当が数人いる会社で「取引先の情報はどこにありますか」と聞くと、答えは一つにならない。よくある散らばり方を挙げると、次のようになる。
1. 担当者の名刺入れとスマートフォン。窓口の氏名・部署・直通電話・携帯番号。担当が替わったときの新しい名刺は、受け取った人の手元にしかない。
2. 担当者個人の Excel。「取引先リスト」「仕入先メモ」。よく使う取引先の窓口と、電話で聞いた締め日や最低発注金額が書いてある。ファイルは担当ごとに別で、項目も違う。
3. メールの署名と過去のやりとり。窓口が替わった、住所が移った、という情報は、たいてい取引先からのメールの本文か署名で届く。読んだ人が覚えているだけで、どこにも転記されない。
4. 経理の台帳と会計ソフト。支払先の正式名称、振込口座、支払条件、適格請求書発行事業者の登録番号。購買の担当からは見えないことが多い。
5. 契約書と取引開始時の書類。基本取引契約書、取引口座の開設申込書、反社会的勢力でない旨の確認書。紙の綴りかスキャンした PDF にある。
どれも、その場では困らない。困るのは、担当が休んだとき、担当が替わったとき、そして取引先の側で何かが変わったとき(社名・住所・窓口・登録番号)である。誰の手元の情報が新しいのかを確かめる手段がない。
取引先マスタにどの項目を持つべきか(発注・支払・管理・法令の 4 つの場面への割り当て)は取引先マスタに何を持つかで、取引先コードの付け方は取引先コードの付け方で扱っている。この記事は、いま散らばっている情報をどう集め、一か所に移すかに絞る。
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散らばっていると、何が起きるか
担当しか知らない取り決めが、担当とともに消える
「この会社は 20 日締めで、月末に請求書が来る」「この会社は 5 万円未満の注文は送料が別」。こうした取り決めは、担当者が電話で聞いて個人の Excel に書いていることが多い。金融庁の企業会計審議会が定める内部統制の実施基準は、職務を適切に分けておく効用の一つとして、仕事が特定の人だけのものになり、組織として続けて対応できなくなる事態を避けられることを挙げている[5]。取引先の取り決めが個人の手元にしかない状態は、まさに業務が特定の者に属している状態である。担当の交代で抜けやすいものは購買担当の引き継ぎに、担当者しか状況を知らない状態の解き方は発注の状況を担当者しか知らないときに書いた。
同じ会社が、人によって違う名前で登録されている
ある担当は「山田製作所」、別の担当は「(株)山田製作所 第二工場」、経理は「株式会社山田製作所」で持っている。取引の記録を取引先の軸で引こうとすると、3 つの名前を全部拾わなければならない。取適法の対象取引では、7 条記録は中小受託事業者別に記載または記録することとされ、電磁的記録で作る場合は中小受託事業者の名称等や範囲指定した発注日で検索できる機能を持つことが求められている[1]。電子帳簿保存法でも、電子取引のデータは取引年月日その他の日付・取引金額・取引先を検索の条件として設定できることが要件になっている[4]。取引先の名前が揺れていると、どちらの検索も成り立ちにくい。
古い窓口に連絡し続ける
窓口が異動したことを知っているのが前任の担当だけだと、ほかの担当は古いメールアドレスに見積依頼や注文書を送り続ける。相手の会社で転送されていればまだよいが、届いていないことに気づくのは納期が近づいてからになる。
登録番号が、どの時点の値か分からない
適格請求書発行事業者の登録番号は、取引先が登録を取り消したり、登録が失効したりすることがある。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」では、名称・本店又は主たる事務所の所在地・登録番号・登録年月日に加えて、登録取消年月日と登録失効年月日も公表事項とされている[3]。個人の Excel に書き写した登録番号は、書き写した時点の値でしかない。確かめた日を一緒に持っていなければ、いまも有効かは分からない。まとめて確かめる方法は登録番号の一括確認で扱っている。
集める前に、散らばり方を棚卸しする
集める作業は、書き写す前に「誰がどこに何を持っているか」を一覧にすることから始める。担当者ごと・部署ごとに、持っているファイルと項目を出してもらう。そのうえで、項目ごとに「正の出どころ」を一つ決める。
| 項目 | 散らばっている場所の例 | 正にする出どころ | 持っておく日付 |
|---|---|---|---|
| 正式名称・本店所在地 | 名刺、個人の Excel、経理の台帳 | 契約書、公表サイトの公表事項[3] | 確認した日 |
| 登録番号 | 請求書、経理の台帳 | 公表サイト(登録年月日・取消年月日・失効年月日)[3] | 確認した日 |
| 締め日・支払サイト・支払方法 | 個人の Excel、電話のメモ | 基本取引契約書、取引条件の合意書面 | 合意した日・適用開始日 |
| 注文書・見積依頼の送付先 | 担当者の受信箱、名刺 | 取引先から書面やメールで通知された窓口 | 通知を受けた日 |
| 窓口の氏名・電話(個人情報) | 名刺入れ、スマートフォン、個人の Excel | 会社の一覧 1 か所(個人の控えは置かない) | 更新した日 |
| 資本金・従業員数 | 取引開始時の申込書 | 取引先からの申告や公開情報 | 確認した日 |
右端の列が要になる。取引先の情報は「いつの値か」が分からなければ、正しいかどうかを判定できない。資本金や従業員数を取適法の対象判定に使う場合の「いつ確認した数字か」という考え方は、取引先マスタの記事で詳しく書いた。
棚卸しで同じ項目に違う値が見つかったら、多数決で決めない。表の「正にする出どころ」に当たって確かめる。確かめられない値は「未確認」として集め、取引先に確認する一覧を別に作る。この一覧は、移行の前に片付けておく作業の量を見積もるのにも使える。
窓口の情報は個人情報として扱う
取引先の窓口の氏名・部署・電話番号・メールアドレスは、相手の会社の情報であると同時に、窓口の人の個人情報でもある。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、個人情報データベース等に当たる例として、電子メールソフトに保管されているメールアドレス帳(メールアドレスと氏名を組み合わせた情報を入力している場合)と、従業者が名刺の情報を業務用パソコン(所有者を問わない)の表計算ソフト等を用いて入力・整理している場合を挙げている[2]。一方で、名刺入れの名刺を他人が容易に検索できない独自の分類で並べているだけの状態は、該当しない例とされている[2]。
つまり、担当者が個人の Excel に窓口の名前と連絡先を打ち込んだ時点で、それは会社の個人情報データベース等の一部になる。同じガイドラインは、個人情報取扱事業者は利用目的の達成に必要な範囲内で個人データを正確かつ最新の内容に保ち、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならないとし(法第 22 条)、そのために入力時の照合・確認の手続や記録事項の更新、保存期間の設定などを行うとしている[2]。担当者ごとに Excel が分かれていると、どれを最新に保てばよいのかすら決まらない。集める理由は、業務の便利さだけではない。
なお、名刺交換で受け取った連絡先を今後の連絡に使うことは、取得の状況からみて利用目的が明らかな場合の例として、ガイドラインに挙がっている[2]。購買の連絡に使うこと自体を心配する必要はない。気をつけるのは、退職した窓口の情報をいつまでも残すことと、個人の端末に控えを散らすことである。取引先の担当者のアカウントを扱う場合の考え方は購買システムのアカウント管理に書いた。
一か所に移すときに決めること
1. 取引先の単位を決める
本社と工場、請求先と納入先が別の会社を、1 件として持つのか分けて持つのかを決める。取適法の 4 条明示や 7 条記録では、取引先の名称は番号や記号で示すこともできる[1]ので、取引先コードの単位がそのまま記録の単位になる。単位の決め方は取引先コードの記事に譲る。
2. 社内の担当を、取引先ごとに決める
情報を一か所に集めても、誰が更新するかが決まっていなければ、また古くなる。取引先ごとに、社内の正の担当と副の担当を決める。窓口が替わったという連絡を受けた人は、正の担当に伝えるか、自分で更新する。副の担当を置くのは、正の担当が休んだときに止まらないためである。
3. 送付先と、窓口の連絡先を分けて考える
注文書や見積依頼をどこへ送るかは、窓口の個人のアドレスではなく、取引先が指定した受付のアドレスにしてもらえるなら、そのほうが担当の交代に強い。取引先に「注文書の受付用のアドレスはありますか」と聞いておく。窓口が複数いる取引先(営業窓口と品質窓口と経理窓口)では、それぞれをどこに持つかを決める。使う仕組みが連絡先を 1 つしか持てないなら、どの窓口をそこに入れ、ほかの窓口をどこに書くかを決めておく。
4. 個人の控えを消す日を決める
一か所に移したら、個人の Excel やスマートフォンの控えを、いつまでに消すかを決める。残しておくと、どちらを見て連絡したかで古い値が復活する。移行の直後は、個人の控えと新しい一覧の両方を見比べたくなるが、見比べるのは移行のときに一度だけにする。
5. 移す順番を決める
取引先は品目と並んで最初に移す。単価も発注も取引先を指すからである。取引先と品目の移し方、移さない取引先の扱いは受発注システムへのデータ移行で扱っている。品目の側の準備は品目マスタを Excel から移すときに書いた。
Excel のままでよい場合
取引先が数十社で、購買を見る人が 1〜2 人なら、取引先の情報は Excel の一覧 1 つで足りる。そのかわり、一覧を 1 つに決め、個人の控えを作らない。列に「確認した日」を持たせ、窓口の変更の連絡を受けたらその日に書き換える。電子帳簿保存法の検索要件も、システムを使わずに表計算ソフトの一覧で満たす方法が国税庁から示されている[4]。Excel だから足りない、ということはない。
Excel では足りなくなる目安は、購買の担当が 3 人以上いる、拠点ごとに取引先の一覧がある、取引先ごとの発注や見積の履歴を同じ画面で見たい、取引先の窓口が頻繁に替わる、のどれかに当てはまったときである。
よくある質問
担当者が個人のスマートフォンに取引先の連絡先を入れるのは問題ですか
直ちに問題になるわけではないが、会社の個人情報を個人の端末に散らすことになる。ガイドラインは名刺の情報を表計算ソフト等で入力・整理する場合について、業務用パソコンの所有者を問わないとしている[2]。会社として一か所に持ち、個人の端末には必要なときだけ参照する形にしておくと、退職や異動のときに困らない。
経理が持っている取引先の情報と、購買の情報が違います。どちらを正にすべきですか
項目ごとに決める。支払先の正式名称や振込口座は経理が受け取った書類が出どころになり、注文書の送付先や窓口は購買が受けた連絡が出どころになる。どちらか一方に寄せるのではなく、項目ごとの正の出どころを上の表のように決め、両方の部署がそれを見る。
取引をやめた取引先の情報は消してよいですか
取引先そのものは、過去の取引の記録を引けるように無効にして残す。窓口の個人の連絡先は、利用する必要がなくなったら消去に努めるという法第 22 条の考え方[2]に沿って整理する。会社の情報と個人の情報で扱いを分ける。詳しくはマスタの棚卸しの記事を参照してほしい。
まとめ
取引先の情報が散らばっているときは、書き写す前に、誰がどこに何を持っているかを棚卸しし、項目ごとに正の出どころと「いつの値か」を決める。窓口の氏名や連絡先は個人情報で、表計算ソフトに入力した時点で会社の個人情報データベース等の一部になり、正確かつ最新に保つ努力の対象になる。一か所に移すときは、取引先の単位、社内の正・副の担当、送付先と窓口の分け方、個人の控えを消す日、移す順番を決める。取引先が少なく見る人が 1〜2 人なら、Excel の一覧を一つに決めるだけでも足りる。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会/平成 28 年 11 月・令和 8 年 6 月一部改正)
- 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(国税庁 軽減税率・インボイス制度対応室/平成 30 年 6 月・令和 8 年 5 月改訂)
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
取引先の基本情報と社内の担当を、一か所に
Newji one は、製造業の見積依頼から発注までを扱う見積・発注クラウドです。この記事で扱った項目のうち、Newji one の取引先マスタでは企業コード・住所・電話・FAX・登録番号・締め日・支払いサイト・通知言語・送付先メールを持て、取引先ごとに社内の担当者と副担当者を割り当てられます。取引先の評価や取引停止の設定もできます。送付先のメールアドレスは取引先ごとに 1 つで、営業・品質・経理のように複数の窓口の連絡先を取引先の下に並べて持つ項目はありません。
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